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軍事機密
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七 軍事機密
市ヶ谷、『海神』、作戦会議室。
異常気象と言う言葉が日常のあいさつ代わりになるような厳しかった冬も終わり、
南の地からちらほらと桜の便りが聞こえる時分になっていた。『海神』の広い敷地に
植えられた桜の木々も芽吹き、開花の時を待っている。
その敷地の地下に設えた作戦会議室に、季節を感じさせるものは無かった。
例によって、大町達のスタッフ五人と、石葉首相が会している。
「今の所日本の諜報システムは有効に機能し、多大な成果を上げていると言って
良いと思います」
「そのようだな。情報面で後れを取るようなことな無くなったな」
「カブトを捕獲されると言う、取りこぼしはありましたが、差し当たって、
防衛面も問題はありません」
モニターに映し出された資料を前に、今後の防衛戦略全般について検討し、
お互いの考えを確かめ合っていた。
大町達はこれまでの諜報活動で、超大な情報を集め評価することで、
日本の対外戦略に生かしてきていた。
盗聴やハッキングで得たものも多かったが、『キンチョ―』や
『雪虫』が集めた生の情報が最大の成果を上げてきたと言える。
相手の行動や作戦の裏にある、計略・思惑までが手に取るように解ったからだ。
「これをご覧ください。各国の資料をまとめてあります」
既に環太平洋にある国々が保持する軍事力の、全てと言って良い詳細を把握していた。
軍の配備状況、軍の装備と性能、ミサイル基地の位置、その戦略構想など、
他国に知られてはならない情報を掴んでいた。
特に核武装している国の情報には、細心の注意を図り軍事情報を収集していた。
最悪のケースを想定しての諜報活動だった。
石葉は目を丸くしている。
「よくここまでの情報が集められたな。各国の軍事状況が丸裸になってるじゃないか。
まさに『海神』恐るべし、情報を盗まれた国に知られたら、とんでもないことになるぞ」
「その通りです。これは超一級の極秘事項です。この情報に触れることができるのは、
このメンバーだけです。NSCにも開示するわけにはいかないのです」
大町は政治家に知らせる情報ではないと考えたが、石葉は特別と信じていた。
防衛省へ情報を降ろす場合は細切れにしてから、首相が独自に得た情報として流し、
今後の防衛戦略に反映させる手法をとった。
真の極秘情報に触れる人間は極端に限定する。それが大町の方針、信条で、
石葉とも話し合い了解し合った手法だった。
米国は盗聴と『ビッグデータ』の収集を中心に、諜報活動を組み立てていた。
旧来のスパイ活動も変わらず続けていたのだが。
盗聴行為は、敵味方関係なく広範に行われていた。
それは米国に限ったことではなく、どの国においても行われていることだった。
「やはり一番の能力を持つのは、アメリカですね。人数もそうですが、
集めている情報量が半端ではありません」
ビッグデータの収集については、米国の独壇場と言ってよい状況だった。
他国の情報サイトのハッキングなど日常茶飯事だ。
グーグルやヤフー、インターネットに関連したすべての情報が勝手に集められ、
分析されていた。それは個人のメールや、ウェブへのアクセス記録まで及んでいる。
「総理、今お使いの個人の携帯電話は、米国を始めとして、少なくとも三か国に
盗聴されています。あえてお知らせしておりませんでしたが、悪しからず」
「ど、どう言うことだ、それは!」
石葉の顔が赤く染まる。
「情報管理も完ぺきだと、却って相手に警戒されるからです。適当に漏れる、
それも戦術の一つです」
「なんて奴だ。おれは囮か?」
「個人の話や政局の話は、原則防衛とは無縁ですので。私は首相の人格を信じて
おりますので、不都合はないかと。
どうか今迄通り、自然な態度でお話し下さい」
石葉は憮然としている。
「なんて奴らだ……。*****」
石葉はブツブツと罵る言葉を漏らしている。
『海神』はその種の諜報活動とは、無縁だった。
必要であれば、相手が持つ諜報の成果をキンチョーなどで盗み見ることが
できたからだ。
軍事関係の情報は、わが国にとっても、相手国にとっても最高の機密であり、
厳重な統制のもとに管理されていた。
『知っている』ことを、知られてはならないのだ。
◆
数日後、同じ作戦会議室。
作戦会議室に集まったメンバーはこれまでとは大きく異なる前提を前に苦慮していた。
大町達は、これまで海洋でしてきたのと同様陸上でも、相手国が持つ武器の無力化を
考えていたのだ。
技術的問題は、既にクリアーしている。
躊躇したのは無力化が可能か否かは別として、実行するとすれば相手の国に直接手を
突っ込む形にならざるえないからだ。
先制と言う意味では、過去中国海軍の潜水艦隊を無力化したことはあるが、
表立っての事では無い。疑われることはあっても、痕跡を残したわけでも無く、
無論抗議されることもない。
陸上で痕跡を残さず、同様の作戦は不可能と言えた。
専守防衛の範囲を、大きく超える手法であることは明らかだ。
「大町君、海洋のケースは良いとして、今後の戦略は慎重にならざる得ないな。
私としても躊躇する問題だ」
極東の海に関して言えば、軍隊の渡洋能力・打撃力を持つのは、米露中の三か国のみ
しかない。
現状中国の能力は島嶼侵攻が可能な程度で、日本本体を攻められるレベルでは無かった。
ロシアも同様だ。
仮に侵攻があるにしても航空兵力によるカバーは不可欠で、その能力を持ちうるのは
アメリカ以外無く、当面の問題はない。
これまでの実績から、海洋からの攻撃は現状の体制で対処できる、
石葉はそう確信していた。
問題は、航空兵力による攻撃、ミサイル攻撃の二点に絞られた。
空からの攻撃、それは戦争を意味するので、海洋でとった戦略をそのまま当てはめる
わけにはいかなかった。
大町も煮え切らない。
「そうです、もしそこまでを防衛の範囲と考えるなら、新しい対応が必要になります。
言ってみれば相手の国に土足で踏み込むという話ですから、慎重にならざるえません。
明らかに専守防衛の範囲を超えていますからね」
「それで、ミサイルは防げるのかね?」
「仮に質では無く数を投入する、飽和攻撃であった場合。つまり、前回の尖閣への
