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01
バードフェザー・ブローンルックの反乱
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01
201X年。世界は突如として7つの”時空門”によって、異世界とつながってしまう。
”時空門”から現れたのは、異世界の国家の使節たちだった。
戦国時代が続き、疲弊しきっていた異世界の国家たちは、地球の国家に助力を求めて来たのだった。
さりとて、地球側は困り果てた。異世界の国家は互いに敵対か、潜在的敵対の関係にあり、軍事的に支援すると言うことは、地球の国家間の戦争に発展する危険があったのだ。
最終的に決定された方法は、正規の軍隊でなく義勇軍という形で異世界の各国に軍を派遣すること。
すなわち、代理戦争であった。
ロランセア、ナゴワンド両大陸に武力の均衡の上に立つ平和を実現するという構想は、結果としては失敗に終わった。
かつて異世界に君臨した覇権国家”帝国”の末裔を自負するドゥベ公国は、他国と同列に扱われることを良しとせず、覇権国家の再建をもくろんだのだ。
ドゥベ公国から周辺国に対する大規模な軍事侵攻が開始される。世にいう”ドゥベ戦争”である。
その結果はドゥベ公国の敗北に終わった。だが、戦争が終わっても、両大陸に平和は来なかった。”ドゥベ戦争”はあまりに多くの憎悪と怨嗟を生み過ぎた。両大陸各地で反乱や紛争が起こり、事態は”ドゥベ戦争”以前よりも悪化していく。
わけても”自由と正義の翼”を名乗る反乱組織の破壊工作は苛烈を極め、あと少しで地球と異世界双方に壊滅的なダメージが加えられるところだった。
2つの世界全域にに震度9以上の地震を引き起こし、全てをリセットするという計画は義勇軍によってかろうじて阻止され、なんとか両大陸に平和が訪れたのだった。
多くの血と屍の上に築かれた平和ではあったが。
だが、異世界は両大陸が全部ではない。両大陸に一応の平和が訪れた後は、大陸の外にある国家や勢力の存在が問題になった。
大陸の8つの国で構成される8か国協商とはちがい、大陸の外には、地球の国家や軍に対して不信感をもつ者たちが少なからずいたのだ。
また、戦災で疲弊した8か国協商の構成国にちょっかいを出そうとする国家や勢力も出始めた。
最終的に決定されたのが、8か国協商を発展的に解体し、強力な権限と広範な裁量権を持つ国際機関を設立することだった。”環大陸連合”の誕生である。
”環大陸連合”指揮下に設けられた平和維持軍の統合幕僚本部には広範な裁量権が認められ、各国の義勇軍の一部が平和維持軍としてその指揮下に入ることとなる。侵略や反乱、海賊行為などの対処に当たることが彼らの仕事となった。
寄り合い所帯で互いに言葉も通じているか怪しい有様だったが、内輪で揉めている場合ではないという認識だけは一致していた。”自由と正義の翼”動乱のようなことが再び起きないようにするためには、妥協は許されない。古い体制を破壊するより、新しい体制を作り、維持していく方がよほど難しい。異世界で戦い続けて来た平和維持軍将兵たちは、そのことを誰よりも知っていたのだ。
平和維持軍の果断で必死な行動は、やがて両大陸だけでなく異世界のより多くの範囲に平和と安定をもたらしていくことになる。
だが、平和が訪れると、平和の本質と価値を見誤る者が出て来るのも世の常だった。
平和をあって当然のものと勘違いし、それがどれだけの犠牲の上に築かれたものかを理解しない者たち。平和のために、将兵たちがどれだけの血を流し、苦労をしてきたかを顧みない者たちが。
地球と異世界双方に、統合幕僚本部の広範な裁量権はシビリアンコントロールの逸脱を許すものとして非難する動きが出始めた。
マスコミもその尻馬に乗る。統合幕僚本部が現場の判断を尊重した動きを、職務怠慢、監督不行き届きと結果から見て非難するキャンペーンが張られた。
選挙の人気取りしか頭にない政治家によって、ある現場指揮官が部下を守るためにやむなく下した攻撃命令がやり玉にあげられることもあった。
ともあれ、戦いの中に絶対の正義はないのも事実で、平和維持軍の職権乱用や治安破壊などの証拠が出て来た事例も枚挙に暇がない。
地方によっては平和維持軍は鬼のように怖れられ、反平和維持軍の大規模なデモまでが起きる有様では、現状維持にも限界があった。
そんな流れの中で、平和維持軍内部には2つの派閥が形成されていく。1つは、現状通り統合幕僚本部の裁量権を認めた上で、緩やかに改革を進めるべしとする”佐幕派”。もう1つは、世論に対する身の証を立てる意味で、統合幕僚本部の権限の大幅な縮小、場合によっては解散もやむなしとする”一新派”である。
地球と異世界の各国の国政選挙で、平和維持軍の権限を縮小すべしという勢力が多数を占めると、”一新派”が有利になっていく。
一方で、最前線の現場の将兵には”佐幕派”が多く、シビリアンコントロールの美辞麗句の元に裁量権が縮小されたことで、軍事行動に支障が出始めたことで、彼らは”一新派”への敵意を強めていく。
平和維持軍も官僚主義化が進み、特に現場を知らない人間たちは、自分たちの面子や出世のことを第一に考えるようになっていたことも、”佐幕派”の怒りに油を注いでいた。
そしてついに、ある作戦において現場から上がって来た作戦中止の上申が握りつぶされ、艦隊の進撃が強行された果てに、護衛艦”いなづま”と”巡洋艦”シャイロー”が異世界の海洋生物の攻撃を受けて大破航行不能のダメージを受け、200人もの戦死者が出る事態が発生する。
あまつさえ、責任を問われることを怖れた幕僚たちによって、その事態は現場の報告義務違反というねつ造された報告がなされることになる。
ここにあって、いよいよ”一新派”と”佐幕派”の対立は不可避となる。
折悪しく、統合幕僚本部の幕僚の中でも”佐幕派”の有力者だった、イェーツ・トークリバー大将が急死。いよいよ”佐幕派”は壁際に追い詰められることになる。
極めつけに、統合幕僚本部の副議長で、”佐幕派”の精神的支柱と言える存在だった、オスト―・コーメ・カイザー大将が、突如として贈収賄と業務上横領で起訴される。
これによって、「国策捜査だ!」と、”佐幕派”の怒りはついに爆発することになる。
”環大陸連合”の司法当局と、平和維持軍の法務は説明をしようとしたが、激昂した”佐幕派”将兵たちは聞く耳を持たなかった。
国策捜査かどうかはともかく、この状況を”佐幕派”の一掃に利用しようという動きは平和維持軍と各国政府の間に確かに存在した。
また、異世界の各国も国連に加盟し始めていたことを受けて、これを機に平和維持軍を国連の指揮下に置こうという動きさえ出始めた。
当然のようにというか、国連がいかに力を持たず、どれほどなにも決められないかを知っている”佐幕派”将兵たちにとって、これは最悪の事態だった。”ドゥベ戦争””自由と正義の翼”動乱の時でさえ、ああでもないこうでもないと不毛な議論を行っていただけの機関になにができるというのか。
”佐幕派”将兵たちは、いよいよ武力蜂起もやむなしという方向へと突っ走っていくのである。
02
「こちらレヴィル01!既に8機を喪失!増援を要請する!」
「くそ!ことごとくあの、シーラプター4機の部隊に!」
突如として反旗を翻し、攻撃をかけて来た”佐幕派”将兵たちを迎え撃つJ-20の飛行隊のパイロットたちが悲鳴を上げる。
反乱を起こした”佐幕派”に所属するシーラプターことF-22Nとアドバンスドホーネットを駆る”フェンリル隊”と、彼らの戦いは完全なワンサイドゲームだった。暴れまわるF-22Nの前に、最新鋭のステルス戦闘機であるはずのJ-20は手も足も出ないまま一方的に撃墜されていく。
ゴオオオオオオオオオオオッ
「くそ!後ろにつかれた!2機ついてくる!」
「なんて連携力だ!やつらテレパシーでも使ってるのかよ!?」
圧倒しているのは、必ずしも性能差ではなかった。空戦において、敵1機に対して2機以上で当たるのは現代においても定石ではあるが、”フェンリル隊”のそれは別次元のものだった。まるでテレパシーで意思疎通しているかのように息があったチームワークには付け入るスキが全くない。こちらが2機の機体を追跡すると、別の2機がいつの間にか後ろに回り込んでいるのだ。
ゴオオオオオオッ
「くそ!これが”群狼”と呼ばれる所以かよ!」
「ミサイルアラート!アムラーム接近!ちくしょおおおおっ!」
体制不利と見て撤退するか、一度距離を取り、ロングレンジの戦いを試みたJ-20は、戦闘の外周監視に徹しているアドバンスドホーネットに後ろから撃たれることになる。
もはや迎撃に上がった部隊は、敵の攻撃から艦隊や地上基地を守るどころか、自分たちの身を守ることさえままならない有様だった。
「こちらフェンリル1。敵要撃部隊沈黙。全飛行隊、予定通り敵艦及び敵施設への攻撃を開始せよ!」
F-22Nのコックピットに収まるイーサン・博斗・港埼中佐が無線で同志たちに呼びかける。彼らにとっては、”一新派”に与する者だけでなく、現状の平和維持軍上層部の言いなりになる者も”敵”でしかなかった。
3機のF-22Nがちゃんとついて来ていることを、振り返って確認する。
美しい。と港埼は思う。両翼の、ちょうど折りたたみ部分より外を、識別のため鮮やかな青にリペイントしたF-22Nは、単純に美しく、かっこよく思えた。これなら士気も上がることは間違いない。
塗料は新しいステルス塗料だからステルス性能に影響はない。問題があるとすれば視認性がやや上がってしまうことだが、それは敵味方の識別及びかっこよさと天秤にかけて、やむなしとされた。
かっこいい。これは非常に重要なことだった。組織にとって将兵たちのモチベーションの維持は簡単ではない問題なのだ。
なにせ自分たちは、これから平和維持軍という腰抜けだが巨大な組織に喧嘩を売るのだから。
ロランセア大陸の北端にあるドゥベ公国領、ブローンルック半島は、古くから交易や漁業で栄えてきた土地だった。南側に交通の難所である、標高最大5000メートルのバードフェザー山脈を臨む。
この立地条件のため、陸路で内地と往来することが困難であった事情から、造船や航海が盛んになり、いくつもの港湾都市が誕生し、栄えてきたのだ。
現在は平和維持軍の駐屯地兼演習地として用いられている。住民の間には騒音や、基地を狙ったテロや犯罪を懸念して反対する者も多かったが、平和維持軍は金払いがいいし、なにより”ドゥベ戦争”からこのかた、海賊の被害に悩まされている実情もあった。
平和維持軍は大事なお得意さんであるとともに、これ以上ないほど頼もしい番犬であったのだ。
だから、平和維持軍同士の戦闘が起きている状況は完全に寝耳に水の話だった。
まあ、冷静に振り返れば、平和維持軍に激しい派閥抗争が起きていることはみんなが知るところだったし、”佐幕派”の幕僚が突然起訴されたことは、一般の間でも国策捜査の可能性を怪しむ声が上がっていたのも事実だった。
ともあれ、突然一部の将兵が武装蜂起して味方であるはずの平和維持軍を攻撃し始めるとは思いもよらなかったのだ。住民たちにできたことは、急いで避難の準備をすることだけだった。
さて、今回反乱を起こした港埼らはどのような人物たちなのか。
ここ、ブローンルック半島には、海軍教導団と呼ばれる航空部隊の拠点が置かれている。表向きは平和維持軍の空母艦載機部隊の指揮官を養成する機関という建前だが、実際にはバリバリの実戦部隊だった。
特に海を挟んだ場所において、暴動や騒乱が起こった場合に地上の本拠地より抽出され、空母に配備されて多大な戦果を挙げて来た。わけても、”ドゥベ戦争”の戦中戦後に脱走した旧ドゥベ軍や多国籍軍の反乱兵たちは依然として平和維持軍にとっては脅威だった。地球製の近代兵器を持ち、場数も踏んでいる反乱兵たちに対するに当たって、高い技量を持ち実戦経験も豊富な教導団のパイロットたちは重宝された。
ただそれだけに、危険な最前線では現場の判断が最優先されるべきと考えるものが多かった。”一新派””と佐幕派”の対立が激化すると、当然のように教導団はほぼ全員が”佐幕派”についた。
そして、カイザー大将の突然の訴追には全員が激怒するとともに、このままでは”佐幕派”の自分たちはどうなるのか。そして、平和維持軍はどうなってしまうのか、という不安を抱いた。
やがて、教導団内部の不穏な動きを察知した軍上層部によって教導団の主だった隊員たちに配転や出向命令が出された。事実上の左遷、粛清である。教導団の将兵たちはそれに従わず、ついに武力蜂起に踏み切ったのだった。
03
