89 / 131
サーモンやソーセージの手巻きクレープ
サーモンやソーセージの手巻きクレープ5
しおりを挟む
体調が悪いと言えばエドは来てくれるかもしれないとも考えたが、そんな仮病まで使って何を話したいのか自分でもさっぱりわからないアリシャだった。
仕方なく歩き出そうとすると、エドがアリシャと声を掛けたので振り返った。
「手を切ったのか?」
エドの視線を追うと、アリシャの右手の指に行き当たった。そこでやっとさっき手を切ってしまったことを思い出した。横に一本赤い線が引かれたようになっている。痛くもないし、出血も止まっていた。
「あ、うん。でも浅いから」
そこでドクが「仕事が終わってから塗るように軟膏を用意しよう。食事時に渡す」と言ってくれたので礼を言って料理部屋に入っていった。
「さて、ウィンとエドよ。君たちにやって欲しいことがあるんだ」
アリシャが姿を消すとレオが二人に声を潜めて言った。エドは眉根を寄せ、ウィンは不安気な表情で頷いてみせた。
料理部屋に戻ったアリシャは残りのパン生地を焼くために火かき棒を取り、炉の中の薪を動かしていた。
やっと暖炉も完成し、夕飯は祝の席と決めて張り切っていた昨晩の気持ちはどこに行ったのかとボンヤリ考えていた。確かに寝る前は心が逸り朝になるのが待ち遠しかったはずだった。
(ザライム……綺麗な人だけど、なぜ私はあんなにも目が離せなかったのか)
アリシャはエドが好きだ。そこは揺るがないのに、ザライムに恐ろしいほど惹きつけられアリシャに罪悪感を与えていた。エドへの裏切り行為な気がして落ち込んでしまう。
火が大きくなってきたので火かき棒を置くと、自室の扉を開けてココを出してやった。
「ココ、今夜は抱き締めて寝かせてね。なんだかちょっと……」
その先は言わずにココを撫でると薄いパン生地を焼いていく。これまでの礼だと言ってリリーが持たせてくれたソーセージを茹で、さっき捌いたマスも焼かなければならない。ジャムも今ある全ての種類を個々の器に持って出す予定だ。皆が薄いパン生地にそれらの具材を好きなように巻いて食す。思いついた時は楽しみでならなかった。
料理を用意している間、ココがいつもに増して所有無げに部屋の中をウロウロと忙しなく動き回っていた。
「ココも落ち着かないの? 嵐が来たりするのかしらね……レオさんがずっと天気ばかり気にされてるし」
ジャムを壺から出して器に盛っていく。ベリージャム、リンゴジャム、洋ナシのジャム。同じようにハチミツも壺から出して小さな器に入れておいた。
一口大にしたマスの切り身を焼きながら、隣の鍋でソーセージをボイルしていく。
出来上がった料理をテーブルに並べているとドクとレゼナがやって来て、ドクがそれとなくアリシャに「エドを頼むよ」と小声で囁くと二人は席についた。そんな二人に少し遅れてレオが部屋から出て来てドクを呼び、何か二人で話し込んでいた。
「はぁ、暖炉があるっていいわね」
一人になって手持ち無沙汰なレゼナは立ち上がり、アリシャと一緒に食器を並べ始めた。
「あったかい! わ、アリシャ。今日のご飯凄いね」
手を洗ってきたようで濡れた手をエプロンで拭きながらリアナが歓声を上げて広間に来た。続いてアヴリル、ジャンも雑談しながらやってきた。
次々にやって来る村人達と会話しながら準備を終えるとエドとウィンを続いてナジ一家が入って来て、場が一瞬凍りついた。
まさかルクとジャンヌまで来るとは誰も思ってもみなかった。久方ぶりに宿屋にやってきたルクは気まずそうだがジャンヌは堂々としたものだった。
そこに少し遅れてボリスがやって来てチラリとルク達を見たが、普段通りにこやかに「俺、最後かな?」と扉を締めていた。
「お客様をお呼びしなきゃ」
忘れていたわけではなかったが、アリシャはあの二人に再び顔を合わせることに気乗りせずにいた。もちろん客である以上、呼ばないわけにはいかないが……気が重い。
意を決してドアをノックし「お食事の用意が整いました」と声を掛けた。
扉は直ぐに開かれ、ザライムの部屋からまずはイザクが出て来て、扉を押さえたままザライムが出てくるのを待つ。ザライムは悠々とした足取りで広間に登場すると自分に視線が集まっていることなど一切気にも留めず上座の空いている席に座した。
