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薔薇の香りと剣舞曲

22 スワンのバカ

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 俺の走る速さはリアルの俺よりもかなり速かった。前傾姿勢で剣を構えて、2人のNPCへと迫る。視界の中に、右から俺を軽く追い抜いて行くモフモフさん……

(ダークエルフって、足速えー。つーかぶっ飛んでいくよ)

 ── 戦闘シーンが始まった。

 足音すら背後に残して、ダークエルフのモフモフうさぎはグヘヘに急接近した。

 腹の真ん中にモフモフうさぎが放った短剣を刺したままのグフフは、短剣から目を上げた瞬間、目の前に現れた膝を顔面に受けて、首から上が後ろに仰け反った。

ボクァッ

 やばい音を残してグヘヘが仰向けに倒れこんだ。

(膝蹴りの後、宙で一回転しての見事な着地って、あんた何者?)

 遅れて突っ込むラヴィアンローズはそうは思ったものの、狙うは残りの1人。剣道で言うところの胴を抜くつもりで向かって右に走り込んだ。

 ド派手に倒れた相方に気を取られて、棒立ちになっているもう1人のNPCにラヴィアンローズが斬りかかる。

 左斜め上から斬り下ろすフェイントを入れてからの、片膝をついて腰を下ろして右胴を切り抜く、抜き際に左手を離し滑り抜けながらの抜き胴一本。

 右手で振り抜いた剣を真っ直ぐ前に伸ばし、片膝をついたポーズをキープするラヴィアンローズ。

 ラヴィアンローズの背後でドサリとNPCの倒れる音がした。

(決まった!)


 実況が始まっていた公式掲示板の様子はと言うと

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青い空>ダークエルフが魔法のフレアを発動しましたっ!

青い空>あぁっ、追いかけていた男のひとりが炎に包まれてこんがり丸焼きに

焼肉ゴリラー>なんだなんだ、どこ? 教えてー

マツイ☆ランバート>南門の外に出てすぐ。PvPが始まってるぜ

猫ニャン∩ペロ>聖騎士の魔法かっこいいやん

ハンマーボキッ>あいつは性騎士じゃねえかっ

大蛇曼荼羅>ウキョーすげー

青い空>疼くわっ! 抱いてー、モフモフ様ステキ~

ギルバートSE>実況しろー

弾道ミサイル火門>ラヴィちゃんマジすげぇ、一刀両断で決めポーズしてやがる

アリス>やばいよやばいよ、なぜか嫉妬! !
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GMスワン>おーい、どうだそっちの方は? こっちはダメージ喰らって立てない状態……ほぼ一般人のステータスにしてたのが悪かった

GMスワン>カル、R、悪ノリすんなよー、そっちもさっきの電波受信じゃ無いからなぁ

(返事がない……どうした?)

 その頃リスポーンゲートに赤ネームの2人が現れていた。

 ── 電波受信2号、そして電波受信3号。ナイトパンサーと巴御前に倒された後に、姿を消した憎きPK狂いの2人。

 PKKされたペナルティで暫く出てこれなくなっているんではないかと、みんなは思っていたわけだが、その正体は、GMカルとGMバッドムRであって、今回の再登場は個人的な感情が原因である。

「ざけやがって、なんなんだよあれは、カルさん、最初っからあんな動きが出来んのか? トチ狂ってやがるぞ」

「スワンのバカが間違って音声と一緒にモーションも解放したんだろーよ。絶対ぶっ殺すわ」

「ステータスの解放設定完了したぜっ」

「うひひひ、俺もだっ。ぐっちゃぐちゃのギットギトにしてやるわ!」

「このダサいネームも変えようぜ。つーか隠しキャラ使おうっかなぁ」

「じゃあ、声も変えちまおう。どんだけエフェクトが効くか楽しみだぜっ」

 不穏な会話をでかい声で話す2人。

 〔暗黒の不死者 カニバリズマー〕

 ── 真っ黒いローブを頭から羽織った魔導士、レベルMAX、それが電波受信2号(バッドムR)の姿。

 〔紫紺の美姫 イザヤ〕

 ── 肌は薄紫、着ているドレスの色も紫紺と黒と、どす黒い赤のダークエルフの美形の女、それが電波受信3(カル)である。

 見るからに禍々しい悪役真っ盛りな2人は、今まさに水の都アクエリアを血の海へと沈めようとしていた。
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