僕らの恋愛経過記録

藤宮りつか

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Season 2

    初体験の後遺症(5)

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「つまり、イくことは覚えたけど、気持ちいい感覚がよくわからないから、悠那が気持ちいいのはどういうことか教えてあげようと……そういうこと?」
「そういうことです。すみません……」
 悠那さんが白状してしまったので、僕も隠す必要がなくなってしまった。なるべく正確に事態を説明すると、司さんはホッと安心したような顔をして、海はなんとも言えない顔をした。
 海にとってはショックが大きいのかもしれない。射精を覚えてすぐの僕が、自分以外の人間にイかされてしまったという事実は。
「どうせそんなことだろうとは思ってたけど。どうも悠那には過保護なところがあるみたいだね。律と海のことになると、ちょっと無茶なことをする傾向にあるみたい」
「そうみたいです」
「前にも似たようなことがあったし。悠那にはちゃんと言い聞かせとくね」
 触りっこはしてしまったけれど、お互い一切の恋愛感情があったわけではないとわかってもらえてホッとする反面、だからってこういうことは良くないと、改めて知った僕だった。
「それで、気持ちいい感覚はわかったの?」
 そこまでしたなら、ちゃんと学習したんだろうな? と言いたげな司さんに
「はい。身をもって知りました」
 僕は素直に答えておいた。
 そして
「ごめん、海。僕、海にシてもらったのが気持ち良くなかったわけじゃないんだ。でも、そういう感覚がほんとにわからなくて……」
 一番申し訳なく思っている海に謝った。
 海は一つだけ小さな溜息を吐くと
「今回だけは許すよ。でも、もう二度としないでね」
 そう言って、僕をギュッと抱き締めてくれた。
 言われなくても二度としない。やっぱり僕、同じサれるなら海がいい。
 悠那さんにサれたのが嫌だったわけじゃないけど、海以外の人にサれることによって、海の方がいいって感情が芽生えた気がする。これまで、海以外の相手なんか考えたことがないから、人と比べるようなこともなかった。
「ほんと、悠那君は危険だね。悠那君なら安全だと思ったのに」
「悠那さんに悪気がないのはわかってるんだけど……。この人、エッチなことになるととことん積極的だし協力的だから」
 短時間の間に二回もイってしまって疲れたのか、悠那さんは司さんの膝を枕に眠っているようだった。
 もしかしたら、気を失っているのかもしれない。悠那さんって体力ないから。
 どうでもいいけど、悠那さんが床にぶち撒けた精液は誰が掃除するんだ?
「全く。悠那のエッチなところもちょっと困りものだね。俺もまさか悠那が律にそんなことを教えようとするとは思ってなかったよ。あとでお仕置きしとかなきゃ」
 悠那さんの髪を愛しそうに撫でながら、言ってることは大概に恐ろしかった。
 さっき僕達の前でイかせたのがお仕置きだったんじゃないのか? まだお仕置きするつもりなのか? 目が覚めたら、悠那さんはまた司さんにイかされちゃうんだろうか。さすがに体力がもたないだろう。今でさえぐったりしてるのに。
「ん……」
 司さんの手に撫でられる感触で目が覚めたのか、悠那さんはうっすらと目を開くと、ハッとなって身体を起こした。すぐさま司さんの姿を確認すると
「司っ! ごめんねっ!」
 まだちゃんと謝っていなかったのが気になったのか、司さんにぎゅぅっと抱き付いた。
 司さんはそんな悠那さんを抱き返し
「もう怒ってないよ。でも、ちょっとやり過ぎ」
 と答えている。
 その表情や声はめちゃくちゃ優しくて、司さんはどれだけ悠那さんが好きなんだろうって呆気に取られそうになった。
「海もごめんね。俺、ちょっとやり過ぎだったね」
 今度は海にも謝って、悠那さんに謝られた海は
「ほんとにやり過ぎです。次やったら許しませんよ」
