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秘密の場所
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「おーい!きょーたー!こっちこっちー!はーやくー」
「おいおい、待ってくれよ。もうヘトヘトだよ。こら、走るな!待ってって」
まったく、今日あったと思ったらいきなりついてこいって言ってよくわからないところに連れて行かれてる。最初は楽しかったんだ。二人の話をして、同い年だってわかって色んな話をして仲良くなって、可愛い女の子と知り合えたー!ってうきうきしてた。二人とも呼び捨てでいいって事で名前を呼び捨てになったこともなんだか距離が近くなった感じでドキドキした。そしたら、そっから二時間は歩いてるぞ。もう限界だ。疲れた……。
「はぁっ……はぁっ……。お前の体力は底なしか?」
やっとの事で歌菜に追いついた。
「へへー。京太が遅いんだよっ」
こ、こいつ、まだまだ元気いっぱいって顔だな……。
「で、あとどれくらいで着くんだ?」
「もうついたよ!ほらみて!」
「ん?なんもないじゃん。木だけだよ?」
辺りを見渡すが、特に珍しいものはない。ありがちな、綺麗な景色がある。というわけでもなさそうだ。
「まあまあ、ちょっとまってよ」
ジジ……ジジ……。ジジ、ジジジジ、ジジジジジジ!!ジーオ、ジーオ、ジーオ。ジーオジーオジーオジーオジーオ!!!
「なっ、なんだ!?あ、これは……。セミ……?」
「そう!この辺に集まってるセミさん。すごい数だよね!いっつもここで大合唱してるんだよ」
そういうと、彼女は歌い出した。
なんだろう。外国の歌かな?セミの鳴き声とうまく合わせて不思議な歌だ……。ただ、わかるのは彼女がとても綺麗な歌声の持ち主だということ。俺は、この蝉しぐれの中で優雅に歌う彼女に夢中になっていた。いつまでも、この時間が続けばいいのに。
数分の間彼女に心を奪われていると、ふとセミは歌うのをやめた。彼女の歌もそこで止まる。理由はわからないが、ここではたくさんのセミが集まり一斉に歌い出すそうだ。彼女は、セミは鳴くのではなく「歌う」と表現する。理由を聞くと、その方が可愛いから。と、特に理由はないようだ。セミは鳴くのではなく、「歌う」。俺はこの表現がとても優美で情緒溢れる表現だろうと感心ししていた。
セミは、オスしか鳴かない。セミの音は、メスを呼ぶ求愛の行動なのだ。求愛の行動、つまりオスは命をかけた愛の歌を力いっぱい歌っているのだ。これをけたたましく鳴いていると表現するよりも、歌っている。と表現する方がとてもいい表現だろう。
「セミは、すごいなぁ……」
歌菜が、ん?とこちらを向く。
「いや、セミは自分の愛を最大限に表現しているんだなって思ってさ」
「そうだよね。セミはたった一週間程度の命で、自分の子孫を残すために、頑張るんだよ。私たちも、セミのように毎日を生きて行きたいね」
「俺さ、東京から一人でここに来たんだ。自分に、自信を持ちたくて」
歌菜は、切り株に腰掛けていた俺の隣に座った。距離がとても近い。
「か、歌菜はどう?自分に自信ある?」
俺は緊張しているのを精一杯隠してなんとか言葉をひねり出した。
「わたし?わたしは歌だけなら自信あるかなー」
他はさっぱりだけどね。と自嘲気味に続けた。
「歌すごくうまいよね。なんか、歌声が綺麗なのはわかるんだけど、なんだろう、そんなんじゃなくて、心に響くって言うのかな。うまく説明できないや」
