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若葉色パンケーキ 苺ジャムとバター添え
若葉色パンケーキ 苺ジャムとバター添え2
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森には魔物が棲んでいると言われている。小さい頃からそう聞かされてきたし、鬱蒼とした雰囲気は確かに何かが潜んでいそうだった。
真っ黒な眼でアリシャを見つめるココ。まん丸の目も垂れ下がった耳もまだ子犬そのものだ。
「でもね、あなたの耳は私のよりずっと良いし、鼻だってずっと利くじゃない? だから、駄目なご主人様を助けてほしいの。わかる? ココ」
昨日辺りから、どうもココは自分の名前に反応して尻尾を振るようになった。前は何でも反応しピコピコと細長い尻尾を左右に振っていたのだが、今は名前を口にすると耳の付け根辺りが緊張したように持ち上がる。
「そうよ、ココ。あなたに話してるの」
もう一度呼び掛ければまた上がる。頭を撫でてやるともっとやって欲しそうに身体を擦り寄せてきたりもするようになってきた。
「さあ、行きましょ」
アリシャがカゴを取ると、ココは相変わらず飛び跳ねるようについてくる。
(こんなに可愛いのに床でなんて眠らせられないじゃない? せめてシーツはめくろうかしら)
出かける前に炉の火を小さくして、入口の扉を直しているドクとエドに出かけてくると伝えて晴れ渡った青い空の下へと出ていった。
アリシャの長い髪は今は頭の高い位置で結ってあり、馬の尻尾のように揺れていた。
いちごの群生は森がポッカリ抜け落ちた、木のないところにあった。葉の合間から覗く赤い実が目を引き、迷いなく辿り着くことができた。
ココはここでも匂いを嗅ぎ回ることにそれは熱心で、アリシャが屈み込んで苺を摘み始めても、あっちをふらふらこっちをふらふら。
「遠くには行かないでね、ココ」
名前を呼べばやはり顔を上げ、耳の根本を立てたりするのだから、名を認識しているのだろう。
今日もやることは山ほどあるし、ココにばかり構ってはいられない。
赤くなっている苺の実をヘタの近くでくるりと捻れば、難なく収穫できる。とにかく沢山なっているし、毎日来られるわけではないので少し熟し方が足らないものも摘んでいった。
赤い果実は緑が多い食事に彩りを与えてくれるのできっと喜ばれるに違いない。皆の笑顔を思い浮かべると、とにかく一つでも多くの苺を収穫したくて夢中になった。
実を隠すように覆いかぶさる葉を退けて苺を見つけてはもぎる。時々虫が齧りついていてドキリとするが、虫を弾いて傷が小さければそれもカゴに入れた。
「やぁ、美人さん。苺に夢中すぎやしないかい?」
背後から声をかけられた時、心臓が飛び出るほど驚いた。足音や気配も感じなかったし、肝心のココは振り返った時、男の腕の中で尻尾を振っていた。
アリシャより暗めの赤、鳶色の髪をした背の高い男。野性的な雰囲気なのに笑顔がとても柔和な人だった。
「えっと……もし何か話しかけられていて答えなかったのだとしたら、ごめんなさい」
謝りながらもココを返して貰おうと手を伸ばすと、その男はココの頭にキスをした。それから横目でアリシャを見て、吹き出した。
「そんなにあんぐり口を開けていたら蜂が飛び込むよ」
慌ててキュッと口を引き結ぶアリシャに男は近寄ってきて、ココを渡した。しかも手渡した瞬間にアリシャの頭にもキスをしたのだ。
「あ!」
弾かれたように後ずさりするアリシャに男は面白そうに眉を上げた。
「俺はボリスだ、君は初めて見るね。美人は忘れないからな。はじめまして」
「は、はじめまして……アリシャです。この辺りの人ですか?」
「いや、用事があってね。ドナ村に暫らく滞在するつもりだ」
