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敵の正体編
第77話「仲間の負傷」
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深夜、カラン――と鈴が鳴った。
入ってきたのは、以前からよく顔を見せていた冒険者パーティの一人だった。だが、いつもの軽口も明るさもない。肩から腕にかけて厚く包帯が巻かれ、外套の裾には乾ききらない血の跡。鎧の一部はひしゃげ、彼の歩みは明らかに不自然で、片足を引きずっている。
彼は水袋と保存食、消毒液や包帯まで籠に入れ、レジ台に置いた。ニナが慌てて駆け寄り、心配そうに声をかける。
「その怪我……大丈夫なんですか?」
男はかすかに口元を歪め、笑おうとしたが、すぐにかぶりを振った。
「……平気だ。仲間が応急処置をしてくれた。ただ……あれは、人間じゃなかった」
レンとニナの手が同時に止まる。
冒険者は声を潜め、吐き捨てるように続けた。
「剣を当てても、肉を斬った感触がない。まるで霧や影を相手にしているみたいだ。それなのに、奴らの刃は確かにこちらを切り裂いてくる……」
包帯の隙間から赤い染みがじわりと広がっていくのを見て、ニナは顔をこわばらせた。
「……本当に……」
「俺たちの仲間も何人か倒れた。全員無事とは言えない。……だが、次は必ず斃す」
そう言い切る声には震えが混じっていた。
レンはレジを打ち終え、商品を袋に詰めながら、いつもの調子で言葉を発した。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
だがその響きには、いつものような安らぎはなく、むしろ祈りのような切実さがこもっていた。
冒険者は商品を受け取り、背を丸めたままゆっくりと扉へ向かう。
「……次に会うとき、まだ全員で笑えていればいいがな」
カラン、と鈴の音が鳴り、夜の闇にその背が消える。
沈黙が戻った店内で、ニナが両手を強く握りしめ、唇を噛んだ。
「レンさん……もし、あの人たちが……」
レンは目を伏せ、言葉を選ぶように短く答えた。
「……無事を祈ろう。それしかできない」
冷蔵ケースの低い駆動音が、やけに重く響き、店内の空気をさらに沈ませていった。
入ってきたのは、以前からよく顔を見せていた冒険者パーティの一人だった。だが、いつもの軽口も明るさもない。肩から腕にかけて厚く包帯が巻かれ、外套の裾には乾ききらない血の跡。鎧の一部はひしゃげ、彼の歩みは明らかに不自然で、片足を引きずっている。
彼は水袋と保存食、消毒液や包帯まで籠に入れ、レジ台に置いた。ニナが慌てて駆け寄り、心配そうに声をかける。
「その怪我……大丈夫なんですか?」
男はかすかに口元を歪め、笑おうとしたが、すぐにかぶりを振った。
「……平気だ。仲間が応急処置をしてくれた。ただ……あれは、人間じゃなかった」
レンとニナの手が同時に止まる。
冒険者は声を潜め、吐き捨てるように続けた。
「剣を当てても、肉を斬った感触がない。まるで霧や影を相手にしているみたいだ。それなのに、奴らの刃は確かにこちらを切り裂いてくる……」
包帯の隙間から赤い染みがじわりと広がっていくのを見て、ニナは顔をこわばらせた。
「……本当に……」
「俺たちの仲間も何人か倒れた。全員無事とは言えない。……だが、次は必ず斃す」
そう言い切る声には震えが混じっていた。
レンはレジを打ち終え、商品を袋に詰めながら、いつもの調子で言葉を発した。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
だがその響きには、いつものような安らぎはなく、むしろ祈りのような切実さがこもっていた。
冒険者は商品を受け取り、背を丸めたままゆっくりと扉へ向かう。
「……次に会うとき、まだ全員で笑えていればいいがな」
カラン、と鈴の音が鳴り、夜の闇にその背が消える。
沈黙が戻った店内で、ニナが両手を強く握りしめ、唇を噛んだ。
「レンさん……もし、あの人たちが……」
レンは目を伏せ、言葉を選ぶように短く答えた。
「……無事を祈ろう。それしかできない」
冷蔵ケースの低い駆動音が、やけに重く響き、店内の空気をさらに沈ませていった。
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