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不覚にも
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08
「で、銀行の頭取のお嬢さんとデートした次の日に、あたしとデートと…」
「いいわけはせん。ひどいことしとると思うとる」
皇居近くにある、おしゃれなカフェの中。
じっとりとした目で自分を見る恵子に、祥二は開き直ったように応じる。
(いいわけしないんじゃなく、できないっちゅうべきか…)
さすがにやましさを感じる。
ふたりに堂々と二股をかけているに等しいのだから。
佐藤が強引にとりつけた、初美とのデートの約束は早々に実行された。
祥二はあまり乗り気でなかったが、それを顔に出すことができなかった。初美がとても楽しそうにしているのを見ていては。
それに、彼女が紹介してくれた店は、どれも本当に美味しかった。
値段だけのことはあると思える味だった。
ちょうどいいからと野球観戦をして、巨人の大勝利にそろって盛り上がった。(東京生まれはともかく、広島生まれが巨人ファンなのはご愛敬だ)
本当に、本当に初美とのデートは楽しいと思えてしまった。
だから、つい切り出すのが遅くなってしまった。
なんとか伝えたいことを口にする決心がついたのは、デートも終盤になってからだった。
「初美さん、デートの時になんじゃが…。隠しておきたくないから言うで。僕には…」
「ええ…。好きな人、いるんですよね?」
尻すぼみになる祥二に、初美が先回りする。
祥二はよもや、と思う一方、やはり知っていたか、とも思う。
初美は確かに深窓の令嬢だが、お花畑な化粧箱入りではない。
初めて会ったときから、それは何となくわかっていた。
「知っておったなら…なぜ…?」
祥二にはわからなかった。
女心がわかっているとは自分でも思わない。
だが、普通好きな人は、自分だけのものでいて欲しいと思うものではないか?
「わたくしは、祥二さんが好きですから」
大輪の花のような笑顔で、初美はそう言う。
「じゃが…」
「祥二さんがわたくしのことを好きになってくれるかは、別の話ですわね。でも、理屈ではないんです。麻布でお会いしてお話しして、わたくしは祥二さんを好きになってしまいました。自分に嘘はつけないんですの」
悪びれる様子も、後ろめたい雰囲気もない。
ただ、初美は自分の正直な気持ちを伝えていた。
「祥二さんに好きな人がいるのは、少し寂しいけど理解しています。でも、わたくしが祥二さんを好きでいることは…認めて欲しいんです」
そう言った初美の憂いを帯びた絵美は、本当に美しかった。
(そこまでわしを…)
祥二は、不覚にも感動していた。
その瞬間、ほんの一瞬だが最愛の人である恵子のことを忘れていたのだ。
「で、銀行の頭取のお嬢さんとデートした次の日に、あたしとデートと…」
「いいわけはせん。ひどいことしとると思うとる」
皇居近くにある、おしゃれなカフェの中。
じっとりとした目で自分を見る恵子に、祥二は開き直ったように応じる。
(いいわけしないんじゃなく、できないっちゅうべきか…)
さすがにやましさを感じる。
ふたりに堂々と二股をかけているに等しいのだから。
佐藤が強引にとりつけた、初美とのデートの約束は早々に実行された。
祥二はあまり乗り気でなかったが、それを顔に出すことができなかった。初美がとても楽しそうにしているのを見ていては。
それに、彼女が紹介してくれた店は、どれも本当に美味しかった。
値段だけのことはあると思える味だった。
ちょうどいいからと野球観戦をして、巨人の大勝利にそろって盛り上がった。(東京生まれはともかく、広島生まれが巨人ファンなのはご愛敬だ)
本当に、本当に初美とのデートは楽しいと思えてしまった。
だから、つい切り出すのが遅くなってしまった。
なんとか伝えたいことを口にする決心がついたのは、デートも終盤になってからだった。
「初美さん、デートの時になんじゃが…。隠しておきたくないから言うで。僕には…」
「ええ…。好きな人、いるんですよね?」
尻すぼみになる祥二に、初美が先回りする。
祥二はよもや、と思う一方、やはり知っていたか、とも思う。
初美は確かに深窓の令嬢だが、お花畑な化粧箱入りではない。
初めて会ったときから、それは何となくわかっていた。
「知っておったなら…なぜ…?」
祥二にはわからなかった。
女心がわかっているとは自分でも思わない。
だが、普通好きな人は、自分だけのものでいて欲しいと思うものではないか?
「わたくしは、祥二さんが好きですから」
大輪の花のような笑顔で、初美はそう言う。
「じゃが…」
「祥二さんがわたくしのことを好きになってくれるかは、別の話ですわね。でも、理屈ではないんです。麻布でお会いしてお話しして、わたくしは祥二さんを好きになってしまいました。自分に嘘はつけないんですの」
悪びれる様子も、後ろめたい雰囲気もない。
ただ、初美は自分の正直な気持ちを伝えていた。
「祥二さんに好きな人がいるのは、少し寂しいけど理解しています。でも、わたくしが祥二さんを好きでいることは…認めて欲しいんです」
そう言った初美の憂いを帯びた絵美は、本当に美しかった。
(そこまでわしを…)
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その瞬間、ほんの一瞬だが最愛の人である恵子のことを忘れていたのだ。
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