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第14話 営業の極道
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極道とは、その道を極めた者のことを言う。
昨今では「極道」と聞けば、誰もが眉をひそめて“ヤクザ”を想像する。
だが、本来の意味はまるで違う。
刃物を振り回し、威圧と暴力に物を言わせる者のことではない。
己で選んだ道に、一切の妥協なく身を投じ、
ただひたすらに磨き続ける者——その生き様こそが極道である。
料理人ならば包丁を極め、
職人ならば技を極め、
武の者ならば心と体を極める。
道の数だけ極道が存在する。
だが、現代日本ではその本義は忘れ去られ、
極道といえば反社会の象徴のように扱われてきた。
営業——。
それは数字、ノルマ、競争……
華やかに見えて、死ぬほど過酷な仕事だ。
編集長は言った。
「龍臣。世間には“日本一の営業マン”と噂される男がいる。
数年前、どんな不況でも毎年トップ成績。
業界じゃ“化け物”とまで呼ばれたらしい」
「名前は?」
「西園寺 仁(さいおんじ じん)、48歳。
だが、去年突然会社を辞めたらしい。
引退した理由を取材してこい」
営業界の“伝説”とも呼ばれた男が、
突然業界から姿を消した理由とは——?
龍臣は期待と疑念を胸に、
東京・丸の内のカフェへ向かった。
待ち合わせの時間、
窓際の席でコーヒーを飲む男がいた。
スーツは地味。
髪も普通。
話し方も落ち着いていて威圧感もない。
これが……
営業界の怪物、西園寺仁?
龍臣が挨拶すると、仁は穏やかに笑った。
「いやいや、伝説なんて。
僕はただ、人と話すのが好きだっただけですよ」
その声には、不思議な“説得力”があった。
営業というより、
“人の気持ちを理解する達人”のような空気。
これはただ者ではない――
龍臣は直感した。
仁はハーブティーを口にしながら言った。
「白石さん。営業って、何の仕事だと思う?」
「商品を売ること……ですか?」
仁は首を振った。
「違いますよ。
営業とは、自分を売る仕事なんです」
「自分を……?」
「相手が契約するのは、“商品”ではなく“信頼”です。
営業マンが信用できるから買う。
営業マンが嫌だから買わない。
それがこの世界です」
龍臣は思わず身を乗り出した。
仁の言葉は営業の本質そのものだった。
「売ろうとすると、売れなくなるんですよ。
売るんじゃない。
“この人に任せても大丈夫だ”と思ってもらうんです」
その真理に鳥肌が立った。
龍臣は尋ねた。
「仁さんの営業成績……
どうして毎年トップだったんですか?」
仁は少し困ったように笑った。
「僕、数字を一度も見たことないんです」
「え?」
「他の営業マンは“あと何件”“今月のノルマ”って焦るけど……
僕は一人ひとりのお客さんを、ただ“助けよう”と思って話してました」
焦らず、急がず、売ろうとしない。
「するとね……結果的に数字の方から付いてくるんです」
「逆なんですね……!」
「そう。
営業とは、“数字のために人を見る”仕事じゃなく、
“人のために数字が付いてくる”仕事なんですよ」
この言葉だけで、
彼がトップになった理由は十分すぎるほど分かった。
取材の途中、カフェの入り口に見覚えのある影が立った。
細身、黒いロングコート、冷たい瞳。
桐生遼。
龍臣が思わず声を上げる。
「遼さん……!?」
仁は遼を見ると、驚きもなく微笑んだ。
「やあ、久しぶりだね。遼くん」
「……あんた、変わらないな」
龍臣は混乱した。
仁と遼は知り合いなのか?
