美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾

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若葉色パンケーキ 苺ジャムとバター添え

若葉色パンケーキ 苺ジャムとバター添え

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 毎夜毎夜、困ったことになっていた。

 眠り際、アリシャのベッドによじ登ろうと奮闘するココ。そのいじらしさと懸命さに、アリシャは負けてしまうのだ。

「もう、今夜だけだって昨日も話したのに」

 下着姿のアリシャは布団から出てココを抱き上げると、そのまま布団に潜り込む。せっかく温まってきたのに、また一からやり直しだ。

(でも、ココだって寂しいのよね。お母さんと離されたんだもの)

 やっと思い通りになったココはアリシャの腕の中で丸くなった。温もりを求めているのはココだけではないことを実感しつつ、アリシャは毎晩目を閉じるのだった。

 そんなことを摘み食いに来たエドに話したら最後、呆れられてしまった。

「おいおい、甘やかしすぎだろ。ココはもうベッドに寝るもんだと思っているだろうから毎晩上がるぞ?」

「だって……寂しそうにクンクン鳴くし、よじ登ろうと必死なのよ?」

「そこは心を鬼にして耐えなきゃダメなのに。ま、シーツを洗う頻度が上がって、シーツが駄目になるのが早くなるだけだ。オマケに犬は主人が自分だと思うかもな」

 初日に作った菓子フロランタンが好評だったので二日に一度大量に作って壺に入れている。それをエドは取りに来て、そのままアリシャの作ったおかずを摘み食いするのが常習になっていた。時にはまだ作りかけのも食べてしまうのだ。

 今も大鍋で大量のえんどう豆を煮ていたらスプーンで掬って「味付けてないのかよ」と文句をつけながら食べていた。

「どうして主人より上だと思うの?」

「こいつは俺の言うことを聞くんだなってなるだろ」

「『俺』じゃなくて『私』。ココは女のコ」

 何度も名を呼んだからなのか、ココが料理部屋に顔を出した。大抵は宿屋の前で日向ぼっこをしているのだが、時々アリシャがちゃんと居るか見に来たりするのだ。

「どっちでもいいよ。それより、豆に味つけろよな。このまま出したら母さんと変わんねぇから」

 クツクツと煮立つ湯の中でえんどう豆を掻き混ぜ、茹だるのを待っていた。若葉色の豆が湯の中を回転している。

「ちゃんと計画してやっているんだから心配ご無用よ。早く大工仕事に戻って」

 ここ数日間は宿屋の観音開きの扉を作っている。冬の大嵐なんかはここでやり過ごそうと話し合ったので、扉は頑丈に作るらしい。

「そういやさ、俺の狩り仲間が大工仕事をやりに来るから。食事を一人分多めに作ってくれ」

 豆の試食に飽きたらしく、茶色の壺の蓋を上げると手を突っ込んで、菓子を数個手に取った。

「それは皆知っているの?」

「ああ、話した。少し離れた村に住んでるんだけど、そろそろ猪狩りに行こうって誘いにきたんだ。でも俺、コレだろ?」

 言いながら、木を切りトンカチを振るうジェスチャーをしてみせる。

「そしたら、自分もやりたいってさ。レオさんに話したら賃金は一日二十銅貨しか出せないってさ」

「二十銅貨? 

「違うだろ。

 アリシャからしたら十分過ぎると思うのだが、エドは不満らしい。

 確かに大工仕事はきつい仕事だから高いのかもしれない。

「だってさ、そこから食事代を五銅貨引くって言ってんだぜ。で、この何もない宿屋の床に泊まるならさらに五銅貨。残るのは十銅貨!」

「妥当だろ」

 二人の背後から声がし、一斉に振り返る。トンカチを持ったドクが料理部屋の入口に立っていた。

「パンは一つ一銅貨。パンを二枚におかずがついてりゃ五銅貨は安い。しかもアリシャの作ったのはそんじょそこらのもんとは比べ物にならないからな。とはいえ、宿屋が貧弱だから合わせて十銅貨にしたんだろ」

 金額よりも気になることがアリシャにはあった。

「あの……その賃金は誰が持つのでしょう?」

「レオ様が払ってくださる、問題ない。そのうち宿屋が軌道にのったら儲けの一部をお渡しするのがいいと思う。いずれは宿屋の設けはアリシャのもの、畑の儲けはうちのもの、しっかり分けていく予定だから」

 言い終えると、ほら! と、サボってばかりのエドについて来いと顎でしゃくって出ていった。エドも渋々ドクの後を追っていった。

 アリシャもようやく程よい柔らかさまで煮えたえんどう豆を火から下ろして大きな器に移し替えた。

(ここに寝泊まりするなら藁くらい運んできたほうがいいのかしら? 荷車を借りたら私にも出来るわね)

 えんどう豆を、石で出来たすりつぶす用の器具でゴリゴリと潰していく。煮たえんどう豆はスープや炒め物にしか基本的には使わない。それでは芸がないと考えたアリシャは潰してみることにしたのだ。

 端から潰していって潰れた分だけ取り分けて、指で掬って味見をしてみた。そのまま食べるより仄かに甘さがあるように感じる。

(甘いならもっと甘くしてみよう。そうだわ。パン生地に混ぜてみよう。んーでも、食事には甘くないパンもあったほうがいいわよね)

 まだ、潰してないえんどう豆はそのままパンに混ぜ込んでみることを閃いた。こちらは塩気を利かせる為に、焼いてから塩を振ることにした。

 潰したえんどう豆の方に金色の蜂蜜をたらし、混ぜてから味をみる。ちょっとずつ垂らしては味の確認をし、納得いくまで蜂蜜を入れていった。そこに小麦粉と卵、牛乳とほんのちょっとのサワードウを入れて練り、布巾を掛けておく。

(今朝、レオさんが話していた苺の場所に行ってこよう)

 前は焼いておいたパンを各自、自宅で朝ごはんとして食べていたようだが、今は朝もここの部屋で全員揃って食べている。夕飯の残りがあれは炉にかけて温めて食べらるし、何より互いのスケジュールを把握出来て便利なのだ。

 今朝はレオが森に自生している苺の場所を教えてくれ、食べ頃のが沢山あることも話して聞かせてくれたのだ。

「ココ、森に行こう。レオさんの家の近くで危険はないらしいし、あなたの耳が必要なのよ。何か危険を感じたら教えてくれるでしょ?」


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