『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

文字の大きさ
103 / 158
七将編(剛腕将軍グラドン)

第98話 断れない勇者

しおりを挟む
 王都ファルスの朝は、まだ薄靄に包まれていた。
 昨日までの喧騒が嘘のように静まり返り、城下の通りには早朝の商人たちと、新聞を配る少年の声だけが響いている。

 その中心――王城ノースランドの尖塔に、荘厳な鐘が鳴り響いた。
 召喚の合図である。

 勇者・篠原悠は、寝癖を直すこともなく、渋々と廊下を歩いていた。
 肩には外套を引っかけ、欠伸を噛み殺す。

 「……朝から会議とか、嫌な予感しかしねぇ」

 後ろを歩くリオネルが苦笑する。
 「勇者様、陛下からの“正式な召喚”です。断るわけにはいきません」

 「いや、寝たいんだよ。心の底から」
 「それを言う勇者様は、世界広しといえど貴方だけでしょうね」

 二人の軽口が、重厚な回廊に微かに反響する。
 石壁には王家の紋章が刻まれ、赤い絨毯の上を陽光が淡く照らしていた。



 謁見の間に入ると、そこには重々しい空気が漂っていた。
 国王グラン・ノースランドが玉座に座し、その左右には老練な大臣たちが並ぶ。
 王の前には、七将の名が記された羊皮紙が広げられている。

 「――勇者殿、よく参られた」
 グラン王の声が響く。低く、しかし威厳に満ちていた。

 悠は軽く片手を上げ、眠たそうに頭を下げた。
 「どうも。……できれば、もう少し気楽な呼び出しがいいんですけどね」

 王の眉がわずかに動いたが、怒ることはなかった。
 むしろ、その態度に「いつも通りで安心した」とでも言いたげな表情を浮かべている。

 「勇者殿。
  貴殿が捕らえたグラドン――その功績は計り知れぬ。
  だが、奴の言葉を聞いた今、我々は新たな事実に直面している」

 グラン王は羊皮紙を手に取り、重々しく続けた。

 「“七将”。
  魔王直属の七人の幹部。
  それぞれが、一国を滅ぼすに足る力を持つ。
  王国としては、これを放置するわけにはいかぬ」

 その言葉に、重臣たちが一斉にうなずいた。
 そして、王の視線が悠に向けられる。

 「――ゆえに頼みたい。
  勇者殿、これからも七将を討つ力を、お貸しいただけぬか」



 静寂が流れた。
 誰もが固唾を呑む。
 だが、悠は頭を掻きながらぼそりと呟いた。

 「またそれ? 昨日も似たような話した気がするんだけど」

 重臣たちがざわつく。
 だがグラン王は、どこか悟ったように苦笑を浮かべた。

 「勇者殿のご不満は理解しておる。
  だが、もはや王国は貴殿に未来を託すしかないのだ」

 その瞬間、列席していた全ての大臣たちが、一斉に頭を下げた。
 まるで儀式のように、揃って。

 その光景に、悠は一歩後ずさる。
 「おいおい……そんな全員で拝まれても、余計にプレッシャーかかるだけだって」

 リオネルが隣で微笑んだ。
 「皆、勇者様を信じております」

 「信じるのは勝手だけどな……」
 悠は大きなため息をついた。

 「どうせ断っても騒がれるんだろ?」

 グラン王は静かに頷いた。
 「無論だ。城外の民は、すでに次の戦いを待ち望んでおる。
  貴殿が再び立つその日を、“希望の日”と呼んでおるほどに」

 悠は顔をしかめた。
 「希望って、便利な言葉だな。押しつけがましいけど」



 しばしの沈黙。
 重臣の一人が口を開いた。

 「勇者殿、七将の次なる拠点は北――氷雪の地です。
  “氷獄の魔女”セレナ。
  彼女が率いる魔族は、北境を凍らせて侵攻を続けております」

 悠の眉がぴくりと動いた。
 「……昨日の夢、当たりだったか」

 リオネルが驚いて振り向く。
 「夢……ですか?」
 「ああ。氷の女が“待っている”とか言ってきてさ。
  マジで行かされると思ってた」

 場が凍りつく。
 誰も冗談だと受け取れなかった。

 グラン王がゆっくりと頷く。
 「勇者殿、もしそれが真ならば、魔王の干渉が始まっておる。
  我らが手をこまねいている暇はない」

 悠は頭をかきながら、ぼやいた。
 「だから嫌なんだよなぁ……予知夢とか。
  当たるたびに仕事増えるんだもん」

 「勇者様」
 リオネルが一歩前に出て、まっすぐ彼を見つめた。
 「共に参りましょう。あの氷の地へ。
  七将の脅威は、今ここで止めねばなりません」

 その瞳に宿る真剣な光。
 悠は視線を逸らすように肩をすくめた。

 「……はいはい、分かったよ」

 グラン王が深く息を吐き、玉座から立ち上がった。
 「勇者殿――いや、篠原悠。
  王国は、貴殿に心からの感謝を捧げる。
  そして、再びその剣を――いや、その拳を、
  我らの未来のために振るってほしい」

 その言葉とともに、広間の全員が膝をついた。
 まるで勇者の再召喚が、この場で行われるかのように。



 謁見が終わり、悠とリオネルは廊下へと出た。
 天窓から差し込む光が、淡く二人を包む。

 「……結局、逃げられなかったな」
 悠が呟くと、リオネルが微笑した。
 「逃げる勇者なんて、聞いたことがありません」

 「いや、俺が初めてでいいと思うぞ」

 二人の笑いが、静かな回廊に響いた。

 だがその外――王都の北の空には、薄く白い霞が漂っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...