『総理になった男』

KAORUwithAI

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第3部:旋風 - 国民支持のうねり

第120話 政治団体の立ち上げ

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 国会の会期が折り返しに入った頃。健人は議員会館の机に置かれた分厚いスケジュール表を眺めながら、ひとつの思いに取り憑かれていた。

 ――仲間が足りない。

 もちろん、真田も田島もいる。ボランティア時代から支えてくれた仲間も、地方遊説で出会った若者も、SNSで応援するフォロワーもいる。

 だが、それでも足りないのだ。

 国会という巨大な力場に立ち続けるには、個人の気力だけでは限界がある。委員会の力学、政党同士の駆け引き、予算や法案の優先順位、官僚の壁……。どれもが一人で突破できるものではない。

 「健人さん、そろそろお話しませんか?」

 声をかけたのは真田だった。彼はいつもの冷静な表情だが、その目には何か確信めいた光が宿っていた。

 会館の会議スペースに移動すると、真田は厚い資料を机の上に広げた。

「地方視察の報告、各地の支援団体からの要望、学生サークルの政策提案……全部見て感じたんです。いま必要なのは、理念を共有できる“受け皿”です」

 「受け皿?」

 「はい。政党ではなくていい。だけど、政策を練り、全国の仲間と繋がる場所。健人さんの理念を形にする“場”です」

 その言葉が胸に刺さった。

 田島が椅子にもたれかかりながら言う。

「俺も感じてた。地元の若い議員たち、結構“健人の考え方が好きだ”って言ってるし。でも、動く場がない。繋がろうにも接点がない。だったら、作ればいいんじゃね?」

 健人の心が揺れる。

 選挙で勝った。ただそれだけだ。
 与党にも野党にも属していない。
 身軽だが、同時に拠り所がない。

 だから国会の空気に押しつぶされそうになる日もあった。
 官僚から相手にされない日もあった。
 裏で笑われたこともあった。

 ――それでも進んできた。
 ならば、前へ進むために新しい“場所”を作るのも、ひとつの選択かもしれない。

「でも……」健人は不安を口にした。「政治団体を作ったら、“新党を作る”って誤解されないかな」

 真田は迷いなく首を振る。

「名称や目的を明確にすれば誤解は避けられます。政党ではない、市民と政策を繋ぐ場であることをはっきり示せばいいんです」

 田島が笑いながら乗ってきた。

「名前どうする? “国民に寄り添う会”とか?」

「安いキャッチコピーみたいだから却下です」と真田。

「じゃあ“市民第一協議会”とか?」

「銀行みたいな名前ですね」と健人が苦笑する。

 三人はホワイトボードに次々と案を書き出した。
 “市民と政治を結ぶ会”
 “地域と未来を繋ぐ連盟”
 “政策共創ネットワーク”
 名前だけで一時間が過ぎた。

 沈黙が落ちたとき、健人がぽつりと言った。

「市民政策フォーラム……とか?」

 真田の目が輝いた。

「いいですね。理念も伝わりやすいですし、政党の匂いもしません」

 田島も頷いた。

「かっけえじゃん。市民政策フォーラム。覚えやすいし、堅苦しすぎない」

 その瞬間、空気が固まった。
 ――これだ。

 健人の胸に熱が灯る。

「よし。作ろう。この名前で」



 翌週、政治団体設立のための書類作成が始まった。
 活動目的、規約、事務所の所在地、代表者名。

 どれも地味だが、重要な作業だった。

 総務省に提出するため、真田は眠る間も惜しんで文面を整え、田島はロゴ案まで作ってきた。「俺、デザインの才能ある気がしてきた」と胸を張るが、真田は冷静に「色がうるさすぎます」と一蹴する。

 団体の存在は、まだ外には出していなかった。
 だが、なぜかメディアの嗅覚は鋭い。

 ある日、ネットニュースに見出しが踊った。

 《坂本健人、新党設立か? 政治団体準備の情報流出》

 健人は机を叩きそうになった。

「新党じゃないって……!」

 SNSでは議論が渦巻いた。

《無所属やめるのか?》
《ついに政党に?》
《裏切られた気がする》
《いや必要だろ、組織力強化は歓迎》

 その混乱を鎮めるため、健人は急きょライブ配信を行った。

「政治団体は作ります。でも、政党ではありません。市民の声を政策につなぐための“場所”です。僕一人では足りない。だから、仲間が必要なんです」

 コメント欄は一瞬で熱を帯びた。

《参加したい!》
《団体の詳細教えて》
《全国で動けるようになるのか?》
《健人さん応援してる!!》

 視聴者は三万人を超えた。
 健人は画面の向こうにいる人々の存在を手に取るように感じた。

 ――一人じゃない。
 この動きは、“誰かの希望”でもあるのだ。



 団体が正式に受理された日。
 議員会館の一室で、健人は書類に署名した。

「これで……始まるな」

 真田が満足そうに頷く。

「全国の仲間と繋がる仕組みが、ついに整いました」

 田島は腕を組んで言った。

「ここからだぞ、健人。今まで以上に忙しくなる」

 健人は窓の外を見た。
 春の光に照らされた国会議事堂が、白く美しく輝いていた。

 その姿を見つめながら、健人は静かに誓った。

 ――仲間を作るのは、自分を守るためじゃない。
 市民の声をもっと遠くまで、もっと深くまで届けるためだ。

 紙に書いた理念を、ただの言葉で終わらせないためだ。

 彼は胸元の議員バッジにそっと触れた。

「ここから全国に“声の輪”を広げていく」

 その声は小さかったが、確かな重さがあった。


“理念は一人では歩けない。
支える手が増えたとき、声は風になり、風はうねりになる。
政治を動かすのは、力ではなく想いの連鎖だ”
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