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第40話 失われた系譜、受け継がれる意志
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アインに先導され、
ルークとミアは学園の奥へと進んでいった。
幾重にも重なる廊下。
静寂に包まれた一角。
やがて、一枚の重厚な扉の前で足が止まる。
「……ここだ」
アインが一歩前に出て、扉をノックした。
「学園長。
例の二人を連れて来ました」
「――入れ」
低く、落ち着いた声が返ってくる。
扉が開かれ、
二人は学園長室へと足を踏み入れた。
*
広い室内。
壁一面に並ぶ書棚。
古びた魔導具。
歴史の重みを感じさせる空間だった。
机の向こうに座る老人が、
二人を見て静かに立ち上がる。
「……いきなり呼び出して、すまなかった」
「いえ、大丈夫です」
ルークが即座に答え、
ミアも小さく頷いた。
「まずは――
合格、おめでとう」
「ありがとうございます」
二人は揃って頭を下げる。
「私は――
エルドリヒ・ヴァルツァー」
その名を聞いた瞬間、
ルークの眉が、わずかに動いた。
(……ヴァルツァー)
聞き覚えがあった。
はるか昔。
賢者として生きていた時代。
自分の教えを受けていた弟子の一人。
確かに、その姓を名乗る者がいた。
だが、ルークは表情を変えない。
「はじめまして。
ルークです」
「ミアです」
二人が名乗ると、
学園長は満足そうに頷いた。
*
「……さて」
エルドリヒは、ゆっくりと言葉を選びながら語り始める。
「五年前、
君の姉――セシリアが、この学園を訪れた」
ルークは、黙って耳を傾ける。
「入試の結果を聞いた時、
私は驚愕したよ」
「無詠唱魔法の理論を理解し、
なおかつ、それを実際に行使できる人物が
現れたのだからね」
ミアは、息を呑む。
「合格発表の際、
彼女を呼び出して話を聞いた」
「そこでさらに驚いた」
「……無詠唱を教えたのが、
当時五歳の弟だというのだから」
学園長の視線が、
ルークへ向く。
「しかも――
セシリア以外にも、
もう一人教えている人物がいると」
「……それが、君だね。
ミア」
「は、はい」
ミアは、少し緊張しながら答えた。
*
「そして今年」
エルドリヒは続ける。
「君たち二人が入試を受け、
筆記・実技ともに合格」
「実技では、当然のように無詠唱」
そこまで言って、
学園長は一度、深く息を吐いた。
「……ここからが、本題だ」
空気が、少し張り詰める。
「今、この国……いや、
世界の魔法は」
「停滞どころか、
衰退している」
ルークの胸に、
鈍い痛みが走った。
「かつて――
賢者様が存在した時代」
「今とは比べものにならないほど、
優れた魔術師がいたそうだ」
「事実、私の先祖も、
その一人だったらしい」
エルドリヒは、
一冊の古いノートを取り出した。
「これは、
先祖が賢者様のもとで学んでいた頃に
書き残したものだ」
「無詠唱魔法の理論も、
確かに、ここに記されている」
ルークは、静かに尋ねた。
「……それなら」
「どうして、
今の時代では失われたんですか?」
その声には、
抑えきれない悔しさが滲んでいた。
エルドリヒは、
静かに答える。
「賢者様ご自身が残した書物の大半が、
失われた」
「使えた者も、
時とともに亡くなり」
「口伝だけでは、
限界があったのだろう」
ルークは、視線を落とす。
(……残せなかった)
(……継承できる形を)
賢者としての後悔が、
胸を締めつけた。
*
「――だからだ」
エルドリヒは、
まっすぐに二人を見る。
「君たちに、
この学園で研究をしてほしい」
「……研究?」
「そう」
「この学園には、
学生主導の研究がいくつもある」
「身体強化研究」
「特殊魔法研究」
「そして――」
学園長は、はっきりと言った。
「無詠唱魔法研究だ」
ミアが、思わずルークを見る。
「君たちには、
そこで研究を進めつつ」
「他の生徒たちに、
指導も行ってほしい」
「顧問は――
アイン先生をつけよう」
アインは一歩前に出て、
二人に深く頭を下げた。
「よろしく」
ルークは、しばらく考え――
そして、学園長を見る。
「……分かりました」
その言葉には、
迷いはなかった。
「ミア」
「……どうする?」
ミアは、微笑んで即答した。
「ルークのいる場所が、
私のいる場所」
こうして、
二人の参加が決まった。
*
「今日は、ここまでにしよう」
「入学式が終わってから、
また詳しく話をしよう」
「分かりました」
二人は頭を下げ、
学園長室を後にする。
*
扉が閉まった後。
エルドリヒは、
静かに呟いた。
「……これで」
「また、魔法が
五百年前の姿に近づけばいいのだがな」
アインは、穏やかに頷く。
「……そうですね」
*
その頃。
ルークとミアは宿へ戻っていた。
「……おかえり」
宿の前に立っていたのは、
セシリアだった。
五年ぶりに、