一方、平和維持軍軍事拠点の対空防御陣地は、親の仇のように爆撃のシャワーにさらされていた。対空火器が4機のF-23Nの誘導爆弾や対地ミサイルによってピンポイントで破壊され、おまけとばかりに4機のFA-18Eが誘導爆弾やロケット弾で拠点をつぶしていく。地上で攻撃されている側にとっては、鮮やかな青にリペイントされた主翼が、伊達者ぶっていて嫌味に感じる。
「ちくしょう!このままじゃ全滅しちまう!」
「航空隊は何をしてるんだ!?エアカバーはどうした!」
対空ミサイルや対空砲火は、ステルス性能に優れた4機のF-23Nを全く捕らえることができなかった。このままでは、自分たちは陣地を捨てて撤退するほかない。そうなったら基地の中枢が裸になってしまう。
「見ろ!Su-27が来てくれた!助かったぞ!」
対空陣地から歓声が上がる。敵はわずか8機。12機の味方に対抗できるはずもない。
まして、パイロットたちは先の”ドゥベ戦争””自由と正義の翼”の戦闘データから、F-22Nの弱点を知っているはずだ。F-23Nは試作機であるYF-23と比べて大きな外見の差はない。唯一の目立つ違いは、主翼の前端が延長され、フィン状になっていることくらいだ。おそらく、2枚の傾斜した尾翼が水平、垂直尾翼を兼ねている構造上、機動性に難があるという欠点は根本的に解決されていないだろう。
「ああ!味方が落とされる!?」
だが、防御陣地の兵たちの希望は、一瞬にして絶望へと変わる。一度低空まで降下したF-23Nが、軽やかに機体を翻し、後ろについていたSu-27に捻りこみをかけ、あっさりと撃墜したのだ。
「なんてことだ...」
双眼鏡で見ると、何が起きたのかがよくわかった。F-23Nの主翼前端のフィンからカナード翼が展開され、複雑に動いて見事な機体制御を見せている。
引き込み式のカナード翼を持つことで、空母への発着艦時の揚力に余裕を持たせるとともに、弱点だった機動性を向上させているということか。カナード翼を引き込み式として、巡航時はしまっておくことで、ステルス性能の低下を最小限におさえているというわけだ。
その発想の斬新さに感心する兵たちの真ん中に爆弾が降り注ぐ。痛みを感じる暇もなく、部隊全員が消し炭となった。
「こちら、フレキ1。対空防御施設の破壊を確認。予定通り滑走路及び格納庫への攻撃を開始する。全機、後れを取るな!」
F-23NとFA-18Eで構成される戦闘攻撃隊であるフレキ隊の女性隊長、サニエル・ワンサイト・ハーマン少佐の言葉を合図に、基地施設そのものへの攻撃が開始される。
救援に駆けつけてきたSu-27は9機が撃墜され、残りは遁走した。
地上施設は丸裸で狙い放題だ。
”遅く決める者は、ただそれだけで道を誤る者だ”という言葉を思い出す。確かさる日本の文豪が描いた漫画の登場人物のセリフだったか。地上では滑走路や格納庫ごと多数の航空機が地上撃破されていく。
即断即決ができない軍隊はこうなるものだといういいサンプルだ。ハーマンは思った。どうせ現場指揮官が司令部にお伺いを立てている間に間に合わなくなったというところだろう。
「全機、よく見ておけ。このまま進めば、平和維持軍全軍がああなる。それを防ぐための蜂起だ」
ハーマンはせっかくなので、部下たちを叱咤するのに、下界の光景を利用させてもらうことにする。どうせ軍上層部の隠蔽やマスコミの偏向報道で、この戦場のことは大衆に正しく伝えられることはないだろう。ならば、自分たちが記憶にとどめておくべきだ。犠牲になった者たちのためにも。
「全機、予定通り攻撃態勢に入れ!ちときついが、我々の双肩に同志たちの命運がかかってる!」
所変わってこちらは半島北端の軍港。6機のF-35BJが軍港に停泊する艦艇に攻撃をかけるべく海上から低空で接近していた。
隊長の水中田宗次二等海尉率いる多目的攻撃隊、スコル隊の動きには、一糸の乱れもない。青に塗装された主翼が水面に良く映えて、鳥の群れのような美しささえ感じられる。
主翼には各自4発の93式空対艦誘導弾を装備している。ステルス性能の面からすると非常に危険な用兵だが、今回に限っては6機全機に持てるだけの対艦ミサイルを装備させる必要があったのだ。
『しかし、本当にみんな沈めるんで?』
「後ろから撃たれなくないなら、選択の余地はないぞ」
停泊する多数の艦艇。昨日までのお仲間を全て対艦ミサイルで無力化するという話は、決して気持ちのいいものではない。副隊長の気持ちは水中田には痛いほどわかった。しかし、すでに自分たちは反乱を起こしてしまっているのだ。手心を加えれば、彼らによって自分たちは追撃されることになる。
「艦対空ミサイル来るぞ!全機散開!回避しつつ各個に攻撃開始!」
軍港から放たれて来る多数の対空ミサイルを急旋回して回避しつつ、スコル隊は対艦ミサイルによる攻撃を開始する。
地上部隊と違ってこっちは判断が早いな。水中田は思う。この距離で、しかもヘリによる間接射撃指示もなしでは艦対空ミサイルの命中弾は期しがたいが、とにかく弾をばらまいて敵を追い払うというやり方は間違っていない。まあ、このスコル隊に通用するものではないが。
6機のF-35BJから一斉に対艦誘導弾が放たれ、狙った目標にことごとく命中していく。フリゲート”三明”が、護衛艦”はたかぜ”が、駆逐艦”長春”が、駆逐艦”キッド”が、次々と直撃を受けて炎に包まれていく。
さすがは改良型だ。水中田は思う。新しい対艦誘導弾は、敵艦のレーダー波を感知すると、旋回して複雑な機動を取りながら肉薄するようにプログラムされた高性能AIが搭載されている。軍艦の対空迎撃というのは先読みがものを言うから、迎撃に応じて複雑な回避行動を取るミサイルに対しては命中精度がどうしても下がる。
それにつけても、これだけの命中精度は驚嘆に値する。
「目的は果たした。長居は無用だ」
水中田はそう指示して機体を反転させる。他の5機もそれにならう。
二兎を追う者は一兎をも得ずは戦場では常識だ。自分たちに同心せず、脅威となる艦艇の無力化という任務は果たした。後はさっさと帰還するまでだ。
沖合を航行中の同志によって運用される軽空母”イラストリアス”の座標をコンピューターで概算し、そちらに進路を取る。電波を出してもらえばもっと確実なのだが、今はまだ”イラストリアス”が我々の同志となったことはできれば知られたくない。無線封止解除の必要なしと判断して、水中田はコンピューターの計算を信じて飛ぶことにした。
「わかりませんで済むと思うか!反乱部隊の情勢を調べて報告しろ!
とにかく、やつらに何も渡すな!装備や機密情報は破壊するんだ!」
空母”遼寧”の司令部区画では、艦隊司令のロシア義勇兵、セルゲイ・カモフ少将が電話に向けて怒鳴り声をあげていた。ともあれ、反乱部隊の動きがあまりに速いのに対し、こちらは司令部も幕僚もてんで反応が悪い。それに加えて、通信系統やネットワークにウィルスがバラまかれ、部隊同士、艦同士の連絡さえままならないのだから、制圧されてしまうのは時間の問題だと思われた。
実際この”遼寧”でも反乱がおきて、艦内はほとんど戦わずして敵の手に落ちていく。艦の中に敵の協力者が多数配置されていて、特殊部隊を呼び込んだらしい。この司令部区画も時間の問題だった。
「仕方ない!私の責任で他の基地に救援を要請するぞ!回線開け!」
本来なら、他の基地に泣きつくのは最後の手段だ。それは軍人としての無能、事実上の降参を意味するのだから。司令部にお伺いを立てずに、艦隊司令が救援要請を出すのは規則違反だが、今はそんなことを言っている時ではない。
「そんなことをされては困ります」
無線に向かっていた通信長の冷たい声が聞こえる。嫌な予感がして通信長の方を見ると、その手にはワルサーPPKが握られていた。
「通信長、お前もか...!」
カモフがそう言った瞬間、司令部区画に銃声が響く。通信士2人が、小銃で司令部区画の入り口を守っていた警衛2人を隠し持っていたグロック19で射殺したのだ。そのまま入り口に積まれていたバリケードも撤去されてしまう。外でサプレッサーを使っていると思しいくぐもった銃声がして、ついでどさりと重い音がする。外の見張りもやられたらしい。
「ジェームズ!」「ボンド!」
非常にわかりやすい合言葉で味方の存在を確認し、紺の戦闘服に身を包んだ特殊部隊が突入して来る。
「ちっ!SASか...?道理で手際がいいわけだ...」
昆虫を思わせるフェイスガードと通信機を兼ねた丸眼鏡のガスマスク。防弾性能より頭をぶつけないことを優先した軽量のヘッドガード。音声増幅器によって、忍び足の音さえ聞き逃さず、逆に爆風や大きな音は遮断するヘッドホンのような形のイヤーガード。そして、各種のアクセサリーが取り付けられ、使い込まれた感じのHK MP5A5。
見間違いようがない。イギリス陸軍特殊空挺部隊、SASのテロ対策ユニットだ。
やつらが反乱分子側についたとなると、すでに”遼寧”は反乱分子の手に落ちていると見るべきだろう。
「司令、我々の指示に従ってください。悪いようにはしません」
聞きなれた声に、カモフはぎょっとする。カーキ色の略服にボディーアーマーを身に着けたその男は、自分の腹心の部下で友人でもあったはずの人物だったからだ。イギリス海軍からの出向組で、艦隊の主席参謀、エルダー・ヒュージ・クート中佐だった。
「なるほど、パイロットどもだけでこんな組織だった反乱は不可能だと思っていた。だが、君が反乱に加わっているとなれば、話は180度変わってくる。
たしか君は、F-35Bのパイロットをやっていたこともあったな。その時のご縁というわけか」
カモフの胸に、焦りを通り越して諦念さえ湧き上がってくる。クートの参謀や指揮官としての有能さは、こちらの世界に派遣されてからずっと見て来た。
もはや、この事態は跳ね返りどもの武装蜂起ではすまないだろう。おそらく、戦争の様相を呈するはずだ。それこそ、劉備玄徳に諸葛亮が軍師としてついたようなものだ。
「もう一度申し上げます。司令、われわれの指示に従ってください。
司令部に向けて、”反乱は鎮圧された”と報告してください。そうすれば悪いようにはしません」
クートはカモフとの問答に付き合う気はないというように、静かな声で言う。
「偽情報というわけか。私が従うと思うか?」
いくら司令部が馬鹿揃いでも、”反乱が鎮圧された”などという情報が信用されるはずがない。しかし、責任を取りたくない責任者たちにとって、その偽情報はなにもしない格好の口実になってしまうだろう。後で”偽情報に騙された”と言い訳すれば責任を取らなくて済むと思っている人間は1人ならずいる。
反乱部隊の時間稼ぎには十分すぎる効果があるはずだった。
「われわれの組織の前身は、あなたが主催した”美武狼士塾”です。われわれはあそこで大きな感銘を受けた。あなたには感謝しています。
できればあなたを撃ちたくはない。
今は軍規や面子ではなく、国に残した奥さん子供の元に帰ることを第一に考えてください」
クートの言葉に、カモフは目の前が真っ暗になる気分だった。”美武狼士塾”はカモフが手慰みに開いていた勉強会で、元は資格や技能、話術などを身に着けるための自主ゼミのようなものだった。
それが、平和維持軍内部で”一新派”と”佐幕派”の対立が激化するに従い、いつの間にか”佐幕派”の中でも過激分子のたまり場になっていたのだ。しまいには政治団体の様相を呈し始めた。自分はこんなつもりで勉強会を開いたわけではないのだが...。
「もはや私が何を言っても聞く耳はもたないだろうが、ひとつ覚えておけ。
他人は欺けても自分は決して欺けんぞ!
わかっているはずだ!破滅を目の前にしてこんなつもりではなかったと救いを請うても、誰も聞くものはいないのだ!
