先生の40歩後ろを歩く私

木の実

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先生

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 「密香ちゃーん、さっきの数学のノートちょっと見せてくれない?」
 休み時間のチャイムが鳴り、騒がしい教室になると、私の後ろから声がする。
「眠過ぎて、寝ちゃった」
申し訳なさそうに笑いながら、この春友達になったばかりの鈴木透子が手を合わせてきた。
「いいよー!あの先生眠くなるよね」
私はノートを取り出して透子ちゃんに渡す。
「ありがと、密香ちゃん!」
そそくさと自分の座席へ戻っていく彼女を見届けると、私は1つため息をついた。
  ああ。毎年のように味わう、この新しい環境での圧迫感。特に今年はクラス替えどころではなく、高校入学ということもあって、私は毎日を酷い緊張感の中で過ごしていた。
  疲れることは覚悟していたけれど、入学して1週間じゃあまだまだ気を使うものだ。中学が懐かしい。心細い。
 所属している1年3組は、他のクラスに比べれば打ち解けが早いようだった。
現に私も透子ちゃんとたまたま地元が近い話題で盛り上がって仲良くなれたし、周りも少しずつ一緒にいる人となりは固定されてきている。
 だけど、疲れることは疲れるのだ。最初のうちはそりゃあみんな、気を使うものだ。
それにしても、人の顔と名前を覚えるのが苦手な私にとって、透子ちゃんはありがたい存在だった。黒髪に高い高いポニーテール。女子高生にしては低い声。そして地元の近さ。
 私は人見知りだから、向こうから話しかけてくれたことには本当に感謝している。

「なあなあ次の授業なにー?」
「次は現文だよ」
教室の後ろから、じゃれ合う男子達の声が聞こえてきた。こういう時、特に私は男子が羨ましく感じる。無駄に打ち解けるのが早いんだよなぁ。私はまだ透子ちゃん以外の女の子とさえあんまり話せていないってのに…。
  
  ガラッ。その時急に、勢い良く前のドアが開いて、1人のおじさんが入ってきた。そして教卓の上に教科書が山ほど入ったバッグを置き、私たちに向き直る。
「みなさんこんにちはー、現文の担当の福田です、よろしくな」
あっ。
私はその人を見て、勝手に口が開いていた。
あの人だ。一昨日、重たい教科書を持って登校していた私に、手を差し伸べてくれた人。そして、教室まで一緒に運んでくれた人。
おじさんにしては、やけに小綺麗でいい声の人…。
「あれ、君ここのクラスだったのか」
私がずっと見つめていたのに気付いたのか、おじさんが私に話しかけてきた。
「あっ、はい。」
何のことかと、休み時間中にも関わらず教室の人の注目が私に刺さる。
「いや実はね、彼女が一昨日荷物を右往左往しながら運んでたのをみかねて、手伝ってあげたんだよ。」
クラスの人に説明するそのおじさん先生に、私は驚いた。やだ、恥ずかしい…
「そしたら彼女、お礼にってわざわざポケットから飴を出してプレゼントしてくれたからさ、君たちも彼女に何かしたら飴貰えるかもしれないぞ!今のうちにいい事しときなさい!」
「ええっ!?」
私は思わず声を出して驚いた。
クスッ。クラスの人の生ぬるい笑い声が教室に響いく。私は途端に恥ずかしくなった。
「芥川さーん、こいつのど飴ほしいってさっき言ってたー!」
「ばかおまえっ、何勝手に言ってんだよ!」
教室の後ろから、早速クラスのムードメーカー的な存在になっている男子の森田くんと小沢くんがからかってきて、クラスが笑いに包まれた。
ホッ。私も思わず緊張がほどけて笑みが零れる。それと同時に授業開始のチャイムが鳴った。
「じゃあそんなわけで、現文の授業を始めるわけなんだが…その前に」
おじさん先生が、黒板に「福田誠」と大きく書く。
「もう一度軽く自己紹介すると、みんなの現代文を受け持つことになった、国語科の福田誠です。よろしくな。」
福田先生は、ニコッと笑った。
「ちなみに歳は今年で45だけど、まだまだ元気にやっていきまーす」
「えっ、45歳なのにカッコイイっすね」
さっきのノリがウケてノッてきたのか、森田くんが早速福田先生をからかう。
 でも私もそれは思った。
 とてもその年齢には見えないほど、若々しくて綺麗な顔立ちの先生だから。きっと若い時はすごくモテたんだろうなって思っちゃう雰囲気も持ち合わせている。
「それは日頃から健康な生活を送ってるからだよ~君。君も俺みたいになりたかったら、とにかくレディーに優しくするんだぞ!」
ドッ。福田先生のジョークに教室が温まる。
すごいなこの先生、初回の授業から教室の空気を完全に我がものにしてる。
「じゃあ現代文についての説明をしていきまーす」
私は先生の声に合わせて、真新しいノートを開いた。

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