異世界転生したけどそんな都合よく最強にはなれませんでした!?前途多難の駆け出し冒険者

蒼桜月薔薇

文字の大きさ
3 / 21
第一章 死んでないが死にかけた

第2話 一難去ってまた一難!?

しおりを挟む
 幾ら体力があるとはいえ、走り続けていたらいずれ力尽きるものだ。
 オレは息を荒げながら一瞬だけ肩越しに振り返る。
 そこには煌々と光る八つの眼を輝かせ獲物を逃すまいと足音も荒々しく追いすがる巨大な蜘蛛が迫っていた。

(全然諦める気ねぇ……!! つか、この洞窟長すぎねぇか!?)

 ループしてるんじゃないかと思うくらいに一向に代わり映えしない内部、やたらと高い天井。
 もしかしてこの洞窟、とても規模が大きいのではないか、そんなことが頭をよぎり始める。

 一本道なのは最初はありがたかった。
 しかし、迷う心配がないことに安堵したのもつかの間。
 今となってはそれが恨めしく思えてくる。

 分かれ道も隠れ場所もなく、振り切ることもできない。
 ただ前へと走ることしか許されなかった。

(こんな訳の分からない所で蜘蛛に襲われてオレは死ぬのか!?)

 そんな惨めな最期なんて、冗談じゃない。
 絶対に生きて、この悪夢のような空間から抜け出してやる。
 そして、嘘みたいなこの出来事を──ツブヤイターに綴ってやるんだ。

 その時、視界の奥に微かな光が差した。

 「……あれって……まさか出口……!?」

 永遠にも等しい時間に思われたが、ようやくここから抜け出すことが出来そうだ。
 オレは力を振り絞り、出口までの道を駆け抜けた。

 洞窟を抜けた途端、爽やかな風が全身を撫でて通り過ぎる。
 出た、やっと外に出れたのだ。
 清々しい空気と柔らかな日差しが降り注いでいる。

 辺りは木々が生い茂る山の中のようだった。
 足元も雑草だらけで、見たことがないような植物で埋め尽くされている。
 そのことに妙に胸がざわつく。

「そうだ、蜘蛛はッ……!?」

 洞窟を抜けた後もあの恐ろしい蜘蛛がまだしつこく追ってくるのではないかという恐怖に勢い良く振り返る。
 するとそこには洞窟の入り口で静止している蜘蛛の姿があった。

 未練がましくじっとこちらを見つめる目。
 しばらくの沈黙の後、ようやく蜘蛛はその場から引き上げ洞窟の奥へと姿を消していった。

「……よく分かんねぇけど……助かったァァ」

 全身の力が抜け、ふらりとその場に膝をつく。
 心臓は激しく鼓動を打ち、疲れ切った身体は悲鳴を上げその場から動くことを拒んでいた。
 まるで自分の身体が自分のものではないかのようで、思わず苦笑いがこぼれる。

 あの恐ろしい蜘蛛から逃げ切ったことで胸は達成感に満ちていたが、それも束の間で次なる危機が静かに迫っていることにオレはまったく気づいていなかった。

 シューという空気の漏れるような音。
 走り過ぎて自分がオーバーヒートして湯気が出ているというわけではあるまい。
 何か妙だな、と疲れ切った体で空を仰ぐ。

「!!」

 目があった、言葉通り2つの目があって、目が合ったのだ。
 それも近距離で、そいつは亀のような茶色い頭をしていて、ちらつく牙が上下に二本ずつ、そして先端が裂けた舌がチロチロと蠢いている。

 問題はその大きさだった。
 洋画で出てくる巨大蛇そのもので、胴体の横幅だけで六十センチはありそうだった。
 さっきの巨大蜘蛛といい、一体何がどうなっているんだ。

(……やべぇ……。叫んだり身動きでもすれば一瞬でやられる……。とにかく静かにしてコイツが去るのを待つのが得策……)

 じっとしていても殺られるとき時は殺られるが、より助かる可能性を選ばないとすぐにバッドエンドだ。
 麻痺した思考でオレは必死に生存ルートを模索する。
 案の定、蛇は襲いかかる様子もなく、オレのことを静かに観察していた。

(うっ……臭っ……)

 吐き気を催すような生臭い呼気。
 戻しそうになるのを必死に耐え、ひたすら気配を殺す。

(自分を捨てろ……無我の境地だ……オレはただの石だ!!)

 カッと目を見開き、蛇の目を見返す。
 同時に蛇の臭い吐息がこれでもかとばかりに顔に掛けられた。
 蜘蛛に追い回されてメンタルが限界だったオレにそれを耐えるだけの気力は当然残されていなかった。

「うぉぇええッ!! く、臭ッ……おええぇえッ!!」

 一体何を食ったらこんな臭い息を出せるのか。
 息自体が一つの凶器でしかない。
 幼少期、動物園でふざけ半分で嗅いだスカンクのオナラのサンプルの何十倍も臭いのだ。

「ハッ!!」

 石のつもりが、いつの間にかオレは蛙と化していた。
 蛇に睨まれたカエルの如く、オレは全身を強張らせる。
 蛇が鎌首をもたげており、明らかに先程の様子とは異なっていた。

(しまった……。あまりの激臭に擬態が解けたぞ……)

 そもそも、擬態出来ていたかどうか謎だが、少なくとも捕捉対象ではなかったはずだ。
 絶対絶命の大ピンチに顔から血の気が引いていくのが分かる。

(くそ、今度こそ死ぬのか……)

 蛇が襲ってくるのを前に、オレは反射的に目を堅く閉じた。
 こんな巨大な蛇に噛まれる、或いは締め付けられる激痛とはどれ程のものなのか、毒は持っているのだろうか、全身腫れて死ぬのは嫌だな、など矢継ぎ早に色々な思いが駆け巡る。

(……ん? おかしくないか、何でそんなことを考える余裕があるんだ?)

 目を開けるのは恐ろしい。
 だが、開けねば事態を見極める事は出来ないだろう。
 オレは目前に蛇の顔がないことを祈りつつ、薄っすらと目を開けた。

「あっ……!?」

 驚いたことに、そこには金に輝く鎖に雁字搦がんじがらめにされた蛇が苦しそうに見を捩る姿があった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...