 司さんと同様、快く……ではない。渋々悠那さんを許してあげることにしたようだ。
 悠那さんの性格は海も知っているから、怒るに怒れないところがあるのだろう。それに、悠那さんのそういうところのおかげで、僕と海の関係が進展したところもあるし。
「悠那が可愛くイくところを俺以外の人間に見せないでよ。俺が嫉妬でどうにかなっちゃうでしょ?」
 悠那さんのふっくらした唇を、指先でツンツンつつきながら拗ねる司さん。
 いやいやいや。あなたさっき、僕や海の見ている前で悠那さんイかせたじゃないですか。自分の手で悠那さんがイくところを見せびらかしましたよね?
「ごめんなさい……。あれ? でも俺、さっき司にイかされちゃったけど?」
 そこはさすがの悠那さんも突っ込んだ。それはいいの? って顔をして、可愛らしく首を傾げていたりする。
「俺にイかされるのはいいの。俺に気持ち良くさせられてる悠那なら見せびらかしたい」
 僕達の前でイったことを怒られるのかと思ったのか、ちょっとだけ心配そうな顔をする悠那さんの唇にチュッとキスする司さんはご満悦そうである。
 やっぱり見せびらかしたんだ。『どうだ。俺の恋人はエロくて可愛いだろ』ってやりたいんだ。悠那さんも危険だけど、司さんも負けず劣らずの危険人物だな。
「俺は見せびらかされたくないよ。恥ずかしいもん。司にだけ見られたいの」
 対する悠那さんの発言だけど、“恥ずかしい”とか言いながら、司さんには“見られたい”と思っているあたりはどうなんだ。それ、ほんとに恥ずかしいと思ってるの? もう意味がわからない。この二人。
 でも、もう少し揉めるかと思っていた僕と悠那さんのしでかした行為を、わりとあっさり二人が許してくれたのは助かった。共同生活を送っている僕達だから、こんなことで気まずくなりたくはなかったし。
 僕も充分反省しているし、ちゃんと罪悪感も感じているから、こんなことで二人に心配をかけることも二度とないだろう。
「ここで海に提案なんだけど」
 事態は一件落着したかのように思えたその時。徐に口を開く司さんに、僕は妙に嫌な予感がした。
「いくら律相手だったとはいえ、悠那が律にイかされたのはやっぱりちょっと面白くないんだよね。今回のことはもう怒ってないんだけど、なんかちょっともやもやするっていうか。いっそのこと、もっとオープンでいくのはどう?」
 …………は?
「海も悠那に律がイかされたのは内心面白くないでしょ?」
「それはまあ、そうですけど……」
 待て待て。これは物凄く嫌な流れだぞ? 何をどうオープンにいくつもりだ。
「ここは一つ、悠那のお仕置きと律の学習の成果を確認するため、俺と海で悠那と律を気持ち良くしてあげようよ」
 なんかとんでもないこと言い出したっ! なんでそうなる⁈ 事態は一件落着したんじゃないのか⁈
「自分が誰のものなのか、二人にわからせるいい機会でもあるんじゃない?」
「確かに、それは一理ありますね」
「海っ⁈」
 嘘……嘘だよね? そこで乗っちゃうの? 嘘だと言って? もしかしてこれ、悠那さんとエッチなことした僕に対する仕返しも含まれてるの?
 ちょっと落ち着こう。一旦、頭の中を整理しよう。つまり、これってどういうこと? 今から僕と悠那さん、それぞれ自分の恋人から気持ち良くさせられてるところを見せ合うってことなの?
 ダメダメダメっ! そんなの絶対ダメだよっ! 無理っ!
「え⁈ 司⁈」
 司さんがとんでもないことを言い出したのに、悠那さんの頭はまだついていけてないようだった。自分の身体をソファーの上に押し倒してくる司さんに、悠那さんは焦った顔をして戸惑っている。
 でも
「ぁんんっ! やぅ……ダメっ……んんっ」
 ただでさえ露出が多いうえ、脱がしやすそうな服を着ている悠那さんは、あっという間に司さんの手に服を奪われてしまい、司さんからのキスにすぐに反応し始めている。
 待って待って。さすがに刺激が強すぎる。普段、悠那さんがどうやって司さんから可愛がられてるのかが全部丸見えだよ。
