異世界転生したけどそんな都合よく最強にはなれませんでした!?前途多難の駆け出し冒険者

蒼桜月薔薇

文字の大きさ
17 / 21
第一章 死んでないが死にかけた

第16話 試練への準備を始めよう

しおりを挟む
 バベルテュラーは恐らく一日での往復は難しい。
 最低二日を要する、ということは明日には明後日には出れるように支度を進めなければいけない。

「バベルデュラーに行く、私の診療所で働いている治癒師を一人付れていくといいでしょう。その子に君が必要な薬も預けておきます」
「ありがとうございます」
「それから冒険者ギルドに寄って、道中に片付けられそうな任務を幾つか引き受けていくと良いでしょう。そうすれば後で報酬が貰えますし」

 そうか、元の世界の感覚が抜けないせいで頭に無かったけど、確かにそうすれば一石二鳥だ。

「もう一つ。あそこは人が寄り付かなくなって、どうなっているか分かりません。もしかすると魔法を無効化するようなモンスターもいるかもしれないので、念のため冒険者に同行してもらえば安心かもしれません」
「そうですね。夕方になってそろそろ戻ってる人が増えてるかもだし、ちょっと行ってきます」

 今から冒険者ギルドに行くのか。
 さっきみたいにレティに嫌な思いをさせてしまうだろうから、オレはここに残っていた方がいいだろう。
 何をしておくべきか考えていると、レティがオレの手を引いて歩き始めた。

(えっ、オレを連れて行くの、マジで?)

 それは大丈夫なんだろうか。
 あんな冒険者の憩いの場(酒場と繋がってる)とこに、オレみたいな厄介なのを連れて行ったら交渉決裂したりするんじゃなかろうか。

「もう暗くなり始めてるからほとんどの人は家に戻ってるよ。それにギルドで一緒に行ってくれる人を探して、君を紹介しなきゃでしょ?」
「あー……その、オレ、また声に出てました?」
「ううん。でも困った顔してるからそうかなって」

 その通りだよ、レティの足手まといになりなくないんだ。
 でもそんな思いは、最初からレティにはなかった。
 彼女はそんなことを考える人じゃないからだ。

「お願いします」

 オレはレティの意志を汲み取ってうなずく。
 前作とは違う形で踏み入れる冒険者ギルド。
 愉快で豪快で腕っぷしの強い戦士や、魔法使い、錬金術師、色んな職業の冒険者に会える場所は、今のオレを受け入れてくれるのだろうか。

 不安や興奮で心臓はバクバクだ。
 サイラス先生に見送られながら、オレ達は診療所を後にした。



「うわあ……」

 外に出たオレが感嘆の声を漏らしたのも無理はないだろう。
 オレンジからバイオレットへと変わる空のグラデーションの美しさ。
 幻想的でいつまでも眺めていたくなる。
 確かこういうのはマジックアワーと呼ばれる現象だ。

「綺麗だね。いつもは夕飯の手伝いをしてるから見れないんだけど、君がいるおかげでこんな素敵な空を見ることができたよ」

 レティはお世辞とかではなく、本心から語ってくれているのだろうけども、さっきからオレの心の琴線に刺さりまくりだ。
 本当に泣くぞ、いいのか。

「オレも、こんな素敵な空をレティさんと見れて良かったです。一生の思い出にします」

 この世界で初めて誰かと見た夕暮れはとんでもなく綺麗で、そして特別な思い出となった。

「えー、何だか照れちゃうな」

 えへへ、とレティが頬を染めて笑う。
 綺麗なブロンドの髪が風に揺れて、淡い光に染まっている。
 その景色も微笑むレティも現実のものと思えないくらい美しかった。

 (もったいない……!!)

 本来ならすかさずスクリーンショットを撮っているところだ。
 ゲームでは色んな場所や人のスクリーンショットを撮るの醍醐味の一つだ。
 せめてデジカメとかスマホがあれば写真を撮らせてもらったのに。
 この美しい光景がこの一時しか見れないなんて実に残念で仕方なかった。

 歩いているうちにも日はどんどん沈み、少し離れた冒険者ギルドに辿り着く頃には完全に夜になっていた。
 ギルドはとても大きく、コテージのような外観だった。
 扉を開けると賑わいが外にまで漏れ出してくる。

 部屋は二つに仕切られており、サルーンドアの向こうからは笑い声と食事、酒の匂いが漂ってくる。
 どうやら向こうには酒場が用意されているようだ。
 レティが冒険者ギルドの受付に向かうと、受付にいた男女がはつらつとした表情で出迎える。

「こんばんは、レティさん!」
「こんな夜遅くに来るなんて珍しいじゃないか、どうかしたのか?」

 女性の方は20代くらいで、栗色の髪をポニーテールに結っており、褐色の肌とトパーズのような黄金色の瞳が特徴的で、耳は尖っている。
 身体にフィットするノースリーブのワンピースを着用していて、エキゾチックな雰囲気をまとっている。
 どうやら女性の方はダークエルフのようだ。

 そしてもう一人の男性はモサモサの某野獣のような髪型と頭に犬のような耳が生えていて、体格も良くて背も大きい。
 けれどけして威圧感はなく、柔和な笑顔を浮かべていて親しみやすそうな雰囲気だ。
 民族的な衣装と幾つもの木彫りの腕輪を嵌めている。
 こちらはおそらく人狼ワーウルフではなかろうか。

「あの、明日ちょっとバベルデュラーに行こうと思っててその道行で消化できそうな依頼を受けたいんです。あと念のため、物理攻撃が得意な剣士の方に同行してほしいかなって」
「分かりました。ちょっと確認しますね」

 受付の女性が手をかざすと、どこからともなく依頼が書かれていると思われる紙が現れ、渦を描くように宙を舞う。
 ゲームで見た光景に感動し、オレは口を開けたままその光景を見上げた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

処理中です...