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第一章 死んでないが死にかけた
第15話 首に架ける未来
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「魔術師協会と私達研究者の間の協定に反するからです」
魔力喪失病の者はいついかなる時もこれを外してはならない。
これを装着した者のみ、我々の保護下にある者として扱う。
万が一魔力喪失病を抱える者である証の逆五芒星のチョーカーをを外した場合、当該人物はその権利を放棄したと見なし、その者またその者に憫察を掛ける者も協定違反と見なし、処罰対象とする。
「そんな……でも見捨てたら彼らの命は……誰かが秘密裏に助けたりはしないんですか!?」
このチョーカーを付けているだけで、非情な扱いを受ける。
それを付けさせる事自体差別的であるし、外したくなる気持ちはよく分かる。
そもそもそんな決まりが存在する事がおかしいというのに。
「そうなれば背信者狩りが始まるでしょうね」
背信者狩り、でもそれは誰か行ったのか分かっている事が前提だ。
つまり誰が助けたのか分からない状況で起こるのは──。
「魔力喪失病の人達や研究に携わる人達が無差別に狙われるって事ですか」
「その通りです。そしてそれは実際に過去に起きた事なんです。病に苦しむ多くの人の命が失われ、また嫌疑を掛けられた研究者達も処刑されました。結果、薬が行き渡らなくなり、それによってより多くの人が亡くなりました」
まるで自分の世界で言うところの、魔女狩りのような事が実際に行われたというのだ。
それも研究が始まった時期を考えると古い話ではない。
胃の底が裏返りそうな気持ち悪さと吐き気を催す。
何だ、この世界はまったく変わっていないじゃないか。
「だから私達は二度と同じ轍を踏みません。私達が救うのは、私達と共に困難に立ち向かい、共に生きてくれる人達のみと決めたんです」
そうか、サイラス先生達が救いの手を差し伸べてくれていてもこっちがその手を跳ね除け信頼関係を裏切るようなことをすれば、待っているのは共倒れだ。
どんなに辛かろうと、オレ達は先生達を信じてこの理不尽な世の中に立ち向かっていくしかないんだ。
「じゃあどうして先生はそんな大切なことをオレに教えてくれなかったんですか?」
「……そのチョーカーにはまだ君を認識する機能は組まれていません。私が君に本当のことを伝えなかったのは、君の自由を奪う事に恐れを感じたかです」
「そんな理由で……?」
「大人だって我慢しているだけで怖い事が無いわけでは無いんですよ。私はその首輪で君の首を絞めてしまうのが怖かったんです」
レティは何も言葉を発しない。
ただサイラス先生と同じように悲痛な表情で、固く握りしめた手を見つめていた。
過去に何かあったのだと想像に至るのは簡単だった。
そしてそれはレティの妹も関係しているのかもしれない。
「そんなの、どうだっていい」
虚を疲れたようにサイラス先生とレティがこっちを見る。
オレはオレの思いをそのまま先生にぶつけることにした。
「先生はオレ達を完治させるために手を尽くしてくれているんですよね。じゃあ、オレ達に出来る最も手近な事は先生を信じて付いていくことだ。首輪の一個や二個、へっちゃらだってんだよ」
「……本当に君は不思議な子だ」
先生は複雑な表情で笑うと立ち上がり、オレの前にやってきた。
ポケットを探る手に握られていたのは逆五芒星のチョーカーだった。
それが、本当に識別符が含まれたオレ専用のチョーカーなのだろう。
オレは席から立ち上がり、付けやすいように首を上に向ける。
「後悔はしませんか?」
「しない……事はないけど……でもこれ付けなかったらオレはもっと後悔すると思うから」
「そう、ですね……私もです」
それまで付けていたチョーカーが外され、一瞬首が楽になる。
そして先生が新たなそれをオレの首へ付けた時、オレはまるで首を押さえられているような錯覚を覚えた。
(何だこれ……上手く息が吸えない)
あのチョーカーとは明らかに違う異質な何かが込められているようだった。
オレは僅かな確信と共に先生に質問を投げ掛ける。
「サイラス先生。これってどこの誰が作ってるんですか」
「魔術師協会の方々が製作し、各国の支部に配布しています」
「そっか……」
最悪な付け心地だ、蛇が巻き付いてるかのように重たく苦しい。
何も施されてないチョーカーを付けた後だったせいか、その差は歴然だった。
こんなものを四六時中付けていなければならないなんて、気が滅入りそうだ。
「付け心地聞かないの?」
「聞いたほうがいいですか?」
「そっちとすり替えたいくらい最悪」
オレが舌を出して戯けて見せると先生は手持ちのチョーカーを見て困った顔をする。
これはジョークだってのに伝わってないな。
「早く外せるように、先生のこと応援してます。例えオレが爺ちゃんになって孫、ひ孫の代になってもずっと」
「ありがとうございます、あなた達の期待に答えられるように頑張りますね」
ようやく先生は柔らかな表情で頷いた。
心なし、涙ぐんでいるような気がしなくもない。
