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第一章 死んでないが死にかけた
第2話 一難去ってまた一難!?
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幾ら体力があるとはいえ、走り続けていたらいずれ力尽きるものだ。
オレは息を荒げながら一瞬だけ肩越しに振り返る。
そこには煌々と光る八つの眼を輝かせ獲物を逃すまいと足音も荒々しく追いすがる巨大な蜘蛛が迫っていた。
(全然諦める気ねぇ……!! つか、この洞窟長すぎねぇか!?)
ループしてるんじゃないかと思うくらいに一向に代わり映えしない内部、やたらと高い天井。
もしかしてこの洞窟、とても規模が大きいのではないか、そんなことが頭を過り始める。
一本道なのは最初はありがたかった。
しかし、迷う心配がないことに安堵したのもつかの間。
今となってはそれが恨めしく思えてくる。
分かれ道も隠れ場所もなく、振り切ることもできない。
ただ前へと走ることしか許されなかった。
(こんな訳の分からない所で蜘蛛に襲われてオレは死ぬのか!?)
そんな惨めな最期なんて、冗談じゃない。
絶対に生きて、この悪夢のような空間から抜け出してやる。
そして、嘘みたいなこの出来事を──ツブヤイターに綴ってやるんだ。
その時、視界の奥に微かな光が差した。
「……あれって……まさか出口……!?」
永遠にも等しい時間に思われたが、ようやくここから抜け出すことが出来そうだ。
オレは力を振り絞り、出口までの道を駆け抜けた。
洞窟を抜けた途端、爽やかな風が全身を撫でて通り過ぎる。
出た、やっと外に出れたのだ。
清々しい空気と柔らかな日差しが降り注いでいる。
辺りは木々が生い茂る山の中のようだった。
足元も雑草だらけで、見たことがないような植物で埋め尽くされている。
そのことに妙に胸がざわつく。
「そうだ、蜘蛛はッ……!?」
洞窟を抜けた後もあの恐ろしい蜘蛛がまだしつこく追ってくるのではないかという恐怖に勢い良く振り返る。
するとそこには洞窟の入り口で静止している蜘蛛の姿があった。
未練がましくじっとこちらを見つめる目。
しばらくの沈黙の後、ようやく蜘蛛はその場から引き上げ洞窟の奥へと姿を消していった。
「……よく分かんねぇけど……助かったァァ」
全身の力が抜け、ふらりとその場に膝をつく。
心臓は激しく鼓動を打ち、疲れ切った身体は悲鳴を上げその場から動くことを拒んでいた。
まるで自分の身体が自分のものではないかのようで、思わず苦笑いがこぼれる。
あの恐ろしい蜘蛛から逃げ切ったことで胸は達成感に満ちていたが、それも束の間で次なる危機が静かに迫っていることにオレはまったく気づいていなかった。
シューという空気の漏れるような音。
走り過ぎて自分がオーバーヒートして湯気が出ているというわけではあるまい。
何か妙だな、と疲れ切った体で空を仰ぐ。
「!!」
目があった、言葉通り2つの目があって、目が合ったのだ。
それも近距離で、そいつは亀のような茶色い頭をしていて、ちらつく牙が上下に二本ずつ、そして先端が裂けた舌がチロチロと蠢いている。
問題はその大きさだった。
洋画で出てくる巨大蛇そのもので、胴体の横幅だけで六十センチはありそうだった。
さっきの巨大蜘蛛といい、一体何がどうなっているんだ。
(……やべぇ……。叫んだり身動きでもすれば一瞬でやられる……。とにかく静かにしてコイツが去るのを待つのが得策……)
じっとしていても殺られるとき時は殺られるが、より助かる可能性を選ばないとすぐにバッドエンドだ。
麻痺した思考でオレは必死に生存ルートを模索する。
案の定、蛇は襲いかかる様子もなく、オレのことを静かに観察していた。
(うっ……臭っ……)
吐き気を催すような生臭い呼気。
戻しそうになるのを必死に耐え、ひたすら気配を殺す。
(自分を捨てろ……無我の境地だ……オレはただの石だ!!)
