「  」に溺れ、「  」を泳ぐ。

才記えくぼ(サイキエクボ)

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少女と溺れる私

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あらすじ

模試の結果が悪く、それはポエムを書いて遊んでいるからだと母さんは言った。
家庭内で空気のような父さんがすかさず反論するも、母さんに黙らされてしまう。
食事を終え、自室に戻った瞬間、異様な空気を感じ取る。
現れたのは、人でないなにかだった。
少女の形をしたそれは、私がぐしゃぐしゃにした紙を広げて…。





青白い身体に文字通り透き通る肌をさらし、少女は先ほど広げた紙を手に持っていた。

目線は紙を見ていて、上から下へと動いている。

自分が書いた物語を読まれている。そう気づいた瞬間、一気に血が昇り顔に集中していった。
恐怖を羞恥があっという間に上回り、慌てて取り上げようと手を伸ばした。


「か、返して!」


伸ばした手は呆気なく躱される。少女はただひたすら文字を目で追っていた。文字を追うごとに表情は険しくなっていく。その表情は少し人間らしく見えた。

私はあきらめて彼女を静観することにした。纏う空気は禍々しくなっていき、なんだか逃げたいと思ってしまうほどだった。

「はぁ…」

大きなため息がやたらと大きく木霊する。苦しい沈黙。しばらく目を伏せていた彼女は、ゆっくりと目線を私に向けた。いろんな感情が混ざっている複雑な顔だった。


「これ、ホントに千代子が書いたの?」

「え、あ、はい…」


反射で頷けば、少女はくしゃりと顔を歪ませて、渇いた笑いを出す。


「変わったね。いや、変わってないからこうなってるんだ」


まるで昔から知っているような口調だった。


酷く懐かしい感覚に、私の身体は一気に震え上がる。ぞくぞくと肌は粟立ち、心臓がやたらと早鐘を打った。


グッと息が詰まる。

溺れているみたいに息が苦しくて、頭に血が昇って痛い。バタつく足は地を蹴った。
凍るように痛い指先に、頭は混乱してばかりだ。
遠のく意識に、涙が零れる。

ぐるぐると巡る記憶が走馬灯のように走り抜ける。蓄積した死への恐怖が膨らんで、首元に鋭い痛みが走った。

その直後。

私は気が付けば地面に座り込み、呼吸の度にヒューヒューと喉を鳴らしながら大きく咳をしていた。

そこでようやく気付いたのだった。

私は彼女に首を絞められていた。


震える身体は止まらず、恐る恐る少女を見上げる。前髪が陰を落とし、表情は隠されていた。


「千代子は、私が死ねって言ったら死ぬの?」


彼女の声、私の首を絞めていた手。

ガタガタと震えて止まらない。

彼女の問いに、脳が鈍器で殴られたようにジンと痺れた。

私は何も答えられなかった。

「私は死にたくない」

少女の口から吐かれた言葉は、怯え切った人間の切実さが滲んでいた。


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