詩《うた》をきかせて

生永祥

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☆第23話 白いハンカチ

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 自分が出せる最大の速度で走って来たものだから、息が所々途切れて、喉の奥からぜぇぜぇという掠れた音がする。

 途中、転ばなかったことが不思議なくらい、小夜子は脇目も振らずに、一目散に日の出や書店を後にした。

 日の出や書店から2キロメートル程離れた、自宅の近くにある小さな公園のジャングルジムに、小夜子は身体を預けていた。乱れる呼吸が早く整う様に深く息を吸う。
 
 すると先程まで、酸欠のせいで朧気であった視界が、次第にはっきりとしていくのが分かった。

 きちんと息が整うようになると、次第に先程の日の出や書店での出来事が、小夜子の頭の中に鮮明に甦ってきた。

――別れ話、みたい、だった。

 先程の夏季と若菜の話の流れから、恋人達の別れ話なのだろうと小夜子は推測した。

――なっちゃんと、若菜先生、恋人同士だったんだ。

 その事実に酷く小夜子は驚愕する。
 まさか二人が恋人同士だったとは、小夜子は全然思ってもみなかった。

 頭の中でガラガラという店の引き戸を引く音が、何度もリプレイする。

 引き戸が開き小夜子が上を見上げた瞬間、珍しく驚いた表情を見せた若菜の顔はいつにも増して険しかった。

 そして若菜が店を出て来た瞬間、引き戸の奥に居た夏季の様子を思い出す。
 その身体は小刻みに震えていて、真っ赤になった瞳からは今にも涙が溢れ出しそうだった。

――なっちゃんの、あんな姿、初めて見た。

 天真爛漫な小夜子とは違い、いつも落ち着いている夏季があんなに取り乱している姿を、小夜子は初めて見た。

 その出来事からも、この出来事の重大性を小夜子は改めて思い知った。

――失恋、決定だなぁ。

 随分と呼吸が楽になったので、小夜子がジャングルジムに預けていた身体を起こそうとした、その時だった。

 小夜子のおでこに、ぽつんと、小さくて冷たい雫がひとつ落ちて来た。

――あ。雨。

 その瞬間、ついこの間夏季が白くて綺麗なハンカチを、自分のおでこにあてがえてくれた事を思い出した。

 最初は一滴だった雨粒が、二粒、三粒と小夜子の身体に降り注ぐ。
 本当ならば冷たさを感じるはずなのに、今の小夜子は、何故だか全く寒さを感じなかった。

――あぁ。何で今、なっちゃんの、あの白いハンカチのことを、思い出したのだろう?

 ぽつぽつと次第に雨脚が強くなる曇天の空の下で、小夜子はただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
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