『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI

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日常編

第56話「狐人族はお稲荷さんが好き」

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カラン――。

 冬の冷気と共に、ふさふさの尻尾を揺らしながら一人の女性客が入ってきた。
 耳の先がぴんと立ち、歩くたびに毛並みの整った尾がふわりと揺れる。狐人族だ。
 店内の暖房に包まれると、頬が少し赤く染まり、白く吐いていた息もやがて消えていく。

 「いらっしゃいませ」
 レンの声に軽く会釈し、女性は迷わずおにぎりコーナーへ向かう。
 並ぶ鮭、梅、昆布、唐揚げ……その中で、彼女の視線が止まったのは茶色く艶のある油揚げだった。

 「これは……稲荷寿司?」
 ふっくらとした油揚げに甘じょっぱい煮汁が染み、薄い黄金色がショーケースの照明にきらめく。中にはふんわりとした酢飯が詰まっている。

 補充用のトレイを持っていたニナが近づき、微笑んだ。
 「お好きですか?」
 「ええ……稲荷寿司は、私たち狐人族にとって特別な食べ物なんです。故郷では“お稲荷さま”に供えて、祝い事や節目には必ず食べます」
 そう言うと、女性の尻尾がわずかに揺れ、目元は懐かしさで緩んだ。

 「子どもの頃、母が作ってくれた稲荷寿司は、もっと小ぶりで……でも、甘さが優しくて、何個でも食べられた」
 そう呟くと、彼女は棚にあった稲荷寿司パックをすべてカゴに入れた。
 さらに味噌汁と温かい緑茶も選び、まるで今日という日を“特別な日”にするかのように商品を揃えていく。

 レジに来ると、ふと思い出したようにポケットからカードを取り出す。
 「ナイポ、お願いします」
 レンが端末に通すと、電子音と共に画面が光った。
 「おめでとうございます。ちょうど今月の交換ポイントに達しました。今月の景品は“開運お箸セット”です」
 「まあ……それは素敵。新しい年の始まりにぴったりね」

 レンが丁寧にお箸を包み、稲荷寿司や飲み物と一緒に袋に詰めると、女性は深く頭を下げた。
 「今年一年、きっと良いことがありそうです」
 そう言って扉を出る彼女の尻尾は、行きよりもずっと高く、弾むように揺れていた。

 夜の冷たい空気の中でも、その歩みは軽く、今にも鼻歌が聞こえてきそうだった。

 「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
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