21 / 26
03
話はずんで
しおりを挟む
07
「それは美味しそうですね。是非頂いてみたいですわ」
「はは…お嬢様のお口に合うかどうかとなると」
初美と祥二は、意外なほど会話がはずんでいた。
初美は実に多趣味多芸で、上流階級の嗜みだけではない。落語や野球なども造詣のある、広い視野と知的好奇心の持ち主だった。
わけても、食べ物に貴賤などない、おいしいものはなんでも好き、という考え方は、祥二も大いに共感できた。
「いやあ、お好み焼きのことでこれだけ意見があったのは、初美さんが初めてです。やっぱり鰹節も青のりも豪快に使いたいしねえ」
「そうですとも。けちけちせずに、景気よくどかっとかけるのがいいんですわ。歯に青のりがついたって、磨けばいいんですもの」
食い道楽のふたりはすっかり意気投合していた。
傍らで見ている佐藤と初美のおばの玉江も、その様子に嬉しそうだった。
(なんだか、これだけ人と話してて楽しいと思えたんは、初めてじゃなかろうか?)
祥二はそんなことを思っていた。
初美は聞き上手かつ話し上手で、こちらの言うことに自然な反応を返してくれる。
つい話し込んでしまうのだ。
「いやしかし、ふたりとも庶民的なものが好きだねえ」
横でコーヒーのおかわりを飲んでいた佐藤が、そんなことを言う。
彼も貴族趣味ということはないが、いいところの御曹司でエリートだ。
かたや若きやり手の社長、かたや深窓のお嬢様が、お好み焼きやたこ焼きの話題で盛り上がっているのが意外らしい。
「そういう佐藤のおじ貴は、やっぱり毎日ふぐやらステーキやら召し上がってるので」
混ぜ返された祥二の言葉に、佐藤が苦笑する。
彼の故郷はふぐが名物だが、さすがに毎日食うわけではない。
「まさか。俺だって、焼き鳥やらおでんやらは好きだぜ。下っ端の若造役人だったころは、サンマや野菜炒めを毎日おいしく頂いてたしな」
佐藤が豪放に笑うと、他の三人もつられて笑う。
「いいですのお、焼き鳥におでん。広島の生まれの田舎もんには、どうも高級な味っちゅうもんはわからんでして」
祥二は自嘲気味に言う。
地主の家の生まれで、決して貧しくはなかった。
だが、トロだの霜降り肉だの松茸だのの味が、今ひとつよくわからなかった。
ネームバリューだけで高い値段がついているとは言わない。
まずいとまでは思わない。
ただ、自分にはその良さがわからないというだけだ。
そこで、佐藤がふと“これだ”という表情になる。
「なら、初美さん。今度この若者を、良いお店に連れて行っちゃくれまいか?店構えやブランドだけじゃねえ。高いけれど美味しいところを教えてやって欲しいねえ」
「はい、よろこんで」
佐藤の言葉に、初美が満面の笑みで応える。
(え…?それって…)
祥二は悟った。有無を言わさず、初美とのデートの約束を取り付けられてしまったことを。
「それは美味しそうですね。是非頂いてみたいですわ」
「はは…お嬢様のお口に合うかどうかとなると」
初美と祥二は、意外なほど会話がはずんでいた。
初美は実に多趣味多芸で、上流階級の嗜みだけではない。落語や野球なども造詣のある、広い視野と知的好奇心の持ち主だった。
わけても、食べ物に貴賤などない、おいしいものはなんでも好き、という考え方は、祥二も大いに共感できた。
「いやあ、お好み焼きのことでこれだけ意見があったのは、初美さんが初めてです。やっぱり鰹節も青のりも豪快に使いたいしねえ」
「そうですとも。けちけちせずに、景気よくどかっとかけるのがいいんですわ。歯に青のりがついたって、磨けばいいんですもの」
食い道楽のふたりはすっかり意気投合していた。
傍らで見ている佐藤と初美のおばの玉江も、その様子に嬉しそうだった。
(なんだか、これだけ人と話してて楽しいと思えたんは、初めてじゃなかろうか?)
祥二はそんなことを思っていた。
初美は聞き上手かつ話し上手で、こちらの言うことに自然な反応を返してくれる。
つい話し込んでしまうのだ。
「いやしかし、ふたりとも庶民的なものが好きだねえ」
横でコーヒーのおかわりを飲んでいた佐藤が、そんなことを言う。
彼も貴族趣味ということはないが、いいところの御曹司でエリートだ。
かたや若きやり手の社長、かたや深窓のお嬢様が、お好み焼きやたこ焼きの話題で盛り上がっているのが意外らしい。
「そういう佐藤のおじ貴は、やっぱり毎日ふぐやらステーキやら召し上がってるので」
混ぜ返された祥二の言葉に、佐藤が苦笑する。
彼の故郷はふぐが名物だが、さすがに毎日食うわけではない。
「まさか。俺だって、焼き鳥やらおでんやらは好きだぜ。下っ端の若造役人だったころは、サンマや野菜炒めを毎日おいしく頂いてたしな」
佐藤が豪放に笑うと、他の三人もつられて笑う。
「いいですのお、焼き鳥におでん。広島の生まれの田舎もんには、どうも高級な味っちゅうもんはわからんでして」
祥二は自嘲気味に言う。
地主の家の生まれで、決して貧しくはなかった。
だが、トロだの霜降り肉だの松茸だのの味が、今ひとつよくわからなかった。
ネームバリューだけで高い値段がついているとは言わない。
まずいとまでは思わない。
ただ、自分にはその良さがわからないというだけだ。
そこで、佐藤がふと“これだ”という表情になる。
「なら、初美さん。今度この若者を、良いお店に連れて行っちゃくれまいか?店構えやブランドだけじゃねえ。高いけれど美味しいところを教えてやって欲しいねえ」
「はい、よろこんで」
佐藤の言葉に、初美が満面の笑みで応える。
(え…?それって…)
祥二は悟った。有無を言わさず、初美とのデートの約束を取り付けられてしまったことを。
0
あなたにおすすめの小説
if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
日露戦争の真実
蔵屋
歴史・時代
私の先祖は日露戦争の奉天の戦いで若くして戦死しました。
日本政府の定めた徴兵制で戦地に行ったのでした。
日露戦争が始まったのは明治37年(1904)2月6日でした。
帝政ロシアは清国の領土だった中国東北部を事実上占領下に置き、さらに朝鮮半島、日本海に勢力を伸ばそうとしていました。
日本はこれに対抗し開戦に至ったのです。
ほぼ同時に、日本連合艦隊はロシア軍の拠点港である旅順に向かい、ロシア軍の旅順艦隊の殲滅を目指すことになりました。
ロシア軍はヨーロッパに配備していたバルチック艦隊を日本に派遣するべく準備を開始したのです。
深い入り江に守られた旅順沿岸に設置された強力な砲台のため日本の連合艦隊は、陸軍に陸上からの旅順艦隊攻撃を要請したのでした。
この物語の始まりです。
『神知りて 人の幸せ 祈るのみ
神の伝えし 愛善の道』
この短歌は私が今年元旦に詠んだ歌である。
作家 蔵屋日唱
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる