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冬キャベツとベーコンのスープ
冬キャベツとベーコンのスープ2
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「えっと……、邪魔してごめんなさい。私は自分の仕事に戻るわね」
「いつでも話においで、俺は大歓迎だから」
ボリスはそう言って送り出したが、エドはやはり何も言わなかった。二人が喧嘩をしていた風でもなかった。アリシャに素っ気ないのはよくあることだからそこは普通だったとしても、エドの態度は気にかかった。
(お腹が空いて道端の苦い物でも食べたのかしら)
エドに渡すパンに蜂蜜でも塗っておこうかと思ったが、今のエドには冗談が通じないかもしれないとやめておいた。結局、夕飯の時も、翌日のパンを取りに来たときも事務的なことしか話すことはなかった。
エドは狩りに行き二日間不在で三日目は戻ってきたなり風邪を引いたと家に閉じこもっていた。それが、四日目に来た知らせで村の人々に戦慄が走った。
昼間だというのに広間に全員集められた。全員と言っても、エド、ドク、レゼナの三人は居なかった。
広間に入るなりレオは皆に一枚ずつ布を配り、口と鼻を覆うように指示をした。訳もわからず、それでも指示には従い口覆いをすると席に着いた。
「さっき、エドと狩りをしたものが高熱と咳に苦しみ命を落としたという知らせが届いた。その者の見立てでは『冬咳』だと言うことだ」
皆が小さくどよめく。『冬咳』とは流行病で、風邪に似ているが人から人に伝染する恐ろしい病だった。必ず死ぬわけではないが、致死率は高く、老人や子供といった体力のない者はかなりの確率で命を落とす。
「不安になるのはわかるがここは落ち着いて行動せねばならん。まず、人と会うときは必ず口覆いをするように。咳をした時の唾でうつるという話があるからな。手洗いもしっかりしておけば防げるはずだ」
レオの話を遮るように「でも既に感染ってるかもしれないじゃないか」とナジが声をあげる。
「落ち着きなさい。万が一感染っていたとしても、体力があればやり過ごせる。アヴリル」
「はい……」
「君は妊婦だから出来るだけ家に居なさい。食事はウィンに運んでもらうようにして、暫く様子を見よう。五日経過して熱も咳も出なければ感染していないと思うが、その頃村人に感染者がまだいれば継続して自宅に待機しなさい」
アヴリルは自分の腹を撫でて頷いた。
「ユーリ、リアナ、それにジャン。君らもだ。ユーリは暫くジャンの家に厄介になればいい。ジャン、石臼を運ばせよう。粉挽きを頼む。子供たちも交代でやるといい」
そこでユーリが立ち上がり「家の中でも手斧で薪割りが出来るよ」と提案し、レオはいい提案だと褒めた。
「息苦しく思うだろうが、食事以外は口覆いを着けて作業してくれ。残った男達は銘々普段通り仕事をして欲しい。食事は持ち帰って家で食べよう。質問は?」
ナジが手を挙げ、レオを指差す。
「うちらも五日間口覆いをして様子見ってことか?」
「そうだ。五日なんともなければ心配ないといわれている。もし、体調に異変を感じたら伝えてくれ。一人の問題ではないし、誰にも起こりうることだ。村の一大事だ。力を合わせ乗り切らなければならない」
リアナがおずおずと手を挙げて、レオが頷いて発言を許可した。
「ドクさん、レゼナさんも感染ってしまったんですか?」
「いや、二人は今のところ体調の変化はない。ただ、感染ってるかもしれないから──アリシャ」
「はい」
「宿屋の個室をドク夫婦に貸してやって欲しい。エドから離して様子を見たい」
部屋を貸すことに異存はないが気掛かりなことがあった。
「もちろん部屋は使ってください。ただ、そうするとエドはどうなりますか? 一人で家に残るのですか?」
体調不良はそれだけで辛いのに、一人閉じ込められたらエドが見捨てられたように思わないか心配だった。
レオは一度目を閉じてから、ゆっくりと瞼を上げていき、アリシャを見つめた。
「これは単なる風邪ではない。エドは一人戦わねばならないが、エドならその必要性を理解するはずだ」
要するにエドだけはたった一人で隔離するということだった。レオを攻めるつもりはない。仕方がないとわかるが、どうしてもやるせない気持ちが膨らんでアリシャはテーブルの下で拳を握った。
「レオさん、エドは重篤な状態ではないんですよね」
ボリスの問いに、エドは体力があるからとやや的外れな回答をレオがした。しかし、思い直して言い直す。
「高熱が出ていて咳もある。体力があるから私は助かると思っておるよ」
沈んだ空気の中、お開きになり各自がやれる仕事に取り掛かった。アリシャも東の個室を整えると、料理部屋に戻り深い溜め息をついた。
(エド……何かしてあげたい。でも何を?)
