『日本再起動II ― 絶望フライト205便 ―』

第2章：封鎖開始

――203X年・5月2日 午前4時45分。
羽田空港第5ターミナル、貨物区画搬入口。

スタッフ用のセキュリティドアが、わずかな“誤作動”を起こした。
わずか1.8秒の通信干渉でロックが一時解除され、その隙に5人の男女が中へ滑り込む。
誰も気づかない。
空港職員に化けたその姿は、完璧な偽装だった。

「作戦コード：Phase Zero。空港制圧、開始する」

玖堂レンの短い指示が、インカムに静かに響いた。

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■ 管制塔チーム（佐伯ミナ／桐原 翼）

佐伯ミナは、かつて空自基地の通信補助業務に就いていた経歴を持つ。
彼女はすでに制御室の端末にアクセスし、保安システムの一部に“異常発生”の疑似ログを流していた。

「管制塔、異常検知。第5滑走路、再チェックの指示が来る」

「ログをリセットして。2分だけ、空白を作って」
桐原翼が応じ、持ち込んだ専用端末を接続する。
彼が入力するコードの中には、かつて神楽坂カイの計画で使用された“再起動ウイルス”の改良版が含まれていた。

滑走路の一部区域は、わずか3分間、監視カメラも通信も沈黙する。

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■ 搭乗ゲート側（玖堂レン）

レンは、すでに出発予定の国際便205便の搭乗口に近づいていた。
自動チェックイン機は、レンらの偽造IDを問題なく通し、搭乗リストにも“正規乗客”として反映された。

「この機に乗る元国会議員の片倉慎吾、座席はA-6。搭乗確認済み」
ミナの通信が入る。

「よし。あとは、タイミングを合わせるだけだ」

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■ 同刻：内閣危機管理センター・地下情報室

「……再起動の再来か」
苦い声が、暗い部屋に響いた。

公安刑事元捜査官・志水京介。
かつて神楽坂カイを追い、最終的に彼と対話し、公安を去った男。
今は“国家危機管理アドバイザー”という肩書きで、静かに水面下を泳いでいた。

彼の元に、羽田空港の不審アクセスログが届いた。
それはほんの僅かなバグだったが、“何か”が動いていることを示していた。

「どうするんです？」
隣で待機していた若い職員が問う。

志水は、即答した。

「俺が行く」

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■ 午前5時55分：搭乗開始

205便の搭乗案内が開始される。
周囲はまだ穏やかで、乗客たちは眠たげに列をなしていた。
だが、そのうちの“数人”は、計画の全貌を把握した同志だった。

レンは最後尾から機内へ乗り込み、静かに周囲を観察した。

そして、見つけた。
A-6、窓際の席に座る男――片倉慎吾。
かつての国土交通副大臣。政治と企業癒着の象徴。

「……あんたも、この空を飛ぶのか」

レンは、誰にも聞こえぬようにそう呟いた。

そのとき、滑走路を見下ろす空港ロビーの窓の外に、
一人の男が到着していた。

志水京介。

目を細めた彼は、無言でポケットから端末を取り出し、
一つのデータを読み込む。

【処刑リスト（最新版）】
件名：再起動205計画／優先ターゲット：片倉慎吾（元国交副大臣）

「……やはり、あれが目的か」

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志水は歩き出す。
かつて止められなかった神楽坂の“意思”。
今また空から始まろうとしている――
それが正義か、破壊か、
まだ誰にもわからなかった。