『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

異世界の異変

第15話「街道封鎖」

深夜、店内のBGMが止まり、静かな蛍光灯の光に照らされる中、扉が音もなく開いた。
入ってきたのは、顔なじみの商人だった。だがいつもの穏やかな歩調ではなく、どこか急いでいる。肩で息をしながら、保存食と防寒具を抱えて棚から次々と取り出していく。

会計の際、荷物をレジ台にどさりと置くと、彼はひとつ息を吐いた。
「……北の街道、兵士が封鎖してたよ。馬車ごと引き返すしかなかった」

言葉は淡々としていたが、その口調はどこか早口で、落ち着きを欠いていた。
レンは品物をスキャンしながら微笑みを保ち、短く相槌を打つ。
「そうなんですか」

だが胸の奥では、疑問が膨らんでいた。
（封鎖……？魔物か、それとも……）

商人は「じゃあね」と片手を振り、袋を抱えて足早に去っていった。
ドアが閉まり、再び静寂が訪れる。

レジに残されたわずかな温もりと、商人の言葉だけが残響のように漂う。
レンは会計を終えた画面を見つめたまま、しばらく指を動かせなかった。
蛍光灯の光がやけに冷たく感じられる。

「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
閉まった扉に向かって、遅れて言葉を落としたレンの声は、空虚に響いた。