上陸計画のような数を使った戦術に対処する術はありません。イージスやミサイル
防衛システムに、数の限界があることは明白です」
「それなら、どうすれば良い」
「ですから、事前に相手を叩く以外、方法はないでしょうね」
大町達は仮想敵国の空からの脅威を無力化する、と言う戦略を立てていた。
大町は言い切る。
「総理、準備は出来ています。あとは内閣、正確に言えば総理の判断次第ということに
なります。丸投げするようで申しわけないのですが……」
敵地で使うことを想定したハイテク武器、装備は完成していた。
首相が苦笑いして、
「おい、それはどこかの国の、たしか、『李なんとか』と言う奴が言ったセリフの
丸映しじゃないのか? やらしてみたら『毛』とか言う奴が泣きを見た、って話と
そっくり同じじゃないか」
大町も苦笑いだ。
「ははは、総理、からかわんで下さい。
私はカードを用意するだけの役目ですから。出来るだけカードは多い方が良い、
そう考えてるだけです。
政策決定は為政者がする、それが民主主義社会のルールですからね。
これだけは、厳守しなくてはなりません」
大町は常日頃、極力上層部に対して政治的意見具申はしないよう、心がけていた。
軍人の思い込みは戦いに偏りがちで、時として禍根を残すことが多かったからだ。
石葉はタカ派と見られていたが、どちらかと言えば、大町はある意味常識的で、
穏健派と言えた。
究極の抑止力である『核武装』など、一顧だにしていない。
「とにかく火急の事態が生じない限り、様子を見ることにしよう。
私は今ここで決定する問題ではないと思う。
君たちは先送りと思うかもしれんが、状況を見極めよう」
会議では状況分析だけで、なにも決まることはなかった。
ただ大町が、非常事態に備えて準備を怠ることはない。
◆
同日、中国、中央軍事委員会、会議室。
会議室には正規と言える軍事委員の数は少なく、異例とも言える李が個人的に
招集した軍事委員会の様相を呈していた。
委員会に出席した経験がない、軍人たちのザワメキが納まらない。
「なんで俺たちが軍事委員会に参加できるんだ?」
「シーッ! 余計なことは言うな。これは李上将が独断で集めた会議だと言うぞ。
なにか、きな臭い匂いがしないか?」
「そうか、触らぬ神ってことか。黙っているのが得策だな」
初参加の軍人同志の会話だ。
軍事代表、李孔明が多くの諜報機関の人間を集めていたのだ。
李孔明は前の委員会でキンチョーを逆利用しての反撃を企て、無様な結果を招いた
ことに怒りを隠さなかった。
毛総書記の意思決定の延長と主張し、強引に進めたことが裏目に出て、完全に立場を
失っていたのである。
失地回復の成果が無い限り、更迭されることは目に見えていた。
李が会議室の全員を見まわして言う、
「おい、この部屋の『キンチョー』は大丈夫なんだろうな、これ以上の失態は許さんぞ」
(これ以上って、お前はもう終わりだろう)
日本担当の馬辰が手を挙げる。
馬は昨年の釣魚島奪還計画の失敗で海上に取り残された、漁船員の救助に尽力した
功績で、軍事委員に昇進していた。
「李同志、ご心配なく。この部屋にいた三匹のキンチョーは除去しました。この部屋は
安全です」
「ふん、そうか、忌々しいな。我々にキンチョーのようなものは造れないのか?」
「李同志、仕組みは解析できましたが、今の我々の技術では到底無理です。
日本の技術者を確保するしか方法がありません」
李の顔に怒りが浮かぶ。
「それなら、拉致してでも連れてこい。それがおまえ達の仕事だろう。
それが判っていて何をしてる」
馬辰が困った顔をする。
「それが、出来ないのです。開発した技術者の特定は出来ているのですが、
どうも日本で新たに創設された、諜報機関に保護されているようです」
李の怒りは収まらない。
「日本の防諜は完ぺきで、我が国は穴だらけと言うわけか」
吐き捨てるように言う李に、全員が下を向いて黙り込む。
(現状はその通りだ。この数年で、諜報戦における中日の能力は完全に逆転して
しまっている。それを認めるわけにはいかんがな。当面は防御に徹するしかない。
全容解明、反撃はその後だ))
馬は冷静に分析していた。
キンチョーに対しては、二重の防御体勢を敷いていた。
「我が国の潜水艦が無力化されたことは、どう評価すれば良い。
敵を欺いたはずが、結果として逆に嵌められたのだ。我々は『日帝』の手の平の上で、
踊らされているのか?」
馬辰が顔を上げ、
「李同志、それはありません。日本の工作員が送ってきた情報は正確でした。
あの時点で敵がそれに対処出来たとは思えません。日本が我々の軍港すべてを監視
していた、そう言うことでしょう。我々の策敵能力が劣っていたということです」
李孔明の顔が引き攣っている。
馬辰は冷静に話を続ける。
「我々が得た極東ロシア軍の情報によると、日本の攻撃にはカブトガニ型の兵器が
使われたようです。
未確認情報ですが、ロシア太平洋艦隊の一部が参加する、露米共同作戦があった
模様です。
詳細は判っていませんが、鋭意、情報を集めているところです」
李孔明はだんだん興奮して、顔が赤くなっていた。
「あれもダメ、これもダメだあ、おまえ達正気か? 人民解放軍の同志として為すべき
ことを考えろ! 恥を知れ! 我々はなんとしても、『日帝』の野望を打ち砕くんだ」
李孔明の興奮は収まらない。
馬辰が立ちあがって言う。
「お言葉を返すようですが、李同志。我々は冷静に分析しております。
そもそも李同志の『釣魚島奪還』と言う計画に、無理があったのではないでしょうか」
李孔明の顔が真っ赤になり、怒りに膨れ上がる。
「な、何を言うか! おまえ、覚悟があって言っているのか? 世迷いごとを言うな!」
馬辰も、負けてはいなかった。
「そもそもあなたの言う、『日帝』って何なのでしょうか? 今の日本に中国侵略の
意思があると、本当に思っているのですか? 私もそうですがあなたも工作員として、
日本に留学した経験がおありでしょう。
あんな軟弱な国・国民にそんな意思がないことは、明らかです」
李は震える手を机に押さえつけ、馬辰を睨み付けている。
「……」
馬に動ずる様子はない。
「あなたの個人的な思想、民族的恩讐に付き合わされるのは正直言って迷惑です」
中国で川に落ちて溺れた犬は、石を投げつけられてしまう。
陸に助け上げれば噛みつかれる恐れがある、と言う理屈らしい。
