22 / 58
第三章 6年前の戦争
01
しおりを挟む
1
全員がメインロッジに集められている。警察による捜索の邪魔にならないように。任意の事情聴取ということで、一人一人速水と沖田の質問に答えている。
「七美、ちょっと頼まれてくれるか?」
聴取を終えてロビーに戻った誠は、七美に声をかける。彼女は、同じく先に聴取を受けて既に解放されていた。
「どしたの? 私でできることならいいけど」
幼なじみは乗り気のようだ。ミステリー研究会の意地が騒ぐというところか。
「えーとあれだ……。ストリップがどうたらをやってみてくれないか?」
ボゴッ、鈍い音がして、顔に衝撃が走る。七美の鉄拳が直撃したのだと悟る。
「こんのスケベ……。スケベだとは思ってたけど……ここまでスケベだとは思わなかった!」
七美の美貌に鬼の形相が浮かぶ。
「いでで……。スケベスケベ言わないでよ……悪い悪い。そうじゃないって、誤解するな。ほら……銃を分解するあれ……なんだっけ……?」
「フィールドストリッピング?」
「そう、それをお願いしたいのよ。こいつで」
そう言って、誠はシャツの下から拳銃を取り出す。SIGP226。エアガンのようだ。
「ちょっと……これ……。どこから持って来たわけ……?」
周りを軽快しながら、小声で話しかけてくる。顔が微妙に誓い。
「オーナーのコレクションを一丁拝借したんだよ。こっそりね」
「こっそりって……」
七美があきれ顔になる。今のところ倉木は、ラバンスキーと山瀬殺しの最重要参考人ということになる。彼のロッジはまだ捜索が続いているはずだ。
夕べ二人に突きつけた拳銃がエアガンだと真に受けるほど、警察もお人好しではない。あろうことか、鑑識と立ち番の警察官の目を盗んでエアガンを持ち出してきたらしい。
「ま、いいからいいから。とにかくフィールドストリッピングをやってみせてくれ」
「はあ……。知らないよ、後で怒られても」
嘆息しながらも、幼なじみはエアガンを手に取る。マガジンを抜いたと思うと、猛烈な速さで分解していく。映画で学習でもしたのか、手慣れている。たちまちスライドが外され、銃身とリコイルスプリングが取り出される。
(なるほど……俺のカンが正しければ……。犯人はここまでは偽装できていないはず)
ラバンスキーたちは殺された。その決定的な証拠が見つかるかも知れない。誠の頭が閃いた瞬間だった。倉木と速水が全員の聴取を終えるのを待って、声をかける。無理を言って人払いしてもらい、メインロッジの裏に三人で移動する。
「あの二人の荷物にあった銃の写真が見たい?」
速水がまた嫌そうな顔になる。素人が捜査に口を挟んでくるのは、彼には耐えがたいらしい。
「俺とラリサで、夕べ見たのと同じ銃か確認したいんだ」
「なるほど……。確かにそれは必要だな」
沖田は誠の案に食いつく。誠とラリサによれば、二人の死体が握りしめていた銃は夕べのものとは違った。万一他にも銃があってそれが見つからない、という事態は警察として避けたい。
「彼らの銃はこれだ。ラバンスキーは枕の下。山瀬はホルスターで身につけていた」
渋々だが、速水は銃の写真を見せてくれる。
「間違いありません。夕べ見た銃と同じです」
確認のために呼ばれたラリサが断じる。
「やっぱりだ……。山瀬さんの銃は左利きに無調整で対応するやつじゃないか」
写真を見て、誠は二人が第三者に殺された確信を強める。山瀬が持っていた銃は、HKUSP。押すのではなく下げることでマガジンをリリースする構造だ。どちらの手でも操作できる。
「いよいよ、無調整のグロックを持っていたのはおかしいことになるか……」
堅物の速水も、そこには同意せざるを得ない。そもそも、戦友同士だった二人が急に殺し合う理由がない。そこは彼も最初からおかしいと思っていた。
