がらくとぽんこ 〜あるいは、未知のエネルギーを独占した大英雄もしくは大悪党の物語〜

ブルー・タン

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第三章 魔法陣(進展)編

035_ガラクと紆余曲折(その3)

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 副社長の言う『提供』とはチップを所持しているなら使わせて欲しいと言う意味も含んでのことだろうが、チップは最初に入手した段階で使用者がガラクに制限されてしまっており、現状では解除の方法もわからないため副社長にそれを使用させることができない。
 そのため、魔法について情報を提供していい部分について事実と現状を説明することにした。
「この技術は使用できるチップとしては存在していません。なので、使用方法を最初から学んでもらう必要があります」
 問いかけに対してガラクの反応が悪くないと判断したのか、副社長は目線で話を続けるよう促してくる。
「まず、先ほど見せた技術を使うために必要となる基礎技術があり、それについては現在、クロスタさんと従姉妹のスクラ、それから友人のパリスに習得するための練習をしてもらってます」
「・・・え?クロスタはあなたの家でそんなことしてるの?」
「はい。毎日、僕の家に来てもらっているのはそのためです」
 毎日、ガラクの家に通っている理由はクロスタの気持ちゆえで、ここではそうでなくともガラクの家につけばそれなりに甘い雰囲気で過ごしていると考えていた副社長は、一瞬あっけに取られたような表情になった。
 だが、次の瞬間には副社長の想像よりはるかに重大な内容であることに気がつき眉を跳ね上げたものの、大人として会社経営者としての経験を総動員して驚きの声を上げることはギリギリ自制した。
 なお、その横でクロスタが自分の母親がなにを考えていたのか気がついて顔を真っ赤にしているが、そのまま俯いてしまったためにガラクからはそれが見えず、幸い(?)にもはそれには気がつ枯れなかった。
「今の所、最初に教え始めたスクラがようやく基礎技術習得の目処がたったところです。スクラだけの話になりますが、そこまで到達するのに毎日練習を行なって数ヶ月程かかります」
「数ヶ月?短縮は?」
「多分無理です」
 ガラクの習得にかかる期間に関する説明について飲み込むために腕組みをして少し考え込み、納得したのか腕組みを解いてから一つ頷いてガラクに話の続きを促した。
 なお、その横のクロスタはこれから何ヶ月もの間、毎日ガラクと過ごせることを改めて認識してニヨニヨと変な笑い顔になっているが、ガラクは彼女の母親との会話に夢中で気がつきもしない。幸いにも。
「その習得が完了してから、基礎技術がベースにある先程の技術はある意味応用とでもいえばいいのか・・・」
 ガラクにとってはチップやタブレットから得られた知識として全容を理解しているものの、魔法全体の話をぼかしつつ収納魔法についてのみ説明しようとするとなかなな言葉選びが難しく、言葉を詰まらせながらどう言えば理解してもらえるのか考えながら言葉を紡ぐ。
「副社長にお見せした技術はいくつもある技術の中でも難易度が高い部類に入るため、それを習得するためにもかなりの日数が必要になります」
 ちょっと考えてからガラクは自分が現在練習している金属形成の魔法の習得状況を例に挙げることにする。
「これはあくまで参考ですが、現在僕は習得難易度がだいぶ低い技術を僕が練習してますが、3週間ほどかかる見込みです」
 これはあくまで魔法陣を使用せずに詠唱を覚えて発動させられるようになるために必要な日数だが、常に魔法陣を用意できるかわからないため、原則として今後魔法を覚えてもらう人には詠唱で覚えてもった方がいいとガラクが考えているからだ。
「それから、基礎技術を教えるために僕自身が対応する必要がありますし、その後の応用技術を教えるためにも僕が対応する必要があります。現状では1人追加するのは厳しいです」
 正直、足りない人手を補うためにゴーレムを作ろうとしているのに、そのために動き始めた最初の段階で行き詰まってしまっていて先に進めないのだ。
 一歩ずつ進めようとしているだけなのに色々と問題が発生して予定通りに物事が進まない現状に対し、ガラクはかなりストレスを感じている。
「将来的に今教えてる3人が人に教えられるだけの技術が身に付いた後であれば、僕が直接教えることも検討できると思いますが、どのくらい先の話になるかはちょっとわかりません」
 ゴーレムの制作が完了したり3人がいくつかの魔法を覚えるなど、せめて集中して魔法陣の作成や魔法の研究に取り組める体制が整うまでは魔法を教える相手を増やせないと考えている。
「つまり、長々と説明してくれた結論としては、教えるのは吝かではないけど当面は無理。と言いたいわけね?」
 経験上、相手の状況や言い分を汲み取ることに長けている副社長は説明の意図するところを過不足なく理解していた。
「・・・はい。・・・あ、あとは基礎技術の方は練習の間に時間が開いていると成果が後退するので、できる限り毎日練習できることが望ましいです・・・」
「まぁ、すでにクロスタが教えてもらってるなら無理にとは言わないわ。いつかクロスタが人に教えられるくらいになったら娘から習うのも悪くないし」
 どうやらクロスタがすでに練習を始めていることでいきなり副社長を教える相手に加える必要は無くなったようで、ガラクとしては一安心した。
「今現在で、この技術について詳しく知っているのは誰?」
「僕、今練習している3人と副社長の4人です」
「教える人数を絞ったのは褒めてあげるわ。その相手も、従業員のエッペンパリスファルトマンはちょっと不安を覚えるけど、それ以外の2人は私から見ても信用できるともうし漏洩の心配も少ないでしょ」
 そう言って副社長は微笑みを浮かべてた。
「私に情報を開示したのがクロスタの後じゃ無ければできるかぎりその技術を独占する方向で動いたと思うけど、結果としては娘のおかげで悪くない立ち位置になったから勘弁してあげる」
 そう言った後、急に真面目な表情になりガラクに向かってこう言った。
「クロスタが泣くようなことになったら容赦しないから覚悟して起きなさい」
 副社長の眼光に震え上がったガラクは、クロスタとは今まで通り仲良くしていこうと心に誓った。
 なお、クロスタは真っ赤になりながら自分の母親のことを横から睨みつけつつ肘鉄を食らわせているが、当の副社長は全く動じた様子がなく、ガラクは震え上がっていたためにそれにそちらに気を向ける余裕はなかった。幸いにも。
 副社長はガラクに釘を刺したことで魔法に関してある程度情報収集が完了したと感じたのか、また腕組みをして考え事を始めた為にガラクとクロスタはそれが終わるまでじっと待っていた。
 相手がこちらの意向について検討しているなんとも言えない空気感の中、ガラクは叔母であるスクラが亡くなった後に幾つもの企業の面接を受けて落ち続け、最終的にはクロスタの助けなしに仕事を見つけることが出来なかった過去を思い出して胃がいたむような気持ちになっていた。
 なお、クロスタは母親の長考癖は家庭内にあってもいつものことで、その間に変に声をかけたりすると自分に不利な方向に意思決定されがちなことを知っているので黙って静かに待っていた。
 しばらくして副社長が腕組みを解いてガラクに話しかける。
「多少の調整は必要だけど、原則としては貴方の希望どおりR/R社の事業拡大については、子会社設立に路線変更して貴方に売り払うことにするわ」
 簡単に説明を聞かせてもらうと、会社は規模をほとんど拡大せずに子会社との契約によって収入が増大するため、契約による業務が安定して内部留保が増えた段階で新ためて再検討すれば問題ないとのこと。
「さっきの話のとおりであれば、資源回収用ヴィークルの積荷を満載するのに時間はかからないでしょ?」
 副社長の質問に頷いて返事をすると副社長は話を続けた。
「いくらある程度準備してあった事業の買取とはいえ、事業の譲渡契約とか設立した子会社の法人登録、総務的な仕事ができる人材と厚生関係の処理ができる人材、それらの取りまとめをするための人材、最低でも3人の雇用のための手続き、貴方自身が処理しなきゃいけない類手が山ほど発生するし、そのほかにも色々やらなきゃいけないことがたくさんあるわよ。必要な書類は事務員使って用意しておいてあげるから、明日から毎日2・3時間ほど早めに切り上げて戻って来なさい」
 事務的な内容を一気に捲し立てられつつ、ガラクはまたしても自分の時間が減っていく現状に、やはり自分には組織の設立は無謀だったのかと考えながら軽く肩を落とした。
 
 いつも通り自宅で魔力操作の練習をしようとクロスタに声をかけると、明日から色々と忙しくなるので今日は早く帰って休むよう副社長から指示された。
 命令ではないけどと言い添えられたものの、副社長の指摘に納得できたガラクはその指示に従ってクロスタに別れの挨拶を告げてから副社長室を辞した。
 なお、副社長室の扉が閉まる寸前に後ろからクロスタのなんとも言えない叫び声とそれを宥める副社長の声がガラクを追いかけてきたが明日以降のことで頭がいっぱいだったガラクはそのままスルーして帰宅してしまった。
 帰宅後、スクラに簡単に状況を説明した上で今日の魔力操作の練習は中止と告げたガラクは、食後に寝支度を済ませると早々に就寝した。
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