李孔明の唇は、ワナワナと震えていた。
既に李の立場は危ういものになっていて、参加した軍事関係者は敏感にそれを
感じ取っていた。
「言いたいことはそれだけか? 覚悟して置けよ」
「まだまだ他にもありますが、後はご自分でお考え下さい」
馬は李が北朝鮮の工作員を動かして失敗した、日本の原発破壊工作の事実も
掴んでいたが、それを明らかにすることは無かった。
手を下さなくても、李の命運は尽きている、そう判断していた。
委員会が開かれた会議室の外にある薄暗い廊下の天井に、なにやらうごめいている
ものがある。
母船の役目をもった『キンチョー』が張り付いていた。
◆
翌日。
市ヶ谷、『海神』、作戦会議室。
大町を含めた五人のスタッフが、中国情報の分析をしている。
「李孔明の失脚は確実だろう。
一つ大きなトゲが抜けた、そんな感じだな。
これまでの経緯をみていると、馬辰が今後、軍事委員会における軍部の代表として
伸し上る、そう思えるがどうだ?」
「部長の仰る通りかと思われます。日本に対する情報評価を含め、事実を感情抜きで
評価する、冷静な人物だと思います。軍事委員会のメンバーを見渡しても、彼以上の
人間はいないかと」
松本二尉が自身の分析を発言した。
「そうだな、権力志向はありそうだが、まともに話せる相手、そう思う。情報交換の
相手としては充分な適材、そんな奴だろう」
「部長、又コンタクトしてみますか?」
大西が思わぬ事を言い出す。
「え、できるのか?」
「はい、例のハニートラップを仕掛けた相手なら、馬辰にまで話が通じると思います」
「ははは、そうか、やってみてくれ。
探り合いだけではなく、互いを知る、それが一番の安全保障への近道になる。
疑心暗鬼ってのが、一番やっかいな問題を引き起こすからな」
「それで具体的には、何を伝えますか?」
「建前でかまわん。差しさわりの無い範囲での、情報交換。
それと非常時に確実に使える、通信ルートの設置、それだよ」
「了解しました」
その会議の場に突然、『雪虫』のオペレーターの情報が入り、全員に緊張が走る。
報告を手にした、松本二尉の表情が強張る。
「部長! 黒竜江省のミサイル基地に、李孔明が現れました」
中国に展開する主要な軍事基地には、全て『雪虫』の監視下に置かれていた。
「なんだって、李孔明がか? あいつに監視はつけなかったのか」
「申し訳ありません、もう李孔明の失脚は確実で、何も出来ない、そう思い込んで
いました」
大西三尉が頭をさげる。
松本二尉がそれを無視して続ける、
「ミサイル基地って、いったい何のつもりでしょう?」
大町の顔が呆れ顔になり、
「バカヤロー!、大至急『鳳凰』を手配しろ! それとモニターに衛星画像を出せ。
『監視バト』の映像も忘れるなよ」
「『鳳凰』……、了解です!」
「手配がすんだら、総理にコンタクトして、至急ここに来てもらえ。
スケジュールなんて、無視して構わんぞ」
作戦会議室は一瞬で、緊張に包まれた。
◆
同時刻・吉林省通化ミサイル基地。
春しぐれとでも言うのだろうか、中国の辺境とも言える基地の周辺は季節外れの
長雨が続いていた。周囲の道路はぬかるみ、軍用車両の移動にも苦戦する有り様だった。
迎えの車から降りたった李孔明は、ぬかるみに脚を取られながら指令室に入って行く。
未だ李は、この地方軍に大きな影響力を保持していたのだ。
李の失脚を知らない基地の司令官は軍隊における最高の地位にあたる軍事代表を前に、
直立の姿勢で自分の席を譲った。
「これが作戦指令書だ。よく読んでおけよ」
司令官は、李が机の上に投げ出した書類を、拝むように受け取る。
「わかったら、全員を集めろ」
司令官は書類を確かめることなく、李の命令に従う。
己の立場を失った李は軍事委員会代表の地位を追われる前に、最後の賭けに出たのだ。
整列させたミサイルサイトの要員を前に、李が訓示をしている。
「いよいよ、『日帝』に積年の恨みを晴らす時がきた。父や母、祖父や祖母、
先祖の無念の思いを晴らすのだ。これが命令書だ」
李孔明はそう言って、偽造書類を差し出した。
吉林省通化の弾道ミサイルは、表向き日本をターゲットにしたものだったが、実際は
対ロ攻撃を目的に設定されていたものだ。それに対し李は強権を用い、再度日本向けに
プログラムを書き替えさせてしまう。
間髪を置かず李は、無謀にも核ミサイルの発射命令を下したのだ。
「よし、これで戦争が始まれば、俺にもまだチャンスはある」
李は、正気を失い、破れかぶれ、そんな状態だった。
ミサイルサイトの周辺には、数羽のハトが舞っていた。
ミサイル基地に警報が鳴り響き、一帯は緊張に包まれた。
その結果が戦争に直結する核攻撃、そのボタンを躊躇なく押せる人間はいない。
「何をしている! 早く発射しろ!」
李の声は上ずっていた。
躊躇する兵士を殴り飛ばし、李が強引に発射レバーに手を掛ける。
「見ていろ! 十数分後には結果がでる」
李の顔は、狂気に歪んでいた。
李の狂気に巻き込まれ、周りで為すすべもなくその姿を見つめる兵士たち。
その引き攣った顔には、戦争への恐怖が張り付いていた。
「ガー・ー!」
サイロに響く噴射音。
狂気による、核ミサイルが発射される。
一基の核ミサイルが、白煙を引きながら上昇していった。
「よおしっ、これで日本は終わりだ」
李の顔は狂気に歪み、その眼にはなにも映っていなかった。
続いて発射されるはずの二機、三機目のミサイルが、続くことはなかった。
「ガ・ガ・ガ、バーン!!」
サイロの発射口が片方しか開かず、ミサイルはサイロ内で爆発炎上していた。
猛毒の固形燃料が炎を上げて、拡散していく。
ミサイル基地は、混乱の極みに陥った。
基地のミサイル要員数名が死亡し、更には、核物質が飛散するという結果を招いて
しまう。
「ビーン・ビーン・ビーン」
放射能漏れを告げる、非常サイレンが鳴り響く。
「わはは! やった、やったぞぉ! これで日本はお仕舞だぁ」
李の目には、日本に向け飛翔するミサイルだけが映っていた。
「くっそぉ~、遅かったか」
破壊されたミサイルサイトを見上げ、馬辰は舌を噛んでいた。
(なにが起きたのだ? 発射失敗? そんな筈はない、日本か…… そうだ、
そうに違いない)
馬は放射能防護用の特殊車両に乗っていた。
「指令室は無事だな? 放射能なんて構うな! 発射したミサイルを自爆させろ!
