百合ハーレムファンタジー 婚約破棄された令嬢に転生したけど心は男のままだった

美少女クラス委員は隠れオタ

毎日楽しく一緒に

　06

　二カ月後。
　その日は、“研ぎ澄まされし乙女たち”の公式戦、全国大会ダブルス決勝の日だった。
　一方は、昨年度の優勝チーム。エリザとリュカ。
　そして、もう一方はジゼルことメリーアンとパトリシアのコンビだった。
　メリーアンは例によってオタばれを防ぐため、変装をしている。
　ここに至るまでも大変だったが、さすがは昨年の優勝チーム。手ごわい。
　（そろそろ決着が着くか…いや、そうならざるを得ない…）
　パトリシアは思う。
　互いに消耗し、もうカードが売り切れるところだ。
　レギュレーションを保つ意味で、墓場に置かれたしもべを復活させるカードや、墓場に行ったカードを再利用できる効果を持つカードは、枚数を制限されている。
　そうしないと、ほぼ無限に復活と再利用を繰り返すというループが成立してしまうからだ。
　互いに、もはや墓場に置かれたカードを再び使うこともできない状態だった。
　加えて、ライフがゼロになったプレイヤーが出たチームが負けのルールだから、後一撃食らった方が負けとなるだろう。
　それぞれのライフは

　メリーアン　３００
　パトリシア　３５０
　エリザ　　　３００
　リュカ　　　４００

　場に出ているしもべは

　メリーアン　ダガー　　　　　　ＡＰ　６００　　ＤＰ　５００
　
　パトリシア　ロングボウ　　　　ＡＰ　８００　　ＤＰ　４００
　　　　　　　バトルアクス　　　ＡＰ　１０００　ＤＰ　９００

　エリザ　　　龍槍　　　　　　　ＡＰ　１２００　ＤＰ　１０００
　　　　
　リュカ　　　グラディエーター　ＡＰ　１０００　ＤＰ　１２００
　　　　　　　投石器　　　　　　ＡＰ　１３００　ＤＰ　２００
　
　「さて、名残惜しいけど、そろそろ終わりにしましょうか」
　リュカが手札に手をかける。
　察するに、さらに強力なしもべを召喚するつもりのようだ。
　「おっと、いいのかな？普通に攻撃してきた方が健全じゃないの？」
　パトリシアの挑発に、リュカの手が一瞬止まる。
　パトリシアの伏せカードは気になるが、よほどのことがない限り普通に攻撃しても勝てるのだ。
　迷ったのが半分、今年初出場の分際で生意気な、とイラついたのが半分というところか。
　「最後は派手に行かないと客受けが悪いでしょ！
　グラディエーターと投石器を代償に捧げる。
　ダーインスレイヴ召喚！」
　代償に捧げられた二体が消失し、新たなしもべが現れる。
　
　ダーインスレイヴ　ＡＰ　２６００　ＤＰ　２４００

　かなりのレアカード、上位の戦力と言えた。
　ビジュアルも憂いを帯びた美女という印象で、人気も高い。
　「ダーインスレイヴ、バトルアクスに攻撃！」
　メリーアンとパトリシア陣営で、唯一攻撃表示となっているバトルアクスに攻撃の矛先が向く。
　下位のしもべとは比べ物にならない、きらびやかで派手なエフェクトが閃く。
　ダーインスレイヴが突撃していく。
　が…。
　「伏せカードオープン。
　愚かな罠！」
　パトリシアがトラップカードを発動させる。
　「なに！？」
　突撃して行ったダーインスレイヴが落とし穴に落ち、中に植え込まれていた杭に串刺しになる。
　「さらに合わせ技ですわ！伏せカードオープン。
　窮地の援軍！
　プラス、しもべの入れ替え！」
　息の合ったコンボで、メリーアンが伏せカードを発動させる。
　自軍のしもべが攻撃表示で、敵の攻撃でダメージを受けなかった場合にのみ発動できる。
　手札から代償を捧げることなく、無条件でしもべを召喚できるのだ。
　メリーアンの手札から、新たな、そして最強クラスのしもべが召喚される。