カッと目を見開き、蛇の目を見返す。
同時に蛇の臭い吐息がこれでもかとばかりに顔に掛けられた。
蜘蛛に追い回されてメンタルが限界だったオレにそれを耐えるだけの気力は当然残されていなかった。
「うぉぇええッ!! く、臭ッ……おええぇえッ!!」
一体何を食ったらこんな臭い息を出せるのか。
息自体が一つの凶器でしかない。
幼少期、動物園でふざけ半分で嗅いだスカンクのオナラのサンプルの何十倍も臭いのだ。
「ハッ!!」
石のつもりが、いつの間にかオレは蛙と化していた。
蛇に睨まれたカエルの如く、オレは全身を強張らせる。
蛇が鎌首をもたげており、明らかに先程の様子とは異なっていた。
(しまった……。あまりの激臭に擬態が解けたぞ……)
そもそも、擬態出来ていたかどうか謎だが、少なくとも捕捉対象ではなかったはずだ。
絶対絶命の大ピンチに顔から血の気が引いていくのが分かる。
(くそ、今度こそ死ぬのか……)
蛇が襲ってくるのを前に、オレは反射的に目を堅く閉じた。
こんな巨大な蛇に噛まれる、或いは締め付けられる激痛とはどれ程のものなのか、毒は持っているのだろうか、全身腫れて死ぬのは嫌だな、など矢継ぎ早に色々な思いが駆け巡る。
(……ん? おかしくないか、何でそんなことを考える余裕があるんだ?)
目を開けるのは恐ろしい。
だが、開けねば事態を見極める事は出来ないだろう。
オレは目前に蛇の顔がないことを祈りつつ、薄っすらと目を開けた。
「あっ……!?」
驚いたことに、そこには金に輝く鎖に雁字搦めにされた蛇が苦しそうに見を捩る姿があった。
オレは息を荒げながら一瞬だけ肩越しに振り返る。
そこには煌々と光る八つの眼を輝かせ獲物を逃すまいと足音も荒々しく追いすがる巨大な蜘蛛が迫っていた。
(全然諦める気ねぇ……!! つか、この洞窟長すぎねぇか!?)
ループしてるんじゃないかと思うくらいに一向に代わり映えしない内部、やたらと高い天井。
もしかしてこの洞窟、とても規模が大きいのではないか、そんなことが頭を過り始める。
一本道なのは最初はありがたかった。
しかし、迷う心配がないことに安堵したのもつかの間。
今となってはそれが恨めしく思えてくる。
分かれ道も隠れ場所もなく、振り切ることもできない。
ただ前へと走ることしか許されなかった。
(こんな訳の分からない所で蜘蛛に襲われてオレは死ぬのか!?)
