百合ハーレムファンタジー 婚約破棄された令嬢に転生したけど心は男のままだった

ブラックウォーター

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美少女クラス委員は隠れオタ

見つけた、堕とすきっかけ

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01

 パトリシアは、メリーアン・ハインリヒを“攻略”する準備を開始する。
 (けっこう難しいかな?)
 クラス委員を務める真面目な女の子。
 中央議会の議員のお嬢さん。それなりの資産家の箱入り令嬢だ。
 成績も優秀だし、教師からの受けもいい。男に関して浮いた話は皆無。
 まあ、告白はされているが断っていると聞いたことがある。
 ガードが堅いのだろう。
 
 取りあえず、パトリシアはメリーアンの行動を観察してみることとする。
 下校時にそれとなく尾行して、行動パターンを分析することにした。
 (おや?)
 大型の書店に入った彼女を注意深く観察していると、意外な方向に歩いて行く。
 てっきり学術書や固い文学、実用書でも買うのかと思った。
 だが彼女の進行方向は、漫画やライトノベルなど、いわゆるサブカルチャー方面のスペースだ。
 余談だが、この世界にもサブカルチャーの類いは存在する。
 テレビやインターネットがなく、紙媒体主体だが、それだけに紙媒体や三次元でのサブカルチャーは、21世紀の日本より盛んなくらいだ。
 メリーアンは注意深く周りを見回して、ライトノベルの新刊をいくつか手に取ると、足早に会計に向かう。
 パトリシアが見つからなかったのは、運が良かったからに過ぎない。
 (あの仕草…もしかすると…)
 パトリシアの頭に閃くものがあった。
 (私の予想が正しければ、これが役に立つ)
 パトリシアは、サブカルチャースペースに足を運び、雑誌を一冊手に取る。
 これが、メリーアンを堕とす鍵となるはずだった。
 
 その後も、パトリシアのメリーアンに対する観察は続く。
 (どうやら間違いないようね)
 今日は休日。
 メリーアンにパトリシアが予測した通りの趣味があるならここに現れるだろう、と読んでいたのが当たった。
 キャスケットにサングラスという非常に妖しげな装いをした金髪美少女が、挙動不審そのものの動作できょろきょろと周りを見回す。
 そして、何かから逃げるようにある店の中に入っていく。
 その店は龍の穴。いわゆるオタク向けの店だった。
 一般向けのコミックからライトノベル、成人向けコミックや小説。もちろん同人誌もそろっている。
 パトリシアはここに来て確信を得ていた。
 (メリーアンは隠れオタだ!) 
 脳内でだが、ドドンッと擬音が入った気がした。
 隠れオタ。
 要するに、ディープなオタク趣味の持ち主だが、それを周囲に隠している者のことをいう。
 まあ、隠す理由は様々だ。
 単に恥ずかしい。周りが抱いている自分のイメージと合わない。家族がそういうのに忌避感を持っている。などなど。
 (これはチャンスじゃね?)
 パトリシアは奮い立った。
 前世、エロゲーやライトノベルでは隠れオタのヒロインは、いわゆるオタバレを怖れて主人公を巻き込んでいく内に恋愛関係になって行くのが定石だったからだ。
 まあ、ゲームと現実は違うだろうが、堕とし形としては参考になるはずだった。
 (では次は…)
 パトリシアは次の段階の計画を練ることとする。

 次の日の教室。
 「メリーアンさん、悪いけど手帳の年月日早見表貸してくれない?
 忘れて来ちゃって」
 「ええ、いいですよ。どうぞ」
 メリーアンは気前よく手帳を貸してくれる。
 この世界にはスマホに相当する物はない。早見表や辞書は紙媒体を見るほかない。
 「ええと、これは何月何日だったっけ…?」
 わざとらしく眉間にしわを寄せながら、さりげなくメリーアンの予定を確認していく。
 (あった。これは間違いない!)
 パトリシアは心の中でガッツポーズを取る。
 おそらくオタバレを防ぐために、メリーアンにしかわからない言葉で書いてある。
 だが、自分の目当ての物から逆算すれば一目瞭然だ。
 正に今週末、“VMH”とはヴィーナス多目的ホール。それなりの規模のコスプレイベントが行われる予定の場所だ。
 先だって買ったコスプレ情報誌に載っていた。
 (ふふふ…これで準備は整った…)
 すでに当日の準備は整っている。
 「ありがとう。本当に助かったわ」
 「いえ、お役に立ててなによりですわ」
 何食わぬ顔で手帳を返すパトリシアに、メリーアンはにこやかに答える。
 (当日会いましょう。よろしくね)
 心の中でそう付け加えながら。

 そんなわけでコスプレイベント当日。
 パトリシアは会場の更衣室で、鏡に自分を映していた。
 (我ながらかわいい。
 心と感性が男だからってことでもないけど、なかなかいけてるじゃないの)
 鏡の中にはコスプレをした自分が映っている。
 人気のカードゲーム“研ぎ澄まされし乙女たち”のキャラで、コミカライズでは主人公も努める女性キャラだ。
 なお、余談だがこちらでは電子媒体のゲームが存在しないため、紙媒体のカードゲームが盛んだったりする。
 ジャンルとしてはいわゆる擬人化、美少女化もので、こちらの世界の神話に搭乗する伝説の武器が美少女化したものという設定だ。
 全体的に白でまとめられ、ブーツ、ニーソックス、パンツルックという組み合わせがあざとくセクシーだ。
 胸と腰に申し訳程度に装甲を施して、あとは弓とえびらを背負っただけのシンプルなデザイン。髪型も色にもよるがツインテールとするだけなので真似しやすい。
 だが、カードゲームでは強い上に特殊能力が便利であるため人気が高い。コスプレの元ネタとしては大人気だが、ありふれてもいる。
 (よし、準備万端)
 コスプレの他、再度ポーチの中の荷物と撮影機材(こちらでは魔法で映像や風景を記録する)も確認して、更衣室を出る。
 
 (いたいた)
 目的の人物はすぐに見つかった。
 メリーアンは、さすがにコスプレ上級者というべきか、仕草が手慣れている。
 彼女も“研ぎ澄まされし乙女たち”のキャラのコスプレをしている。
 (うわ…けっこう大胆…)
 近くで見ると、メリーアンのコスプレはエロティックでさえあった。
 一応鎧はまとっているが、白い装甲は面積が少なく露出度が多い。
 いわゆるビキニアーマーなのだ。
 白いマントを羽織っているためちらちらとしか見えず、メリーアン自身も身体全体を見せないように心がけているのだろう。
 なかなかにあざといものがある。
 そのキャラの武装はグラディエーターだから、構えるにしても身体がマントに隠れない姿勢を取る必要がない。
 もともとが美少女であることも相まって、はっとするほどの美しさと可愛さ、そしてきらびやかさだ。
 (撮っておこう)
 折角なので写真に残しておくことにする。そうしないなどもったいないだろう。
 何枚か写真を撮ったところで、メリーアンに声をかける。
 「すみませーん、こっちに目線頂けますか-?」
 メリーアンがサービス良く目線を送ってくる。
 コスプレをしたパトリシアがいつもと印象が違うためか、気づかないらしい。
 「あの、一緒に写ってもらってもいいですか?」
 「ええ、いいですよ」
 目の前のアーチャーがパトリシアと気づかないメリーアンは、並んで写真に写ってくれる。
 「ありがとう。
 よかったら名刺頂けませんか?」
 名刺の交換は、こちらのコスプレイベントでも行われる。
 名刺にこれから参加する予定のイベントを書いておき、交流するのだ。
 「ええ、どうぞ…って…」
 それまで輝くような笑顔を浮かべていたメリーアンが、にわかに顔を引きつらせる。
 ここにあってようやく、今目の前にいる相手がクラスメイトであると気づいたらしい。
 「どうしました…?あれ…?」
 パトリシアはわざとらしく驚いた表情になり、ついでメリーアンに顔を近づける。
 「ええと…あなたもしかして…」
 「しっ!」
 メリーアンが言葉を遮る。
 「ええと、取りあえず時間を決めて待ち合わせませんか?」
 「そうですね…わかりました…」
 パトリシアの言葉に、メリーアンはためらいがちに応じる。
 オタバレをなんとしても防ぎたいメリーアンは、パトリシアに口止めをしておかなければならないのだ。
 あとで待ち合わせて話し合う他に、選択の余地はなかったのである。
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