『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI

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敵の正体編

第82話「物資不足」

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カラン――と深夜の静寂を破って、扉の鈴が鳴った。
 入ってきたのは革鎧を着込んだ兵士だった。鎧には擦れた痕が目立ち、肩から背にかけて白い粉のようなものがこびりついている。埃か、あるいは……それ以上のものか。兵士は無言のまま保存食コーナーへと足を運び、棚に残っていた乾パンと干し肉をほとんどすべて籠に入れた。

 その後を追うように、別の客たちが立て続けに来店する。冒険者風の二人組は水袋をいくつも抱え込み、年配の商人は薬棚の前で真剣に商品を吟味していた。いつもなら夜半の客はちらほらとしたものだが、この日は明らかに空気が違う。
 「……残り、これだけか」
 商品棚の前で商人が低く呟く。彼の目が探すのは、止血用のガーゼや消毒液。

 やがてレジ前に列ができ、レンは慌ただしく手を動かすことになった。
 「次の入荷はいつだ?」
 最初に口を開いたのは、さきほどの兵士だった。目の下に深い隈を浮かべ、眠気ではなく疲弊で声が掠れている。
 「討伐隊が物資をかき集めてるって聞いた。ここが頼りなんだ。次はいつ、補充される?」

 レンは一瞬言葉を探した。異世界の市場に直接出入りしているわけではない。彼にできるのは、朝にコンビニが地球側へ戻ったとき、オーナーの柏木に発注を頼むことだけだ。
 「……オーナーに頼んでみます」
 笑顔を崩さず、そう答えるのが精一杯だった。

 その後ろに並んでいた冒険者が、焦ったように声を上げる。
 「頼むよ、兄ちゃん。仲間が怪我しててな……薬が無いんだ。次来ても棚が空っぽだったら、どうしようもない」
 彼は目を伏せ、唇を噛んでいた。その姿に、ニナの手がわずかに止まる。
 「わ、私も……柏木オーナーにお願いしてみます。薬や包帯は、もっと必要になるかも知れません」

 客たちはそれぞれ品を抱え、足早に扉を出ていった。カラン、と鈴の音が連続して響き、再び静寂が訪れる。だが、棚に残された商品はどれも数が少なく、ところどころ空白が目立つ。

 ニナが眉を寄せ、レジ横に腰掛けた。
 「……本当に、足りなくなってきてますね。いつもなら余るくらいあるのに」
 「そうだな」
 レンは整頓しながら小さく頷いた。蛍光灯に照らされた棚は、普段と同じように整列しているように見える。だが空いたスペースが、彼らの町の不安をそのまま形にしているようだった。

 「レンさん……私たちの店が、戦いのための物資置き場になってしまうなんて」
 ニナの声はわずかに震えていた。彼女は異世界の住人として、昼間の町の緊迫を肌で知っている。その現実が、深夜のコンビニにまで及びつつあるのだ。

 レンは一瞬目を閉じ、深く息を吐いた。
 (明日になったら、柏木さんに言おう。保存食と薬、飲料……全部倍にして発注してもらう。もし足りなくなれば、この店に頼ってくる人がもっと増えるだろうから)

 静けさの戻った店内に、彼の声が響く。
 「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

 客たちはもういない。けれど、その言葉は商品棚の空白に、そして自分自身に言い聞かせるように残った。
 “ここは、まだ日常を保てる場所だ”と。
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