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七将編(剛腕将軍グラドン)
第37話 戦場に静寂を呼ぶ勇者
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砕け散った盾の残骸が、坑道の床に無惨に転がっていた。破片の一つ一つが魔力を帯びて、まだじりじりと焦げるような熱を放っている。
それでも副官は、なお立ち上がっていた。
「……ぐ、ぅぅ……!」
鎧の継ぎ目から血が滴り、呼吸は荒い。それでも槍を握る腕は震えていない。
その瞳には狂気じみた忠誠と執念が宿っていた。
「人間……ごときが……! まだ、我が槍は……残っている……!」
副官が吠えた瞬間、坑道全体が共鳴するように震えた。
兵士たちが思わず腰を抜かし、後ずさる。
「ま、まだ戦うのかよ……」
「ひっ……あんな状態で……!」
リオネルは歯を食いしばり、剣を構え直した。
彼女も分かっていた。副官の身体はもう限界を超えている。だが、だからこそ余計に恐ろしい。忠義と執念だけで動く存在は、人間の理解を超えた脅威だ。
悠だけが、そんな異様な空気の中で、つまらなそうに肩を竦めていた。
「……まだ続けるのかよ。ほんと、しつこいのが一番面倒なんだよな」
副官は絶叫とともに、槍を振るった。
ギャリィィィィンッ――!
刃が岩壁を裂き、粉塵が舞う。
坑道の中で何度も何度も槍が閃き、音の奔流となって押し寄せた。
兵士たちは必死に身を低くし、逃げ惑う。
「避けろ! 巻き込まれるぞ!」
「うわあっ、壁が――!」
だが悠は、悠然とそこに立ち続けていた。
振り下ろされる刃を片手で軽く弾き、横薙ぎの突きを身体をひねって避ける。その所作は剣士の研ぎ澄まされた動きではなく、まるで眠気覚ましに身体をほぐしているかのような、緩慢さすら漂っていた。
「ほら、外れた。……ほら、また外れた」
悠がわざと小馬鹿にするような調子で呟くと、副官の顔が怒りで歪んだ。
「舐めるなああああッ!」
槍が轟音を立てて振り下ろされる。
その瞬間、悠の拳が閃いた。
ゴシャァッ!
鋭い破砕音とともに、副官の握る槍が真っ二つに折れ、そのまま腕の骨ごと粉砕された。
副官の絶叫が坑道に響き渡り、兵士たちの背筋を凍らせる。
「ぐあああああああっ!!!」
副官は崩れるように膝をつき、折れた腕を押さえながらもなお、必死に悠を睨み上げた。
その執念深さに、リオネルは思わず剣を握る手を強くした。
「なぜ……ここまで……!」
だが、その理由は副官の口から自然と漏れた。
「……我が命……我が全ては……主……グラドン様のために……!」
その一言に兵士たちは凍り付いた。
――やはり、この坑道の奥には、さらなる存在が潜んでいる。
悠は耳を掻きながら、うんざりした顔で吐き捨てる。
「……またその名前か。いい加減にしろよ。面倒ばっか押し付けやがって」
副官の瞳から光が失われていく。
最後に「グラドン様……」と呟き、巨体は力尽きて岩の上に崩れ落ちた。
途端に坑道に静寂が戻る。
ただ、兵士たちの荒い息と、崩れた岩が転がる音だけが響いていた。
「ゆ、勇者様が……副官を……!」
「本当に勝ったんだ……!」
兵士たちは歓喜の声を上げ、剣を掲げた。
だがその中心で悠は、ただ一人、大きな溜め息を漏らしていた。
「やっと終わったか……。ほんと、寝かせてくれよ」
その声は戦場の勝者というより、退屈な雑務を終えた労働者のようであった。
しかし、戦いは本当の意味で終わっていなかった。
粉塵が落ち着いた坑道の奥から、なおも濃い魔力の気配が滲み出している。
リオネルが険しい顔で言った。
「――勇者様。この奥に……まだ何かがいる」
悠は頭を掻きながら、天井を見上げてぼそりと呟いた。
「……はぁ。やっぱり終わらねぇのか」
それでも副官は、なお立ち上がっていた。
「……ぐ、ぅぅ……!」
鎧の継ぎ目から血が滴り、呼吸は荒い。それでも槍を握る腕は震えていない。
その瞳には狂気じみた忠誠と執念が宿っていた。
「人間……ごときが……! まだ、我が槍は……残っている……!」
副官が吠えた瞬間、坑道全体が共鳴するように震えた。
兵士たちが思わず腰を抜かし、後ずさる。
「ま、まだ戦うのかよ……」
「ひっ……あんな状態で……!」
リオネルは歯を食いしばり、剣を構え直した。
彼女も分かっていた。副官の身体はもう限界を超えている。だが、だからこそ余計に恐ろしい。忠義と執念だけで動く存在は、人間の理解を超えた脅威だ。
悠だけが、そんな異様な空気の中で、つまらなそうに肩を竦めていた。
「……まだ続けるのかよ。ほんと、しつこいのが一番面倒なんだよな」
副官は絶叫とともに、槍を振るった。
ギャリィィィィンッ――!