急げ!」
指令室に駆け込んだ馬は、声を荒げて命令した。
「それと日本に通告だ。誤作動で核ミサイル一基が発射されたことを、大至急だ。
どうせばれる。大変な問題になる前に報せた方が得策だ。」
部下に指示した馬の顔は、青ざめていた。
「駄目です、自爆信号が通じません。爆発の影響でしょうか、システムに障害が
起きています。弾道飛行は止められません」
「なんだと、そんな馬鹿な話があるか! 日本への通告は済んでいるのか?」
「日中間の軍事相互連絡システムで通告してあります。自爆できなかったことも
伝えますか」
「当たり前だ。早くしろ! 弾道データも送れ。こうなれば、日本のミサイル防衛
システムに頼るしか選択肢は無い」
馬は祈るような思いだった。
「そうだ、李はどうした。李上将を探せ!」
李は司令官部屋のソファーで、呆けたような顔をして座っていた。
「なんてことしてくれたんです! 正気の沙汰とは思えませんね。日本憎しが高じて
核ミサイルなんて、信じがたい行為です」
李はすでに正気を失っていた。
「ガッ!」
李を殴り倒した馬は、すばやく後ろ手に手錠をかける。
「将軍、年貢の納め時です。自分の不明を恥じるのですな」
その言葉が、李の耳に届くことは無かった。
李は馬辰に逮捕され、北京に連行さることになる。
李の目に映っているものは、現実とはかけ離れたものだった。
その行く末は想像に難くない。
◆
同時刻。
市ヶ谷・『海神』作戦会議室。
急きょ呼ばれた石葉と五人のスタッフが、押し黙ってモニターを見つめていた。
モニターには『ハト』の目に映る、ミサイル基地の惨状が映されていた。
「総理、急にお呼びたてして、申し訳ありません」
「いったい、何が起きた」
石葉はモニターを見入り、憮然としていた。
大町が黒竜江省で起きた惨事に関する、経緯を報告を続ける。
「あれは『雪虫』の情報をもとに、急きょ『鳳凰』を飛ばして対処したのですが、
間に合わせることが出来ませんでした。まさか李孔明があんな行動を取るとは、
情けありませんが、想定外と言うしかありません。。今回は危機一髪といった所です」
「一体どういうことなのだ?」
「狂った李が偽造の命令書を作成し、自らの手で核ミサイルと発射した模様です。
我々の破壊工作が間に合わなかった、一基が発射されたのです。
中国は、誤作動と言ってミサイルの弾道データを送って来ました」
「なんだとお! しかし、間に合ったということだな」
「はい、正直言って危ういところでした。中国がデータを知らせてきたこともあり、
我が国の防衛システムが機能し、洋上で破壊することが出来ました」
発射された核ミサイルは、陸上配備のパトリオットPAC-3を使うことなく、
日本海洋上でイージス艦のスタンダード・ミサイルSAM-3によって破壊された。
配備後に初めて実証された、ミサイル防衛システムだった。
『鳳凰』とは『海神』が初めて開発した、攻撃兵器と言えるモノだ。
オオワシを模した鳥型ドローンだが、本来は母船の役目を果たす機能が主だった。
攻撃目標の近くに営巣し、そこをベースにし、攻撃用のハトやスズメなどを運び込む
ことが役目だった。
ハトやスズメも鳥型ドローンで、例の炭素繊維や爆薬を内包する仕様のものだ。
石葉がため息をつきながら話し出す。
「それで、ミサイル基地の被害状況はどうなのだ」
「恐らく、人的被害がでているかと。基地は使いものにならないでしょう。
大規模な爆発ですので、我々が動いた痕跡は残りません。 事故として処理されると
思います」
「そうか、なんにしても、犠牲者が出たのは初めてだな……」
「それについては、なんとも申しようがありません」
石葉の顔には苦渋の表情が現れていた。
「ふ~、ほんとうに危ないところだった。法が恣意的に曲げられる、人治主義の国には
恐れ入るな。中国に対しては、もう少し具体的な対応が必要になるとおもうが、
どうだ?」
大町は平然としている。
「危機一髪とは言いましたが、しょせん中国のミサイルなどわが国には届きません。
正常に動いていればの話しですが」
石葉が驚いた顔をする。
「それはどういうことだ?」
「総理にはまだ報告していませんでしたが、私たちは衛星実験に成功したのです。
先日飛ばした監視衛星があったでしょう。
あれに『スペース・カブト』が積まれていたのです。
中国のGPS用の静止衛星に貼りつけてあります。静止衛星の座標を狂わせれば、
GPSを利用したミサイルなど役に立ちません。 日本の衛星を使った実験で、
そのことは確認出来ていました」
「そんな話は聞いたことがないぞ」
「ただ今回のケースでは、中国も自爆を試みたようですが、成功しませんでした。
爆発でなんらかの影響があったのでしょう。スペースカブトは、ミサイル防衛網が
破られた時の保険なのですが、故障したミサイルに有効かどうかは、不明と言わざる
得ません」
石葉は憮然とした顔をする。
「君たちは、私の知らない所で、勝手にことを勧めているようだな。
そんなことが許されると思っているのか?」
大町は困った顔で言い訳する。
「総理、そんなことはありません。総理が忙しすぎるのです。
これに関する報告書は、既に上げてあります。口頭で説明する間も無いうちに、
こちらの開発が進んでしまったと言うことです。
毎日この場に来てもらうわけには、いきませんので」
石葉の顔は、納得している様子ではなかった。
「それでは、どんな攻撃にも防御態勢が出来ている、そう思っていいわけだな」
「いえいえ、そんなことはありません。これを使えるのは、おそらく一度か良くても
二度でしょう。GPSの狂いなんて、相手もすぐに気付いて対応するでしょうから」
石葉はまだ不満そうだった。
「そんなことが何度も起こるわけがないだろう。
起きたらそれは即、戦争ってことだからな」
「そう言う意味では仰る通りです。一度しか役に立たない、私が言いたいことは
それだけです」
「今後の対応は政府で考えて頂くしかありません。中国が自爆を試みたのは、
本当でしょう。最高機密の弾道データを寄越したのも、異例とは言え、当然といえば
当然の措置です。戦端を開く意志はなかった、それは確かだと思います。我が方は、
ミサイル防衛システムの性能を知られた、と言う損失があります」
石葉は黙って先を促した。
「今回の事件は、中国の大失態であることは間違いありません。失態で許される話では
ありませんが。ただ核を積んだ弾道ミサイルが、発射されたことを公に出来るのかは、
疑問だと思います。日中関係は最悪の事態になります」
「それで」
「当然中国としても真実の公開は、避けたいところでしょう。しかし、この話が
漏れない保証はありません。中国はミサイル発射実験に失敗し、日本の防衛システムで
撃ち落された。核の話は防がなくてはならないと思います。
この辺が落としどころではないかと。あとは外交交渉で、大きなものを勝ち取る。
総理の仕事です」
「ははは、言ってくれるな。確かにそんなところかも知れん。後は任せてくれ」