歌菜は何も言わず俺の目をまっすぐに見て微笑んでいる。すると突然歌菜は立ち上がった。俺が声をかけようとすると、また綺麗な歌声が俺の心に響く。とても心地いい。どんな歌詞でどんな曲かはいい。とにかくこの歌が、歌声が好きだ。俺は、しばらく美しい歌に耳を、心を傾けた。
歌が終わった。さっきと、同じようなところで終わっている気がする。
「それ、なんて歌?」
「ないしょー。そのうち教えてあげるよ!京太が褒めてくれるからついつい歌っちゃった」
歌菜は照れ笑いしながら頬をかく。俺は、そこまで曲そのものに執着していなかったから、それ以上は聞かなかった。それよりも、俺が褒めたことで喜んでくれた事にドキッとしてしまった。
「ねえ京太、こっちに来て」
不意に、歌菜が俺を呼ぶ。腰掛けていた切り株から、5分ほど歩くとそこから京都の街全体が見渡せる場所だった。
「すごい。こんなに綺麗に見渡せる場所があったなんて。さっきの場所からそんな離れてないのに」
「すごいでしょー!ここはね、私の特別な場所なんだ。誰にも教えてない秘密の場所。京太に特別教えてあげたんだよ」
歌菜は、弾けるような笑顔で俺を見る。俺にだけ特別……。たった一日で俺はどんだけ動揺してるんだ。
「夕焼けが、京都の街を綺麗に照らすのが、私はすごく好き。この景色を、京太にも見て欲しかったの」
「うん。すごく綺麗だ」
夕焼けで染まる歌菜も、すごく綺麗だ。流石にそんなことは口には出せない。
「もう夕方か。歌菜といると時間があっという間に過ぎるよ。あ、帰りもあの道を歩くのか……。」
「ありがと!私も京太といるとあっという間だよ!実はね、遠回りして来たんだ。だから、本当はもっと近いの」
歌菜がいたずらっぽく笑っている。文句を言おうとしたが、京太と一緒に沢山歩きたかった。と付け足されて、何も言えなくなった。俺たちは、行き道の半分もかからない時間で、待ち合わせの場所まで戻ってきた。
「本当に行き道は遠回りだったんだな……。まったく。まあ、楽しかったしいいけどさ」
「えへへー。ごめんごめん。あ!そうだ、明日は花火だよ!一緒に見にいかない?私浴衣着るんだ!」
「へぇ。じゃあ行こっかなあ。また、ここ待ち合わせでいい?」
今日疲れたから、明日は一日休むつもりだったけど、歌菜の浴衣姿を見れると思うと休んではいられない。
「うん!じゃあ明日の17時にここね!今日は私に付き合ってくれてありがとう!すっごく楽しかったよ。また明日ね」
「うん。じゃあまた明日」
「おいおい、待ってくれよ。もうヘトヘトだよ。こら、走るな!待ってって」
まったく、今日あったと思ったらいきなりついてこいって言ってよくわからないところに連れて行かれてる。最初は楽しかったんだ。二人の話をして、同い年だってわかって色んな話をして仲良くなって、可愛い女の子と知り合えたー!ってうきうきしてた。二人とも呼び捨てでいいって事で名前を呼び捨てになったこともなんだか距離が近くなった感じでドキドキした。そしたら、そっから二時間は歩いてるぞ。もう限界だ。疲れた……。
「はぁっ……はぁっ……。お前の体力は底なしか?」
やっとの事で歌菜に追いついた。
「へへー。京太が遅いんだよっ」
こ、こいつ、まだまだ元気いっぱいって顔だな……。
「で、あとどれくらいで着くんだ?」
「もうついたよ!ほらみて!」
「ん?なんもないじゃん。木だけだよ?」
辺りを見渡すが、特に珍しいものはない。ありがちな、綺麗な景色がある。というわけでもなさそうだ。
「まあまあ、ちょっとまってよ」
ジジ……ジジ……。ジジ、ジジジジ、ジジジジジジ!!ジーオ、ジーオ、ジーオ。ジーオジーオジーオジーオジーオ!!!