「ダメ……俺、さっきもイったの……もう無理だからぁ……」
「ダメじゃないでしょ? 俺とキスするだけで、もうこんな蕩けた顔してるのに」
「だって……何度も言ってるじゃん。俺、司にサれること、全部気持ちいいし感じちゃうって」
「悠那は俺じゃなくても気持ち良くなっちゃうし、感じちゃうみたいだけど?」
「意地悪言わないで。俺は司にシてもらうのが一番好き」
 司さんにキスされてスイッチが入ってしまったらしい悠那さんは、今度は自分から司さんにキスするようになる。
 そうなると、司さんも悠那さんからのキスに応えながら、悠那さんの身体を存分に愛撫し始めるのだった。
 ここはAVの撮影現場か?
「ちょっ……やっ……!」
 ほんとにおっぱじめてしまった二人に、僕は恐怖を感じながらも、怖いもの見たさなのか目が離せない。早く視線を逸らさなくては、と焦った矢先、いきなり海に覆い被さられてびっくりしてしまう。
「ちょっと、海まで……ダメだよっ!」
 司さんと悠那さんのいるソファーの右隣りにあるソファー――我が家のリビングには、テーブルを囲むように三つのソファーがある――に押し倒された僕は、僕の背中に手を回しながら、シャツの中に手を差し込んでくる海に困惑した。
「無理。司さんと悠那君に煽られて、僕も我慢できない」
「そ……そんな……」
「律は悠那君とエッチなことしたでしょ? 僕ともシよ?」
 いつも優しい瞳で僕を見詰めてくれる海だけど、今回はちょっと違う。少し怒っているようにも見える海の真剣な眼差しで見詰められた僕は、身動きするのを忘れてしまいそうだった。
「んんっ……」
 僕が抵抗を忘れていると、海から唇を塞がれて、僕はギュッと目を瞑った。
(ダメ……ダメなのに……)
 司さんと悠那さんがすぐそばにいるのに。海といやらしいことをするなんて絶対にダメだ。そう思ってるのに
「んんっ!」
 海の手が僕の胸の小さな膨らみを指で摘まんできた瞬間、頭の中が一気に真っ白になってしまった。
 前に触られた時と全然違う。全然違うように感じてしまう。
「んんっ……ぁ、ん……」
 キュッ、キュッ、って何度も摘まみ上げられると、そこだけジンジンしてくるし、その刺激が直接下半身に伝わっていく感じがした。
「気持ちいい?」
 熱っぽい海の声に聞かれた僕は
「気持ち……いい……」
 無意識のうちにそう答えていた。
 自分の言った言葉を数秒遅れで認識した僕は、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなる。
「ふぁっ! んんっ……!」
 いつの間にか胸の上まで捲り上げられていたシャツに、僕の胸は海の前に晒され、晒された胸に海がキスしてくると、背中がしなるくらいに仰け反った。
「凄く可愛い」
 海は満足そうに囁くと、僕の胸を唇で愛撫しながら、僕のズボンを下着ごと一緒に脱がせてしまった。
 悠那さんとほとんど変わらない格好にされてしまった僕は、恥ずかしくてどうしようもないはずなのに、アレはしっかり反応してしまっていた。
「律も二人に触発された? 悠那君にイかされたのに、また元気になってるよ?」
「嫌だ……見るなぁ……」
 自分の性欲はそこまで強くないと思っていたし、なんなら無いに等しいとまで思っていた。いくら射精を覚えたからって、一日何回も勃ったりしないと思っていたのに。
 そんなことはなかった。ちょっと前にイったばかりのはずの僕は、また元気に勃ち上がり、海からの愛撫にピクピク震えている。
 やっぱりこれ、射精を覚えた後遺症に違いない。射精を知った僕の身体は、同時に性欲も強くなってしまったのだろうか。
「ダメ。律もお仕置きだよ? 律が誰のものなのか、ちゃんと二人に見てもらおうね」
 そう言う海の顔はどこか嬉しそうで、海も司さんと一緒で、海で気持ち良くなってる僕を見せびらかしたいのか? と思うと、少し震えた。



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