ザライムは隣のイスを見下ろして、顔だけアリシャに向け「ここに座るといい」と指示をした。
客に隣に座るように言われた事などなかったので驚くアリシャにイザクが後ろから「座りなさい」とそっと言葉をかけた。
「私がお相手いたします」
ルクの隣にいたジャンヌがこれ以上ない笑みを浮かべ腰を上げた。ザライムはジャンヌを一瞥し、素っ気なく答える。
「それには及ばん。娼婦を求めているわけではない」
ザライムのあまりに容赦のない言葉にジャンヌが顔を赤らませて怯んだが、直ぐに立て直し怒ることなく微笑んでみせた。
「娼婦ではございません。魅惑的だという褒め言葉と受け止めさせていただきます」
転んでもただでは起きないジャンヌに感服したが、あまりの強さに僅かに怖いとすら感じていた。
「面倒な空気になる。座りなさい」
再び小声でイザクに言われ、アリシャは渋々ザライムの隣に座る。それでやっとイザクもザライムの右隣に座した。
仕方なく歩き出そうとすると、エドがアリシャと声を掛けたので振り返った。
「手を切ったのか?」
エドの視線を追うと、アリシャの右手の指に行き当たった。そこでやっとさっき手を切ってしまったことを思い出した。横に一本赤い線が引かれたようになっている。痛くもないし、出血も止まっていた。
「あ、うん。でも浅いから」
そこでドクが「仕事が終わってから塗るように軟膏を用意しよう。食事時に渡す」と言ってくれたので礼を言って料理部屋に入っていった。
「さて、ウィンとエドよ。君たちにやって欲しいことがあるんだ」
アリシャが姿を消すとレオが二人に声を潜めて言った。エドは眉根を寄せ、ウィンは不安気な表情で頷いてみせた。
料理部屋に戻ったアリシャは残りのパン生地を焼くために火かき棒を取り、炉の中の薪を動かしていた。
やっと暖炉も完成し、夕飯は祝の席と決めて張り切っていた昨晩の気持ちはどこに行ったのかとボンヤリ考えていた。確かに寝る前は心が逸り朝になるのが待ち遠しかったはずだった。
(ザライム……綺麗な人だけど、なぜ私はあんなにも目が離せなかったのか)
アリシャはエドが好きだ。そこは揺るがないのに、ザライムに恐ろしいほど惹きつけられアリシャに罪悪感を与えていた。エドへの裏切り行為な気がして落ち込んでしまう。
火が大きくなってきたので火かき棒を置くと、自室の扉を開けてココを出してやった。
「ココ、今夜は抱き締めて寝かせてね。なんだかちょっと……」
その先は言わずにココを撫でると薄いパン生地を焼いていく。これまでの礼だと言ってリリーが持たせてくれたソーセージを茹で、さっき捌いたマスも焼かなければならない。ジャムも今ある全ての種類を個々の器に持って出す予定だ。皆が薄いパン生地にそれらの具材を好きなように巻いて食す。思いついた時は楽しみでならなかった。
料理を用意している間、ココがいつもに増して所有無げに部屋の中をウロウロと忙しなく動き回っていた。
「ココも落ち着かないの? 嵐が来たりするのかしらね……レオさんがずっと天気ばかり気にされてるし」
ジャムを壺から出して器に盛っていく。ベリージャム、リンゴジャム、洋ナシのジャム。同じようにハチミツも壺から出して小さな器に入れておいた。
一口大にしたマスの切り身を焼きながら、隣の鍋でソーセージをボイルしていく。
出来上がった料理をテーブルに並べているとドクとレゼナがやって来て、ドクがそれとなくアリシャに「エドを頼むよ」と小声で囁くと二人は席についた。そんな二人に少し遅れてレオが部屋から出て来てドクを呼び、何か二人で話し込んでいた。
「はぁ、暖炉があるっていいわね」
一人になって手持ち無沙汰なレゼナは立ち上がり、アリシャと一緒に食器を並べ始めた。
「あったかい! わ、アリシャ。今日のご飯凄いね」
手を洗ってきたようで濡れた手をエプロンで拭きながらリアナが歓声を上げて広間に来た。続いてアヴリル、ジャンも雑談しながらやってきた。
次々にやって来る村人達と会話しながら準備を終えるとエドとウィンを続いてナジ一家が入って来て、場が一瞬凍りついた。
まさかルクとジャンヌまで来るとは誰も思ってもみなかった。久方ぶりに宿屋にやってきたルクは気まずそうだがジャンヌは堂々としたものだった。
