異世界転生したけどそんな都合よく最強にはなれませんでした!?前途多難の駆け出し冒険者

蒼桜月薔薇

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第一章 死んでないが死にかけた

第13話 隠し事、即バレる

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 バベルテュラーに行くことになった。
 そこで持ち上がる大きな問題が一つ、サイラス先生にこの事を伝えるべきか伏せておくべきか。
 女性と魔力のない子供達だけでモンスターがうろつく滅法した街にに向かうなんて反対されるだろうし、正気ではないと思われるだろう。

 しかし行先を告げておかないと万が一何かが起きた時に、酷く迷惑を掛けることになる。
 診察室の入口でサイラス先生の診察をする様子をこっそりと見付からないように窺う。
 魔力喪失病という、世間からすると鼻摘み者の治療について研究を行っている人だとしても、サイラス先生は人々から人気があるようだ。

 患者さん一人一人の話をしっかり聞いた上彼らの不安やで疑問を取り除くように説明し、けして嫌な顔をしない。
 スタッフにも的確に指示を出し、終始穏やかな雰囲気で信頼度も高そうだ。

(これはモテるな……裏モテキングめ)
「何ですか、ウラモテキングって」

 サイラス先生がこっちを見て呆れたようにつぶやく。
 心の声に返答されビクッとするが、他のスタッフさん達も笑っているところを見るとどうやら心の声が漏れていたらしい。
 しかも妬みの声までバッチリだ。

 見付かってしまったならば仕方ない。
 潔く隠れることは諦めて、診察が一段落したらしいサイラス先生の所へと向かう。

「あっいやっ、何かモテそうだなって」
「別にモテませんよ。女性と付き合った事が無いとは言いませんが、この年でまだ独身ですから」

 この年で、というからにはオジサンなのか、待て、どう見ても20代にしか見えないのだが。
 あ、もしかして見た目を若く保つ薬なんかが存在しちゃってたりするとか。
 いや、さすがにそれはないか、だってSFじゃなくてファンタジーだし。

「ぶっちゃけ先生何歳なんですか?」
「お恥ずかしながら実は……」

 ゴクリ、と生唾を飲む。
 一体先生は何歳なのか、その二十代にしか見えない容姿の裏にどんな若作りが隠されているというんだ!!

「今年で36歳です」
「えっ、普通に若い……」
「若くありませんよ。周囲は23歳になるまでに結婚しましたけど、私は仕事と研究に没頭していたせいでこの有様です」

 まあ、気楽な独り身を謳歌しちゃってますけど、とサイラス先生は呑気に笑う、
 年齢の問題はクリアしてると思うよ、先生。
 たぶん、この人めちゃくちゃ鈍感なんだろう。

(だってさ、診察に来た人達、めちゃくちゃ好き!!ってオーラ出してたし!! 頬染めてテンション高め、何ならちょっとオシャレしてたし!! でもこの人、顔が赤いですね、ちょっと体温高いですね、皆さん風邪引き過ぎですよ、とか言ってたし!!)

 床に手を付き、膝を折り項垂れる。
 こういう人は医者の不養生ってヤツで自分の健康管理をしっかりやらない場合が多いから、しっかりと見ていてくれるような人が傍にいた方がいいのだ。
 今のところ、特に無理はしていないように見受けられるけども。

「ところで、私に何か隠してますね」

 ギクッ。

 突然の指摘に体が跳ねる。
 いやいやいや落ち着け、これはカマをかけられているに違いない。
 だってオレは気取られるような事は何もしていない。

「今、ギクッて言いましたね」
「はッ!?」

 しまった、再び脳内の言葉が声になってしまっていたようだ。
 サイラス先生はニコニコした笑顔のままこっちにやってくる。

「これはっ……ノリで言ってしまっただけで……」
「いや~、朝からレティと君から熱烈な視線を受けていたので何かあるとは踏んでいたんですよねえ」

 恋愛方面の熱烈な視線は気付かない癖に、何故こういったことには敏感なのだろう。
 こうなったら一回退避あるのみ、そう思ってターンして駆け出すと。

 ボフッと柔らかい感触に顔が埋もれる。
 恐る恐る顔をあげると、退路を塞いたスタッフのお姉さんの太ももにすっぽり顔から突っ込んでしまっていた。

「うわああああッ!! すみませんすみません!! けしてワザとじゃありません!!」

 ズシャァッと音がしそうな勢いでオレは土下座し、頭を何度も下げる。
 顔やら耳やらが熱くて火が出そうだ。
 身長が低いせいで妙なところに嵌ってしまった。
 これは爺さんになるまで永久に語られるクソガキあるあるのセクハラ行為だ。

「あらあら、私はまったく気にしてないわよ。むしろ、君みたいな可愛い子なら大歓迎」

 屈んだスタッフの女性が色っぽい表情と声で、ツンとオレの頬に触れる。
 申し訳無さでテンパっていた所を、相手からの強烈な誘惑を受けてバクバクバクと鼓動が上がり、オレはビターンと床に音を立てて伸びた。

 薄れる意識の中でサイラス先生とスタッフの女性の声が微かに聞こえる。

「ナイスです、と言いたい所なんですが、夢魔サキュバスの能力を子供にむやみに使うのはいかがかと……」
「あら、だってとりあえず保護しなきゃいけなかったでしょ?」

(夢魔だって……? そうだ……この世界は確か……ハーフ・ブリードが人間達に溶け込んで暮らしてるんだった……)

 というかオレは一体何回失神したら気が済むんだ。
 消える意識の底でオレは自分にツッコミを入れるのだった。

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