ようやく落ち着いて向き合える。
再会の続きを告げる、
静かな時間が、始まろうとしていた。
ルークとミアは学園の奥へと進んでいった。
幾重にも重なる廊下。
静寂に包まれた一角。
やがて、一枚の重厚な扉の前で足が止まる。
「……ここだ」
アインが一歩前に出て、扉をノックした。
「学園長。
例の二人を連れて来ました」
「――入れ」
低く、落ち着いた声が返ってくる。
扉が開かれ、
二人は学園長室へと足を踏み入れた。
*
広い室内。
壁一面に並ぶ書棚。
古びた魔導具。
歴史の重みを感じさせる空間だった。
机の向こうに座る老人が、
二人を見て静かに立ち上がる。
「……いきなり呼び出して、すまなかった」
「いえ、大丈夫です」
ルークが即座に答え、
ミアも小さく頷いた。
「まずは――
合格、おめでとう」
「ありがとうございます」
二人は揃って頭を下げる。
「私は――
エルドリヒ・ヴァルツァー」
その名を聞いた瞬間、
ルークの眉が、わずかに動いた。
(……ヴァルツァー)
聞き覚えがあった。
はるか昔。
賢者として生きていた時代。
自分の教えを受けていた弟子の一人。
確かに、その姓を名乗る者がいた。
だが、ルークは表情を変えない。
「はじめまして。
ルークです」
「ミアです」
二人が名乗ると、
学園長は満足そうに頷いた。
*
「……さて」
エルドリヒは、ゆっくりと言葉を選びながら語り始める。
「五年前、
君の姉――セシリアが、この学園を訪れた」
ルークは、黙って耳を傾ける。
「入試の結果を聞いた時、
私は驚愕したよ」
「無詠唱魔法の理論を理解し、
なおかつ、それを実際に行使できる人物が
現れたのだからね」
ミアは、息を呑む。
「合格発表の際、
彼女を呼び出して話を聞いた」
「そこでさらに驚いた」
「……無詠唱を教えたのが、
当時五歳の弟だというのだから」
学園長の視線が、
ルークへ向く。
「しかも――
セシリア以外にも、
もう一人教えている人物がいると」
「……それが、君だね。
ミア」
「は、はい」
ミアは、少し緊張しながら答えた。
*
「そして今年」
エルドリヒは続ける。
「君たち二人が入試を受け、
筆記・実技ともに合格」
「実技では、当然のように無詠唱」
そこまで言って、
学園長は一度、深く息を吐いた。
「……ここからが、本題だ」
空気が、少し張り詰める。
「今、この国……いや、
世界の魔法は」
「停滞どころか、
衰退している」
ルークの胸に、
鈍い痛みが走った。
「かつて――
賢者様が存在した時代」
「今とは比べものにならないほど、
優れた魔術師がいたそうだ」
「事実、私の先祖も、
その一人だったらしい」
エルドリヒは、
一冊の古いノートを取り出した。
「これは、
先祖が賢者様のもとで学んでいた頃に
書き残したものだ」
「無詠唱魔法の理論も、
確かに、ここに記されている」
ルークは、静かに尋ねた。
「……それなら」
「どうして、
今の時代では失われたんですか?」
その声には、
抑えきれない悔しさが滲んでいた。
エルドリヒは、
静かに答える。
「賢者様ご自身が残した書物の大半が、
失われた」
「使えた者も、
時とともに亡くなり」
「口伝だけでは、
限界があったのだろう」
ルークは、視線を落とす。
(……残せなかった)
(……継承できる形を)
賢者としての後悔が、
胸を締めつけた。
*
「――だからだ」
エルドリヒは、
まっすぐに二人を見る。
「君たちに、
この学園で研究をしてほしい」
「……研究?」
「そう」
「この学園には、
学生主導の研究がいくつもある」
「身体強化研究」
「特殊魔法研究」
「そして――」
学園長は、はっきりと言った。
「無詠唱魔法研究だ」
ミアが、思わずルークを見る。
「君たちには、
そこで研究を進めつつ」
「他の生徒たちに、
指導も行ってほしい」
「顧問は――
アイン先生をつけよう」
アインは一歩前に出て、
二人に深く頭を下げた。
「よろしく」
ルークは、しばらく考え――
そして、学園長を見る。
「……分かりました」
その言葉には、
迷いはなかった。
「ミア」
「……どうする?」
ミアは、微笑んで即答した。
「ルークのいる場所が、
私のいる場所」
こうして、
二人の参加が決まった。
*
「今日は、ここまでにしよう」
「入学式が終わってから、
また詳しく話をしよう」
「分かりました」
二人は頭を下げ、
学園長室を後にする。
*
扉が閉まった後。
エルドリヒは、
静かに呟いた。
「……これで」
「また、魔法が
五百年前の姿に近づけばいいのだがな」
アインは、穏やかに頷く。
「……そうですね」
*
その頃。
ルークとミアは宿へ戻っていた。
「……おかえり」
宿の前に立っていたのは、
セシリアだった。
五年ぶりに、
ようやく落ち着いて向き合える。
再会の続きを告げる、
静かな時間が、始まろうとしていた。
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