しんみりするのはここまでにしよう、だってオレ達には絶対に達成したい目標が出来たのだから。
明日から、オレとレティはバベルデュラーに向かう、或いはその準備を早急に進めなければいけない。
魔力喪失病の者はいついかなる時もこれを外してはならない。
これを装着した者のみ、我々の保護下にある者として扱う。
万が一魔力喪失病を抱える者である証の逆五芒星のチョーカーをを外した場合、当該人物はその権利を放棄したと見なし、その者またその者に憫察を掛ける者も協定違反と見なし、処罰対象とする。
「そんな……でも見捨てたら彼らの命は……誰かが秘密裏に助けたりはしないんですか!?」
このチョーカーを付けているだけで、非情な扱いを受ける。
それを付けさせる事自体差別的であるし、外したくなる気持ちはよく分かる。
そもそもそんな決まりが存在する事がおかしいというのに。
「そうなれば背信者狩りが始まるでしょうね」
背信者狩り、でもそれは誰か行ったのか分かっている事が前提だ。
つまり誰が助けたのか分からない状況で起こるのは──。
「魔力喪失病の人達や研究に携わる人達が無差別に狙われるって事ですか」
「その通りです。そしてそれは実際に過去に起きた事なんです。病に苦しむ多くの人の命が失われ、また嫌疑を掛けられた研究者達も処刑されました。結果、薬が行き渡らなくなり、それによってより多くの人が亡くなりました」
まるで自分の世界で言うところの、魔女狩りのような事が実際に行われたというのだ。
それも研究が始まった時期を考えると古い話ではない。
胃の底が裏返りそうな気持ち悪さと吐き気を催す。
何だ、この世界はまったく変わっていないじゃないか。
「だから私達は二度と同じ轍を踏みません。私達が救うのは、私達と共に困難に立ち向かい、共に生きてくれる人達のみと決めたんです」
そうか、サイラス先生達が救いの手を差し伸べてくれていてもこっちがその手を跳ね除け信頼関係を裏切るようなことをすれば、待っているのは共倒れだ。
どんなに辛かろうと、オレ達は先生達を信じてこの理不尽な世の中に立ち向かっていくしかないんだ。
「じゃあどうして先生はそんな大切なことをオレに教えてくれなかったんですか?」
「……そのチョーカーにはまだ君を認識する機能は組まれていません。私が君に本当のことを伝えなかったのは、君の自由を奪う事に恐れを感じたかです」
「そんな理由で……?」
「大人だって我慢しているだけで怖い事が無いわけでは無いんですよ。私はその首輪で君の首を絞めてしまうのが怖かったんです」
レティは何も言葉を発しない。
ただサイラス先生と同じように悲痛な表情で、固く握りしめた手を見つめていた。
過去に何かあったのだと想像に至るのは簡単だった。
そしてそれはレティの妹も関係しているのかもしれない。
「そんなの、どうだっていい」
虚を疲れたようにサイラス先生とレティがこっちを見る。
オレはオレの思いをそのまま先生にぶつけることにした。
「先生はオレ達を完治させるために手を尽くしてくれているんですよね。じゃあ、オレ達に出来る最も手近な事は先生を信じて付いていくことだ。首輪の一個や二個、へっちゃらだってんだよ」
「……本当に君は不思議な子だ」
先生は複雑な表情で笑うと立ち上がり、オレの前にやってきた。
ポケットを探る手に握られていたのは逆五芒星のチョーカーだった。
それが、本当に識別符が含まれたオレ専用のチョーカーなのだろう。
オレは席から立ち上がり、付けやすいように首を上に向ける。
「後悔はしませんか?」
「しない……事はないけど……でもこれ付けなかったらオレはもっと後悔すると思うから」
「そう、ですね……私もです」
それまで付けていたチョーカーが外され、一瞬首が楽になる。
そして先生が新たなそれをオレの首へ付けた時、オレはまるで首を押さえられているような錯覚を覚えた。
(何だこれ……上手く息が吸えない)
あのチョーカーとは明らかに違う異質な何かが込められているようだった。
オレは僅かな確信と共に先生に質問を投げ掛ける。
「サイラス先生。これってどこの誰が作ってるんですか」
「魔術師協会の方々が製作し、各国の支部に配布しています」
「そっか……」
最悪な付け心地だ、蛇が巻き付いてるかのように重たく苦しい。
何も施されてないチョーカーを付けた後だったせいか、その差は歴然だった。
こんなものを四六時中付けていなければならないなんて、気が滅入りそうだ。
「付け心地聞かないの?」
「聞いたほうがいいですか?」
「そっちとすり替えたいくらい最悪」
オレが舌を出して戯けて見せると先生は手持ちのチョーカーを見て困った顔をする。
これはジョークだってのに伝わってないな。
「早く外せるように、先生のこと応援してます。例えオレが爺ちゃんになって孫、ひ孫の代になってもずっと」
「ありがとうございます、あなた達の期待に答えられるように頑張りますね」
ようやく先生は柔らかな表情で頷いた。
心なし、涙ぐんでいるような気がしなくもない。
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