『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第61話 終わらぬ闘志と勇者

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 ――ゴゴゴゴゴッ!!

 天地を揺るがすような轟音が、崩れかけた祭壇の広間を包んだ。
 天井の岩盤がひび割れ、次々と巨大な岩塊が落下してくる。
 砕け散る柱と石片が砂塵を巻き上げ、視界を覆い尽くす。
 炎に照らされた赤茶色の砂煙はまるで地獄の霧のようだった。

「ひっ、ひいいっ!」「崩れるぞ! 急げ!」
 兵士たちは悲鳴を上げ、我先にと奥から通路へと退いていく。
 何人かは転び、転がるように立ち上がり、砂塵にむせながら必死に走る。


 その混乱の只中で、リオネルは広間の奥――まだ瓦礫の向こうに残る悠の姿を探した。
 肩に付いた砂を払う間もなく、剣を握りしめたまま一歩を踏み出す。

「勇者様を置いて行けるか!」

 振り返る兵士が慌てて叫んだ。
「リオネル様、これ以上は危険です! 早く避難を!」

 リオネルは首を横に振り、崩れ落ちる天井の奥を睨んだ。
 だが、その瞬間――。

「お前まで巻き込まれると面倒なんだよ。さっさと行け」

 低く、しかし確かな声が砂煙の向こうから響いてきた。
 瓦礫の影から現れた悠は、片手で肩を回しながら、相変わらずの気だるげな表情をしていた。

「し、しかし勇者様、一人では……!」

 リオネルの言葉を悠は手のひらで制した。
 その仕草はいつもと変わらぬ緩やかさだが、その目は静かに燃えていた。

「一人のほうが静かだろ。お前まで潰されたら、助けるのが余計に面倒になる」

 その言葉にリオネルは言い返せず、唇を噛んだ。
 迷いと悔しさが滲んだが、最後には深く頭を下げて踵を返す。

「……ご武運を、勇者様!」

「はいはい。早く行け。通路が塞がったら出られなくなるぞ」

 悠は片手を軽く振り、背を向けたまま砂塵の奥へと歩みを進めた。


 リオネルは兵士たちを先導し、崩れつつある通路を走り抜けた。
 振り返れば、広間の奥は赤黒い閃光と砂煙に包まれ、悠の影さえ見えない。
 胸に焦りが広がるが、兵たちを守らねばならないと歯を食いしばった。

「急げ! この先が塞がる前に外へ出るんだ!」

 兵士たちは息を切らしながら通路を駆け抜けていった。


 広間ではなおも砂煙が舞い、瓦礫の崩落が続いていた。
 悠は崩れかけた柱の影に足を止め、小さく息を吐いた。

「……やれやれ。ほんと人助けのほうが疲れるな」

 そのとき――。

 ――ゴゴゴゴゴッ!!

 地鳴りを伴って瓦礫の山が動いた。
 崩れた岩の間から赤黒い光が漏れ出し、熱気が吹き出す。

 兵士たちが通路の入り口から恐る恐る振り返る。
「ま、まだ……動いている……?」

 次の瞬間、瓦礫の山が爆ぜるように弾け飛んだ。
 岩片を押しのけ、巨大な腕が天へと突き上がる。

 その腕は無数の傷と血にまみれながらも、なお凄まじい力を秘めていた。
 瓦礫の影から現れたのは――まだ立ち上がる剛腕将軍グラドン。

 その姿を見た兵士たちは声を失い、足を竦ませた。
「な、なんてしぶとい化け物だ……!」


 グラドンの巨体は全身傷だらけで、呼吸も荒い。
 だが、その瞳だけは戦意を失っていなかった。
 獣のような唸りを上げ、再び悠を睨み据える。

「……勇者……まだ……終わらん……!」

 悠は砂煙の中から姿を現し、両手をポケットに突っ込んだまま肩をすくめる。

「おいおい、もう終わったと思ったのに。しぶてぇな。寝かせてくれよ……」

 その呟きは飄々としていたが、広間の空気はさらに緊張を増していた。
 赤黒い魔力が再びグラドンの全身を包み、火花が瓦礫の上で踊る。
 その圧力は崩れかけた広間をさらに揺さぶり、瓦礫がぱらぱらと落ちてくる。

 悠はゆっくりと前へ歩き出し、拳を握り込む。

「……はいはい。第二ラウンドってわけか。さっさと終わらせようぜ」

 グラドンが牙を剥き、低く唸りながら構える。

 崩れ落ちた祭壇の広間を、再び赤と青の光が照らした。
 砂煙が風に流され、二人の視線が交差する。


 通路の先に避難したリオネルたちは、崩れゆく坑道の奥を振り返り、祈るようにその場に立ち尽くしていた。
 地上の街では、広場に集まった市民たちが地鳴りを感じながら領主と共に固唾を呑んで報を待っている。

 祭壇の間――
 崩落の中に残されたのは、ただ二人。

 不敵に微笑む勇者と、まだ倒れぬ剛腕将軍。
 決着は、まだ先だった。
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