『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

日常編

第34話「おかえりなさい、いつもの味」

　「最近、あの方……来ませんね」

　ニナがぽつりと呟いた。

　深夜のミッドナイトマートは今夜も静かで、レンはカウンターの奥で在庫のチェックをしていた。

　「……ああ、あの鎧のお客様ね。もうだいぶ来てないね。」

　「何かあったんでしょうか。ほら、いつも“鮭のおにぎりとチキンとお茶”を……」

　「たしかに、あの組み合わせを見ると“夜が始まった”って感じするくらい、常連さんだったしね」

　カラン。

　その時――まるで会話を聞いていたかのように、扉が開いた。

　金属の軋む音と共に現れたのは、あの鎧のお客様だった。

　「……！」

　ニナが小さく声を上げ、レンが笑顔を浮かべる。

　「お久しぶりですね」

　「……ああ。少し街を離れていた。魔物の討伐でな、山の奥に三週間ほど」

　「無事で何よりです」

　「ふっ、帰ってきたらまず、ここに寄らねばと思ってな」

　お客様は、何の迷いもなく店内を巡り、
　鮭のおにぎり、ホットスナックのチキン、そしてお茶を選んで、レジへと持ってくる。

　「やはり……この店のこいつらを食わねば、元気が出なくてな」

　ニナがスキャンを進めながら笑顔で言う。

　「お帰りなさいませ。変わらず、鮭おにぎりです」

　「もちろん。あれを食わずして、討伐は始まらん」

　会計を済ませ、商品を袋に入れた鎧のお客様は、いつものようにゆっくりと出口へ。

　霧の向こうに消えていくその背に、レンとニナは心を込めて声を送る。

　「ありがとうございました。またお越し下さいませ」