美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

文字の大きさ
7 / 131
肉のパン包みフリッターガーリック風味

肉のパン包みフリッターガーリック風味6

しおりを挟む
 牛から荷物を下ろすと、ウィンは残りの木と藁を取ってくると言って出ていった。

 アリシャはベッドの組み立てをするのに邪魔にならないように、一階の土間に石灰を撒いていた。白い粉を粗方撒いて、その後葦でまた掃いて満遍なく粉を行き渡らせる。これも虫除けなる。縦横無尽に歩き回るアリや忌々しいダニを寄せ付けなくなるのだ。

 そんなことをしていると外にまたウィンが現れて、干しておいてくれた藁をたんまり置いていった。

「ベッド敷きには多すぎるけど三階の板のところに厚く敷けば茅葺き屋根みたいになるだろ? 去年は麦が豊作だったから藁が余ってるんだ。春先は寒い日もあるから」

 多めに運んで来た理由を語りながらさっさと荷物を下ろすと、また森に木を取りに行ってしまう。忙しなくてなんだか申し訳なく思うアリシャだった。

 レオとドクが、互いに噛み合うように削ってきた板の枠を叩いて組み立てて、そこに板を渡している間に、出来るだけ藁を三階に運んでおいた。ベッド用の藁が足らなかったら三階から下ろせばいい。

「よし、ベッドは出来た。藁を入れて大丈夫。さ、レオ様と俺は、壁作りだ」

 牛から板を下ろすのを渋っていた人とは思えないほど、ドクは楽しそうだった。大工仕事が好きらしい。ただ、ここはいいから家畜の世話や宿屋を見てくれと言われて早々に追い払われてしまったが。

「じゃああっちに戻ります」

 不貞腐れているようにも見え、力づけたかったがアリシャには何も浮かばず塔を去ろうとしているドクにせめて礼だけは言おうと声を張った。

「ドクさん、ありがとうございました!」

 ドクは背中を向けたまま片手で応えて行ってしまった。ちょっとだけ足取りが楽しそうになったのをアリシャは見逃さなかった。言って良かったとアリシャの気持ちも僅かに踊る。

「えっと藁を運んでいて壁作りの邪魔になりませんか?」

 気を取り直し質問してみるとレオの返事はこうだった。

「壁は間に合わなくても今夜は眠れるが、ベッドはそうもいかぬからな。気にせずベッドを優先してくれ」

 壁は階段の真横に作るので、階段を上り下りしていたら邪魔をならないか心配だった。だが、確かにそれはその通りだ。もう誰かのベッドを占領するのは嫌だし、出来れば今夜はふかふかの寝床でぐっすり眠りたかった。
  
「それでは、運んでしまいます」

 その後はレオの邪魔にならないように気をつけながら黙々と藁を運んでいった。途中、思い出したレオがアリシャを呼び止め、下げていたカバンからミントの束を手渡した。

「残りはレゼナに渡してやってくれ」

「ありがとうございます! レオさん、さっき川むこうに村が見えたのです、レゼナさんはそちらに行ったのですか?」

「ああ、村は小さいが一応大方手に入れられるからな。疫病が流行る以前に、この村が大きくなり過ぎたため、押し出されるようにここから移住した者が作ったのがあの村らしい。だからあちらの方が家の作りは簡素だし、小さいのだ」

 確かに遠目だったが屋根は茅葺きだったし、壁も石には見えなかった。

「人が多いと疫病が流行った時に広まるのも早いからな。さあ、やってしまいなさい」

 頷いたアリシャはミントを束にしている藁を解いて、パラパラとベッドに撒いた。ダニに悩まされず眠れると自然と笑みが溢れる。

「アリシャ! 調達してきたわよー。あらぁ、かなり進んだわね」

 戸口で見上げて声を張るのは、カバンから布を溢れさせ、それでも入り切らない分を抱えたレゼナだった。

「わ、凄い量ですね」

 階段を駆け下りると、アリシャはレゼナの腕に抱えられていた布を受け取った。

「それがたまたま掛け布団用の布をリリーが──ってわからないわね。日用品を扱っている店のおかみさんなの。リリーが納品用だけど急ぎではないから私に売ってくれたのよ」

 そこでレゼナの背負っているカゴから「クーン」と声が聞こえて、アリシャは目を丸くした。レゼナは顔を覆って笑顔のまま悔しがる。

「やだぁ、せっかく最後までとっておくお楽しみだったのに」

 カゴを担ぐ紐を肩からスルリと抜くと、二人の間にカゴを下ろした。そこには真っ黒な子犬がいて、不安そうに二人を見上げていた。

「……可愛い!」
「犬は好き?」

 レゼナは慣れた手付きで犬を抱き上げると、前触れもなくアリシャに渡した。アリシャは持っていた布地を左腕に掛けて、犬を取り落とさずになんとか受け取った。温かい小さな生き物はアリシャの手の中で一緒もがいて、直ぐに大人しくなった。子犬特有の柔らかい毛は極上の触り心地だった。

「好きです! ああ、ほんとに可愛い子」

「そう、良かった。いくら鍵がつくとは言っても物騒だし、犬を飼ったらいいと思ったのよ。この子が鳴けば私が真っ先に駆けつけるわ」

 まだまん丸の小さな犬が鳴いたところでレゼナの家には届くとは思えながったが、アリシャは迷いなく犬を飼うことに決めた。飼わないなんて選択肢は子犬を見た瞬間からあり得なかった。

「ありがとうございます……本当に本当に」

「貰ったものを渡しただけよ。リリーのところで犬がなんと七匹も産まれたのよ。七匹よ、七匹。出来れば誰かに飼ってほしいっていうものだからね。その辺をウロウロさせておくと狼にやられちゃうから」

 そこで二階から下りてきたレオがアリシャの腕から布地を引き抜いて持ってくれた。

「犬か。やっとミルクからご飯を食べ始めた頃合いだな。柔らかく煮た肉を用意するといい」

 レオは黒い犬に指を出して、匂いを嗅がせてから「しかし随分荷物が多い」と、二人が手分けして持っている布地にやや呆れ顔だった。

「あら、これは幸運だったんですよ。ちょっと離れた村で結婚する人がいるらしくて、注文を受けていたんですって。だから、冬に作った物を売らずに保管していて、下着もシーツも難なく手に入れら──」

「わかった、わかった。とにかく動こうじゃないか。夕飯の準備まで手が回らなくなる」

 二階に揃って上がり、犬を下ろしたアリシャに布地を返したレオは再び壁作りに戻っていった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。 王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。 戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。 彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。 奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、 彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。 「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」 騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。 これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144 https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

処理中です...