その時になってざまを見るがいい!」
カモフがベルトに挟んだピストレット・スチェッキンを構えるより早く、SASのコマンドたちのMP5A5が火を吹き、カモフを蜂の巣にしていった。
「各班、状況知らせ」
『CIC制圧』『格納庫、制圧完了しました』『ブリッジ、すでに我々の支配下にあります』
各部隊から続々と制圧完了の報告が入る。この”遼寧”は反乱を起こすのに不可欠なパズルのピースのひとつだったから、時間をかけて同志を内部に送り込んできた。また、艦内で最近の軍上層部の無為無策に対する不満を煽る扇動工作も行われていた。それが功を奏した。艦内にはすでに同志たちの方が数が圧倒的に多い状態だったし、同士でない者たちも、命を張ってまで抵抗しようとはしなかった。
「ご苦労だった。制圧をもう一度確認せよ。
そして技術班。直ちに作業にかかれ」
クートは技術班に向けて命ずる。さらにちょっとしたお色直しをすることで、この”遼寧”は米軍の原子力空母とさえ渡り合える力を持つはずだった。
クートは床に横たわるカモフに歩み寄ると、開いたままの瞼を閉じてやる。自分たちの手でカモフを始末できたのは幸運と言えたかも知れない。これでもう、後ろ髪を引かれる理由は何一つなくなった。
後は、ただ信じた道をひた走るだけだ。
かくして、後に”バードフェザー・ブローンルックの反乱”と呼ばれる戦いは反乱分子側の勝利に終わる。
それは新たな戦争ののろしだった。
異世界に平和をもたらすはずだった平和維持軍が戦争の原因となるという本末転倒が、最悪の形で起こってしまったのである。
201X年。世界は突如として7つの”時空門”によって、異世界とつながってしまう。
”時空門”から現れたのは、異世界の国家の使節たちだった。
戦国時代が続き、疲弊しきっていた異世界の国家たちは、地球の国家に助力を求めて来たのだった。
さりとて、地球側は困り果てた。異世界の国家は互いに敵対か、潜在的敵対の関係にあり、軍事的に支援すると言うことは、地球の国家間の戦争に発展する危険があったのだ。
最終的に決定された方法は、正規の軍隊でなく義勇軍という形で異世界の各国に軍を派遣すること。
すなわち、代理戦争であった。
ロランセア、ナゴワンド両大陸に武力の均衡の上に立つ平和を実現するという構想は、結果としては失敗に終わった。
かつて異世界に君臨した覇権国家”帝国”の末裔を自負するドゥベ公国は、他国と同列に扱われることを良しとせず、覇権国家の再建をもくろんだのだ。
ドゥベ公国から周辺国に対する大規模な軍事侵攻が開始される。世にいう”ドゥベ戦争”である。
その結果はドゥベ公国の敗北に終わった。だが、戦争が終わっても、両大陸に平和は来なかった。”ドゥベ戦争”はあまりに多くの憎悪と怨嗟を生み過ぎた。両大陸各地で反乱や紛争が起こり、事態は”ドゥベ戦争”以前よりも悪化していく。
わけても”自由と正義の翼”を名乗る反乱組織の破壊工作は苛烈を極め、あと少しで地球と異世界双方に壊滅的なダメージが加えられるところだった。
2つの世界全域にに震度9以上の地震を引き起こし、全てをリセットするという計画は義勇軍によってかろうじて阻止され、なんとか両大陸に平和が訪れたのだった。
多くの血と屍の上に築かれた平和ではあったが。
だが、異世界は両大陸が全部ではない。両大陸に一応の平和が訪れた後は、大陸の外にある国家や勢力の存在が問題になった。
大陸の8つの国で構成される8か国協商とはちがい、大陸の外には、地球の国家や軍に対して不信感をもつ者たちが少なからずいたのだ。
また、戦災で疲弊した8か国協商の構成国にちょっかいを出そうとする国家や勢力も出始めた。
最終的に決定されたのが、8か国協商を発展的に解体し、強力な権限と広範な裁量権を持つ国際機関を設立することだった。”環大陸連合”の誕生である。
”環大陸連合”指揮下に設けられた平和維持軍の統合幕僚本部には広範な裁量権が認められ、各国の義勇軍の一部が平和維持軍としてその指揮下に入ることとなる。侵略や反乱、海賊行為などの対処に当たることが彼らの仕事となった。
寄り合い所帯で互いに言葉も通じているか怪しい有様だったが、内輪で揉めている場合ではないという認識だけは一致していた。”自由と正義の翼”動乱のようなことが再び起きないようにするためには、妥協は許されない。古い体制を破壊するより、新しい体制を作り、維持していく方がよほど難しい。異世界で戦い続けて来た平和維持軍将兵たちは、そのことを誰よりも知っていたのだ。
平和維持軍の果断で必死な行動は、やがて両大陸だけでなく異世界のより多くの範囲に平和と安定をもたらしていくことになる。
だが、平和が訪れると、平和の本質と価値を見誤る者が出て来るのも世の常だった。
平和をあって当然のものと勘違いし、それがどれだけの犠牲の上に築かれたものかを理解しない者たち。平和のために、将兵たちがどれだけの血を流し、苦労をしてきたかを顧みない者たちが。
地球と異世界双方に、統合幕僚本部の広範な裁量権はシビリアンコントロールの逸脱を許すものとして非難する動きが出始めた。
マスコミもその尻馬に乗る。統合幕僚本部が現場の判断を尊重した動きを、職務怠慢、監督不行き届きと結果から見て非難するキャンペーンが張られた。
選挙の人気取りしか頭にない政治家によって、ある現場指揮官が部下を守るためにやむなく下した攻撃命令がやり玉にあげられることもあった。
ともあれ、戦いの中に絶対の正義はないのも事実で、平和維持軍の職権乱用や治安破壊などの証拠が出て来た事例も枚挙に暇がない。
地方によっては平和維持軍は鬼のように怖れられ、反平和維持軍の大規模なデモまでが起きる有様では、現状維持にも限界があった。
そんな流れの中で、平和維持軍内部には2つの派閥が形成されていく。1つは、現状通り統合幕僚本部の裁量権を認めた上で、緩やかに改革を進めるべしとする”佐幕派”。もう1つは、世論に対する身の証を立てる意味で、統合幕僚本部の権限の大幅な縮小、場合によっては解散もやむなしとする”一新派”である。
地球と異世界の各国の国政選挙で、平和維持軍の権限を縮小すべしという勢力が多数を占めると、”一新派”が有利になっていく。
一方で、最前線の現場の将兵には”佐幕派”が多く、シビリアンコントロールの美辞麗句の元に裁量権が縮小されたことで、軍事行動に支障が出始めたことで、彼らは”一新派”への敵意を強めていく。
平和維持軍も官僚主義化が進み、特に現場を知らない人間たちは、自分たちの面子や出世のことを第一に考えるようになっていたことも、”佐幕派”の怒りに油を注いでいた。
そしてついに、ある作戦において現場から上がって来た作戦中止の上申が握りつぶされ、艦隊の進撃が強行された果てに、護衛艦”いなづま”と”巡洋艦”シャイロー”が異世界の海洋生物の攻撃を受けて大破航行不能のダメージを受け、200人もの戦死者が出る事態が発生する。
