『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第100話 立ち止まれぬ勇者

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 夜の王城に、低く湿った笑い声が響いた。
 「……フ、フフ……ハハハ……」
 それはまるで地の底から湧き上がるような、凍りつくような音だった。

 地下牢の奥。
 鎖に繋がれた巨体――七将の一人、グラドンが微動だにせず笑っていた。
 その眼は閉じているのに、まるで闇そのものがそこに潜んでいるようだった。

 「勇者よ……」
 唸るような声が空気を震わせる。
 見張りの兵士たちは、思わず剣を抜いた。

 「な、なんだ……!」
 「寝てたはずじゃ……」

 グラドンの口元がゆっくりと歪む。
 「……仲間がお前を待っているぞ……」

 その一言で、牢全体が凍りついた。
 魔力の残滓が壁を這い、黒い靄のようなものが立ち上がる。
 兵士の一人が震える声で叫んだ。

 「こ、これは呪いの気配です! 早く、結界を!」

 リオネルが駆けつけ、即座に詠唱を始めた。
 青白い魔法陣が床を走り、牢全体を包み込む。
 だが、グラドンはその光を見て笑いを止めない。

 「封じても無駄だ……我らは“七つ”で一つ。
  我が沈めば、他の誰かが目覚めるだけだ……」

 「黙れ!」と兵士が怒鳴るが、その声には明らかな恐怖があった。
 リオネルは剣の柄に手をかけ、静かに構えた。

 「勇者様に危害を加えようとすれば、この場で消し飛ばします」

 しかし、グラドンはただ嗤った。
 「……愚か者。お前たちは知らぬのだ……氷の地に眠る“魔女”のことを」

 リオネルの瞳が揺れる。
 「氷の……地?」
 「彼女はもう、目覚めている。氷獄の魔女――セレナ。
  吹雪が王国を覆うのも、時間の問題だ……」

 そして、グラドンの声が途切れると同時に、牢の中は再び沈黙に包まれた。
 兵士たちは息を呑み、誰一人として言葉を発せなかった。



 翌朝、王城の会議室には重苦しい空気が漂っていた。
 机の上には王国の地図が広げられ、北方の雪原地帯が赤く印されている。

 「北……セレナという名を出したか」
 国王グラン・ノースランドは深く腕を組み、目を閉じた。
 「氷獄の魔女――伝承では、千年前の氷精霊の末裔。
  彼女が再び動くとなれば、王国全土が凍りつく」

 重臣たちの間にざわめきが走る。

 「まさか、本当に七将が全員実在したとは……」
 「しかもそれぞれが一国を滅ぼす力を持つと……」
 「王国の兵力では到底太刀打ちできませんぞ!」

 国王は静かに立ち上がり、天井の大窓から差す光を見つめた。
 「……七将を一人ずつ討つしかない」
 その言葉に、全員の背筋が伸びる。

 「勇者殿を呼べ」



 「はいはい、呼ばれましたよ」
 会議室の扉が開き、悠が欠伸を噛み殺しながら入ってきた。
 寝癖のついた髪、気の抜けた歩き方。
 だが、その一歩で部屋の空気が変わる。

 「……勇者殿」
 グラン王が姿勢を正し、厳かに言葉を紡ぐ。
 「七将――残る六人。彼らを放置すれば、再び戦火が広がる。
  王国の未来を守るため、再び力を貸していただきたい」

 悠は無言で椅子に腰を下ろした。
 そして、ため息。

 「……百パーまた俺の仕事じゃん」
 「勇者様……!」とリオネルが苦笑する。

 「だってさぁ、七将って、あと六人もいるんだろ?
  倒したら終わりって話、どこ行ったんだよ」

 重臣たちは顔を見合わせ、誰も反論できない。
 悠のぼやきは正論だった。

 グラン王は静かに言った。
 「勇者殿、貴殿にしか託せぬのだ。
  この国には、まだ戦える者は少ない。
  だが、貴殿が立つだけで人々は希望を見出す」

 悠は頭をかきながらぼそりと呟いた。
 「希望ってのはな、便利な言葉だよな」
 「どういう意味だ?」と重臣が問う。
 「それさえ言っときゃ、誰かが代わりに頑張るんだよ」

 会議室に一瞬の沈黙が落ちる。
 だが次の瞬間、リオネルが前に出て言った。
 「それでも、勇者様は動いてくださるでしょう?」

 悠はしばらく無言でリオネルを見つめた。
 そして、ふっと笑った。
 「……分かってんだよ。どうせ断っても話が進まねぇ」

 「王国が頼りにしているのは、あなたの力だけではありません」
 リオネルの声は真っすぐだった。
 「人々が信じているのは、“あなたが諦めない”ということです」

 悠はわずかに目を細めた。
 「……買いかぶりだな」
 「そうでしょうか?」

 窓の外では、薄い雲が流れ、風が冷たくなっていた。
 季節はまだ秋のはずなのに、どこか冬の匂いが混じっている。



 王都の広場では、噂が再び広がり始めていた。

 「勇者様が次の敵に向かうらしい!」
「今度は北の地だって!」
「氷の魔女を倒すんだ!」

 人々の声には、恐怖と興奮が入り混じっていた。
 希望はいつだって、不安の裏返しだ。

 エルザは広場の端でその話を聞いていた。
 「……氷の魔女……」
 その言葉に、小さく拳を握る。
 「お父さんのことも、まだ諦めない……」



 夜。
 悠は城の屋上で風に当たっていた。
 リオネルが後ろから歩み寄る。
 「冷えますよ」
 「……寒いの嫌いなんだよな」

 その言葉の奥には、ほんの少しの覚悟が滲んでいた。
 リオネルは黙ってその横に並ぶ。
 「次は北の雪原。氷獄の魔女、セレナ……か」
 「また面倒な名前が出てきたな」

 悠は空を見上げた。
 雲の切れ間から覗く夜空。
 そこには、うっすらと白い光が揺れていた。

 「……あれ、雪か?」
 「まだ時期ではありませんが……」
 リオネルが顔を上げた瞬間、ひとひらの雪が頬に落ちた。

 悠は苦笑し、頭を掻いた。
 「やっぱり、面倒の予感しかしねぇ」

 彼の呟きは風に溶け、王都の空を漂う。
 遠く北の地――氷の嵐が、すでにゆっくりと動き出していた。
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