『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI

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決戦編

第91話「闇に光る目」

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カラン――。
 ドアが開くと、店内の蛍光灯の光が夜気を切り裂くように漏れ出た。入ってきたのは革鎧に身を包んだ若い冒険者だった。肩には擦り傷があり、外套には泥と煤が付着している。彼は息を整えると、迷うことなく飲料コーナーへ向かい、水袋の補充用のペットボトルを何本も抱えた。

 続けて乾パンや缶詰、栄養ゼリーをかごに放り込み、足早にカウンターへやってくる。その顔には疲労の色が濃いが、それ以上に緊張が張り付いている。

 「いらっしゃいませ」
 レンの声はいつもの調子を保っていたが、冒険者はその声にかすかに肩を震わせた。

 商品を置いた彼は、しばし黙った後、低い声で言葉を吐き出した。
 「……見たんだ。奴らを」

 ニナが思わず顔を上げる。
 「シャドウを、ですか?」

 冒険者はこくりと頷いた。
 「夜の森で遭遇した。姿は黒い影の塊みたいで、ほとんど形が掴めない。けど……目だけは、はっきり見えた。闇の中で赤く光ってたんだ」

 その言葉に、ニナの顔がこわばる。
 「赤い目……」

 「ただの光じゃない。睨まれた瞬間、身体が動かなくなりそうになった。仲間が剣を振るわなければ、俺は今ここに立ってない」
 冒険者の手は、震えてレジ台の縁を強く握っていた。

 レンは表情を崩さず、淡々とバーコードを読み取る。だが心臓の鼓動は早まり、耳の奥で血が鳴るのを感じていた。
 (闇に光る目……赤い光。今まで断片的だった証言が、少しずつ重なっていく)

 ニナが不安げに口を開く。
 「それって、魔法の効果か何かなんでしょうか……?」

 冒険者は首を横に振った。
 「分からない。ただ、あれは人間の目じゃない。光を放つ獣の目とも違う。もっと……冷たくて、底知れないものだ」

 レジ袋を受け取りながら、冒険者は視線を落とした。
 「もう一度あれに会ったら……次は無事じゃ済まないかもしれない」

 彼の声は震えていたが、それは恐怖と同時に怒りを押し殺したものでもあった。

 レンは深く頭を下げる。
 「……どうかご無事で」

 冒険者は短く頷き、振り返らずに闇へと消えていった。

 静寂が戻ると、ニナは小さく肩を抱き、ぽつりと呟いた。
 「赤い目、ですか……。やっぱり、ただの魔物じゃないんですね」

 レンは答えず、扉の外をじっと見つめていた。
 (影、人の形、赤い目……。確かに輪郭が浮かび上がりつつある。だが、まだ全体像には届かない)

 やがてレンはレジに手を戻し、いつもの調子で口を開いた。
 「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

 それは客を送り出す言葉であると同時に、自分たちの「日常」を辛うじて繋ぎとめるための呪文のようでもあった。
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