料理を作るのは当たり前。いつもより食べやすくて栄養価の高いものを作るなんてことも誰でも思いつく。そうではなく、何かもっと出来ないものかと模索していた。
悩みながらにはうってつけの、時間のかかるスープの出汁作りにとりあえず着手することにした。
大鍋に野鳩の手羽元を入れるとそこに玉ねぎを丸ごと、洗った人参やその葉を入れて煮込みだした。ボコボコと湯が湧き出すと中の具材は踊らされて回転しだす。
(こうしている間もエドは一人であの家に……)
エドのことを考えると胸が痛くなり、動きが止まってしまう。
(ダメダメ。私にはやらなきゃならない仕事があるんだもの。エドにも栄養のあるもの持っていかなきゃ)
さっきドクの代わりにウィンが持ってきた野菜のカゴの中からキャベツを取り上げ切っていった。これは一旦違う鍋に入れておく。次に人参、若くて硬めのカボチャも小さくカットしていった。熟したカボチャはとても甘いが若いカボチャは甘みが少なく、スープのアクセントになってくれるはずだ。
(私に宿った力が回復だったら、エドを直ぐに苦しみから救い出せるのに)
「いつでも話においで、俺は大歓迎だから」
ボリスはそう言って送り出したが、エドはやはり何も言わなかった。二人が喧嘩をしていた風でもなかった。アリシャに素っ気ないのはよくあることだからそこは普通だったとしても、エドの態度は気にかかった。
(お腹が空いて道端の苦い物でも食べたのかしら)
エドに渡すパンに蜂蜜でも塗っておこうかと思ったが、今のエドには冗談が通じないかもしれないとやめておいた。結局、夕飯の時も、翌日のパンを取りに来たときも事務的なことしか話すことはなかった。
エドは狩りに行き二日間不在で三日目は戻ってきたなり風邪を引いたと家に閉じこもっていた。それが、四日目に来た知らせで村の人々に戦慄が走った。
昼間だというのに広間に全員集められた。全員と言っても、エド、ドク、レゼナの三人は居なかった。
広間に入るなりレオは皆に一枚ずつ布を配り、口と鼻を覆うように指示をした。訳もわからず、それでも指示には従い口覆いをすると席に着いた。
「さっき、エドと狩りをしたものが高熱と咳に苦しみ命を落としたという知らせが届いた。その者の見立てでは『冬咳』だと言うことだ」
皆が小さくどよめく。『冬咳』とは流行病で、風邪に似ているが人から人に伝染する恐ろしい病だった。必ず死ぬわけではないが、致死率は高く、老人や子供といった体力のない者はかなりの確率で命を落とす。
「不安になるのはわかるがここは落ち着いて行動せねばならん。まず、人と会うときは必ず口覆いをするように。咳をした時の唾でうつるという話があるからな。手洗いもしっかりしておけば防げるはずだ」
レオの話を遮るように「でも既に感染ってるかもしれないじゃないか」とナジが声をあげる。
「落ち着きなさい。万が一感染っていたとしても、体力があればやり過ごせる。アヴリル」
「はい……」
「君は妊婦だから出来るだけ家に居なさい。食事はウィンに運んでもらうようにして、暫く様子を見よう。五日経過して熱も咳も出なければ感染していないと思うが、その頃村人に感染者がまだいれば継続して自宅に待機しなさい」
アヴリルは自分の腹を撫でて頷いた。
「ユーリ、リアナ、それにジャン。君らもだ。ユーリは暫くジャンの家に厄介になればいい。ジャン、石臼を運ばせよう。粉挽きを頼む。子供たちも交代でやるといい」
