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七将編(剛腕将軍グラドン)
第38話 歓喜の涙と勇者
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坑道の奥は、不気味なほど静かだった。副官の巨体が崩れ落ちてから、しばらくの間、兵士たちの荒い息と崩れた岩の転がる音しか聞こえない。
だが、リオネルが言った通り――空気の奥には、まだ何かが潜んでいるような気配が残っていた。
「……行くぞ」
リオネルが剣を握り直し、兵士たちを促す。
悠は大きな欠伸を噛み殺し、頭をかく。
「……マジかよ。もう寝たいんだけど」
だるそうに呟きながらも、足取りは止めない。
通路をさらに進むと、やがてかすかな灯りが目に映った。暗闇に浮かぶ橙色の光は、坑道の奥まった場所――鉄格子の向こうから漏れていた。
「……明かり……?」
兵士の一人が息を呑む。
リオネルが松明を掲げ、慎重に近づいた。
鉄格子は重厚で、錆びついているが魔力の気配が残っていた。閉ざされた牢獄の中に、何十もの人影がうずくまっていた。
「ひ、人だ……!」
兵士の声が震える。
中にいたのは、痩せ細った鉱夫たちだった。骨ばった腕に重い鎖が絡みつき、顔は煤と血で汚れている。誰もが目に生気を失い、ただうつろに虚空を見つめていた。
「……まさか、全員……囚われて……」
リオネルの声は重く沈んだ。
鉄格子を押し開けた瞬間、うずくまっていた人々が顔を上げた。
誰かが震える声で言った。
「……助かった……のか……?」
その声を皮切りに、牢の中から嗚咽と歓喜が入り混じった声が溢れ出した。
兵士たちは慌てて水袋や乾パンを取り出し、囚われ人に差し出す。衰弱した者たちは震える手でそれを受け取り、必死に口へ運んだ。
乾いた喉を潤した瞬間、あちこちで涙が流れ出した。
その中に、一人の男がいた。
以前、街で絵姿を見せながら「夫を助けてください」と泣きながら悠に縋った女性。その夫だ。
男は骨と皮ばかりになった身体で必死に立ち上がり、兵士の腕を掴んだ。
「……妻は……あの人は無事か……? 俺の……妻は……」
リオネルが一歩前に出て答えた。
「あなたの奥方は、毎日領主の館に来て、必死にあなたの無事を祈っておられました」
その言葉に、男の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……よかった……まだ……」
男はその場に崩れ落ち、嗚咽を上げた。
他にも、街で消息を絶たれた兵士の家族の姿も次々に確認された。
「お父さん!」「兄さん!」と叫ぶ声が兵士の口から漏れ、捕虜たちは次々に抱き合い、涙を流す。
そんな感動の渦の中で――悠だけは鎖を見下ろし、面倒くさそうにため息をついていた。
「……で? これ、やっぱり俺が壊すのか」
鉄格子や拘束具は魔力で強化されており、普通の兵士の力では破壊できない。
兵士たちが気まずそうに視線を逸らす中、悠は仕方なく拳を軽く振るった。
ガシャァン――!
鎖は一瞬で粉々に砕け散り、壁に叩きつけられて火花を散らした。
囚われていた鉱夫たちが次々に自由の身となり、崩れるようにその場に倒れ込む。
「ゆ、勇者様……!」
「本当に……ありがとうございます……!」
捕虜たちが涙を流し、勇者へ感謝を叫ぶ。
だが悠は顔をしかめ、耳を塞ぐように頭を振った。
「……はいはい。分かったから静かにしてくれ。頭痛ぇ」
それでも人々の歓喜と涙は止まらない。
兵士たちもまた、勇者の力を改めて目の当たりにして呆然としながらも、誇らしげに頷いていた。
坑道に響いていたのは、悲鳴でも怒号でもなく――久方ぶりの歓喜の声だった。
絶望に覆われた鉱山都市に、ようやく光が差し込んだ瞬間である。
だが、リオネルが言った通り――空気の奥には、まだ何かが潜んでいるような気配が残っていた。
「……行くぞ」
リオネルが剣を握り直し、兵士たちを促す。
悠は大きな欠伸を噛み殺し、頭をかく。
「……マジかよ。もう寝たいんだけど」
だるそうに呟きながらも、足取りは止めない。
通路をさらに進むと、やがてかすかな灯りが目に映った。暗闇に浮かぶ橙色の光は、坑道の奥まった場所――鉄格子の向こうから漏れていた。
「……明かり……?」
兵士の一人が息を呑む。
リオネルが松明を掲げ、慎重に近づいた。
鉄格子は重厚で、錆びついているが魔力の気配が残っていた。閉ざされた牢獄の中に、何十もの人影がうずくまっていた。
「ひ、人だ……!」
兵士の声が震える。
中にいたのは、痩せ細った鉱夫たちだった。骨ばった腕に重い鎖が絡みつき、顔は煤と血で汚れている。誰もが目に生気を失い、ただうつろに虚空を見つめていた。
「……まさか、全員……囚われて……」
リオネルの声は重く沈んだ。
鉄格子を押し開けた瞬間、うずくまっていた人々が顔を上げた。
誰かが震える声で言った。
「……助かった……のか……?」
その声を皮切りに、牢の中から嗚咽と歓喜が入り混じった声が溢れ出した。
兵士たちは慌てて水袋や乾パンを取り出し、囚われ人に差し出す。衰弱した者たちは震える手でそれを受け取り、必死に口へ運んだ。
乾いた喉を潤した瞬間、あちこちで涙が流れ出した。
その中に、一人の男がいた。
以前、街で絵姿を見せながら「夫を助けてください」と泣きながら悠に縋った女性。その夫だ。
男は骨と皮ばかりになった身体で必死に立ち上がり、兵士の腕を掴んだ。
「……妻は……あの人は無事か……? 俺の……妻は……」
リオネルが一歩前に出て答えた。
「あなたの奥方は、毎日領主の館に来て、必死にあなたの無事を祈っておられました」
その言葉に、男の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……よかった……まだ……」
男はその場に崩れ落ち、嗚咽を上げた。
他にも、街で消息を絶たれた兵士の家族の姿も次々に確認された。
「お父さん!」「兄さん!」と叫ぶ声が兵士の口から漏れ、捕虜たちは次々に抱き合い、涙を流す。
そんな感動の渦の中で――悠だけは鎖を見下ろし、面倒くさそうにため息をついていた。
「……で? これ、やっぱり俺が壊すのか」
鉄格子や拘束具は魔力で強化されており、普通の兵士の力では破壊できない。
兵士たちが気まずそうに視線を逸らす中、悠は仕方なく拳を軽く振るった。
ガシャァン――!
鎖は一瞬で粉々に砕け散り、壁に叩きつけられて火花を散らした。
囚われていた鉱夫たちが次々に自由の身となり、崩れるようにその場に倒れ込む。
「ゆ、勇者様……!」
「本当に……ありがとうございます……!」
捕虜たちが涙を流し、勇者へ感謝を叫ぶ。
だが悠は顔をしかめ、耳を塞ぐように頭を振った。
「……はいはい。分かったから静かにしてくれ。頭痛ぇ」
それでも人々の歓喜と涙は止まらない。
兵士たちもまた、勇者の力を改めて目の当たりにして呆然としながらも、誇らしげに頷いていた。
坑道に響いていたのは、悲鳴でも怒号でもなく――久方ぶりの歓喜の声だった。
絶望に覆われた鉱山都市に、ようやく光が差し込んだ瞬間である。
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