ある日おっぱいのついたイケメンになったら王子様な彼女に乙女にされて

ブラックウォーター

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第一章 彼女と新しく始まる

02 今でも好きだけど

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「ふう……疲れたな……」
 買い物から戻り、自室のベッドに寝転がった湊は大きく息を吐く。
 麗美と雪美との買い物は、楽しいが消耗した。特に下着売り場は、精神的にすさまじい勢いでライフが削られた。
 なんとかふたりを説得して、当たり障りのないデザインの下着を中心に買い求めた。が、それでもやはり着るとなると恥ずかしい。
「さてと……」
 女物のチノパンとニットシャツを脱いで、下着姿になる。
 麗美と雪美の指導に感謝した。新品の翠のブラとパンツは、湊の身体にうまいことフィットしている。
「ううん……」
 湊はブラ越しに、軽く胸の膨らみの頂点に触れてみる。
 折角女になったのだから、やってみたいことがあった。言うまでもなく、それは自慰だ。
 よもや病室でするわけにもいかず、退院したら自室で試してみるつもりだったのだ。
「あん……!」
(なんだ……すごく気持ちいい……。勝手に声が出る……)
 指先が感じるところに当たるたびに、それがスイッチであるかのように声が出てしまう。
 男の自慰とはまるで違う。全身に電流が走るようだ。
 湊は思い切って下着を脱ぎ捨て、生まれたままの姿になる。
「ああ……! だめ……声……がまんできない……!」
 乳首や股間をいじるたびに、声が出てしまうだけではない。甘い声を上げるたびに興奮して、どんどん心地よくなっていく。
 湊は初めての女の快感に、すっかりはまっていた。
…………………………………………………………………………………………………………
 数十分後。
「はあ……はあ……。すごかった……あれが〝イく〟ってことなんだ……女ってあんなに気持ちいいんだ……」
 裸の湊は、ベッドの上でぐったりとしていた。
 すごい快感だった。じんわりと高まっていくのがもどかしく、心地いい。
 絶頂を迎えた瞬間、目の前が白く弾け、身体が落ちているような感覚に襲われた。
(どうしよう……このままオナニー依存症になっちゃうかも……。こんな気持ちいいこと知っちゃったら……)
 絶頂の余韻の中、そんなことを思っていた。
「あ……やばい……。シーツ……汚しちゃった……」
 お尻の下に感じる湿った感触に、けだるい身体を起こす。
 ピンときれいに張られていたシーツは、見る影もなくしわくちゃになっている。しかも、お漏らしでもしたかのようにドロドロに濡れている。
(こんなに濡らしてたんだ……俺……)
 自慰をしている最中は夢中でなにも考えられなかった。が、今になって急に恥ずかしくなる。
 考えてみれば、ずいぶん大きな声を出していた。隣の部屋にいる麗美に聞こえていたかも知れない。
 部屋の中には、汗と愛液のにおいが充満している。
「このままじゃまずいよね……。オナニーしてたのバレバレだよ……」
 トロトロに溢れた股間をティッシュを何枚も使って処理し、窓を開けてにおいを抜く。申し訳程度に服を着て、汚れたシーツを交換するのだった。
(女って……いろいろ大変だな……)
 こんな時に、図らずも女の大変さを噛みしめる。
 男であった時は、ティッシュで後始末をしてゴミ箱に放り込めばすんだ。
 だが、今はそうはいかない。
「トイレでビデを使うか……それともシャワーを浴びるか……」
 とにかく、全身にまとう発情した女のにおいを洗い流さなければならない。湊は汚れたシーツを持って部屋を出た。