確かにボリスの肩には、使い込まれたバッグパックと弓や矢筒が下げられていた。
気障なボリスの挨拶に動揺していたアリシャだったが、この人がエドの話していた人物であることに違いないと考えていた。
「私もドナ村に住んでいます。住み始めたのは最近ですけど」
「ああ、聞いてるよ。美味い飯を作る人がいるってね。しかし、エドの野郎……美人だってのは隠していやがった」
お世辞とはいえ美人だなんて何度も言われると恥ずかしくなってきて、頬が熱くなっていく。
「そ、そういうのは意中の人にだけ言うといいですよ!」
頬が赤いのを見られたくなくて足元にココを下ろすと、苺摘みを再開した。するとボリスは隣に屈んで苺を摘み始めた。
「意中の人だけね。了解した。そうするよ、美人さん」
からかわれているのは分かっていたから何も言いたくなかった。それなのに、手を動かすとぶつかるほど近くに並ぶから「もう少し、離れて摘んでください」と言わざるを得なかった。
ボリスは大人だ。エドの狩り仲間らしいが、歳は十くらい離れていそうだった。ボリスからすればアリシャなどからかい甲斐のある小娘なのだろう。
「近いかなー? カゴがここだから手伝うには近くないと」
確かにカゴは近いほうが効率よく作業出来るが、アリシャのほうはボリスとの距離が気になって動きがぎこちなくなって困る。
「あの! て、手伝って貰わなくて大丈夫ですから」
吐息が掛かる距離で集中して何かを出来る訳がない。一人で苺摘みをしたほうがよっぽど短時間に終わらせられるはずだ。
「一人でやるより早いし、楽しくない?」
「私は変わり者なので一人の方が早く出来るので──ひゃ!」
変な声が出た。ボリスが顔を近づけてきたのだ。ボリスの瞳が非常に珍しい若草色であることまで識別できるほどだった。
「虫だよ、虫。ほら、髪についていたから」
ぽいっと投げ捨てたのを見たら身をくねらせている青虫で、アリシャはもっと大きな悲鳴を上げそうになった。
「あはは、赤くなったり青くなったり忙しい娘だな」
何枚もうわ手のボリスはさも可笑しそうに言うと、アリシャの存在などまるで意識していないかのように苺を取り出した。
真っ黒な眼でアリシャを見つめるココ。まん丸の目も垂れ下がった耳もまだ子犬そのものだ。
「でもね、あなたの耳は私のよりずっと良いし、鼻だってずっと利くじゃない? だから、駄目なご主人様を助けてほしいの。わかる? ココ」
昨日辺りから、どうもココは自分の名前に反応して尻尾を振るようになった。前は何でも反応しピコピコと細長い尻尾を左右に振っていたのだが、今は名前を口にすると耳の付け根辺りが緊張したように持ち上がる。
「そうよ、ココ。あなたに話してるの」
もう一度呼び掛ければまた上がる。頭を撫でてやるともっとやって欲しそうに身体を擦り寄せてきたりもするようになってきた。
「さあ、行きましょ」
アリシャがカゴを取ると、ココは相変わらず飛び跳ねるようについてくる。
(こんなに可愛いのに床でなんて眠らせられないじゃない? せめてシーツはめくろうかしら)
出かける前に炉の火を小さくして、入口の扉を直しているドクとエドに出かけてくると伝えて晴れ渡った青い空の下へと出ていった。
アリシャの長い髪は今は頭の高い位置で結ってあり、馬の尻尾のように揺れていた。
いちごの群生は森がポッカリ抜け落ちた、木のないところにあった。葉の合間から覗く赤い実が目を引き、迷いなく辿り着くことができた。
ココはここでも匂いを嗅ぎ回ることにそれは熱心で、アリシャが屈み込んで苺を摘み始めても、あっちをふらふらこっちをふらふら。
「遠くには行かないでね、ココ」
名前を呼べばやはり顔を上げ、耳の根本を立てたりするのだから、名を認識しているのだろう。
