賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第40話 失われた系譜、受け継がれる意志

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 アインに先導され、
 ルークとミアは学園の奥へと進んでいった。

 幾重にも重なる廊下。
 静寂に包まれた一角。

 やがて、一枚の重厚な扉の前で足が止まる。

「……ここだ」

 アインが一歩前に出て、扉をノックした。

「学園長。
 例の二人を連れて来ました」

「――入れ」

 低く、落ち着いた声が返ってくる。

 扉が開かれ、
 二人は学園長室へと足を踏み入れた。



 広い室内。

 壁一面に並ぶ書棚。
 古びた魔導具。
 歴史の重みを感じさせる空間だった。

 机の向こうに座る老人が、
 二人を見て静かに立ち上がる。

「……いきなり呼び出して、すまなかった」

「いえ、大丈夫です」

 ルークが即座に答え、
 ミアも小さく頷いた。

「まずは――
 合格、おめでとう」

「ありがとうございます」

 二人は揃って頭を下げる。

「私は――
 エルドリヒ・ヴァルツァー」

 その名を聞いた瞬間、
 ルークの眉が、わずかに動いた。

(……ヴァルツァー)

 聞き覚えがあった。

 はるか昔。
 賢者として生きていた時代。

 自分の教えを受けていた弟子の一人。
 確かに、その姓を名乗る者がいた。

 だが、ルークは表情を変えない。

「はじめまして。
 ルークです」

「ミアです」

 二人が名乗ると、
 学園長は満足そうに頷いた。



「……さて」

 エルドリヒは、ゆっくりと言葉を選びながら語り始める。

「五年前、
 君の姉――セシリアが、この学園を訪れた」

 ルークは、黙って耳を傾ける。

「入試の結果を聞いた時、
 私は驚愕したよ」

「無詠唱魔法の理論を理解し、
 なおかつ、それを実際に行使できる人物が
 現れたのだからね」

 ミアは、息を呑む。

「合格発表の際、
 彼女を呼び出して話を聞いた」

「そこでさらに驚いた」

「……無詠唱を教えたのが、
 当時五歳の弟だというのだから」

 学園長の視線が、
 ルークへ向く。

「しかも――
 セシリア以外にも、
 もう一人教えている人物がいると」

「……それが、君だね。
 ミア」

「は、はい」

 ミアは、少し緊張しながら答えた。



「そして今年」

 エルドリヒは続ける。

「君たち二人が入試を受け、
 筆記・実技ともに合格」

「実技では、当然のように無詠唱」

 そこまで言って、
 学園長は一度、深く息を吐いた。

「……ここからが、本題だ」

 空気が、少し張り詰める。

「今、この国……いや、
 世界の魔法は」

「停滞どころか、
 衰退している」

 ルークの胸に、
 鈍い痛みが走った。

「かつて――
 賢者様が存在した時代」

「今とは比べものにならないほど、
 優れた魔術師がいたそうだ」

「事実、私の先祖も、
 その一人だったらしい」

 エルドリヒは、
 一冊の古いノートを取り出した。

「これは、
 先祖が賢者様のもとで学んでいた頃に
 書き残したものだ」

「無詠唱魔法の理論も、
 確かに、ここに記されている」

 ルークは、静かに尋ねた。

「……それなら」

「どうして、
 今の時代では失われたんですか?」

 その声には、
 抑えきれない悔しさが滲んでいた。

 エルドリヒは、
 静かに答える。

「賢者様ご自身が残した書物の大半が、
 失われた」

「使えた者も、
 時とともに亡くなり」

「口伝だけでは、
 限界があったのだろう」

 ルークは、視線を落とす。

(……残せなかった)

(……継承できる形を)

 賢者としての後悔が、
 胸を締めつけた。



「――だからだ」

 エルドリヒは、
 まっすぐに二人を見る。

「君たちに、
 この学園で研究をしてほしい」

「……研究?」

「そう」

「この学園には、
 学生主導の研究がいくつもある」

「身体強化研究」
「特殊魔法研究」

「そして――」

 学園長は、はっきりと言った。

「無詠唱魔法研究だ」

 ミアが、思わずルークを見る。

「君たちには、
 そこで研究を進めつつ」

「他の生徒たちに、
 指導も行ってほしい」

「顧問は――
 アイン先生をつけよう」

 アインは一歩前に出て、
 二人に深く頭を下げた。

「よろしく」

 ルークは、しばらく考え――
 そして、学園長を見る。

「……分かりました」

 その言葉には、
 迷いはなかった。

「ミア」

「……どうする?」

 ミアは、微笑んで即答した。

「ルークのいる場所が、
 私のいる場所」

 こうして、
 二人の参加が決まった。



「今日は、ここまでにしよう」

「入学式が終わってから、
 また詳しく話をしよう」

「分かりました」

 二人は頭を下げ、
 学園長室を後にする。



 扉が閉まった後。

 エルドリヒは、
 静かに呟いた。

「……これで」

「また、魔法が
 五百年前の姿に近づけばいいのだがな」

 アインは、穏やかに頷く。

「……そうですね」



 その頃。

 ルークとミアは宿へ戻っていた。

「……おかえり」

 宿の前に立っていたのは、
 セシリアだった。

 五年ぶりに、
 ようやく落ち着いて向き合える。

 再会の続きを告げる、
 静かな時間が、始まろうとしていた。
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