中国に対する方針が決まると、大町は新たな難問を持ち出した。
「総理、前からお話ししようと考えていたのですが、今回の事件に関連し、
あることが証明されました」
「なんだ、思わせぶりな物言いだな」
「ええ、親米派を自称する総理には申し上げにくかったのです。
今回の核ミサイル発射の際、衛星情報も含め日米は情報をリンクさせ共有して
いました。ミサイル防衛システムは、同時に動きだし有効に機能していました」
「結構な話じゃないか」
「考えて下さい、撃ち漏らすこともあり得たのです。これは明確に安保条約発令条件に
あてはまる事案です。しかし、アメリカが核報復の手順を進めることは、
一切ありませんでした。まるで、その気は無かったようです」
「本当か……。日本はアメリカの核の傘の下に居る、それが虚構だったと言うのか?」
「確かです」
石葉は苦渋の表情を浮かべていた。
「確かなのか。アメリカは何も準備しなかった……」
「考えてもみてください。誰が他国のために『核のボタン』を押してくれると
言うのですか。以前にも話しましたが、核とは使わない事に価値がある兵器であり、
使えば終わりなのです」
「日本に核が落ちても、アメリカは報復してくれない。そう言うのだな、大町君は」
「仰る通りです。通常兵器を使った局地戦ならともかく、同盟による核報復などあり
得ない話と言えます。今回そのことが証明できました。基本的な考え方を改めて
貰うしかない、そう言うことです」
石葉の顔には苦悩で歪んでいた。
親米派と言われ、頼れる筈の同盟国の正体が知れたのだ。
「一体どうすれば良い。肝心な最後の保証が無い同盟など、意味が無いだろう。
親米派を名乗ってきたことが、恨めしくなる」
「中国にこの事実が知れることは、ありません。ブラフで良いのです。相手が少しでも、
疑いを持ってくれれば、同盟の効果はあります。問題は心構え、お互いのスタンスを
理解して付き合う、それです。同盟国と言えども、競争相手、そう思うことですね」
市ヶ谷、『海神』、作戦会議室。
異常気象と言う言葉が日常のあいさつ代わりになるような厳しかった冬も終わり、
南の地からちらほらと桜の便りが聞こえる時分になっていた。『海神』の広い敷地に
植えられた桜の木々も芽吹き、開花の時を待っている。
その敷地の地下に設えた作戦会議室に、季節を感じさせるものは無かった。
例によって、大町達のスタッフ五人と、石葉首相が会している。
「今の所日本の諜報システムは有効に機能し、多大な成果を上げていると言って
良いと思います」
「そのようだな。情報面で後れを取るようなことな無くなったな」
「カブトを捕獲されると言う、取りこぼしはありましたが、差し当たって、
防衛面も問題はありません」
モニターに映し出された資料を前に、今後の防衛戦略全般について検討し、
お互いの考えを確かめ合っていた。
大町達はこれまでの諜報活動で、超大な情報を集め評価することで、
日本の対外戦略に生かしてきていた。
盗聴やハッキングで得たものも多かったが、『キンチョ―』や
『雪虫』が集めた生の情報が最大の成果を上げてきたと言える。
相手の行動や作戦の裏にある、計略・思惑までが手に取るように解ったからだ。
「これをご覧ください。各国の資料をまとめてあります」
既に環太平洋にある国々が保持する軍事力の、全てと言って良い詳細を把握していた。
軍の配備状況、軍の装備と性能、ミサイル基地の位置、その戦略構想など、
他国に知られてはならない情報を掴んでいた。
特に核武装している国の情報には、細心の注意を図り軍事情報を収集していた。
最悪のケースを想定しての諜報活動だった。
石葉は目を丸くしている。
「よくここまでの情報が集められたな。各国の軍事状況が丸裸になってるじゃないか。
まさに『海神』恐るべし、情報を盗まれた国に知られたら、とんでもないことになるぞ」
「その通りです。これは超一級の極秘事項です。この情報に触れることができるのは、
このメンバーだけです。NSCにも開示するわけにはいかないのです」
大町は政治家に知らせる情報ではないと考えたが、石葉は特別と信じていた。
防衛省へ情報を降ろす場合は細切れにしてから、首相が独自に得た情報として流し、
今後の防衛戦略に反映させる手法をとった。
真の極秘情報に触れる人間は極端に限定する。それが大町の方針、信条で、
石葉とも話し合い了解し合った手法だった。
米国は盗聴と『ビッグデータ』の収集を中心に、諜報活動を組み立てていた。
旧来のスパイ活動も変わらず続けていたのだが。
盗聴行為は、敵味方関係なく広範に行われていた。
それは米国に限ったことではなく、どの国においても行われていることだった。
「やはり一番の能力を持つのは、アメリカですね。人数もそうですが、
集めている情報量が半端ではありません」
ビッグデータの収集については、米国の独壇場と言ってよい状況だった。
他国の情報サイトのハッキングなど日常茶飯事だ。
グーグルやヤフー、インターネットに関連したすべての情報が勝手に集められ、
分析されていた。それは個人のメールや、ウェブへのアクセス記録まで及んでいる。
「総理、今お使いの個人の携帯電話は、米国を始めとして、少なくとも三か国に
盗聴されています。あえてお知らせしておりませんでしたが、悪しからず」
「ど、どう言うことだ、それは!」
石葉の顔が赤く染まる。
「情報管理も完ぺきだと、却って相手に警戒されるからです。適当に漏れる、
それも戦術の一つです」
「なんて奴だ。おれは囮か?」
「個人の話や政局の話は、原則防衛とは無縁ですので。私は首相の人格を信じて
おりますので、不都合はないかと。
どうか今迄通り、自然な態度でお話し下さい」
石葉は憮然としている。
「なんて奴らだ……。*****」
石葉はブツブツと罵る言葉を漏らしている。
『海神』はその種の諜報活動とは、無縁だった。
必要であれば、相手が持つ諜報の成果をキンチョーなどで盗み見ることが
できたからだ。
軍事関係の情報は、わが国にとっても、相手国にとっても最高の機密であり、
厳重な統制のもとに管理されていた。
『知っている』ことを、知られてはならないのだ。
◆
数日後、同じ作戦会議室。
作戦会議室に集まったメンバーはこれまでとは大きく異なる前提を前に苦慮していた。
大町達は、これまで海洋でしてきたのと同様陸上でも、相手国が持つ武器の無力化を
考えていたのだ。
技術的問題は、既にクリアーしている。
躊躇したのは無力化が可能か否かは別として、実行するとすれば相手の国に直接手を
突っ込む形にならざるえないからだ。
先制と言う意味では、過去中国海軍の潜水艦隊を無力化したことはあるが、
表立っての事では無い。疑われることはあっても、痕跡を残したわけでも無く、
無論抗議されることもない。
陸上で痕跡を残さず、同様の作戦は不可能と言えた。
専守防衛の範囲を、大きく超える手法であることは明らかだ。