そんな惨めな最期なんて、冗談じゃない。
絶対に生きて、この悪夢のような空間から抜け出してやる。
そして、嘘みたいなこの出来事を──ツブヤイターに綴ってやるんだ。
その時、視界の奥に微かな光が差した。
「……あれって……まさか出口……!?」
永遠にも等しい時間に思われたが、ようやくここから抜け出すことが出来そうだ。
オレは力を振り絞り、出口までの道を駆け抜けた。
洞窟を抜けた途端、爽やかな風が全身を撫でて通り過ぎる。
出た、やっと外に出れたのだ。
清々しい空気と柔らかな日差しが降り注いでいる。
辺りは木々が生い茂る山の中のようだった。
足元も雑草だらけで、見たことがないような植物で埋め尽くされている。
そのことに妙に胸がざわつく。
「そうだ、蜘蛛はッ……!?」
洞窟を抜けた後もあの恐ろしい蜘蛛がまだしつこく追ってくるのではないかという恐怖に勢い良く振り返る。
するとそこには洞窟の入り口で静止している蜘蛛の姿があった。
未練がましくじっとこちらを見つめる目。
しばらくの沈黙の後、ようやく蜘蛛はその場から引き上げ洞窟の奥へと姿を消していった。
「……よく分かんねぇけど……助かったァァ」
全身の力が抜け、ふらりとその場に膝をつく。
心臓は激しく鼓動を打ち、疲れ切った身体は悲鳴を上げその場から動くことを拒んでいた。
まるで自分の身体が自分のものではないかのようで、思わず苦笑いがこぼれる。
あの恐ろしい蜘蛛から逃げ切ったことで胸は達成感に満ちていたが、それも束の間で次なる危機が静かに迫っていることにオレはまったく気づいていなかった。
シューという空気の漏れるような音。
走り過ぎて自分がオーバーヒートして湯気が出ているというわけではあるまい。
何か妙だな、と疲れ切った体で空を仰ぐ。
「!!」
目があった、言葉通り2つの目があって、目が合ったのだ。
それも近距離で、そいつは亀のような茶色い頭をしていて、ちらつく牙が上下に二本ずつ、そして先端が裂けた舌がチロチロと蠢いている。
問題はその大きさだった。
洋画で出てくる巨大蛇そのもので、胴体の横幅だけで六十センチはありそうだった。
さっきの巨大蜘蛛といい、一体何がどうなっているんだ。
(……やべぇ……。叫んだり身動きでもすれば一瞬でやられる……。とにかく静かにしてコイツが去るのを待つのが得策……)
じっとしていても殺られるとき時は殺られるが、より助かる可能性を選ばないとすぐにバッドエンドだ。
麻痺した思考でオレは必死に生存ルートを模索する。
案の定、蛇は襲いかかる様子もなく、オレのことを静かに観察していた。
(うっ……臭っ……)
吐き気を催すような生臭い呼気。
戻しそうになるのを必死に耐え、ひたすら気配を殺す。
(自分を捨てろ……無我の境地だ……オレはただの石だ!!)
カッと目を見開き、蛇の目を見返す。
同時に蛇の臭い吐息がこれでもかとばかりに顔に掛けられた。
蜘蛛に追い回されてメンタルが限界だったオレにそれを耐えるだけの気力は当然残されていなかった。
「うぉぇええッ!! く、臭ッ……おええぇえッ!!」
一体何を食ったらこんな臭い息を出せるのか。
息自体が一つの凶器でしかない。
幼少期、動物園でふざけ半分で嗅いだスカンクのオナラのサンプルの何十倍も臭いのだ。
「ハッ!!」
石のつもりが、いつの間にかオレは蛙と化していた。
蛇に睨まれたカエルの如く、オレは全身を強張らせる。
蛇が鎌首をもたげており、明らかに先程の様子とは異なっていた。
(しまった……。あまりの激臭に擬態が解けたぞ……)
そもそも、擬態出来ていたかどうか謎だが、少なくとも捕捉対象ではなかったはずだ。
絶対絶命の大ピンチに顔から血の気が引いていくのが分かる。
(くそ、今度こそ死ぬのか……)
蛇が襲ってくるのを前に、オレは反射的に目を堅く閉じた。
こんな巨大な蛇に噛まれる、或いは締め付けられる激痛とはどれ程のものなのか、毒は持っているのだろうか、全身腫れて死ぬのは嫌だな、など矢継ぎ早に色々な思いが駆け巡る。
(……ん? おかしくないか、何でそんなことを考える余裕があるんだ?)
目を開けるのは恐ろしい。
だが、開けねば事態を見極める事は出来ないだろう。
オレは目前に蛇の顔がないことを祈りつつ、薄っすらと目を開けた。
「あっ……!?」
驚いたことに、そこには金に輝く鎖に雁字搦めにされた蛇が苦しそうに見を捩る姿があった。
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