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第二章 ツンデレ王子様はメス堕ちかわいい

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 時間は少し遡る。
「じゃあ、行ってきます。後よろしく」
「おう。頑張ってな。名誉なことだし、粗相のないように頼むぞ」
「うちの店の看板に泥ぬらないでくれよ」
 こちらでの正装に身を包んだ里実を、支配人と高級男妾の赤毛が送り出す。他の男妾たちも、やっかみながらもなんだかんだで笑顔で見送ってくれている。
 人力車を手配し、石畳の道を目的地に向けて走る。
 余談だが、人力車は里実がこちらのあり物を集めて再現したものだ。徒歩では具合が悪いが馬車では大げさ、という程度の移動に重宝している。最初は男妾館への送り迎えに数台が使われているだけだった。が、便利だという理由でたちまち王都中に普及した。走らせるのに必要なのは体力だけだから、失業対策にも寄与している。
(しかしよもや……。王宮にお召しとはなあ……)
 次第に近づく目的地を見ながら、里実は思う。
 王国第一王子、アレクサンドル・カレコフの男色指南役を拝命した。それはまだいい。どこの馬の骨ともわからぬ男妾風情が畏れ多いとはまだ思うが。しかし、王宮に王子直々に召し出されるとは思いも寄らなかった。
『他では気兼ねしてしまうし、お金も余分にかかる。王宮の私の寝所に来てもらえるとありがたい』
 王子の鶴の一個でそう決まったのだ。
 まあ、次期国王を男妾街に呼び出すわけにもいかない。どこかの高級な宿か、あるいはアレクサンドルの母方の実家である侯爵家の離れを借用して。そんな予定を考えていたのだ。男を悦ばせる以外に能もない自分が、突然雲上人たちの会員制クラブに招かれる。緊張でガチガチになっていた。
「里実様でいらっしゃいますね。お待ちしておりました」
 きらびやかな軍服に身を包んだ警衛が、背筋を正して人力車ごと里実を迎え入れる。王子の手紙の偉大さを痛感する。『この手紙を持って王宮の裏口に回られたし。話は通してある』そうしたためてある。そうでなければ、裏口とは言え王宮の敷居をまたぐことなど自分にはあり得ない。
「よくいらしてくださいました。こちらです」
 気の強そうな美人のメイドが、客人を案内する。
(内心では見下されてるか……はたまた敬意を払われているか……)
 メイドの背中を見ながらそんなことを思う。仕事で高貴な方々に関わるようになって学んだ。貴族社会は華やかなのは上っ面だけ。内実はドロドロしている。まあ、元いた世界でもリアルに似たようなものはあったが。どこぞの島国の王室とか。
 表面上ニコニコして丁寧に接してくれていても、内心は全く違うことはよくある。罵詈雑言を吐いているか、嫌悪の表情を向けているか、下賎な輩と馬鹿にしているか。とにかくわかったものではない。
「王子殿下。失礼致します」
「うむ。入りたまえ」
 メイドが観音開きの大きなドアをノックする。中からイケボが応答する。ドアが静かに開かれる。
 部屋の中央には、天使が降臨したかと思うような美しいイケメンが立っていた。
 18歳。現国王の4人目の子にして長男。背は170センチあるかないか。身体は細いが、ヒョロリとしたところはない。鍛えているのだろう。なにより、その輝くような容貌はどうだ。流れるような金髪に透き通った碧眼。中性的でありながら、整い凜とした顔つき。神が作りたもうた、生きた芸術。おおげさでもなんでもなく、そう思えた。
(か……彼が王子様……。次期国王陛下となるお方……。すごい……きれいだし……気高い……?)
 思わず見とれてしまう。こんなにきれいな男がこの世にいるとは、信じられなかった。しかも、自分は今夜彼を抱くのだ。
「おほん……!」
 メイドの咳払いで、白昼夢から帰る。
「王子殿下におかれましては、御機嫌麗しく」
 ひざまずき、右手を胸に当てて頭を垂れる。支配人と侯爵にスパルタで習った王宮式のあいさつだ。何百回と練習したのに、本番となるとうまくできないものだ。
「面を上げよ。私は堅苦しいあいさつが苦手だ。会えてうれしいよ、サトミ・イマイ殿」
 王子は寛容だった。友人のように握手を求めてくる。もちろん里実に断る理由はない。大きいが繊細できれいな手をにぎる。温かい。やはり男の手だった。欲を言えば、あまり笑わないのがもったいない。にっこり微笑めばもっとイケメンだろうに。
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