「大町君、海洋のケースは良いとして、今後の戦略は慎重にならざる得ないな。
私としても躊躇する問題だ」
極東の海に関して言えば、軍隊の渡洋能力・打撃力を持つのは、米露中の三か国のみ
しかない。
現状中国の能力は島嶼侵攻が可能な程度で、日本本体を攻められるレベルでは無かった。
ロシアも同様だ。
仮に侵攻があるにしても航空兵力によるカバーは不可欠で、その能力を持ちうるのは
アメリカ以外無く、当面の問題はない。
これまでの実績から、海洋からの攻撃は現状の体制で対処できる、
石葉はそう確信していた。
問題は、航空兵力による攻撃、ミサイル攻撃の二点に絞られた。
空からの攻撃、それは戦争を意味するので、海洋でとった戦略をそのまま当てはめる
わけにはいかなかった。
大町も煮え切らない。
「そうです、もしそこまでを防衛の範囲と考えるなら、新しい対応が必要になります。
言ってみれば相手の国に土足で踏み込むという話ですから、慎重にならざるえません。
明らかに専守防衛の範囲を超えていますからね」
「それで、ミサイルは防げるのかね?」
「仮に質では無く数を投入する、飽和攻撃であった場合。つまり、前回の尖閣への
上陸計画のような数を使った戦術に対処する術はありません。イージスやミサイル
防衛システムに、数の限界があることは明白です」
「それなら、どうすれば良い」
「ですから、事前に相手を叩く以外、方法はないでしょうね」
大町達は仮想敵国の空からの脅威を無力化する、と言う戦略を立てていた。
大町は言い切る。
「総理、準備は出来ています。あとは内閣、正確に言えば総理の判断次第ということに
なります。丸投げするようで申しわけないのですが……」
敵地で使うことを想定したハイテク武器、装備は完成していた。
首相が苦笑いして、
「おい、それはどこかの国の、たしか、『李なんとか』と言う奴が言ったセリフの
丸映しじゃないのか? やらしてみたら『毛』とか言う奴が泣きを見た、って話と
そっくり同じじゃないか」
大町も苦笑いだ。
「ははは、総理、からかわんで下さい。
私はカードを用意するだけの役目ですから。出来るだけカードは多い方が良い、
そう考えてるだけです。
政策決定は為政者がする、それが民主主義社会のルールですからね。
これだけは、厳守しなくてはなりません」
大町は常日頃、極力上層部に対して政治的意見具申はしないよう、心がけていた。
軍人の思い込みは戦いに偏りがちで、時として禍根を残すことが多かったからだ。
石葉はタカ派と見られていたが、どちらかと言えば、大町はある意味常識的で、
穏健派と言えた。
究極の抑止力である『核武装』など、一顧だにしていない。
「とにかく火急の事態が生じない限り、様子を見ることにしよう。
私は今ここで決定する問題ではないと思う。
君たちは先送りと思うかもしれんが、状況を見極めよう」
会議では状況分析だけで、なにも決まることはなかった。
ただ大町が、非常事態に備えて準備を怠ることはない。
◆
同日、中国、中央軍事委員会、会議室。
会議室には正規と言える軍事委員の数は少なく、異例とも言える李が個人的に
招集した軍事委員会の様相を呈していた。
委員会に出席した経験がない、軍人たちのザワメキが納まらない。
「なんで俺たちが軍事委員会に参加できるんだ?」
「シーッ! 余計なことは言うな。これは李上将が独断で集めた会議だと言うぞ。
なにか、きな臭い匂いがしないか?」
「そうか、触らぬ神ってことか。黙っているのが得策だな」
初参加の軍人同志の会話だ。
軍事代表、李孔明が多くの諜報機関の人間を集めていたのだ。
李孔明は前の委員会でキンチョーを逆利用しての反撃を企て、無様な結果を招いた
ことに怒りを隠さなかった。
毛総書記の意思決定の延長と主張し、強引に進めたことが裏目に出て、完全に立場を
失っていたのである。
失地回復の成果が無い限り、更迭されることは目に見えていた。
李が会議室の全員を見まわして言う、
「おい、この部屋の『キンチョー』は大丈夫なんだろうな、これ以上の失態は許さんぞ」
(これ以上って、お前はもう終わりだろう)
日本担当の馬辰が手を挙げる。
馬は昨年の釣魚島奪還計画の失敗で海上に取り残された、漁船員の救助に尽力した
功績で、軍事委員に昇進していた。
「李同志、ご心配なく。この部屋にいた三匹のキンチョーは除去しました。この部屋は
安全です」
「ふん、そうか、忌々しいな。我々にキンチョーのようなものは造れないのか?」
「李同志、仕組みは解析できましたが、今の我々の技術では到底無理です。
日本の技術者を確保するしか方法がありません」
李の顔に怒りが浮かぶ。
「それなら、拉致してでも連れてこい。それがおまえ達の仕事だろう。
それが判っていて何をしてる」
馬辰が困った顔をする。
「それが、出来ないのです。開発した技術者の特定は出来ているのですが、
どうも日本で新たに創設された、諜報機関に保護されているようです」
李の怒りは収まらない。
「日本の防諜は完ぺきで、我が国は穴だらけと言うわけか」
吐き捨てるように言う李に、全員が下を向いて黙り込む。
(現状はその通りだ。この数年で、諜報戦における中日の能力は完全に逆転して
しまっている。それを認めるわけにはいかんがな。当面は防御に徹するしかない。
全容解明、反撃はその後だ))
馬は冷静に分析していた。
キンチョーに対しては、二重の防御体勢を敷いていた。
「我が国の潜水艦が無力化されたことは、どう評価すれば良い。
敵を欺いたはずが、結果として逆に嵌められたのだ。我々は『日帝』の手の平の上で、
踊らされているのか?」
馬辰が顔を上げ、
「李同志、それはありません。日本の工作員が送ってきた情報は正確でした。
あの時点で敵がそれに対処出来たとは思えません。日本が我々の軍港すべてを監視
していた、そう言うことでしょう。我々の策敵能力が劣っていたということです」
李孔明の顔が引き攣っている。
馬辰は冷静に話を続ける。
「我々が得た極東ロシア軍の情報によると、日本の攻撃にはカブトガニ型の兵器が
使われたようです。
未確認情報ですが、ロシア太平洋艦隊の一部が参加する、露米共同作戦があった
模様です。
詳細は判っていませんが、鋭意、情報を集めているところです」
李孔明はだんだん興奮して、顔が赤くなっていた。
「あれもダメ、これもダメだあ、おまえ達正気か? 人民解放軍の同志として為すべき
ことを考えろ! 恥を知れ! 我々はなんとしても、『日帝』の野望を打ち砕くんだ」
李孔明の興奮は収まらない。
馬辰が立ちあがって言う。
「お言葉を返すようですが、李同志。我々は冷静に分析しております。
そもそも李同志の『釣魚島奪還』と言う計画に、無理があったのではないでしょうか」
李孔明の顔が真っ赤になり、怒りに膨れ上がる。
「な、何を言うか! おまえ、覚悟があって言っているのか? 世迷いごとを言うな!」
馬辰も、負けてはいなかった。