 翌日。
「やっぱり、学校行くのかな……?」
「当然です。もう退院して具合もいいんですから」
 湊は雪美に付き添われ、百貨店の中にある制服の仕立て屋を訪れていた。
 女になった以上、男子の制服を着て登校するわけにはいかない。女子用の制服を改めて作る必要がある。
 湊が通う学校の制服は、それなりに上等な生地を用いたセミオーダーだ。
 多少値が張るが、幸いにして性別転換者に対して自治体が支給する支援金が下りた。
「折角ですし、スカートも二枚仕立てておきましょう」
 雪美が追加注文を勧める。
 校則では、女子でもスカートとズボンを選択できることになっている。
 が、湊はスカートを履く気にはなれなかった。
「ええ……? ズボンだけでいいよ……」
「いいからいいから。湊君足長いしスタイルいいんですから。絶対にかわいいです」
 雪美が鼻息荒く押し切ってくる。意地でも自分にスカートを履かせる気でいる。
「わ……わかったよ……。雪美ちゃんがそういうなら……」
 湊は結局押し切られ、ズボン意外にスカートも注文することになった。
(雪美ちゃんて、こんなに押しが強かったか……?)
 ふとそんな疑問を覚える。
 雪美と付き合い始めてから、まだそれほど経っていない。だが、自分の記憶にある彼女は、いつもおっとりして自分より他者の意見や都合を優先する女の子だった。
「お待たせしました。試着をどうぞ」
 店員が、仕立て上がった制服を手渡す。
「やっぱり、スカート履くの……?」
「当然です。持ち帰った後で万一サイズが合わなかったら困りますから」
 これまた雪美に押し切られ、湊はスカートを履くことになった。
「あら、やっぱりきれいでかわいいですよ。湊君」
「そ……そうかな……」
 制服を試着した湊は、姿見に自分を映してみる。
 ベージュのブレザーに、グレー基調のチェックのスカート、水色のリボン。
 見慣れているはずの学校指定の女子の制服。だが、女になった自分が着ると、妙に新鮮な感じがする。
(俺って……けっこうかわいい……?)
 湊はつい、女になった自分の姿に見とれてしまう。
 背が高いことに加え、多少丸いがシュッとした顔つきは、いい感じでボーイッシュで美しいと思える。入院している間切っていなかった髪は、うまい具合にショートボブの長さになっている。男だったころより、髪質も柔らかくなっている気がする。
(これなら……女として生活していくのも希望が持てる……のかな……?)
 病院のベッドで目覚め、女になった時から、困惑と不安しかなかった。
 だが、湊はここ数日で初めて前向きな気分になれた。
(でも……)
 と、思う。
「ねえ、折角だから制服のまま帰りませんか? こんなにきれいでかわいいんですから」
 無邪気に笑う雪美を見て、再び不安になる。
 彼女は、自分との関係をどう思っているだろうか?
 同性同士でカップルとなり、家庭を持つ権利は社会的にも法的にも認められつつある。今では、同性同士で子供を作る技術も確立している。
 だが、未だに性的マイノリティであることに変わりはない。
(このまま……雪美ちゃんと付き合い続けていけるのかな……?)
 そう思わずにはいられない。
 自分は雪美が好きだ。だが彼女は?
 同性カップルとなれば、周りからはそれなりに奇異な視線を受ける可能性はある。結婚となればなおさらだ。
 なにより、雪美が受け入れてくれたのは男であった自分だ。
 女になってしまった自分と、引き続いて付き合ってくれるだろうか。そんな不安を、湊は感じずにはいられなかった。

 その夜。
「うへ……。入院してる間こんなに進んでたのか……」
「いや、湊が普段勉強してないだけだし。ちゃっちゃとやるよ。終わらないから」
 湊はお隣さんの真行寺家、梓の部屋にお邪魔している。入院している間の勉強の遅れを取り戻すために。
 明日諸々の手続きを済ませて、明後日から復学する。
 梓が優等生で助かった。板書された部分だけでなく、教師の言葉もきちんとノートに書き留めている。
 同じ成績優秀者でも、雪美には頼れないところだった。彼女はノートを詳細に取らなくとも、大抵のことは聞いただけで頭に入ってしまう。
「おっと……」
 うっかり鉛筆を床に落としてしまう。
「ほい」
「あ……」
 落ちた鉛筆を手渡した梓と、手が触れる。
(男の手だな……けっこう大きい……あったかい……)
 さらに、梓と目が合う。
 透き通った瞳がこちらを見ている。
(こうして見ると……女顔だよな……。目大きいし、唇なんか柔らかそう……)
 胸がキュンとしてしまう。
 今まで、梓相手にこんな気持ちになったことはなかった。
 だが今は、彼と目が合うだけで、どうしてもドキドキしてしまうのを抑えられない。
(これって……梓を男として意識してる……?)
 そう自覚せざるを得なかった。
 湊の感性は、まだ大部分が男のままだ。だが、日を追うごとに女の部分が大きくなっている気がする。
 梓の場合、中性的でかわいいと思えるから、ことさら受け入れやすいのかも知れない。
「湊……? どうした?」
 梓の声で我に返る。
「いや……その……」
 湊は言いよどんでしまう。
 完全に変なスイッチが入ってしまっていた。梓が近くに居る。それを意識すると、心臓がうるさいほど高鳴って、顔が赤くなってしまう。
(確かめたい……この感じがなんなのか……)
 湊はその気持ちを抑えられなかった。女としての本能が、胸がキュンとする感覚の正体を確かめたがっていた。
「なあ梓……手を握ってもいいか……?」
「え……いいけど……」
 梓の言葉に応じて、湊は手を握る。
(やっぱり大きくてあったかいな……握ってると……すごく安心する……)
 手の中に感じる暖かさとたくましさに、湊はポーッとなってしまう。
 無性に満たされて、心地いい。
 それは、梓も同じらしい。顔を赤くして、こちらを見ている。
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