雨音と素肌の記憶

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第四章「核心へ — 雨音が紡ぐ秘密」

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 季節は秋へと移り変わり、雨の頻度はますます増していった。雨が降れば雫と会える—そんな期待を抱くようになった律は、完全に彼女の存在に翻弄されていた。そんなある日、律は意を決して雫の過去を探ろうと動き始める。

 彼女が消えているあいだ、いったいどこに行っているのか。律は雨の日の夜、彼女を追いかけるように街へ出た。すると、都内のはずれにある古びた公園のベンチで雫の姿を見つける。彼女はそこに腰を下ろし、淡々と空を見上げていた。

 「ここにいたんだね」
 声をかけると、驚いたようにこちらを振り返る雫。どうしてこんな場所を知っているのかと目が問う。律は答えに窮しながらも、正直に話す。
 「知りたいんだよ、君のことを。どんな過去を背負って、どうしてそんな力を持っているのか…」

 雫は雨で濡れた頬を拭うこともなく、視線を下に落とした。「私…ある人を救えなかった。大切だった人を失って、それ以降何かが壊れたみたいで…気がついたら、こうなっていた」
 それ以上は口を濁すばかりで具体的な名前や状況は語らない。しかし、雫の声の震えと瞳に浮かぶ涙の光が、過去が深い悲しみに根差していることを雄弁に物語っていた。

 律は意を決して彼女の肩に触れる。そして、彼女の悲しみがどんな形をしているのか、この目で見たいと願う。触れた瞬間、再び記憶の渦が立ちのぼる。今度は律の記憶だけでなく、雫のものが流れ込んできたかのように感じた。荒れ狂う夜の嵐の中で、必死に誰かの名を呼んでいる雫の姿。倒れた誰かにしがみつき、何度も「ごめんなさい」と繰り返す声。雨と絶望に濡れたあの映像は、雫のトラウマそのものなのだろう。

 深い痛みに共鳴するように、律の胸も苦しくなる。雫は律の手を押し返すようにして距離を取った。「やっぱりダメ…私が近づくと、みんな傷つくから」
 そう言ってベンチから立ち上がり、雨の中を走り去ろうとする雫。その腕を律は咄嗟に掴んだ。
 「やめてくれ…! そんなふうに自分のことを責めないで。俺は、君がいるから自分の痛みと向き合えてるんだ」

 雨はますます強くなり、二人の声をかき消すかのように世界を覆う。雫は顔を上げ、律を見つめる。その瞳には愛しさと恐怖が混じっていた。
 やがて、彼女は小さくうなずき、また律の胸に戻ってきた。激しい雨の夜、二人はそんな激流のような感情を抱えて互いを求め合う。その触れ合いは、ただの安らぎを求める行為であり、同時に二人の孤独を確かめあう行為でもあった。

 夜が明けるころ、雨は小降りとなり、曇天の空に一筋の光が射す。律は雫の手を握り、決意したように言う。「もう逃がさない…君の中にある苦しみも、俺の中にある痛みも、一緒に背負っていきたい」
 雫はわずかに震える声で「そんなこと…できるの?」と問い返す。
 律は静かに首を縦に振る。その瞳には過去のトラウマを抱えながらも、一歩を踏み出そうとする意志が宿っていた。
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