そこでユーリが立ち上がり「家の中でも手斧で薪割りが出来るよ」と提案し、レオはいい提案だと褒めた。
「息苦しく思うだろうが、食事以外は口覆いを着けて作業してくれ。残った男達は銘々普段通り仕事をして欲しい。食事は持ち帰って家で食べよう。質問は?」
ナジが手を挙げ、レオを指差す。
「うちらも五日間口覆いをして様子見ってことか?」
「そうだ。五日なんともなければ心配ないといわれている。もし、体調に異変を感じたら伝えてくれ。一人の問題ではないし、誰にも起こりうることだ。村の一大事だ。力を合わせ乗り切らなければならない」
リアナがおずおずと手を挙げて、レオが頷いて発言を許可した。
「ドクさん、レゼナさんも感染ってしまったんですか?」
「いや、二人は今のところ体調の変化はない。ただ、感染ってるかもしれないから──アリシャ」
「はい」
「宿屋の個室をドク夫婦に貸してやって欲しい。エドから離して様子を見たい」
部屋を貸すことに異存はないが気掛かりなことがあった。
「もちろん部屋は使ってください。ただ、そうするとエドはどうなりますか? 一人で家に残るのですか?」
体調不良はそれだけで辛いのに、一人閉じ込められたらエドが見捨てられたように思わないか心配だった。
レオは一度目を閉じてから、ゆっくりと瞼を上げていき、アリシャを見つめた。
「これは単なる風邪ではない。エドは一人戦わねばならないが、エドならその必要性を理解するはずだ」
要するにエドだけはたった一人で隔離するということだった。レオを攻めるつもりはない。仕方がないとわかるが、どうしてもやるせない気持ちが膨らんでアリシャはテーブルの下で拳を握った。
「レオさん、エドは重篤な状態ではないんですよね」
ボリスの問いに、エドは体力があるからとやや的外れな回答をレオがした。しかし、思い直して言い直す。
「高熱が出ていて咳もある。体力があるから私は助かると思っておるよ」
沈んだ空気の中、お開きになり各自がやれる仕事に取り掛かった。アリシャも東の個室を整えると、料理部屋に戻り深い溜め息をついた。
(エド……何かしてあげたい。でも何を?)
料理を作るのは当たり前。いつもより食べやすくて栄養価の高いものを作るなんてことも誰でも思いつく。そうではなく、何かもっと出来ないものかと模索していた。
悩みながらにはうってつけの、時間のかかるスープの出汁作りにとりあえず着手することにした。
大鍋に野鳩の手羽元を入れるとそこに玉ねぎを丸ごと、洗った人参やその葉を入れて煮込みだした。ボコボコと湯が湧き出すと中の具材は踊らされて回転しだす。
(こうしている間もエドは一人であの家に……)
エドのことを考えると胸が痛くなり、動きが止まってしまう。
(ダメダメ。私にはやらなきゃならない仕事があるんだもの。エドにも栄養のあるもの持っていかなきゃ)
さっきドクの代わりにウィンが持ってきた野菜のカゴの中からキャベツを取り上げ切っていった。これは一旦違う鍋に入れておく。次に人参、若くて硬めのカボチャも小さくカットしていった。熟したカボチャはとても甘いが若いカボチャは甘みが少なく、スープのアクセントになってくれるはずだ。
(私に宿った力が回復だったら、エドを直ぐに苦しみから救い出せるのに)
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