　グングニール　ＡＰ　３０００　ＤＰ　２７００
　
　８本脚の馬に跨った、黒髪の美しい戦乙女が持つ、輝く槍。
　加えて、しもべの入れ替えは、自軍のしもべの位置を字義通り入れ替えるものだ。
　使い方はいろいろあるが、敵の攻撃対象を強制的に変更することも可能になる。
　「しまっ…」
　リュカは絶句するしかなかった。
　パトリシアの言う通りだったのだ。
　落とし穴である愚かな罠は、投擲武器や、飛行可能なしもべには通用しない。
　投石器か、龍騎士である龍槍で普通に攻撃していれば勝てたのだ。
　最後に客受けが悪いからとつまらない見栄を張ったばかりに、勝てる戦いをうっちゃられることになった。
　目もくらむようなエフェクトがテーブルに閃く。
　ダーインスレイヴが、グングニールに返り討ちにされる。
　同時に、リュカのライフは当然のようにゼロになる。
　勝負がついたことを示す表示が、テーブルの上に浮かんだ。
　
　「決着！決着です！
　なんと、なんと！ダブルスを制したのは初出場のジゼル、パトリシアチームです！」
　会場に割れんばかりの声援が響き渡る。
　今年もエリザ、リュカチームがたやすく優勝するだろうという下馬評をひっくり返して、初出場のチームが勝った。
　しかも、ジゼルことメリーアンの実力はわかるにしても、全く無名のパトリシアはお荷物にしかならないだろうと誰もが考えていたのだ。
　それが見事メリーアンを支え、あまつさえ優勝してしまった。
　これで興奮しない方がおかしい。
　「ジゼル！ジゼル！」「パトリシア！パトリシア！」
　会場に２人の名を連呼する声が響き渡る。

　「メリー…いえジゼル！
　勝った、私たち勝ったよ！」
　「ええ！優勝です！パトリシアがパートナーだったからですわ！」
　パトリシアとメリーアンは抱き合って喜ぶ。
　もちろん出場するからには優勝を狙う気でいた。が、実際に激戦の果てに優勝してみると、感無量だったのだ。
　「パトリシア、本当に頑張ってくれましたね」
　「先生の教えが良かったからだよ。
　素人だった私を、ここまで導いてくれた」
　（厳しい指導に耐えた甲斐があった）
　パトリシアは本心からそう思っていた。
　にわかだった彼女は、バトルの基本から教わる必要があったのだ。
　メリーアンに「ぶっぶーですわ！」を連発されるたびに心が折れそうになった。
　だが、愛しいメリーアンと一緒にダブルスで全国を目指すのだという一念で、苦しい指導も乗り切って来たのだ。
　
　表彰式は滞りなく終わり、マスコミの取材も終了する。
　が、メリーアンは早くも次のことを考えているようだった。
　「さあ、パトリシア、明日の準備をしますわよ！」
　「ええ…？少し休憩してからでも…」
　今夜はメリーアンの部屋にお泊りをすることになっている。
　パトリシアはさすがに休みたいと思うが、メリーアンは違うようだった。
　「だーめ！明日になって慌てないように、いまから点検です！」
　「わかったよう…」
　（メリーアンのサブカルチャーに対する情熱を甘く見ていたか）
　そんなことを思いつつ、パトリシアは明日の準備にかかるのだった。

　そして翌日。
　「すいませーん！こっちに目線ください！」
　「あの、背中合わせになってもらえませんか？」
　パトリシアとメリーアンの周囲で、ひっきりなしに魔法式の撮影器具のシャッターが切られる。
　コスプレイベントに置いて、２人はすっかり花形となりつつあるが、今日は特に満員御礼だ。
　２人がしているコスプレは、日本で言えばニチアサアニメの変身ヒロインに相当する。こちらの児童向け漫画のヒロインだ。
　フリフリできらびやかな飾りが散りばめられたかわいいコスチュームが、美少女であるパトリシアとメリーアンによく似合っている。
　「羽ばたく勇気の翼！」
　パトリシアが着ているのは、主役の少女。
　ピンクがベースで、イメージは翼と光。ピンク髪のウーイッグをツーサイドアップにしている。
　「翻る希望の帆！」
　メリーアンはいわゆる追加戦士のそれだ。
　最初は敵として登場するが、いわゆる光堕ちをして味方となり変身する。
　赤がベースで、イメージは帆船と風。三角帽子とマントで船舶を表現している。

　「ねえパトリシア、わたくし、あなたに会えて本当によかったわ」
　「どしたの？改まって？」
　イベントの喧騒が一段落すると、メリーアンが声をかけて来る。
　「オタばれが怖くて、ずっと一人でやっていくことになるかと思っていました。
　でも、今はパトリシアがいる。
　一緒にゲームをしてくれて、コスプレしてくれて。それに、愛してくれて。
　こんなに嬉しいことはありませんわ」
　「私も嬉しいよ。
　メリーアンのおかげで、カードゲームの全国大会優勝なんてことが現実になったし。
　それに、一緒にコスプレするとすごく気持ちいいんだ」
　２人は笑い合う。
　（心が男だからってわけでもない。前世の記憶がよみがえったからってわけでもないかな。
　婚約破棄されて傷心気味だったからってことでも当然ない。
　いずれにしても、私はメリーアンを好きになっていた）
　そんなことをパトリシアは思う。
　いつものお淑やかで優等生なメリーアンも好きだ。
　ディープなオタクで、サブカルチャーに並々ならない情熱を燃やすメリーアンも好きだ。
　彼女の大輪の花のような笑顔を、ひたすら愛おしいと思うのだった。