あまつさえ、責任を問われることを怖れた幕僚たちによって、その事態は現場の報告義務違反というねつ造された報告がなされることになる。
ここにあって、いよいよ”一新派”と”佐幕派”の対立は不可避となる。
折悪しく、統合幕僚本部の幕僚の中でも”佐幕派”の有力者だった、イェーツ・トークリバー大将が急死。いよいよ”佐幕派”は壁際に追い詰められることになる。
極めつけに、統合幕僚本部の副議長で、”佐幕派”の精神的支柱と言える存在だった、オスト―・コーメ・カイザー大将が、突如として贈収賄と業務上横領で起訴される。
これによって、「国策捜査だ!」と、”佐幕派”の怒りはついに爆発することになる。
”環大陸連合”の司法当局と、平和維持軍の法務は説明をしようとしたが、激昂した”佐幕派”将兵たちは聞く耳を持たなかった。
国策捜査かどうかはともかく、この状況を”佐幕派”の一掃に利用しようという動きは平和維持軍と各国政府の間に確かに存在した。
また、異世界の各国も国連に加盟し始めていたことを受けて、これを機に平和維持軍を国連の指揮下に置こうという動きさえ出始めた。
当然のようにというか、国連がいかに力を持たず、どれほどなにも決められないかを知っている”佐幕派”将兵たちにとって、これは最悪の事態だった。”ドゥベ戦争””自由と正義の翼”動乱の時でさえ、ああでもないこうでもないと不毛な議論を行っていただけの機関になにができるというのか。
”佐幕派”将兵たちは、いよいよ武力蜂起もやむなしという方向へと突っ走っていくのである。
02
「こちらレヴィル01!既に8機を喪失!増援を要請する!」
「くそ!ことごとくあの、シーラプター4機の部隊に!」
突如として反旗を翻し、攻撃をかけて来た”佐幕派”将兵たちを迎え撃つJ-20の飛行隊のパイロットたちが悲鳴を上げる。
反乱を起こした”佐幕派”に所属するシーラプターことF-22Nとアドバンスドホーネットを駆る”フェンリル隊”と、彼らの戦いは完全なワンサイドゲームだった。暴れまわるF-22Nの前に、最新鋭のステルス戦闘機であるはずのJ-20は手も足も出ないまま一方的に撃墜されていく。
ゴオオオオオオオオオオオッ
「くそ!後ろにつかれた!2機ついてくる!」
「なんて連携力だ!やつらテレパシーでも使ってるのかよ!?」
圧倒しているのは、必ずしも性能差ではなかった。空戦において、敵1機に対して2機以上で当たるのは現代においても定石ではあるが、”フェンリル隊”のそれは別次元のものだった。まるでテレパシーで意思疎通しているかのように息があったチームワークには付け入るスキが全くない。こちらが2機の機体を追跡すると、別の2機がいつの間にか後ろに回り込んでいるのだ。
ゴオオオオオオッ
「くそ!これが”群狼”と呼ばれる所以かよ!」
「ミサイルアラート!アムラーム接近!ちくしょおおおおっ!」
体制不利と見て撤退するか、一度距離を取り、ロングレンジの戦いを試みたJ-20は、戦闘の外周監視に徹しているアドバンスドホーネットに後ろから撃たれることになる。
もはや迎撃に上がった部隊は、敵の攻撃から艦隊や地上基地を守るどころか、自分たちの身を守ることさえままならない有様だった。
「こちらフェンリル1。敵要撃部隊沈黙。全飛行隊、予定通り敵艦及び敵施設への攻撃を開始せよ!」
F-22Nのコックピットに収まるイーサン・博斗・港埼中佐が無線で同志たちに呼びかける。彼らにとっては、”一新派”に与する者だけでなく、現状の平和維持軍上層部の言いなりになる者も”敵”でしかなかった。
3機のF-22Nがちゃんとついて来ていることを、振り返って確認する。
美しい。と港埼は思う。両翼の、ちょうど折りたたみ部分より外を、識別のため鮮やかな青にリペイントしたF-22Nは、単純に美しく、かっこよく思えた。これなら士気も上がることは間違いない。
塗料は新しいステルス塗料だからステルス性能に影響はない。問題があるとすれば視認性がやや上がってしまうことだが、それは敵味方の識別及びかっこよさと天秤にかけて、やむなしとされた。
かっこいい。これは非常に重要なことだった。組織にとって将兵たちのモチベーションの維持は簡単ではない問題なのだ。
なにせ自分たちは、これから平和維持軍という腰抜けだが巨大な組織に喧嘩を売るのだから。
ロランセア大陸の北端にあるドゥベ公国領、ブローンルック半島は、古くから交易や漁業で栄えてきた土地だった。南側に交通の難所である、標高最大5000メートルのバードフェザー山脈を臨む。
この立地条件のため、陸路で内地と往来することが困難であった事情から、造船や航海が盛んになり、いくつもの港湾都市が誕生し、栄えてきたのだ。
現在は平和維持軍の駐屯地兼演習地として用いられている。住民の間には騒音や、基地を狙ったテロや犯罪を懸念して反対する者も多かったが、平和維持軍は金払いがいいし、なにより”ドゥベ戦争”からこのかた、海賊の被害に悩まされている実情もあった。
平和維持軍は大事なお得意さんであるとともに、これ以上ないほど頼もしい番犬であったのだ。
だから、平和維持軍同士の戦闘が起きている状況は完全に寝耳に水の話だった。
まあ、冷静に振り返れば、平和維持軍に激しい派閥抗争が起きていることはみんなが知るところだったし、”佐幕派”の幕僚が突然起訴されたことは、一般の間でも国策捜査の可能性を怪しむ声が上がっていたのも事実だった。
ともあれ、突然一部の将兵が武装蜂起して味方であるはずの平和維持軍を攻撃し始めるとは思いもよらなかったのだ。住民たちにできたことは、急いで避難の準備をすることだけだった。
さて、今回反乱を起こした港埼らはどのような人物たちなのか。
ここ、ブローンルック半島には、海軍教導団と呼ばれる航空部隊の拠点が置かれている。表向きは平和維持軍の空母艦載機部隊の指揮官を養成する機関という建前だが、実際にはバリバリの実戦部隊だった。
特に海を挟んだ場所において、暴動や騒乱が起こった場合に地上の本拠地より抽出され、空母に配備されて多大な戦果を挙げて来た。わけても、”ドゥベ戦争”の戦中戦後に脱走した旧ドゥベ軍や多国籍軍の反乱兵たちは依然として平和維持軍にとっては脅威だった。地球製の近代兵器を持ち、場数も踏んでいる反乱兵たちに対するに当たって、高い技量を持ち実戦経験も豊富な教導団のパイロットたちは重宝された。
ただそれだけに、危険な最前線では現場の判断が最優先されるべきと考えるものが多かった。”一新派””と佐幕派”の対立が激化すると、当然のように教導団はほぼ全員が”佐幕派”についた。
そして、カイザー大将の突然の訴追には全員が激怒するとともに、このままでは”佐幕派”の自分たちはどうなるのか。そして、平和維持軍はどうなってしまうのか、という不安を抱いた。
やがて、教導団内部の不穏な動きを察知した軍上層部によって教導団の主だった隊員たちに配転や出向命令が出された。事実上の左遷、粛清である。教導団の将兵たちはそれに従わず、ついに武力蜂起に踏み切ったのだった。
03
一方、平和維持軍軍事拠点の対空防御陣地は、親の仇のように爆撃のシャワーにさらされていた。対空火器が4機のF-23Nの誘導爆弾や対地ミサイルによってピンポイントで破壊され、おまけとばかりに4機のFA-18Eが誘導爆弾やロケット弾で拠点をつぶしていく。地上で攻撃されている側にとっては、鮮やかな青にリペイントされた主翼が、伊達者ぶっていて嫌味に感じる。
「ちくしょう!このままじゃ全滅しちまう!」
「航空隊は何をしてるんだ!?エアカバーはどうした!」
対空ミサイルや対空砲火は、ステルス性能に優れた4機のF-23Nを全く捕らえることができなかった。このままでは、自分たちは陣地を捨てて撤退するほかない。そうなったら基地の中枢が裸になってしまう。
「見ろ!Su-27が来てくれた!助かったぞ!」
対空陣地から歓声が上がる。敵はわずか8機。12機の味方に対抗できるはずもない。
まして、パイロットたちは先の”ドゥベ戦争””自由と正義の翼”の戦闘データから、F-22Nの弱点を知っているはずだ。F-23Nは試作機であるYF-23と比べて大きな外見の差はない。唯一の目立つ違いは、主翼の前端が延長され、フィン状になっていることくらいだ。おそらく、2枚の傾斜した尾翼が水平、垂直尾翼を兼ねている構造上、機動性に難があるという欠点は根本的に解決されていないだろう。
「ああ!味方が落とされる!?」
だが、防御陣地の兵たちの希望は、一瞬にして絶望へと変わる。一度低空まで降下したF-23Nが、軽やかに機体を翻し、後ろについていたSu-27に捻りこみをかけ、あっさりと撃墜したのだ。
「なんてことだ...」
双眼鏡で見ると、何が起きたのかがよくわかった。F-23Nの主翼前端のフィンからカナード翼が展開され、複雑に動いて見事な機体制御を見せている。
引き込み式のカナード翼を持つことで、空母への発着艦時の揚力に余裕を持たせるとともに、弱点だった機動性を向上させているということか。カナード翼を引き込み式として、巡航時はしまっておくことで、ステルス性能の低下を最小限におさえているというわけだ。
その発想の斬新さに感心する兵たちの真ん中に爆弾が降り注ぐ。痛みを感じる暇もなく、部隊全員が消し炭となった。
「こちら、フレキ1。対空防御施設の破壊を確認。予定通り滑走路及び格納庫への攻撃を開始する。全機、後れを取るな!」
F-23NとFA-18Eで構成される戦闘攻撃隊であるフレキ隊の女性隊長、サニエル・ワンサイト・ハーマン少佐の言葉を合図に、基地施設そのものへの攻撃が開始される。
救援に駆けつけてきたSu-27は9機が撃墜され、残りは遁走した。
地上施設は丸裸で狙い放題だ。
”遅く決める者は、ただそれだけで道を誤る者だ”という言葉を思い出す。確かさる日本の文豪が描いた漫画の登場人物のセリフだったか。地上では滑走路や格納庫ごと多数の航空機が地上撃破されていく。
即断即決ができない軍隊はこうなるものだといういいサンプルだ。ハーマンは思った。どうせ現場指揮官が司令部にお伺いを立てている間に間に合わなくなったというところだろう。
「全機、よく見ておけ。このまま進めば、平和維持軍全軍がああなる。それを防ぐための蜂起だ」
ハーマンはせっかくなので、部下たちを叱咤するのに、下界の光景を利用させてもらうことにする。どうせ軍上層部の隠蔽やマスコミの偏向報道で、この戦場のことは大衆に正しく伝えられることはないだろう。ならば、自分たちが記憶にとどめておくべきだ。犠牲になった者たちのためにも。
「全機、予定通り攻撃態勢に入れ!ちときついが、我々の双肩に同志たちの命運がかかってる!」
所変わってこちらは半島北端の軍港。6機のF-35BJが軍港に停泊する艦艇に攻撃をかけるべく海上から低空で接近していた。
隊長の水中田宗次二等海尉率いる多目的攻撃隊、スコル隊の動きには、一糸の乱れもない。青に塗装された主翼が水面に良く映えて、鳥の群れのような美しささえ感じられる。
主翼には各自4発の93式空対艦誘導弾を装備している。ステルス性能の面からすると非常に危険な用兵だが、今回に限っては6機全機に持てるだけの対艦ミサイルを装備させる必要があったのだ。
『しかし、本当にみんな沈めるんで?』
「後ろから撃たれなくないなら、選択の余地はないぞ」
停泊する多数の艦艇。昨日までのお仲間を全て対艦ミサイルで無力化するという話は、決して気持ちのいいものではない。副隊長の気持ちは水中田には痛いほどわかった。しかし、すでに自分たちは反乱を起こしてしまっているのだ。手心を加えれば、彼らによって自分たちは追撃されることになる。
「艦対空ミサイル来るぞ!全機散開!回避しつつ各個に攻撃開始!」
軍港から放たれて来る多数の対空ミサイルを急旋回して回避しつつ、スコル隊は対艦ミサイルによる攻撃を開始する。
地上部隊と違ってこっちは判断が早いな。水中田は思う。この距離で、しかもヘリによる間接射撃指示もなしでは艦対空ミサイルの命中弾は期しがたいが、とにかく弾をばらまいて敵を追い払うというやり方は間違っていない。まあ、このスコル隊に通用するものではないが。
6機のF-35BJから一斉に対艦誘導弾が放たれ、狙った目標にことごとく命中していく。フリゲート”三明”が、護衛艦”はたかぜ”が、駆逐艦”長春”が、駆逐艦”キッド”が、次々と直撃を受けて炎に包まれていく。
さすがは改良型だ。水中田は思う。新しい対艦誘導弾は、敵艦のレーダー波を感知すると、旋回して複雑な機動を取りながら肉薄するようにプログラムされた高性能AIが搭載されている。軍艦の対空迎撃というのは先読みがものを言うから、迎撃に応じて複雑な回避行動を取るミサイルに対しては命中精度がどうしても下がる。
それにつけても、これだけの命中精度は驚嘆に値する。
「目的は果たした。長居は無用だ」
水中田はそう指示して機体を反転させる。他の5機もそれにならう。
二兎を追う者は一兎をも得ずは戦場では常識だ。自分たちに同心せず、脅威となる艦艇の無力化という任務は果たした。後はさっさと帰還するまでだ。
沖合を航行中の同志によって運用される軽空母”イラストリアス”の座標をコンピューターで概算し、そちらに進路を取る。電波を出してもらえばもっと確実なのだが、今はまだ”イラストリアス”が我々の同志となったことはできれば知られたくない。無線封止解除の必要なしと判断して、水中田はコンピューターの計算を信じて飛ぶことにした。
「わかりませんで済むと思うか!反乱部隊の情勢を調べて報告しろ!