「そもそもあなたの言う、『日帝』って何なのでしょうか? 今の日本に中国侵略の
意思があると、本当に思っているのですか? 私もそうですがあなたも工作員として、
日本に留学した経験がおありでしょう。
あんな軟弱な国・国民にそんな意思がないことは、明らかです」
李は震える手を机に押さえつけ、馬辰を睨み付けている。
「……」
馬に動ずる様子はない。
「あなたの個人的な思想、民族的恩讐に付き合わされるのは正直言って迷惑です」
中国で川に落ちて溺れた犬は、石を投げつけられてしまう。
陸に助け上げれば噛みつかれる恐れがある、と言う理屈らしい。
李孔明の唇は、ワナワナと震えていた。
既に李の立場は危ういものになっていて、参加した軍事関係者は敏感にそれを
感じ取っていた。
「言いたいことはそれだけか? 覚悟して置けよ」
「まだまだ他にもありますが、後はご自分でお考え下さい」
馬は李が北朝鮮の工作員を動かして失敗した、日本の原発破壊工作の事実も
掴んでいたが、それを明らかにすることは無かった。
手を下さなくても、李の命運は尽きている、そう判断していた。
委員会が開かれた会議室の外にある薄暗い廊下の天井に、なにやらうごめいている
ものがある。
母船の役目をもった『キンチョー』が張り付いていた。
◆
翌日。
市ヶ谷、『海神』、作戦会議室。
大町を含めた五人のスタッフが、中国情報の分析をしている。
「李孔明の失脚は確実だろう。
一つ大きなトゲが抜けた、そんな感じだな。
これまでの経緯をみていると、馬辰が今後、軍事委員会における軍部の代表として
伸し上る、そう思えるがどうだ?」
「部長の仰る通りかと思われます。日本に対する情報評価を含め、事実を感情抜きで
評価する、冷静な人物だと思います。軍事委員会のメンバーを見渡しても、彼以上の
人間はいないかと」
松本二尉が自身の分析を発言した。
「そうだな、権力志向はありそうだが、まともに話せる相手、そう思う。情報交換の
相手としては充分な適材、そんな奴だろう」
「部長、又コンタクトしてみますか?」
大西が思わぬ事を言い出す。
「え、できるのか?」
「はい、例のハニートラップを仕掛けた相手なら、馬辰にまで話が通じると思います」
「ははは、そうか、やってみてくれ。
探り合いだけではなく、互いを知る、それが一番の安全保障への近道になる。
疑心暗鬼ってのが、一番やっかいな問題を引き起こすからな」
「それで具体的には、何を伝えますか?」
「建前でかまわん。差しさわりの無い範囲での、情報交換。
それと非常時に確実に使える、通信ルートの設置、それだよ」
「了解しました」
その会議の場に突然、『雪虫』のオペレーターの情報が入り、全員に緊張が走る。
報告を手にした、松本二尉の表情が強張る。
「部長! 黒竜江省のミサイル基地に、李孔明が現れました」
中国に展開する主要な軍事基地には、全て『雪虫』の監視下に置かれていた。
「なんだって、李孔明がか? あいつに監視はつけなかったのか」
「申し訳ありません、もう李孔明の失脚は確実で、何も出来ない、そう思い込んで
いました」
大西三尉が頭をさげる。
松本二尉がそれを無視して続ける、
「ミサイル基地って、いったい何のつもりでしょう?」
大町の顔が呆れ顔になり、
「バカヤロー!、大至急『鳳凰』を手配しろ! それとモニターに衛星画像を出せ。
『監視バト』の映像も忘れるなよ」
「『鳳凰』……、了解です!」
「手配がすんだら、総理にコンタクトして、至急ここに来てもらえ。
スケジュールなんて、無視して構わんぞ」
作戦会議室は一瞬で、緊張に包まれた。
◆
同時刻・吉林省通化ミサイル基地。
春しぐれとでも言うのだろうか、中国の辺境とも言える基地の周辺は季節外れの
長雨が続いていた。周囲の道路はぬかるみ、軍用車両の移動にも苦戦する有り様だった。
迎えの車から降りたった李孔明は、ぬかるみに脚を取られながら指令室に入って行く。
未だ李は、この地方軍に大きな影響力を保持していたのだ。
李の失脚を知らない基地の司令官は軍隊における最高の地位にあたる軍事代表を前に、
直立の姿勢で自分の席を譲った。
「これが作戦指令書だ。よく読んでおけよ」
司令官は、李が机の上に投げ出した書類を、拝むように受け取る。
「わかったら、全員を集めろ」
司令官は書類を確かめることなく、李の命令に従う。
己の立場を失った李は軍事委員会代表の地位を追われる前に、最後の賭けに出たのだ。
整列させたミサイルサイトの要員を前に、李が訓示をしている。
「いよいよ、『日帝』に積年の恨みを晴らす時がきた。父や母、祖父や祖母、
先祖の無念の思いを晴らすのだ。これが命令書だ」
李孔明はそう言って、偽造書類を差し出した。
吉林省通化の弾道ミサイルは、表向き日本をターゲットにしたものだったが、実際は
対ロ攻撃を目的に設定されていたものだ。それに対し李は強権を用い、再度日本向けに
プログラムを書き替えさせてしまう。
間髪を置かず李は、無謀にも核ミサイルの発射命令を下したのだ。
「よし、これで戦争が始まれば、俺にもまだチャンスはある」
李は、正気を失い、破れかぶれ、そんな状態だった。
ミサイルサイトの周辺には、数羽のハトが舞っていた。
ミサイル基地に警報が鳴り響き、一帯は緊張に包まれた。
その結果が戦争に直結する核攻撃、そのボタンを躊躇なく押せる人間はいない。
「何をしている! 早く発射しろ!」
李の声は上ずっていた。
躊躇する兵士を殴り飛ばし、李が強引に発射レバーに手を掛ける。
「見ていろ! 十数分後には結果がでる」
李の顔は、狂気に歪んでいた。
李の狂気に巻き込まれ、周りで為すすべもなくその姿を見つめる兵士たち。
その引き攣った顔には、戦争への恐怖が張り付いていた。
「ガー・ー!」
サイロに響く噴射音。
狂気による、核ミサイルが発射される。
一基の核ミサイルが、白煙を引きながら上昇していった。
「よおしっ、これで日本は終わりだ」
李の顔は狂気に歪み、その眼にはなにも映っていなかった。
続いて発射されるはずの二機、三機目のミサイルが、続くことはなかった。
「ガ・ガ・ガ、バーン!!」
サイロの発射口が片方しか開かず、ミサイルはサイロ内で爆発炎上していた。
猛毒の固形燃料が炎を上げて、拡散していく。
ミサイル基地は、混乱の極みに陥った。
基地のミサイル要員数名が死亡し、更には、核物質が飛散するという結果を招いて
しまう。
「ビーン・ビーン・ビーン」
放射能漏れを告げる、非常サイレンが鳴り響く。
「わはは! やった、やったぞぉ! これで日本はお仕舞だぁ」
李の目には、日本に向け飛翔するミサイルだけが映っていた。
「くっそぉ~、遅かったか」
破壊されたミサイルサイトを見上げ、馬辰は舌を噛んでいた。
(なにが起きたのだ? 発射失敗? そんな筈はない、日本か…… そうだ、
そうに違いない)
馬は放射能防護用の特殊車両に乗っていた。
「指令室は無事だな? 放射能なんて構うな! 発射したミサイルを自爆させろ!