今日もやることは山ほどあるし、ココにばかり構ってはいられない。
赤くなっている苺の実をヘタの近くでくるりと捻れば、難なく収穫できる。とにかく沢山なっているし、毎日来られるわけではないので少し熟し方が足らないものも摘んでいった。
赤い果実は緑が多い食事に彩りを与えてくれるのできっと喜ばれるに違いない。皆の笑顔を思い浮かべると、とにかく一つでも多くの苺を収穫したくて夢中になった。
実を隠すように覆いかぶさる葉を退けて苺を見つけてはもぎる。時々虫が齧りついていてドキリとするが、虫を弾いて傷が小さければそれもカゴに入れた。
「やぁ、美人さん。苺に夢中すぎやしないかい?」
背後から声をかけられた時、心臓が飛び出るほど驚いた。足音や気配も感じなかったし、肝心のココは振り返った時、男の腕の中で尻尾を振っていた。
アリシャより暗めの赤、鳶色の髪をした背の高い男。野性的な雰囲気なのに笑顔がとても柔和な人だった。
「えっと……もし何か話しかけられていて答えなかったのだとしたら、ごめんなさい」
謝りながらもココを返して貰おうと手を伸ばすと、その男はココの頭にキスをした。それから横目でアリシャを見て、吹き出した。
「そんなにあんぐり口を開けていたら蜂が飛び込むよ」
慌ててキュッと口を引き結ぶアリシャに男は近寄ってきて、ココを渡した。しかも手渡した瞬間にアリシャの頭にもキスをしたのだ。
「あ!」
弾かれたように後ずさりするアリシャに男は面白そうに眉を上げた。
「俺はボリスだ、君は初めて見るね。美人は忘れないからな。はじめまして」
「は、はじめまして……アリシャです。この辺りの人ですか?」
「いや、用事があってね。ドナ村に暫らく滞在するつもりだ」
確かにボリスの肩には、使い込まれたバッグパックと弓や矢筒が下げられていた。
気障なボリスの挨拶に動揺していたアリシャだったが、この人がエドの話していた人物であることに違いないと考えていた。
「私もドナ村に住んでいます。住み始めたのは最近ですけど」
「ああ、聞いてるよ。美味い飯を作る人がいるってね。しかし、エドの野郎……美人だってのは隠していやがった」
お世辞とはいえ美人だなんて何度も言われると恥ずかしくなってきて、頬が熱くなっていく。
「そ、そういうのは意中の人にだけ言うといいですよ!」
頬が赤いのを見られたくなくて足元にココを下ろすと、苺摘みを再開した。するとボリスは隣に屈んで苺を摘み始めた。
「意中の人だけね。了解した。そうするよ、美人さん」
からかわれているのは分かっていたから何も言いたくなかった。それなのに、手を動かすとぶつかるほど近くに並ぶから「もう少し、離れて摘んでください」と言わざるを得なかった。
ボリスは大人だ。エドの狩り仲間らしいが、歳は十くらい離れていそうだった。ボリスからすればアリシャなどからかい甲斐のある小娘なのだろう。
「近いかなー? カゴがここだから手伝うには近くないと」
確かにカゴは近いほうが効率よく作業出来るが、アリシャのほうはボリスとの距離が気になって動きがぎこちなくなって困る。
「あの! て、手伝って貰わなくて大丈夫ですから」
吐息が掛かる距離で集中して何かを出来る訳がない。一人で苺摘みをしたほうがよっぽど短時間に終わらせられるはずだ。
「一人でやるより早いし、楽しくない?」
「私は変わり者なので一人の方が早く出来るので──ひゃ!」
変な声が出た。ボリスが顔を近づけてきたのだ。ボリスの瞳が非常に珍しい若草色であることまで識別できるほどだった。
「虫だよ、虫。ほら、髪についていたから」
ぽいっと投げ捨てたのを見たら身をくねらせている青虫で、アリシャはもっと大きな悲鳴を上げそうになった。
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