とにかく、やつらに何も渡すな!装備や機密情報は破壊するんだ!」
空母”遼寧”の司令部区画では、艦隊司令のロシア義勇兵、セルゲイ・カモフ少将が電話に向けて怒鳴り声をあげていた。ともあれ、反乱部隊の動きがあまりに速いのに対し、こちらは司令部も幕僚もてんで反応が悪い。それに加えて、通信系統やネットワークにウィルスがバラまかれ、部隊同士、艦同士の連絡さえままならないのだから、制圧されてしまうのは時間の問題だと思われた。
実際この”遼寧”でも反乱がおきて、艦内はほとんど戦わずして敵の手に落ちていく。艦の中に敵の協力者が多数配置されていて、特殊部隊を呼び込んだらしい。この司令部区画も時間の問題だった。
「仕方ない!私の責任で他の基地に救援を要請するぞ!回線開け!」
本来なら、他の基地に泣きつくのは最後の手段だ。それは軍人としての無能、事実上の降参を意味するのだから。司令部にお伺いを立てずに、艦隊司令が救援要請を出すのは規則違反だが、今はそんなことを言っている時ではない。
「そんなことをされては困ります」
無線に向かっていた通信長の冷たい声が聞こえる。嫌な予感がして通信長の方を見ると、その手にはワルサーPPKが握られていた。
「通信長、お前もか...!」
カモフがそう言った瞬間、司令部区画に銃声が響く。通信士2人が、小銃で司令部区画の入り口を守っていた警衛2人を隠し持っていたグロック19で射殺したのだ。そのまま入り口に積まれていたバリケードも撤去されてしまう。外でサプレッサーを使っていると思しいくぐもった銃声がして、ついでどさりと重い音がする。外の見張りもやられたらしい。
「ジェームズ!」「ボンド!」
非常にわかりやすい合言葉で味方の存在を確認し、紺の戦闘服に身を包んだ特殊部隊が突入して来る。
「ちっ!SASか...?道理で手際がいいわけだ...」
昆虫を思わせるフェイスガードと通信機を兼ねた丸眼鏡のガスマスク。防弾性能より頭をぶつけないことを優先した軽量のヘッドガード。音声増幅器によって、忍び足の音さえ聞き逃さず、逆に爆風や大きな音は遮断するヘッドホンのような形のイヤーガード。そして、各種のアクセサリーが取り付けられ、使い込まれた感じのHK MP5A5。
見間違いようがない。イギリス陸軍特殊空挺部隊、SASのテロ対策ユニットだ。
やつらが反乱分子側についたとなると、すでに”遼寧”は反乱分子の手に落ちていると見るべきだろう。
「司令、我々の指示に従ってください。悪いようにはしません」
聞きなれた声に、カモフはぎょっとする。カーキ色の略服にボディーアーマーを身に着けたその男は、自分の腹心の部下で友人でもあったはずの人物だったからだ。イギリス海軍からの出向組で、艦隊の主席参謀、エルダー・ヒュージ・クート中佐だった。
「なるほど、パイロットどもだけでこんな組織だった反乱は不可能だと思っていた。だが、君が反乱に加わっているとなれば、話は180度変わってくる。
たしか君は、F-35Bのパイロットをやっていたこともあったな。その時のご縁というわけか」
カモフの胸に、焦りを通り越して諦念さえ湧き上がってくる。クートの参謀や指揮官としての有能さは、こちらの世界に派遣されてからずっと見て来た。
もはや、この事態は跳ね返りどもの武装蜂起ではすまないだろう。おそらく、戦争の様相を呈するはずだ。それこそ、劉備玄徳に諸葛亮が軍師としてついたようなものだ。
「もう一度申し上げます。司令、われわれの指示に従ってください。
司令部に向けて、”反乱は鎮圧された”と報告してください。そうすれば悪いようにはしません」
クートはカモフとの問答に付き合う気はないというように、静かな声で言う。
「偽情報というわけか。私が従うと思うか?」
いくら司令部が馬鹿揃いでも、”反乱が鎮圧された”などという情報が信用されるはずがない。しかし、責任を取りたくない責任者たちにとって、その偽情報はなにもしない格好の口実になってしまうだろう。後で”偽情報に騙された”と言い訳すれば責任を取らなくて済むと思っている人間は1人ならずいる。
反乱部隊の時間稼ぎには十分すぎる効果があるはずだった。
「われわれの組織の前身は、あなたが主催した”美武狼士塾”です。われわれはあそこで大きな感銘を受けた。あなたには感謝しています。
できればあなたを撃ちたくはない。
今は軍規や面子ではなく、国に残した奥さん子供の元に帰ることを第一に考えてください」
クートの言葉に、カモフは目の前が真っ暗になる気分だった。”美武狼士塾”はカモフが手慰みに開いていた勉強会で、元は資格や技能、話術などを身に着けるための自主ゼミのようなものだった。
それが、平和維持軍内部で”一新派”と”佐幕派”の対立が激化するに従い、いつの間にか”佐幕派”の中でも過激分子のたまり場になっていたのだ。しまいには政治団体の様相を呈し始めた。自分はこんなつもりで勉強会を開いたわけではないのだが...。
「もはや私が何を言っても聞く耳はもたないだろうが、ひとつ覚えておけ。
他人は欺けても自分は決して欺けんぞ!
わかっているはずだ!破滅を目の前にしてこんなつもりではなかったと救いを請うても、誰も聞くものはいないのだ!
その時になってざまを見るがいい!」
カモフがベルトに挟んだピストレット・スチェッキンを構えるより早く、SASのコマンドたちのMP5A5が火を吹き、カモフを蜂の巣にしていった。
「各班、状況知らせ」
『CIC制圧』『格納庫、制圧完了しました』『ブリッジ、すでに我々の支配下にあります』
各部隊から続々と制圧完了の報告が入る。この”遼寧”は反乱を起こすのに不可欠なパズルのピースのひとつだったから、時間をかけて同志を内部に送り込んできた。また、艦内で最近の軍上層部の無為無策に対する不満を煽る扇動工作も行われていた。それが功を奏した。艦内にはすでに同志たちの方が数が圧倒的に多い状態だったし、同士でない者たちも、命を張ってまで抵抗しようとはしなかった。
「ご苦労だった。制圧をもう一度確認せよ。
そして技術班。直ちに作業にかかれ」
クートは技術班に向けて命ずる。さらにちょっとしたお色直しをすることで、この”遼寧”は米軍の原子力空母とさえ渡り合える力を持つはずだった。
クートは床に横たわるカモフに歩み寄ると、開いたままの瞼を閉じてやる。自分たちの手でカモフを始末できたのは幸運と言えたかも知れない。これでもう、後ろ髪を引かれる理由は何一つなくなった。
後は、ただ信じた道をひた走るだけだ。
かくして、後に”バードフェザー・ブローンルックの反乱”と呼ばれる戦いは反乱分子側の勝利に終わる。
それは新たな戦争ののろしだった。
異世界に平和をもたらすはずだった平和維持軍が戦争の原因となるという本末転倒が、最悪の形で起こってしまったのである。
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