ゲイホストだったけど、異世界でカリスマ男妾になるから てか、男同士でも孕める？

第一章 ゲイホストが異世界に飛ばされたので

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『４月度指名数ランキング発表！　さあ、１位の栄冠は誰の手に？』
　ゲイ風俗店のホームページの掲示板に、そんな煽り文句が乗っている。
「あいつが１位とはなあ……」
　おしゃれなバーのカウンター。ウォッカトニックをあおりながら、今井里実の口を突いてそんな言葉が出る。
　先月度１位の同僚の源氏名はリオ。特別親しくもないが、それなりに知り合いだ。
　役者と言っても通用する容姿で長身細マッチョ。実際にモデルもやっている。が、中身が問題だ。口が悪く、話すことと言えば男がらみの悪口やホラ話ばかり。女で言えば性格ブスだ。ともあれ、仕事となれば爽やかな笑顔と軽妙なトークで愛想を振りまく。事情通で教養もあるから、客に話を合わせるのもうまい。オンとオフの切り替えがうまく、ギャップがすごい。客商売なのだし、外ヅラも才能なのだと言ってしまえばそれまでなのだろう。
　客から見れば、疲れた体と心を癒やしてくれる美しいホモ天使だろう。
　まあそれでも、それなりに長いくせに１位になれたのが先月初めてなのが彼の身の丈を表している。表裏がある人格は、少しばかり目利きがある客であれば見抜かれてしまうのだろう。
（でも……。そんな表裏野郎に僕は負けた……）
　そう考えると落ち込んでしまう。源氏名メグルこと里実の指名数は、先々月に続いて２位。その前もさらにその前も同じだった。１位は毎回代わるにもにもかかわらず。
（努力してるのに……。表情だって愛想だって身体だって……。新聞も毎日ちゃんと読んでるし、聞き上手褒め上手だって自負もあるのに……）
　四分の一ほど残ったウォッカトニックを一気に空けてしまう。
　商売であるからには、いつだって必死になっている。
　大学を卒業して就職に失敗したのが、ゲイホストを始めたきっかけだった。
　ブラック企業がホワイト化することはまずありえない。だが、ホワイト企業がブラック化するのは簡単だ。と、わずか一年の勤続の中で学んだ。それまですこぶる評判のよかった会社なのに、役員の交代をきっかけにみるみる堕落した。コンプライアンスは消え失せ、犯罪行為を含むありとあらゆる不正が蔓延した。ごくごく短い間に。
　上司のパワハラに労基署を通じて抗議したら、スラップ訴訟を起こされた。弁護士を立てて反訴を起こすと、さすがに会社側もヤリ得は通らないと悟った。「ヤクザの友達呼ぼうか」「殺されないとでも思ってるのか」。ちっぽけなプライドを傷つけられたことで、つい出た脅迫を録音しておいた。話はとうとう警察沙汰になってしまう。
　そこまでなっては、さすがに企業として立ちゆかない。悪辣な会社の顔をいつまでも立てるほど、銀行も求人サイトもハローワークもお人好しではない。人が辞めていき代わりも入ってこない。落ち目になると、たちまち金融機関に身ぐるみをはがされる。世の常だ。感染症の流行に伴う一時的な事業の閉鎖。という名目で無期限の休業に入った。実質的な倒産だ。が……。
（無職になった事実に変わりはなかったんだよな……）
　おかわりを注文しながら思う。
　確かに会社との戦いに勝った。が、得られたのは少しばかりの示談金と溜飲が下がった心境だけ。２３歳にして失職してしまったという事実が重くのしかかった。感染不況で再就職は厳しい。兄弟が多く、実家に頼れる状態でもなかった。畢竟、なにがなんでも金だけは稼いで蓄えておく必要があった。