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第三章 芽生える思い
05 天使な少女は頑張りすぎ
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ありふれた放課後。
だが、その日は少し違っていた。
「優輝、なんか顔赤いけど大丈夫か……?」
「大丈夫ですー……。ちょっと熱っぽいだけですからー」
そう答えるゆるふわ系少女、八千代優輝は全く大丈夫そうには見えなかった。
時々咳き込んでいるし、目が潤んでいつもよりはっきりした二重まぶたになっている。足取りも、どこか怪しい。
「ちょっとごめん……」
司がおでこに手を当てる。
(あ……手大きくて気持ちいい……)
いつも温かいはずの男の手が微妙に冷たい。優輝は自分がかなり熱を持っているのを、遅ればせながら自覚する。
「すごい熱じゃないか。悪いことは言わない。保健室行こう」
だが、優輝は首を横に振る。
「今日もー、皆さんに施術をしなければなりませんのでー」
そう言って、荷物を持って教室を出ようとする。自分から買って出た行為だ。悩みを抱えた女子生徒たちが待っているのだ。
「だめだって。他の生徒にうつす気かよ。ほら、保健室行くよ。付き添うからさ」
「はいー……」
司は優輝の手を引いて保健室へと向かう。
最悪、またフレアウイルス肺炎という可能性もあると心配しているのだ。
ここは好意に甘えることにする。施術を約束していた生徒たちに、臨時休業とお詫びのメールを送る。
「どうやら風邪みたいね。フレアウイルス肺炎だったら、三日目でこのくらいの症状では済まないはずですから」
「そうですか……」
保険医の君津と司が話しているのが聞こえる。
猛烈に眠い。
風邪であるらしいことに、取りあえず安心する。確かにフレアウイルス肺炎なら、これだけの熱があるなら激しく咳きこんでいなければおかしい。
優輝はベッドに横になると、そのまま猛烈な眠気に襲われた。
自分がどれだけ具合が悪かったか痛感する。
「無茶をするんだから……」
心配そうな司の声が聞こえる。
(司さん……)
一言礼とわびを述べたいのに、まぶたが重くてたまらない。もうすぐ完全下校の時間だ。ここで眠り込んでしまうわけにはいかないのに。
「市原君、しばらく優輝さんをお願いできる? 職員会議があるの。終わったら、私の車で寮まで送るから」
「わかりました。待ってます」
司は快諾する。その優しさが、今はうれしかった。
取りあえず帰りの心配をしなくていい。安心した優輝はまどろみに落ちていった。
どれくらい眠っていただろうか。意識がゆっくりと浮かび上がる。
ベッドの横を見ると、司が本を読んでいる。
「司さん……すみませんー……。ご迷惑おかけしてー……」
なんとか身体を起こそうとする優輝を、司が制する。
「いいから寝てなって。迷惑だなんて思うもんか。女の子が苦しんでるんだから」
驚くほど優しい声だった。つい、甘えてもいいのだと思ってしまうほどに。
「優輝はいつも頑張ってみんなの役に立ってるじゃないか。風邪の時くらい、誰かに頼ったってバチは当たらないさ」
司に褒められると、優輝はなんだか無性にうれしくなる。自分はみなの役に立てている。それを感じることができる。
いつも不安になる。自分はちゃんとできているだろうか。みなの役に立てているだろうか。そして、必要な存在でいられるだろうか、と。
だが、その日は少し違っていた。
「優輝、なんか顔赤いけど大丈夫か……?」
「大丈夫ですー……。ちょっと熱っぽいだけですからー」
そう答えるゆるふわ系少女、八千代優輝は全く大丈夫そうには見えなかった。
時々咳き込んでいるし、目が潤んでいつもよりはっきりした二重まぶたになっている。足取りも、どこか怪しい。
「ちょっとごめん……」
司がおでこに手を当てる。
(あ……手大きくて気持ちいい……)
いつも温かいはずの男の手が微妙に冷たい。優輝は自分がかなり熱を持っているのを、遅ればせながら自覚する。
「すごい熱じゃないか。悪いことは言わない。保健室行こう」
だが、優輝は首を横に振る。
「今日もー、皆さんに施術をしなければなりませんのでー」
そう言って、荷物を持って教室を出ようとする。自分から買って出た行為だ。悩みを抱えた女子生徒たちが待っているのだ。
「だめだって。他の生徒にうつす気かよ。ほら、保健室行くよ。付き添うからさ」
「はいー……」
司は優輝の手を引いて保健室へと向かう。
最悪、またフレアウイルス肺炎という可能性もあると心配しているのだ。
ここは好意に甘えることにする。施術を約束していた生徒たちに、臨時休業とお詫びのメールを送る。
「どうやら風邪みたいね。フレアウイルス肺炎だったら、三日目でこのくらいの症状では済まないはずですから」
「そうですか……」
保険医の君津と司が話しているのが聞こえる。
猛烈に眠い。
風邪であるらしいことに、取りあえず安心する。確かにフレアウイルス肺炎なら、これだけの熱があるなら激しく咳きこんでいなければおかしい。
優輝はベッドに横になると、そのまま猛烈な眠気に襲われた。
自分がどれだけ具合が悪かったか痛感する。
「無茶をするんだから……」
心配そうな司の声が聞こえる。
(司さん……)
一言礼とわびを述べたいのに、まぶたが重くてたまらない。もうすぐ完全下校の時間だ。ここで眠り込んでしまうわけにはいかないのに。
「市原君、しばらく優輝さんをお願いできる? 職員会議があるの。終わったら、私の車で寮まで送るから」
「わかりました。待ってます」
司は快諾する。その優しさが、今はうれしかった。
取りあえず帰りの心配をしなくていい。安心した優輝はまどろみに落ちていった。
どれくらい眠っていただろうか。意識がゆっくりと浮かび上がる。
ベッドの横を見ると、司が本を読んでいる。
「司さん……すみませんー……。ご迷惑おかけしてー……」
なんとか身体を起こそうとする優輝を、司が制する。
「いいから寝てなって。迷惑だなんて思うもんか。女の子が苦しんでるんだから」
驚くほど優しい声だった。つい、甘えてもいいのだと思ってしまうほどに。
「優輝はいつも頑張ってみんなの役に立ってるじゃないか。風邪の時くらい、誰かに頼ったってバチは当たらないさ」
司に褒められると、優輝はなんだか無性にうれしくなる。自分はみなの役に立てている。それを感じることができる。
いつも不安になる。自分はちゃんとできているだろうか。みなの役に立てているだろうか。そして、必要な存在でいられるだろうか、と。
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