百合ハーレムファンタジー 婚約破棄された令嬢に転生したけど心は男のままだった

ブラックウォーター

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美少女クラス委員は隠れオタ

無敵の覇王ゲーマー

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04

 その日、パトリシアはメリーアンの家を訪ねていた。
 議員で資産家の娘だけはあって、なかなかに大きく立派な家だった。
 「さあ、入って」
 「お邪魔するね」
 案内されたのはメリーアンの部屋。
 セミダブルのベッドが置かれ、勉強机があり、タンスや本棚がある。
 ぬいぐるみやその他のかわいいものが程よく置かれた、女の子の部屋という雰囲気だった。
 よく掃除がされていて、清潔感に溢れている。
 「あれ?」
 だが、パトリシアはふと違和感を覚える。
 部屋の左側に扉があるのだ。
 (ウォークインクローゼット?にしては…)
 ざっと見積もってみると、そもそも部屋の面積がおかしい。廊下の長さから計算すると、部屋が明らかに狭いのだ。
 加えて、となりの部屋の廊下がわには、扉がなかった。
 つまり、あの扉はこの部屋からしか入れないことになる。
 「気づきましたか」
 パトリシアがにんまりとする。
 「あそこに元々壁はなかったんですけど、くぎを打って仕切りましたの。
 お客様を迎えるのは、パトリシアが初めてですわ」
 そう言ってメリーアンはカギを取り出して開ける。
 「うわ…すごい…」
 それが、扉をくぐって入ったパトリシアの素直な感想だった。
 部屋には所狭しと本棚やショーケースまでが置かれている。
 各種のメディアのフィギアや模型が所狭しと陳列されている。
 ライトノベルや漫画の類は、まるで漫画喫茶か図書館と見まがう品ぞろえだ。
 (って、あれ成人向けの漫画じゃないの)
 明らかにR18と思しい漫画の一画もある。
 「おみそれしました」
 「いえいえ、このくらいは当然ですとも」
 パトリシアはメリーアンのディープなオタクぶりにすっかり敬服していた。
 メリーアンも誇らしげだ。
 (隠れオタでもディープとは思っていたけど、ここまでとは)
 パトリシアは戦慄さえ覚える。
 メリーアンに比べれば、自分は完全ににわかと言えることに気づいたからだ。
 気合を入れないと、全く話についていけない可能性もあった。
 
 「お、あれはもしかして…」
 「気づきましたか?」
 部屋の中央にあるテーブルに置かれたものに興味を引かれたパトリシアに、メリーアンがニヤリとする。
 それは、魔法を用いるゲーム機だった。
 こちらの世界は、21世紀の地球と比べて、情報の伝達という面では遅れている。
 だが、情報のアウトプットという面では、魔法を用いている分むしろ進んでいると言える。
 具体的に言うと、3Dや立体映像の技術が卓越しているのだ。
 カードゲームのデッキをゲーム機にセットするだけで、立体映像で戦闘を再現できるのだ。
 「家庭用のものとは…」
 町のショップに行けばアーケードのゲーム機はあるが、家庭用のものとなるとそれなりの値段がするはずだ。
 「オタ友達がいなかったのでいつも一人用でプレイしていたのですけど。
 パトリシア、デッキはお持ち?」
 「もちろんですとも」
 パトリシアはメリーアンの言葉に応じて、カードケースを制服のポケットから取り出す。
 “研ぎ澄まされし乙女たち”のデッキだった。
 お呼ばれするにあたり、持ってくるように言われていたのだ。
 「では、バトルと参りましょうか」
 「望むところ…うん…?」
 パトリシアは、ふとメリーアンの後ろにあるショーケースに飾ってあるものに気づく。
 (まさか…)
 侍が軽い気持ちで剣を抜いたが、相手が塚原卜伝か宮本武蔵と遅ればせながら気づいた。そんな心境だったかもしれない。
 
 “研ぎ澄まされし乙女たち”のルールは一般的なカードゲームだ。
 それぞれのしもべに攻撃力(AP)と防御力(DP)が設定されている。
 攻撃表示の状態では、APの値で負けるとその分だけライフを削られるが、守備表示ではしもべが撃破されるだけで、ライフに影響はない。
 ただし、場にしもべがいない場合は、プレーヤーが直接攻撃を受けてライフにダメージが加わる。
 攻撃と防御のいずれかを選択し、プレーヤーのライフを削り合う。
 ライフがゼロになった方が負け。
 レアカードを手に入れられるかの運も絡む。支援要素である魔法カードやトラップカードも充実しているため、高度な戦略が要求されるのである。
 美しいビジュアルのヒロインたちに定評があるが、決してただの萌えゲーではないのである。

 ゲームは、意外にもパトリシア有利に進んでいた。
 ライフはパトリシアが残り1300に対して、メリーアンが400。
 加えて、パトリシア陣営には強力なしもべが出ている。
 “ロングランス” AP1000 DP500
 “ハルバート” AP700 DP600
 に加え、
 “ミョルニル” AP2400 DP2000
 が出ている。
 強力なしもべを場に出すには“代償”として他のしもべを失う必要があるのがルールだ。
 苦労したが、なんとかミョルニルを出すことができた。
 (対して…)
 メリーアンのしもべは守備表示のままことごとく撃破され、今場にはしもべがいない。
 支援カードは、伏せカードが両陣営にそれぞれ一枚ずつ。
 「わたくしのターン。
  “重こん棒” AP400 DP300
 を攻撃表示」
 (え?)
 パトリシアはたじろいだ。
 “重こん棒”は特殊能力もない雑魚だ。
 しかも攻撃表示とは。こちらが攻撃すれば、それでメリーアンのライフはゼロになる。
 「さらに、“伏せカードの封殺”を使います。
 ターン終了」
 次のターンに限り伏せカードが使えなくなる魔法カードを用いて、メリーアンがターン終了を宣言する。
 (このまま攻撃すれば、普通に考えれば勝てるけど…)
 罠のにおいがぷんぷんする展開に、パトリシアは迷う。
 メリーアンはこのゲームをやりこんでいる。
 罠の可能性は極めて高い。
 だが、一方でただ札周りが悪いだけという可能性もある。
 彼女のしもべも、今まで順調に潰して来た。
 前述の通り、強力なしもべを場に出すためには“代償”が必要だ。
 強力なしもべが手札にあっても、“代償”となるものがいないために出せない可能性もある。
 (しかし、ここはあえて普通に攻撃してみるか)
 パトリシアはそう決断する。
 「“ミョルニル”が“重こん棒”を攻撃!」
 パトリシアの攻撃宣言と同時に、魔法で形成される立体映像に華麗なエフェクトが入る。
 大きくきらびやかな槌を持ったヒロインが突撃していく。
 が…。
 「伏せカードオープン!
 “無差別の雷鳴”」
 (しまった!)
 この段階になって、パトリシアはやはり罠だったと確信する。
 “無差別の雷鳴”。
 場に自軍のしもべが一体しかおらず、攻撃表示のときにのみ使用可能。
 金属製の武器を持ったしもべをすべて破壊する。
 そして、金属製の武器を持ったしもべ一体につき、400のダメージをライフに与える。
 「うわあああああああっ!」
 すさまじい雷鳴のエフェクトに、パトリシアは本当に雷に打たれたかのように錯覚してしまう。
 「私のしもべたちが…」
 パトリシアが場に出していたしもべたちは、全員金属製の武器を持っていたため、破壊されてしまった。
 加えて、パトリシアのライフは一気に100まで下がった。
 一方で、メリーアンの“重こん棒”は非金属製の武器であるため、適用外だ。
 (あの難しいカードをここまで鮮やかに使いこなすとは…)
 “無差別の雷鳴”は、一発逆転を狙える一方、使いにくくリスキーであることで知られる。
 自軍の金属製の武器を持ったしもべが出ていた場合、使ったがわもダメージを受けてしまう。
 加えて、非金属製の武器を持ったしもべはたいてい強くない。
 極めつけに、しもべが一体のみ出ていて攻撃表示を取っていないと発動できない。
 無差別の雷鳴を無力化する方法はいくらでもある。
 手を読まれていると、裏目に出て一方的にやられてしまう危険があるのだ。
 (だが、メリーアンはうまくやった。いや、私の慢心か…)
 結果から見れば、メリーアンの戦略に対する策はいくらでもあったはずだった。
 だが、攻撃を宣言する前は、まったく“無差別の雷鳴”の可能性に思い当たらなかった。
 話にならない。これが自分の限界だ。
 「ターン終了」
 攻撃を宣言した後にしもべを出すことはできないから、パトリシアはターン終了せざるを得ない。
 「わたくしのターン。
 覚悟はよろしいわね、パトリシア?」
 筋肉質の女が大きな木製のこん棒を振りかぶり、パトリシアに直接攻撃を浴びせる。
 伏せカードの封殺によって、伏せてあるトラップカードも発動できない。
 「参った」
 パトリシアの側に、敗北を示す表示が出る。

 やはり勝てなかったか、とパトリシアは思う。
 ショーケースに飾ってある盾の意味を噛みしめる。
 “研ぎ澄まされし乙女たち”の公式戦、去年の全国大会のチャンピョンであるジゼル・フローラ。
 なんと、メリーアンこそがジゼルだったのだ。
 授与式の写真はうまく変装しているが、よく見ればメリーアンだとわかる。
 オタばれを防ぐために素性を隠して参加していたらしい。
 「いやあ、さすがチャンピョンであるジゼル・フローラ様。
 私ごときが叶う相手ではなかったか…」
 「ぶっぶーですわ!」
 力なく嘆息するパトリシアに、メリーアンがまるでどこぞの生徒会長のようにびしっと指さしながら指摘する。
 「デッキの構成は悪くなかったし、後半までの進め方も上手でした。
 なのに、あと一歩と追い詰めながら詰めをしくじったんです!
 最後の最後であんな見え見えの罠にかかった。
 あり得ないことですわ!」
 大声でそういうメリーアンは、いつものお淑やかなクラス委員とは思えないものだった。
 「どこがいけなかったか、ひとつわたくしが徹底して指導して差し上げます!」
 「お…お手柔らかに…」
 あまりの迫力に、パトリシアに拒むという選択はなかったのであった。
 「パトリアさんにはわたくしと一緒に今年の全国大会を狙ってもらいます。
 シングルスでは決勝でまみえましょう。
 そして、今年はダブルスでも優勝を狙いますわよ!」
 「え…ええええええええっ!」
 余りに壮大な話に、パトリシアは一瞬ついて行けなかった。
 全国大会の決勝までは、地区予選、ブロック大会を勝ち抜かなければならない。
 たまに町のショップでゲームをする程度の自分には恐れ多いことに思えた。
 加えて、公式戦には一対一のシングルスと、二対二で協力して行うダブルスがある。
 メリーアンは自分を相棒として参加するつもりらしい。
 「今の私では、メリーアンの足を引っ張るだけだよね」
 「残念ながら。
 ですから特訓ですわ!」
 メリーアンの美しい碧眼に、炎が燃えているように思えた。
 
 メリーアンの特訓は厳しかった。
 パトリシアは「ぶっぶーですわ!」を連発されることになる。
 彼女は正に天才と呼べる実力と、すさまじい運気の持ち主だった。
 だが、それらにあぐらをかかず、常に研鑽と分析を怠らない。
 (言うことはいちいちもっともと思えることばかり)
 メリーアンから教えられる戦略は高度で、頭が痛くなりそうだった。
 だが、公式戦でメリーアンに恥をかかせられないという思いが、パトリシアに乾いた砂のごとく、教えを吸収させていた。
 (それに、本当にこのゲームが好きなんだな)
 メリーアンのゲームに対する情熱に触れて、パトリシアはまたメリーアンが好きになったのだった。
 

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