そこに少し遅れてボリスがやって来てチラリとルク達を見たが、普段通りにこやかに「俺、最後かな?」と扉を締めていた。
「お客様をお呼びしなきゃ」
忘れていたわけではなかったが、アリシャはあの二人に再び顔を合わせることに気乗りせずにいた。もちろん客である以上、呼ばないわけにはいかないが……気が重い。
意を決してドアをノックし「お食事の用意が整いました」と声を掛けた。
扉は直ぐに開かれ、ザライムの部屋からまずはイザクが出て来て、扉を押さえたままザライムが出てくるのを待つ。ザライムは悠々とした足取りで広間に登場すると自分に視線が集まっていることなど一切気にも留めず上座の空いている席に座した。
ザライムは隣のイスを見下ろして、顔だけアリシャに向け「ここに座るといい」と指示をした。
客に隣に座るように言われた事などなかったので驚くアリシャにイザクが後ろから「座りなさい」とそっと言葉をかけた。
「私がお相手いたします」
ルクの隣にいたジャンヌがこれ以上ない笑みを浮かべ腰を上げた。ザライムはジャンヌを一瞥し、素っ気なく答える。
「それには及ばん。娼婦を求めているわけではない」
ザライムのあまりに容赦のない言葉にジャンヌが顔を赤らませて怯んだが、直ぐに立て直し怒ることなく微笑んでみせた。
「娼婦ではございません。魅惑的だという褒め言葉と受け止めさせていただきます」
転んでもただでは起きないジャンヌに感服したが、あまりの強さに僅かに怖いとすら感じていた。
「面倒な空気になる。座りなさい」
再び小声でイザクに言われ、アリシャは渋々ザライムの隣に座る。それでやっとイザクもザライムの右隣に座した。
55
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
【完結】没落令嬢、異世界で紅茶店を開くことにいたしました〜香りと静寂と癒しの一杯をあなたに〜
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
夜会で父が失脚し、家は没落。屋敷の裏階段で滑り落ち、気づけば異世界――。
王国貴族だったアナスタシアが転移先で授かったのは、“極上調合”という紅茶とハーブのスキルだった。
戦う気はございませんの。復讐もざまぁも、疲れますわ。
彼女が選んだのは、湖畔の古びた小屋で静かにお茶を淹れること。
奇跡の一杯は病を癒やし、呪いを祓い、魔力を整える力を持つが、
彼女は誰にも媚びず、ただ静けさの中で湯気を楽しむのみ。
「お代は結構ですわ。……代わりに花と静寂を置いていってくださる?」
騎士も王女も英雄も訪れるが、彼女は気まぐれに一杯を淹れるだけ。
これは、香草と紅茶に囲まれた元令嬢の、優雅で自由な異世界スローライフ。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/466596284/episode/5320962
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/387029553/episode/10775138
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/84576624/episode/5093144
https://www.alphapolis.co.jp/novel/793391534/786307039/episode/2285646
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした
タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。
身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。
だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり――
それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる