『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第99話 穏やかな午後の勇者

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 王都ファルスに、久しぶりの静けさが戻っていた。
 あの七将・グラドンを捕縛したという報せが広まってから、数日。
 街を包んでいた興奮とざわめきが、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。

 市場では、果物を並べる商人が陽気に口笛を吹き、鍛冶屋の槌音がどこか穏やかに響く。
 人々の顔には安堵が浮かび、誰もが心のどこかで思っていた――「今だけは平和だ」と。

 勇者の宿は、王都の中心部から少し離れた静かな通りにある。
 リオネルの配慮で、人混みを避ける場所を選んだのだ。



 その朝、悠は窓辺でだるそうに伸びをした。
 「……今日も生きてるな」
 ぼそりと漏れた一言に、隣の部屋から呆れた声が返る。

 「当たり前でしょう、勇者様」
 ドアを開けて入ってきたのは、リオネル。淡い金髪が陽の光にきらめいている。
 彼女の後ろには、少し小柄な少女――エルザの姿もあった。

 「おはようございます、勇者様!」
 元気よく頭を下げるエルザに、悠は目を細めた。
 「朝から元気だな……若いってすげぇ」

 「もう、悠様はすぐそうやっておじさんみたいなことを言う」
 リオネルが小さく笑うと、エルザもつられて笑った。



 その後、三人は王都の視察を兼ねて街へ出た。
 王の勅命ではない。ただ、リオネルが「空気を感じるのも大切です」と言って連れ出したのだ。

 王都の通りは明るく、人々の声が行き交っていた。
 露店では「勇者まんじゅう」や「グラドン撃退パン」など、相変わらずの商魂たくましい商品が並んでいる。

 「勇者様ー!」「勇者様ありがとう!」
 通りを歩くだけで、次々と声が飛んできた。

 悠は眉をひそめ、肩をすくめた。
 「……また始まった」

 リオネルがくすくすと笑う。
 「人気者ですね」
 「いや、これもう信仰の域だろ。下手に手を振ったら神格化されそうだ」

 エルザは目を輝かせながら言った。
 「でも、皆本当に嬉しそうですよ。あの鉱山での戦いが無駄じゃなかったって思えます」
 その瞳に、ほんの少しの強さが宿っていた。

 悠はそんな彼女を見て、わずかに息を漏らす。
 「……お前、少し顔つき変わったな」
 「えっ?」
 「前は泣いてばかりだったのに、今は前見て歩いてる。……悪くない」

 エルザは頬を赤らめ、俯いた。
 「ありがとうございます……」
 リオネルは柔らかく微笑みながら、その様子を見守っていた。



 昼過ぎ。
 街の広場では、子供たちが集まって何かを歌っていた。
 「ゆーうしゃさまー! まおうをやっつけたー♪」
 即興の歌にしては、妙に耳に残るリズムだ。

 悠は立ち止まり、眉をひそめる。
 「……なんだこの歌」
 「どうやら、街の子供たちが作った“勇者様の歌”だそうです」リオネルが微笑む。
 「勇者様の歌……? ……やっぱり恥ずかしい」
 「でも素敵です。皆、勇者様のことを想って作ったんですよ」

 子供たちは笑顔で踊りながら歌い続ける。
 「ゆーうしゃさまー! すごーい! ゆうしゃさまー!」
 それを見ていたエルザが、ふと口を開いた。
 「勇者様……やっぱり、すごい人です」

 「俺は寝てるだけでこうなってるだけだ」
 悠がぼそりと呟くと、リオネルは吹き出しそうになる。
 「それはそれで、才能です」



 日が傾き始める頃、三人は宿へ戻った。
 街は穏やかで、人々の笑い声が心地よい。
 勇者の宿の前には、花がいくつも置かれていた。

 リオネルがしゃがみこみ、花を見つめる。
 「……皆、感謝しているんですね」
 「これ、誰が片付けんだろ。放っとくと枯れるぞ」
 悠はそう言いながらも、花を一輪手に取り、そっと窓辺に飾った。

 「どうして飾るんですか?」とエルザが尋ねる。
 悠は少し考えてから答えた。
 「……静かだから、ちょうどいい」

 彼の言葉に、リオネルは目を細める。
 「静けさを好む勇者、ですか」
 「平和が一番だって言ってんだよ」

 そう言いながら、悠は窓の外を眺めた。
 王都の空は夕焼けに染まり、人々の笑い声が微かに届く。
 子供たちの歌声も、まだ遠くで聞こえていた。

 「……やっぱり、面倒だな」
 そう呟きながらも、彼の口元には小さな笑みが浮かんでいた。



 その夜。
 街は本当に静かだった。
 騎士たちの巡回の足音と、遠くの鐘の音だけが響く。

 宿の灯りが一つ、また一つと消えていく。
 窓辺の花は夜風に揺れ、淡い香りを放っていた。

 その中で、悠はベッドに横たわり、天井を見上げていた。
 「……静かだな」
 リオネルがそっと部屋の外から声をかける。
 「明日からの準備、整えておきますね」
 「うん、頼む」

 その返事は短かったが、どこか柔らかい響きを帯びていた。

 やがて、彼は目を閉じた。
 遠くで、誰かがまた歌を口ずさんでいる。
 「ゆーうしゃさまー……」

 小さな声が、夢の中へと溶けていった。
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