刃が岩壁を裂き、粉塵が舞う。
坑道の中で何度も何度も槍が閃き、音の奔流となって押し寄せた。
兵士たちは必死に身を低くし、逃げ惑う。
「避けろ! 巻き込まれるぞ!」
「うわあっ、壁が――!」
だが悠は、悠然とそこに立ち続けていた。
振り下ろされる刃を片手で軽く弾き、横薙ぎの突きを身体をひねって避ける。その所作は剣士の研ぎ澄まされた動きではなく、まるで眠気覚ましに身体をほぐしているかのような、緩慢さすら漂っていた。
「ほら、外れた。……ほら、また外れた」
悠がわざと小馬鹿にするような調子で呟くと、副官の顔が怒りで歪んだ。
「舐めるなああああッ!」
槍が轟音を立てて振り下ろされる。
その瞬間、悠の拳が閃いた。
ゴシャァッ!
鋭い破砕音とともに、副官の握る槍が真っ二つに折れ、そのまま腕の骨ごと粉砕された。
副官の絶叫が坑道に響き渡り、兵士たちの背筋を凍らせる。
「ぐあああああああっ!!!」
副官は崩れるように膝をつき、折れた腕を押さえながらもなお、必死に悠を睨み上げた。
その執念深さに、リオネルは思わず剣を握る手を強くした。
「なぜ……ここまで……!」
だが、その理由は副官の口から自然と漏れた。
「……我が命……我が全ては……主……グラドン様のために……!」
その一言に兵士たちは凍り付いた。
――やはり、この坑道の奥には、さらなる存在が潜んでいる。
悠は耳を掻きながら、うんざりした顔で吐き捨てる。
「……またその名前か。いい加減にしろよ。面倒ばっか押し付けやがって」
副官の瞳から光が失われていく。
最後に「グラドン様……」と呟き、巨体は力尽きて岩の上に崩れ落ちた。
途端に坑道に静寂が戻る。
ただ、兵士たちの荒い息と、崩れた岩が転がる音だけが響いていた。
「ゆ、勇者様が……副官を……!」
「本当に勝ったんだ……!」
兵士たちは歓喜の声を上げ、剣を掲げた。
だがその中心で悠は、ただ一人、大きな溜め息を漏らしていた。
「やっと終わったか……。ほんと、寝かせてくれよ」
その声は戦場の勝者というより、退屈な雑務を終えた労働者のようであった。
しかし、戦いは本当の意味で終わっていなかった。
粉塵が落ち着いた坑道の奥から、なおも濃い魔力の気配が滲み出している。
リオネルが険しい顔で言った。
「――勇者様。この奥に……まだ何かがいる」
悠は頭を掻きながら、天井を見上げてぼそりと呟いた。
「……はぁ。やっぱり終わらねぇのか」
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