急げ!」
指令室に駆け込んだ馬は、声を荒げて命令した。
「それと日本に通告だ。誤作動で核ミサイル一基が発射されたことを、大至急だ。
どうせばれる。大変な問題になる前に報せた方が得策だ。」
部下に指示した馬の顔は、青ざめていた。
「駄目です、自爆信号が通じません。爆発の影響でしょうか、システムに障害が
起きています。弾道飛行は止められません」
「なんだと、そんな馬鹿な話があるか! 日本への通告は済んでいるのか?」
「日中間の軍事相互連絡システムで通告してあります。自爆できなかったことも
伝えますか」
「当たり前だ。早くしろ! 弾道データも送れ。こうなれば、日本のミサイル防衛
システムに頼るしか選択肢は無い」
馬は祈るような思いだった。
「そうだ、李はどうした。李上将を探せ!」
李は司令官部屋のソファーで、呆けたような顔をして座っていた。
「なんてことしてくれたんです! 正気の沙汰とは思えませんね。日本憎しが高じて
核ミサイルなんて、信じがたい行為です」
李はすでに正気を失っていた。
「ガッ!」
李を殴り倒した馬は、すばやく後ろ手に手錠をかける。
「将軍、年貢の納め時です。自分の不明を恥じるのですな」
その言葉が、李の耳に届くことは無かった。
李は馬辰に逮捕され、北京に連行さることになる。
李の目に映っているものは、現実とはかけ離れたものだった。
その行く末は想像に難くない。
◆
同時刻。
市ヶ谷・『海神』作戦会議室。
急きょ呼ばれた石葉と五人のスタッフが、押し黙ってモニターを見つめていた。
モニターには『ハト』の目に映る、ミサイル基地の惨状が映されていた。
「総理、急にお呼びたてして、申し訳ありません」
「いったい、何が起きた」
石葉はモニターを見入り、憮然としていた。
大町が黒竜江省で起きた惨事に関する、経緯を報告を続ける。
「あれは『雪虫』の情報をもとに、急きょ『鳳凰』を飛ばして対処したのですが、
間に合わせることが出来ませんでした。まさか李孔明があんな行動を取るとは、
情けありませんが、想定外と言うしかありません。。今回は危機一髪といった所です」
「一体どういうことなのだ?」
「狂った李が偽造の命令書を作成し、自らの手で核ミサイルと発射した模様です。
我々の破壊工作が間に合わなかった、一基が発射されたのです。
中国は、誤作動と言ってミサイルの弾道データを送って来ました」
「なんだとお! しかし、間に合ったということだな」
「はい、正直言って危ういところでした。中国がデータを知らせてきたこともあり、
我が国の防衛システムが機能し、洋上で破壊することが出来ました」
発射された核ミサイルは、陸上配備のパトリオットPAC-3を使うことなく、
日本海洋上でイージス艦のスタンダード・ミサイルSAM-3によって破壊された。
配備後に初めて実証された、ミサイル防衛システムだった。
『鳳凰』とは『海神』が初めて開発した、攻撃兵器と言えるモノだ。
オオワシを模した鳥型ドローンだが、本来は母船の役目を果たす機能が主だった。
攻撃目標の近くに営巣し、そこをベースにし、攻撃用のハトやスズメなどを運び込む
ことが役目だった。
ハトやスズメも鳥型ドローンで、例の炭素繊維や爆薬を内包する仕様のものだ。
石葉がため息をつきながら話し出す。
「それで、ミサイル基地の被害状況はどうなのだ」
「恐らく、人的被害がでているかと。基地は使いものにならないでしょう。
大規模な爆発ですので、我々が動いた痕跡は残りません。 事故として処理されると
思います」
「そうか、なんにしても、犠牲者が出たのは初めてだな……」
「それについては、なんとも申しようがありません」
石葉の顔には苦渋の表情が現れていた。
「ふ~、ほんとうに危ないところだった。法が恣意的に曲げられる、人治主義の国には
恐れ入るな。中国に対しては、もう少し具体的な対応が必要になるとおもうが、
どうだ?」
大町は平然としている。
「危機一髪とは言いましたが、しょせん中国のミサイルなどわが国には届きません。
正常に動いていればの話しですが」
石葉が驚いた顔をする。
「それはどういうことだ?」
「総理にはまだ報告していませんでしたが、私たちは衛星実験に成功したのです。
先日飛ばした監視衛星があったでしょう。
あれに『スペース・カブト』が積まれていたのです。
中国のGPS用の静止衛星に貼りつけてあります。静止衛星の座標を狂わせれば、
GPSを利用したミサイルなど役に立ちません。 日本の衛星を使った実験で、
そのことは確認出来ていました」
「そんな話は聞いたことがないぞ」
「ただ今回のケースでは、中国も自爆を試みたようですが、成功しませんでした。
爆発でなんらかの影響があったのでしょう。スペースカブトは、ミサイル防衛網が
破られた時の保険なのですが、故障したミサイルに有効かどうかは、不明と言わざる
得ません」
石葉は憮然とした顔をする。
「君たちは、私の知らない所で、勝手にことを勧めているようだな。
そんなことが許されると思っているのか?」
大町は困った顔で言い訳する。
「総理、そんなことはありません。総理が忙しすぎるのです。
これに関する報告書は、既に上げてあります。口頭で説明する間も無いうちに、
こちらの開発が進んでしまったと言うことです。
毎日この場に来てもらうわけには、いきませんので」
石葉の顔は、納得している様子ではなかった。
「それでは、どんな攻撃にも防御態勢が出来ている、そう思っていいわけだな」
「いえいえ、そんなことはありません。これを使えるのは、おそらく一度か良くても
二度でしょう。GPSの狂いなんて、相手もすぐに気付いて対応するでしょうから」
石葉はまだ不満そうだった。
「そんなことが何度も起こるわけがないだろう。
起きたらそれは即、戦争ってことだからな」
「そう言う意味では仰る通りです。一度しか役に立たない、私が言いたいことは
それだけです」
「今後の対応は政府で考えて頂くしかありません。中国が自爆を試みたのは、
本当でしょう。最高機密の弾道データを寄越したのも、異例とは言え、当然といえば
当然の措置です。戦端を開く意志はなかった、それは確かだと思います。我が方は、
ミサイル防衛システムの性能を知られた、と言う損失があります」
石葉は黙って先を促した。
「今回の事件は、中国の大失態であることは間違いありません。失態で許される話では
ありませんが。ただ核を積んだ弾道ミサイルが、発射されたことを公に出来るのかは、
疑問だと思います。日中関係は最悪の事態になります」
「それで」
「当然中国としても真実の公開は、避けたいところでしょう。しかし、この話が
漏れない保証はありません。中国はミサイル発射実験に失敗し、日本の防衛システムで
撃ち落された。核の話は防がなくてはならないと思います。
この辺が落としどころではないかと。あとは外交交渉で、大きなものを勝ち取る。
総理の仕事です」
「ははは、言ってくれるな。確かにそんなところかも知れん。後は任せてくれ」
中国に対する方針が決まると、大町は新たな難問を持ち出した。
「総理、前からお話ししようと考えていたのですが、今回の事件に関連し、
あることが証明されました」
「なんだ、思わせぶりな物言いだな」
「ええ、親米派を自称する総理には申し上げにくかったのです。
今回の核ミサイル発射の際、衛星情報も含め日米は情報をリンクさせ共有して
いました。ミサイル防衛システムは、同時に動きだし有効に機能していました」
「結構な話じゃないか」
「考えて下さい、撃ち漏らすこともあり得たのです。これは明確に安保条約発令条件に
あてはまる事案です。しかし、アメリカが核報復の手順を進めることは、
一切ありませんでした。まるで、その気は無かったようです」
「本当か……。日本はアメリカの核の傘の下に居る、それが虚構だったと言うのか?」
「確かです」
石葉は苦渋の表情を浮かべていた。
「確かなのか。アメリカは何も準備しなかった……」
「考えてもみてください。誰が他国のために『核のボタン』を押してくれると
言うのですか。以前にも話しましたが、核とは使わない事に価値がある兵器であり、
使えば終わりなのです」
「日本に核が落ちても、アメリカは報復してくれない。そう言うのだな、大町君は」
「仰る通りです。通常兵器を使った局地戦ならともかく、同盟による核報復などあり
得ない話と言えます。今回そのことが証明できました。基本的な考え方を改めて
貰うしかない、そう言うことです」
石葉の顔には苦悩で歪んでいた。
親米派と言われ、頼れる筈の同盟国の正体が知れたのだ。
「一体どうすれば良い。肝心な最後の保証が無い同盟など、意味が無いだろう。
親米派を名乗ってきたことが、恨めしくなる」
「中国にこの事実が知れることは、ありません。ブラフで良いのです。相手が少しでも、
疑いを持ってくれれば、同盟の効果はあります。問題は心構え、お互いのスタンスを
理解して付き合う、それです。同盟国と言えども、競争相手、そう思うことですね」
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あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
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