『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第54話 眠気と力を併せ持つ勇者

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 ――ドゴォォォォンッ!!

 悠の拳が、光を帯びながらグラドンの胸板を撃ち抜いた。
 巨体が揺れ、祭壇の石柱ごと後方に吹き飛ぶ。

 兵士たちの目の前で、身の丈三倍の怪物が数メートルも転がり、柱を砕き、床石を抉った。

「す……すごい!」
「勇者様が押し返したぞ!」

 歓声が広間に響く。
 恐怖と絶望に支配されていた兵士たちの顔に、一斉に光が差した。
 剛腕将軍グラドンを退けた――ただその事実だけで、全員が息を吹き返したのだ。

 リオネルも剣を握り直し、声を張り上げる。
「勇者様が優勢だ! 皆、勇者様を信じろ!」

 だが。

 ――ゴホッ、ゴホォッ。

 血を吐きながらも、グラドンはゆっくりと立ち上がった。
 胸に拳の跡を刻まれ、巨体をよろめかせながらも、膝をつこうとはしない。

「ぬぅぅ……まだだ……まだ終わらん……!」

 燃えるような眼光が、再び悠を睨む。
 兵士たちの歓声が凍り付き、沈黙に変わった。


 悠は片手をぶらぶら振りながら、気の抜けた声を吐く。
「……しぶといのは嫌いだ」

 大きなあくびが、粉塵と血臭に満ちた戦場に不釣り合いに響いた。
 だが兵士たちは悟っていた。勇者がまだ余力を残していることを。

 リオネルは歯を食いしばり、心の奥で呟く。
(勇者様……どうか、このまま押し切ってください……!)


 グラドンが咆哮した。
 それは大地を割るような、雷鳴のような咆哮。

「ウオオオオオオオッ!!!」

 祭壇の柱が共鳴して振動し、天井から砂塵が降る。
 鼓膜が裂けそうなほどの轟音に、兵士たちは耳を塞ぎながら後退した。

 悠は耳をほじる仕草をして、顔をしかめる。
「あー……声でかすぎ。耳痛ぇ……」

 だがグラドンは止まらない。
 大斧を拾うことすらせず、剛腕そのものを武器に突進してきた。
 その一歩ごとに床石が割れ、地鳴りが広間を揺らす。

「来るぞ!」
「退け! 巻き込まれるな!」

 兵士たちが悲鳴をあげて散開する。


 ――ズドォォォンッ!!

 巨体が風を裂き、突進。
 その拳が、悠の胸を狙って振り抜かれた。

 だが悠は微動だにせず、片腕を軽く上げただけだった。

 ――ガギィィィィィンッ!!

 轟音と閃光。
 拳と拳がぶつかり合い、床石が同時に弾け飛ぶ。
 石片が爆ぜ、砂塵が暴風のように渦巻く。

「ぬぅぅぅぅっ!!!」
 グラドンが歯を食いしばり、剛腕を振り絞る。
 筋肉が異様に膨張し、腕の血管が浮き上がる。

「……面倒くせぇ」
 悠は気怠そうに呟いた。

 だが、片腕一本で巨体を押し留めていた。


 兵士たちは唖然として声を失う。
「馬鹿な……剛腕将軍の突進を……」
「人間ひとりが……押し返している……」

 リオネルの額にも汗が伝う。
「人の身で、ここまでの力を……」


 そのとき。

 ――ミシッ。

 床石に走ったひびが、一気に広がった。
 蜘蛛の巣のように四方へ走り、広間全体が不気味にきしむ。

「ひっ……!」
「床が……崩れる!」

 兵士たちが慌てて叫ぶ。

 リオネルが剣を握りしめ、怒鳴った。
「全員退避しろ! 崩落が来るぞ!」

 直後、天井から瓦礫が落下し始めた。
 柱が傾き、石片が豪雨のように降り注ぐ。
 広間全体が揺れ、混沌が兵士たちを呑み込もうとした。


 悠は片腕でグラドンの拳を受け止めたまま、深くため息をついた。
「……救助と片付け、両方とか……一番嫌いなんだけどな」

 その声は小さい。
 だが確かに兵士たちの耳に届き、不思議と恐怖を和らげる。

 勇者は怠そうに見える。
 だが片手ひとつで、怪物と崩落から全員を守っていた。


 兵士たちは息を呑み、リオネルは瞳を揺らす。
(やはり……この方こそ……)

 崩れ落ちる瓦礫の嵐の中。
 グラドンの剛腕と悠の拳がぶつかり合い続ける。
 広間は地獄と化しても――ただ一人の怠そうな勇者が、その中心に立っていた。
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