「それと、これは応えられる範囲でいいんですが……」
少年は言葉を選びつつ切り出す。
「あなた方が捜査してるのって、もしかしてこの動画の件じゃありませんか?」
そう言ってスマホを見せる。非戦闘員である慰問団ごと、モスカレル軍が爆撃されるむごたらしい映像を。
「ふむ、なぜそう思うんだね?」
沖田が問い返す。無下にする気はないが、根拠は示して欲しい。そういうことだ。
「この動画を、音声だけ何度も聞いたんです。みんな英語で話してるけど、一人だけ妙に訛りの強い人がいた。ええと……。この中で『シャドウ2』と呼ばれてる人です」
動画を巻き戻し、再生する。
「発音が妙に日本語っぽい。もしかしてこの人日本人、それも、オーナーじゃないかってね」
速水と沖田が、図星を突かれた顔になる。日本語は、世界の言語の中でも特殊な部類に入る。外語を話していても、訛りが出やすいのだ。
「もし、この非戦闘員を巻き込んだ攻撃を実行したのが当時ラバンスキーさんに率いられていた部隊で、国際司法裁判所が六年前の戦争犯罪を裁判するために動いているんだとしたら……」
スマホでネットの画面を呼び出し、ひとつの記事を刑事二人に見せる。そこには、キーロア共和国軍人の内部告発によって今まで隠されていた事実が明るみに出たこと。国際司法裁判所が、戦争犯罪として各国に捜査を要請していることが書かれていた。
「考えていたんです。なぜ、ラバンスキーさんたちが死んだこの場所にあなた方が居合わせたのか」
誠の長広舌は続く。
「まさか殺人が起こることを事前に知っていてここに来たわけじゃない。あなたたちが捜査する対象は、夕べロッジに集まっていた五人。つまり、ラバンスキーさん、山瀬さん、ブラウバウムさん、相馬さん、そしてオーナーだったんでしょう?」
確信を持って問う。
(そうでないと速水警部はともかく、沖田警視がかかわっている説明がつかない)
警察庁の外事は、国際テロやスパイを取り締まる機関だ。
建前として、戦争犯罪は外国で外国人が犯したことでも罪に問うことはできる。日本の警察が捜査することも。だが、事態が事態、相手が相手だけに、県警だけでは荷が重かった。だから、霞ヶ関からわざわざ国際犯罪のプロを呼ぶ必要もあった。そういうことだろう。
全員がメインロッジに集められている。警察による捜索の邪魔にならないように。任意の事情聴取ということで、一人一人速水と沖田の質問に答えている。
「七美、ちょっと頼まれてくれるか?」
聴取を終えてロビーに戻った誠は、七美に声をかける。彼女は、同じく先に聴取を受けて既に解放されていた。
「どしたの? 私でできることならいいけど」
幼なじみは乗り気のようだ。ミステリー研究会の意地が騒ぐというところか。
「えーとあれだ……。ストリップがどうたらをやってみてくれないか?」
ボゴッ、鈍い音がして、顔に衝撃が走る。七美の鉄拳が直撃したのだと悟る。
「こんのスケベ……。スケベだとは思ってたけど……ここまでスケベだとは思わなかった!」
七美の美貌に鬼の形相が浮かぶ。
「いでで……。スケベスケベ言わないでよ……悪い悪い。そうじゃないって、誤解するな。ほら……銃を分解するあれ……なんだっけ……?」
「フィールドストリッピング?」
「そう、それをお願いしたいのよ。こいつで」
そう言って、誠はシャツの下から拳銃を取り出す。SIGP226。エアガンのようだ。
「ちょっと……これ……。どこから持って来たわけ……?」
周りを軽快しながら、小声で話しかけてくる。顔が微妙に誓い。
「オーナーのコレクションを一丁拝借したんだよ。こっそりね」
「こっそりって……」
七美があきれ顔になる。今のところ倉木は、ラバンスキーと山瀬殺しの最重要参考人ということになる。彼のロッジはまだ捜索が続いているはずだ。
夕べ二人に突きつけた拳銃がエアガンだと真に受けるほど、警察もお人好しではない。あろうことか、鑑識と立ち番の警察官の目を盗んでエアガンを持ち出してきたらしい。
「ま、いいからいいから。とにかくフィールドストリッピングをやってみせてくれ」
「はあ……。知らないよ、後で怒られても」
嘆息しながらも、幼なじみはエアガンを手に取る。マガジンを抜いたと思うと、猛烈な速さで分解していく。映画で学習でもしたのか、手慣れている。たちまちスライドが外され、銃身とリコイルスプリングが取り出される。
(なるほど……俺のカンが正しければ……。犯人はここまでは偽装できていないはず)
ラバンスキーたちは殺された。その決定的な証拠が見つかるかも知れない。誠の頭が閃いた瞬間だった。倉木と速水が全員の聴取を終えるのを待って、声をかける。無理を言って人払いしてもらい、メインロッジの裏に三人で移動する。
「あの二人の荷物にあった銃の写真が見たい?」
速水がまた嫌そうな顔になる。素人が捜査に口を挟んでくるのは、彼には耐えがたいらしい。
「俺とラリサで、夕べ見たのと同じ銃か確認したいんだ」
「なるほど……。確かにそれは必要だな」
沖田は誠の案に食いつく。誠とラリサによれば、二人の死体が握りしめていた銃は夕べのものとは違った。万一他にも銃があってそれが見つからない、という事態は警察として避けたい。
「彼らの銃はこれだ。ラバンスキーは枕の下。山瀬はホルスターで身につけていた」
渋々だが、速水は銃の写真を見せてくれる。
「間違いありません。夕べ見た銃と同じです」
確認のために呼ばれたラリサが断じる。
「やっぱりだ……。山瀬さんの銃は左利きに無調整で対応するやつじゃないか」
写真を見て、誠は二人が第三者に殺された確信を強める。山瀬が持っていた銃は、HKUSP。押すのではなく下げることでマガジンをリリースする構造だ。どちらの手でも操作できる。
「いよいよ、無調整のグロックを持っていたのはおかしいことになるか……」
堅物の速水も、そこには同意せざるを得ない。そもそも、戦友同士だった二人が急に殺し合う理由がない。そこは彼も最初からおかしいと思っていた。
「それと、これは応えられる範囲でいいんですが……」
少年は言葉を選びつつ切り出す。
「あなた方が捜査してるのって、もしかしてこの動画の件じゃありませんか?」
そう言ってスマホを見せる。非戦闘員である慰問団ごと、モスカレル軍が爆撃されるむごたらしい映像を。
「ふむ、なぜそう思うんだね?」
沖田が問い返す。無下にする気はないが、根拠は示して欲しい。そういうことだ。
「この動画を、音声だけ何度も聞いたんです。みんな英語で話してるけど、一人だけ妙に訛りの強い人がいた。ええと……。この中で『シャドウ2』と呼ばれてる人です」
動画を巻き戻し、再生する。
「発音が妙に日本語っぽい。もしかしてこの人日本人、それも、オーナーじゃないかってね」
速水と沖田が、図星を突かれた顔になる。日本語は、世界の言語の中でも特殊な部類に入る。外語を話していても、訛りが出やすいのだ。
「もし、この非戦闘員を巻き込んだ攻撃を実行したのが当時ラバンスキーさんに率いられていた部隊で、国際司法裁判所が六年前の戦争犯罪を裁判するために動いているんだとしたら……」
スマホでネットの画面を呼び出し、ひとつの記事を刑事二人に見せる。そこには、キーロア共和国軍人の内部告発によって今まで隠されていた事実が明るみに出たこと。国際司法裁判所が、戦争犯罪として各国に捜査を要請していることが書かれていた。
「考えていたんです。なぜ、ラバンスキーさんたちが死んだこの場所にあなた方が居合わせたのか」
誠の長広舌は続く。
「まさか殺人が起こることを事前に知っていてここに来たわけじゃない。あなたたちが捜査する対象は、夕べロッジに集まっていた五人。つまり、ラバンスキーさん、山瀬さん、ブラウバウムさん、相馬さん、そしてオーナーだったんでしょう?」
確信を持って問う。
(そうでないと速水警部はともかく、沖田警視がかかわっている説明がつかない)
警察庁の外事は、国際テロやスパイを取り締まる機関だ。
建前として、戦争犯罪は外国で外国人が犯したことでも罪に問うことはできる。日本の警察が捜査することも。だが、事態が事態、相手が相手だけに、県警だけでは荷が重かった。だから、霞ヶ関からわざわざ国際犯罪のプロを呼ぶ必要もあった。そういうことだろう。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
神典日月神示 真実の物語
蔵屋
歴史・時代
私は二人の方々の神憑りについて、今から25年前にその真実を知りました。
この方たちのお名前は
大本開祖•出口なお(でぐちなお)、
神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)です。
この日月神示(ひつきしんじ)または日尽神示(ひつくしんじ)は、神典研究家で画家でもあった岡本天明(おかもとてんめい)に「国常立尊(国之常立神)という高級神霊からの神示を自動書記によって記述したとされる書物のことです。
昭和19年から27年(昭和23・26年も無し)に一連の神示が降り、6年後の昭和33、34年に補巻とする1巻、さらに2年後に8巻の神示が降りたとされています。
その神示を纏めた書類です。
私はこの日月神示(ひつきしんじ)に出会い、研究し始めてもう25年になります。
日月神示が降ろされた場所は麻賀多神社(まかたじんじゃ)です。日月神示の最初の第一帖と第二帖は第二次世界大戦中の昭和19年6月10日に、この神社の社務所で岡本天明が神憑りに合い自動書記さされたのです。
殆どが漢数字、独特の記号、若干のかな文字が混じった文体で構成され、抽象的な絵のみで書記されている「巻」もあります。
本巻38巻と補巻1巻の計39巻が既に発表されているが、他にも、神霊より発表を禁じられている「巻」が13巻あり、天明はこの未発表のものについて昭和36年に「或る時期が来れば発表を許されるものか、許されないのか、現在の所では不明であります」と語っています。
日月神示は、その難解さから、書記した天明自身も当初は、ほとんど読むことが出来なかったが、仲間の神典研究家や霊能者達の協力などで少しずつ解読が進み、天明亡き後も妻である岡本三典(1917年〈大正6年〉11月9日 ~2009年〈平成21年〉6月23日)の努力により、現在では一部を除きかなりの部分が解読されたと言われているます。しかし、一方では神示の中に「この筆示は8通りに読めるのであるぞ」と書かれていることもあり、解読法の一つに成功したという認識が関係者の間では一般的です。
そのために、仮訳という副題を添えての発表もありました。
なお、原文を解読して漢字仮名交じり文に書き直されたものは、特に「ひふみ神示」または「一二三神示」と呼ばれています。
縄文人の祝詞に「ひふみ祝詞(のりと)」という祝詞の歌があります。
日月神示はその登場以来、関係者や一部専門家を除きほとんど知られていなかったが、1990年代の初め頃より神典研究家で翻訳家の中矢伸一の著作などにより広く一般にも知られるようになってきたと言われています。
この小説は真実の物語です。
「神典日月神示(しんてんひつきしんじ)真実の物語」
どうぞ、お楽しみ下さい。
『神知りて 人の幸せ 願うのみ
神のつたへし 愛善の道』
歌人 蔵屋日唱
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる