シたい彼女と寝てたい彼女

とちのとき

文字の大きさ
40 / 41
エクストラストーリーズ 全四話

Ex3 自堕落な天使

しおりを挟む
 彼が人間の女に見惚れたのは天の気まぐれか、はたまた意図したものか。

 大天使より命を授かった天使は、混沌の兆候が無いか調査するため人間界へと使いに出された。

 翼を消した天使は人で賑わう場所を探すため、とある夜の街を訪れた。ランタンに照らされた一つの看板が彼の目に留まる。
 「ここが酒場とやらか・・・・。ここは夜でも人間が多い。何か情報が手に入るかもしれないな」
 建物の中に入ると人々が飲み食いをして、楽しそうにしているのが目に入る。彼がキョロキョロしていると、一人の若い女性客が話しかけてきた。
 「お兄さん、ここらじゃ見ない顔だね。旅の人?」
 「まぁ、そんなところだ」
 「じゃあ、知り合えた事を祝って一杯おごるよ」
 女性の隣に座ると泡の浮かぶ黄金色の液体が、大きなジョッキに入れられ運ばれてくる。
 「それじゃ乾杯」
 そう言う彼女を真似て、彼は口にそれを流し込んだ。
 「これは旨い!初めて飲んだ」
 「はは、冗談でしょ⁉どこの酒場にでもあるハニービールだよ?」
 「そうなのか?私のいた世界には無かった」
 「世界?変わった言い方するね。遠方の出なの?」
 「まぁ、そんなところだ。ところでこの辺りは何か異変はないか?」
 「異変?そんなもん無いよ。あ、もしかしてお兄さん冒険者?依頼でも探してる?」
 「そんなところだ」
 「私、薬屋やってるから冒険者組合の知り合い居るよ?明日紹介してあげるね。今日宿は取ってあるの?」
 「いや、野宿するつもりだった」
 「それはあんまりだよ。うちくる?あ、誰かれ構わずこんな事言ってる訳じゃないよ?」
 「いいのか?」
 「これ以上言わせるのは女性に対して失礼ってもんだよ。・・・・わかるでしょ?」

 人間界に来て早々、彼は酒と女を知ってしまった。それからというもの自らの欲望に浸っていると、ある日のこと仲間の天使が彼の元を訪れる。

 「お前は一体何をしている?報告も滞っているぞ。一度戻れ」
 「人間界の楽しみを知っているか?ここは素晴らしい世界だ」
 「何を言っている。地の底に落ちた奴らではあるまいし、任務を忘れたか?」
 「いや、本当に素晴らしいのだ。神の寵愛の様に人間は優しくしてくれるし、ここでの食べ物は旨いし」
 「・・・・。やはり無理にでも連れて帰る。お前は染まりすぎだ」
 「嫌だ、やめろー!」

 彼は天界へと連れ戻された。それにより彼を愛し、彼に愛された幾人かの人間達は残された。そして、そのうちの一人の女性には新たな生命いのちが宿っていた。

 彼が人間界から姿を消してから数ヶ月。生まれたばかりの赤子を抱え、周囲を気にしながら夜道を歩く一人の女性の姿があった。
 彼女はある場所で足を止めると、赤子の顔を複雑そうな表情で見てこんな事を思った。

 ここなら運が良ければこの子を誰かが見つけてくれるかもしれない、仮に死んでしまったとしても騒がれずにそのまま葬ってもらえるかもしれない・・・・。

 大カタコンベ。その入口へと女性は足を踏み入れた。
 一般埋葬区域の奥へ進み、布にくるまれた我が子を硬く冷たい床に置く。そして何度かそちらを振り返りながら女性は足早に去って行った。

 翌日、赤毛の幼い少女が、捨てられた赤子を心配そうな顔で見下ろしていた。彼女は弱った赤子を抱えると、急ぎ両親の元へと駆ける。
 その後、赤子はメリランダと名付けられ、墓守の一族として大事に育てられたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

あべこべな世界

廣瀬純七
ファンタジー
男女の立場が入れ替わったあべこべな世界で想像を越える不思議な日常を体験した健太の話

台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】 台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う! この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。 空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。 台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、 誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。 ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、 先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。 ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、 ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……? 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。 ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。 空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...