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アリシャはユーリと共にスリに人参を与えていた。他の男たちは食事中で、レゼナとリアナは枝を集めていた。
瑞々しい人参をスリはシャリシャリとよく噛んでいる。ユーリは時々スリの顔を撫でてやりながら食事に付き合ってやっていた。
「父さんがさ」
ユーリがおもむろに話し始めたのでアリシャが顔を向けた。
「村を離れたらルクが戻ってきたとき困るんじゃないかって心配してんだよね」
「そう……」
「みんなはもうルクは戻らないって思ってんでしょ? そりゃ戻らないよね。逃げ出したんだもん」
答えに窮してアリシャもスリの顔を撫でた。ユーリはアリシャに返事を求めてないらしく、そのまま続けた。
「俺は出ていかないよ。父さんと居るし、村での暮らしは家族三人の時よりずっと良かったもん」
「それは良かったわ。私も村での暮らしが本当に好きだった」
「だよね。父さんはさ、ルクルクってルクの事ばっかりなんだよ。俺いるのに。俺と暮しながら、みんなと楽しく生きていけばいいのにさ」
確かにナジは長男のルクに肩入れしすぎない気もするが、愛した子供に去られた気持は理解できる。ルクのことが頭の中を占めていてユーリを蔑ろにしているつもりはないのだろうが結果的にユーリは寂しい思いをしているらしかった。
「そのうち落ち着くわよ。悲しみを癒やすのは時間しかないし、まだそれほど経ってないもの」
アリシャの言葉に納得しなかったのか、ユーリはアリシャを睨みつけた。
「ルクは嫌いじゃなかったけど、ジャンヌが来てからのルクは嫌いだよ。ルクって染まりやすいんだよ。父さんにも酷いこと言ったりしてさ。なのになんであんなにルクルク言うんだ」
これまでユーリがルク失踪に関して、かなり淡白な反応を見せていた理由がやっとわかった。ルクから気持ちが離れていたのだ。子供ながらの率直さでそれを隠すこともなかったから、端からみると不思議なほど無関心だったらしい。
アリシャはユーリの肩を叩いて励ました。
「ルクは居ないんだもんナジだってユーリが嫌って思うほど構ってくるようになるわよ」
複雑な気持ちだ。ルクには戻ってきてほしいと願っていたが、ユーリの態度をみるとこのままの方がいいのかもと感じていた。
(今いる人が大事だものね。ナジが早く吹っ切ってユーリの存在を思い出してくれることを祈るしかない)
人参の欠片まで食べ尽くしたスリがブルルと満足そうに鼻を鳴らした。少し離れたところで男たちが腰を上げだす。もう少し行くと小さな集落があるからそこで一晩過ごすということだった。
ガリアナという街に着いたのはドナ村を出てから二日後のことだった。予想より時間がかかったが、さして大きな問題も起こらずについたといえた。
ガリアナは高い壁に囲われ、堀まで有する立派な街だった。堀に掛けられた橋は跳ね橋式で、敵の襲来に備えた素晴らしい造りになっている。
街に着く前に兵士たちが迎えにやってきて、皆を馬に乗せた。アリシャとエドはスリに乗ることにしたが、ボリスは兵士の馬に乗せられて居心地が悪そうだった。
一行が街の中に入っていくと、背後で跳ね橋が上げられ、門が大きな音を立てて閉められた。門から少しだけ行くと広場になっていて、そこで皆馬から下ろされた。
「エクトル様、ご無事で何よりでございます」
真っ先にかしずかれ、それを横目で見ながらエクトルが外套を脱ぐ。横に駆け寄ってきた男に外套を渡すと「部屋は用意してあるか?」と問う。
外套を受け取った兵士はボリスよりも若そうだった。
「はい。首都より書も届いております」
「部屋で読む。皆に湯浴みをさせてやれ。村人も客人として扱うように」
テキパキと指示を出すと、振り返りドナ村の人々を見渡した。
「部屋で休むが良い。レオナルドは湯浴みをしたら私の部屋に来てもらおう。これからの事を話し合いたい」
荷が下ろされて街の宿屋に案内された。
石造りの二階建てで、まるで城のような構えだった。窓もガラスが嵌められているし、装飾すら施されていた。もっと驚いたのは宿屋の中だ。毛織物が敷かれていて、一緒に入って来ていたココは早速ゴロゴロ転がりまわり穴まで掘ろうと大はしゃぎだった。
「申し訳ありませんが、犬は馬小屋の方でお預かりしますので」
宿屋の従業員に言われるまでもなく、アリシャもそうしてもらいたいと思っていたので二つ返事で快諾した。色付けされた毛織物に穴でもあけられたら大問題だ。離れるのは寂しいが、そこは致し方ない。
アリシャはこの宿屋の豪華さに圧倒されていたが、リアナも同じだったらしい。二人で口をぽかんと開けたあと、慌てて閉じてコソコソと感想を言い合った。
「アリシャあの椅子を見て、ビロードかしら?」
「そうみたい。あんな高価な生地をお尻の下に敷くなんて……畏れ多いわね」
「この広間、暖炉が二個もあるわ。薪が大量に必要になっちゃうのに!」
興奮した二人をよそに、従業員はさっさと部屋に案内していく。石造りの階段を上っていくと通路の両脇に沢山の部屋がすらりと並ぶ。アリシャの宿屋も二階はあるが一間だし、まるでちがっている。
瑞々しい人参をスリはシャリシャリとよく噛んでいる。ユーリは時々スリの顔を撫でてやりながら食事に付き合ってやっていた。
「父さんがさ」
ユーリがおもむろに話し始めたのでアリシャが顔を向けた。
「村を離れたらルクが戻ってきたとき困るんじゃないかって心配してんだよね」
「そう……」
「みんなはもうルクは戻らないって思ってんでしょ? そりゃ戻らないよね。逃げ出したんだもん」
答えに窮してアリシャもスリの顔を撫でた。ユーリはアリシャに返事を求めてないらしく、そのまま続けた。
「俺は出ていかないよ。父さんと居るし、村での暮らしは家族三人の時よりずっと良かったもん」
「それは良かったわ。私も村での暮らしが本当に好きだった」
「だよね。父さんはさ、ルクルクってルクの事ばっかりなんだよ。俺いるのに。俺と暮しながら、みんなと楽しく生きていけばいいのにさ」
確かにナジは長男のルクに肩入れしすぎない気もするが、愛した子供に去られた気持は理解できる。ルクのことが頭の中を占めていてユーリを蔑ろにしているつもりはないのだろうが結果的にユーリは寂しい思いをしているらしかった。
「そのうち落ち着くわよ。悲しみを癒やすのは時間しかないし、まだそれほど経ってないもの」
アリシャの言葉に納得しなかったのか、ユーリはアリシャを睨みつけた。
「ルクは嫌いじゃなかったけど、ジャンヌが来てからのルクは嫌いだよ。ルクって染まりやすいんだよ。父さんにも酷いこと言ったりしてさ。なのになんであんなにルクルク言うんだ」
これまでユーリがルク失踪に関して、かなり淡白な反応を見せていた理由がやっとわかった。ルクから気持ちが離れていたのだ。子供ながらの率直さでそれを隠すこともなかったから、端からみると不思議なほど無関心だったらしい。
アリシャはユーリの肩を叩いて励ました。
「ルクは居ないんだもんナジだってユーリが嫌って思うほど構ってくるようになるわよ」
複雑な気持ちだ。ルクには戻ってきてほしいと願っていたが、ユーリの態度をみるとこのままの方がいいのかもと感じていた。
(今いる人が大事だものね。ナジが早く吹っ切ってユーリの存在を思い出してくれることを祈るしかない)
人参の欠片まで食べ尽くしたスリがブルルと満足そうに鼻を鳴らした。少し離れたところで男たちが腰を上げだす。もう少し行くと小さな集落があるからそこで一晩過ごすということだった。
ガリアナという街に着いたのはドナ村を出てから二日後のことだった。予想より時間がかかったが、さして大きな問題も起こらずについたといえた。
ガリアナは高い壁に囲われ、堀まで有する立派な街だった。堀に掛けられた橋は跳ね橋式で、敵の襲来に備えた素晴らしい造りになっている。
街に着く前に兵士たちが迎えにやってきて、皆を馬に乗せた。アリシャとエドはスリに乗ることにしたが、ボリスは兵士の馬に乗せられて居心地が悪そうだった。
一行が街の中に入っていくと、背後で跳ね橋が上げられ、門が大きな音を立てて閉められた。門から少しだけ行くと広場になっていて、そこで皆馬から下ろされた。
「エクトル様、ご無事で何よりでございます」
真っ先にかしずかれ、それを横目で見ながらエクトルが外套を脱ぐ。横に駆け寄ってきた男に外套を渡すと「部屋は用意してあるか?」と問う。
外套を受け取った兵士はボリスよりも若そうだった。
「はい。首都より書も届いております」
「部屋で読む。皆に湯浴みをさせてやれ。村人も客人として扱うように」
テキパキと指示を出すと、振り返りドナ村の人々を見渡した。
「部屋で休むが良い。レオナルドは湯浴みをしたら私の部屋に来てもらおう。これからの事を話し合いたい」
荷が下ろされて街の宿屋に案内された。
石造りの二階建てで、まるで城のような構えだった。窓もガラスが嵌められているし、装飾すら施されていた。もっと驚いたのは宿屋の中だ。毛織物が敷かれていて、一緒に入って来ていたココは早速ゴロゴロ転がりまわり穴まで掘ろうと大はしゃぎだった。
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「アリシャあの椅子を見て、ビロードかしら?」
「そうみたい。あんな高価な生地をお尻の下に敷くなんて……畏れ多いわね」
「この広間、暖炉が二個もあるわ。薪が大量に必要になっちゃうのに!」
興奮した二人をよそに、従業員はさっさと部屋に案内していく。石造りの階段を上っていくと通路の両脇に沢山の部屋がすらりと並ぶ。アリシャの宿屋も二階はあるが一間だし、まるでちがっている。
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