仁は笑って説明した。
「遼くんとは、昔ちょっとした縁があってね。
彼が“ある選択”を迷っていた時に、少しだけ話したことがある」
遼は少しだけ視線を逸らした。
「俺が迷ってたわけじゃない。
……そうしなきゃいけない道を、ただ選んだだけだ」
仁は柔らかく言った。
「遼くん。あの時、君は優しい選択をしたよ」
遼は答えなかった。
が、その沈黙が“答え”であることを、龍臣は悟った。
——営業の極道は、人の心までも動かしていたのだ。
龍臣は核心に触れた。
「仁さん……どうして突然辞めたんですか?」
仁はしばらく黙り、窓の外を見た。
「僕の営業がね……“魔法”みたいだと言われた時期があったんです」
「魔法……?」
「どんな相手でも、話せば契約する。
相手の言いたいことが全部分かる。
“あれは人たらしの才能だ”ってね」
だが仁の表情は暗かった。
「ある時、上司に言われたんです。
“感情を操って契約を取る営業は、詐欺師と同じだ”と」
「そんな……!」
仁は静かに首を振った。
「もちろん僕は操るつもりなんてなかった。
相手の役に立ちたいと思っていただけです。
でも……疑われた時、ふと思ったんです」
——自分がやってることは、本当に誰かを幸せにしているのか?
「そこから、契約が苦しくなった。
だから辞めたんです。
“誰も不幸にしない営業”を探すためにね」
その言葉に、龍臣は胸を打たれた。
営業の極道は、“売るために”働くのではなく、“人を救うために”働いていたのだ。
店を出た後、遼がぽつりと呟いた。
「西園寺仁は……危険な男だ」
「え……?」
「嘘はつかない。
本音しか言わない。
だからこそ、相手の心に入ってくる。
その気になれば、人ひとり簡単に狂わすこともできる」
龍臣は背筋が冷えた。
だが遼は続けた。
「……だがその力を、誰も傷つけないために封じた。
あんなバカ正直な営業、他にいねぇよ」
遼が誰かを“信じている”珍しい瞬間だった。
帰り道、龍臣はノートにこう記した。
「極道とは、人を操るのではなく、人を信じる覚悟である。」
「営業とは、人の人生を豊かにする“橋渡し”の仕事だ。」
“売る”という職業に、
ここまでの魂が宿っているとは知らなかった。
——営業は、人の心に踏み込む極道である。
龍臣は深く息を吸い、
次の極道を求めて歩き出した。
昨今では「極道」と聞けば、誰もが眉をひそめて“ヤクザ”を想像する。
だが、本来の意味はまるで違う。
刃物を振り回し、威圧と暴力に物を言わせる者のことではない。
己で選んだ道に、一切の妥協なく身を投じ、
ただひたすらに磨き続ける者——その生き様こそが極道である。
料理人ならば包丁を極め、
職人ならば技を極め、
武の者ならば心と体を極める。
道の数だけ極道が存在する。
だが、現代日本ではその本義は忘れ去られ、
極道といえば反社会の象徴のように扱われてきた。
営業——。
それは数字、ノルマ、競争……
華やかに見えて、死ぬほど過酷な仕事だ。
編集長は言った。
「龍臣。世間には“日本一の営業マン”と噂される男がいる。
数年前、どんな不況でも毎年トップ成績。
業界じゃ“化け物”とまで呼ばれたらしい」
「名前は?」
「西園寺 仁(さいおんじ じん)、48歳。
だが、去年突然会社を辞めたらしい。
引退した理由を取材してこい」
営業界の“伝説”とも呼ばれた男が、
突然業界から姿を消した理由とは——?
龍臣は期待と疑念を胸に、
東京・丸の内のカフェへ向かった。
待ち合わせの時間、
窓際の席でコーヒーを飲む男がいた。
スーツは地味。
髪も普通。
話し方も落ち着いていて威圧感もない。
これが……
営業界の怪物、西園寺仁?
龍臣が挨拶すると、仁は穏やかに笑った。
「いやいや、伝説なんて。
僕はただ、人と話すのが好きだっただけですよ」
その声には、不思議な“説得力”があった。
営業というより、
“人の気持ちを理解する達人”のような空気。
これはただ者ではない――
龍臣は直感した。
仁はハーブティーを口にしながら言った。
「白石さん。営業って、何の仕事だと思う?」
「商品を売ること……ですか?」
仁は首を振った。
「違いますよ。
営業とは、自分を売る仕事なんです」
「自分を……?」
「相手が契約するのは、“商品”ではなく“信頼”です。
営業マンが信用できるから買う。
営業マンが嫌だから買わない。
それがこの世界です」
龍臣は思わず身を乗り出した。
仁の言葉は営業の本質そのものだった。
「売ろうとすると、売れなくなるんですよ。
売るんじゃない。
“この人に任せても大丈夫だ”と思ってもらうんです」
その真理に鳥肌が立った。
龍臣は尋ねた。
「仁さんの営業成績……
どうして毎年トップだったんですか?」
仁は少し困ったように笑った。
「僕、数字を一度も見たことないんです」
「え?」
「他の営業マンは“あと何件”“今月のノルマ”って焦るけど……
僕は一人ひとりのお客さんを、ただ“助けよう”と思って話してました」
焦らず、急がず、売ろうとしない。
「するとね……結果的に数字の方から付いてくるんです」
「逆なんですね……!」
「そう。
営業とは、“数字のために人を見る”仕事じゃなく、
“人のために数字が付いてくる”仕事なんですよ」
この言葉だけで、
彼がトップになった理由は十分すぎるほど分かった。
取材の途中、カフェの入り口に見覚えのある影が立った。
細身、黒いロングコート、冷たい瞳。
桐生遼。
龍臣が思わず声を上げる。
「遼さん……!?」
仁は遼を見ると、驚きもなく微笑んだ。
「やあ、久しぶりだね。遼くん」
「……あんた、変わらないな」
龍臣は混乱した。
仁と遼は知り合いなのか?
仁は笑って説明した。
「遼くんとは、昔ちょっとした縁があってね。
彼が“ある選択”を迷っていた時に、少しだけ話したことがある」
遼は少しだけ視線を逸らした。
「俺が迷ってたわけじゃない。
……そうしなきゃいけない道を、ただ選んだだけだ」
仁は柔らかく言った。
「遼くん。あの時、君は優しい選択をしたよ」
遼は答えなかった。
が、その沈黙が“答え”であることを、龍臣は悟った。
——営業の極道は、人の心までも動かしていたのだ。
龍臣は核心に触れた。
「仁さん……どうして突然辞めたんですか?」
仁はしばらく黙り、窓の外を見た。
「僕の営業がね……“魔法”みたいだと言われた時期があったんです」
「魔法……?」
「どんな相手でも、話せば契約する。
相手の言いたいことが全部分かる。
“あれは人たらしの才能だ”ってね」
だが仁の表情は暗かった。
「ある時、上司に言われたんです。
“感情を操って契約を取る営業は、詐欺師と同じだ”と」
「そんな……!」
仁は静かに首を振った。
「もちろん僕は操るつもりなんてなかった。
相手の役に立ちたいと思っていただけです。
でも……疑われた時、ふと思ったんです」
——自分がやってることは、本当に誰かを幸せにしているのか?
「そこから、契約が苦しくなった。
だから辞めたんです。
“誰も不幸にしない営業”を探すためにね」
その言葉に、龍臣は胸を打たれた。
営業の極道は、“売るために”働くのではなく、“人を救うために”働いていたのだ。
店を出た後、遼がぽつりと呟いた。
「西園寺仁は……危険な男だ」
「え……?」
「嘘はつかない。
本音しか言わない。
だからこそ、相手の心に入ってくる。
その気になれば、人ひとり簡単に狂わすこともできる」
龍臣は背筋が冷えた。
だが遼は続けた。
「……だがその力を、誰も傷つけないために封じた。
あんなバカ正直な営業、他にいねぇよ」
遼が誰かを“信じている”珍しい瞬間だった。
帰り道、龍臣はノートにこう記した。
「極道とは、人を操るのではなく、人を信じる覚悟である。」
「営業とは、人の人生を豊かにする“橋渡し”の仕事だ。」
“売る”という職業に、
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