「なっ、なんだ!?あ、これは……。セミ……?」
「そう!この辺に集まってるセミさん。すごい数だよね!いっつもここで大合唱してるんだよ」
そういうと、彼女は歌い出した。
なんだろう。外国の歌かな?セミの鳴き声とうまく合わせて不思議な歌だ……。ただ、わかるのは彼女がとても綺麗な歌声の持ち主だということ。俺は、この蝉しぐれの中で優雅に歌う彼女に夢中になっていた。いつまでも、この時間が続けばいいのに。
数分の間彼女に心を奪われていると、ふとセミは歌うのをやめた。彼女の歌もそこで止まる。理由はわからないが、ここではたくさんのセミが集まり一斉に歌い出すそうだ。彼女は、セミは鳴くのではなく「歌う」と表現する。理由を聞くと、その方が可愛いから。と、特に理由はないようだ。セミは鳴くのではなく、「歌う」。俺はこの表現がとても優美で情緒溢れる表現だろうと感心ししていた。
セミは、オスしか鳴かない。セミの音は、メスを呼ぶ求愛の行動なのだ。求愛の行動、つまりオスは命をかけた愛の歌を力いっぱい歌っているのだ。これをけたたましく鳴いていると表現するよりも、歌っている。と表現する方がとてもいい表現だろう。
「セミは、すごいなぁ……」
歌菜が、ん?とこちらを向く。
「いや、セミは自分の愛を最大限に表現しているんだなって思ってさ」
「そうだよね。セミはたった一週間程度の命で、自分の子孫を残すために、頑張るんだよ。私たちも、セミのように毎日を生きて行きたいね」
「俺さ、東京から一人でここに来たんだ。自分に、自信を持ちたくて」
歌菜は、切り株に腰掛けていた俺の隣に座った。距離がとても近い。
「か、歌菜はどう?自分に自信ある?」
俺は緊張しているのを精一杯隠してなんとか言葉をひねり出した。
「わたし?わたしは歌だけなら自信あるかなー」
他はさっぱりだけどね。と自嘲気味に続けた。
「歌すごくうまいよね。なんか、歌声が綺麗なのはわかるんだけど、なんだろう、そんなんじゃなくて、心に響くって言うのかな。うまく説明できないや」
歌菜は何も言わず俺の目をまっすぐに見て微笑んでいる。すると突然歌菜は立ち上がった。俺が声をかけようとすると、また綺麗な歌声が俺の心に響く。とても心地いい。どんな歌詞でどんな曲かはいい。とにかくこの歌が、歌声が好きだ。俺は、しばらく美しい歌に耳を、心を傾けた。
歌が終わった。さっきと、同じようなところで終わっている気がする。
「それ、なんて歌?」
「ないしょー。そのうち教えてあげるよ!京太が褒めてくれるからついつい歌っちゃった」
歌菜は照れ笑いしながら頬をかく。俺は、そこまで曲そのものに執着していなかったから、それ以上は聞かなかった。それよりも、俺が褒めたことで喜んでくれた事にドキッとしてしまった。
「ねえ京太、こっちに来て」
不意に、歌菜が俺を呼ぶ。腰掛けていた切り株から、5分ほど歩くとそこから京都の街全体が見渡せる場所だった。
「すごい。こんなに綺麗に見渡せる場所があったなんて。さっきの場所からそんな離れてないのに」
「すごいでしょー!ここはね、私の特別な場所なんだ。誰にも教えてない秘密の場所。京太に特別教えてあげたんだよ」
歌菜は、弾けるような笑顔で俺を見る。俺にだけ特別……。たった一日で俺はどんだけ動揺してるんだ。
「夕焼けが、京都の街を綺麗に照らすのが、私はすごく好き。この景色を、京太にも見て欲しかったの」
「うん。すごく綺麗だ」
夕焼けで染まる歌菜も、すごく綺麗だ。流石にそんなことは口には出せない。
「もう夕方か。歌菜といると時間があっという間に過ぎるよ。あ、帰りもあの道を歩くのか……。」
「ありがと!私も京太といるとあっという間だよ!実はね、遠回りして来たんだ。だから、本当はもっと近いの」
歌菜がいたずらっぽく笑っている。文句を言おうとしたが、京太と一緒に沢山歩きたかった。と付け足されて、何も言えなくなった。俺たちは、行き道の半分もかからない時間で、待ち合わせの場所まで戻ってきた。
「本当に行き道は遠回りだったんだな……。まったく。まあ、楽しかったしいいけどさ」
「えへへー。ごめんごめん。あ!そうだ、明日は花火だよ!一緒に見にいかない?私浴衣着るんだ!」
「へぇ。じゃあ行こっかなあ。また、ここ待ち合わせでいい?」
今日疲れたから、明日は一日休むつもりだったけど、歌菜の浴衣姿を見れると思うと休んではいられない。
「うん!じゃあ明日の17時にここね!今日は私に付き合ってくれてありがとう!すっごく楽しかったよ。また明日ね」
「うん。じゃあまた明日」
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