きみがヒトと呼んだ、鉄屑に

lifinside

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第一章 幸せ

第二話 謎の球根

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「今回の調査の目的を確認する。
 このサンシャインシティの屋上にある通信インフラ設備を確認し、可能であれば破壊する。
 エグザスの通信網を破壊することが目的だ。
 ただし、生きて帰るまでが調査だ、危険を感じた場合は絶対に無理をするな。おーけい?」
副隊長のジンがそう言った。

サンシャインシティ。 
先の大戦後でも、倒壊することなく、残存している超高層の建造物。
核の爆風により窓はすべて吹き飛んでおり、その壁面はたびたび降る酸性雨の影響を大きく受け浸食が進んでいる。
しかし、近辺にこれほど大きな建物が残存しているのは稀だ。
何らかの、有用なリソースが残置されている可能性は高い。
今回調査対象に選定された理由はそれだった。

「ノア、この建物に電気が通っているかわかるか?」
私が調べたところ、電子機器の反応は一切なかった。

「いや、反応は見当たらない。
 受電施設は地下層にあると推測されるが、B2Fで確認できないのであればまず電気は生きていないだろう。」
「そうか。
 …なら、建物内にも防衛するロボットはいなさそうだし、屋上の通信設備は放棄されている可能性が高そうだな。」

ジンの推測は正しい。
ここがエグザスの通信網として機能しているのであれば警備ユニットがゼロであるはずがない。
たとえ、地下鉄線から地下階に侵入したとして、エグザスがそれを見落とすとは考えられない。
電源供給ができないことから、使用不可とみなされ放棄されたと考えていいだろう。

サンシャインシティは核爆発による影響を受けている。
爆心地から離れているとはいえ、軽微な放射能を検知している。
これは人類だけでなく、機械にとっても都合が悪い。
エグザスの統治から外れた人類の生活圏内であると言ってもいい範囲にある。

「なら、まず地下階から調査を行って、遺物の確認を優先するのはどう?」
「そうだな、屋上に行くには時間がかかりすぎる。
 この状況なら、目的を変更したほうがいいだろう。
 ノアはどう思う?」
「私も目的の変更に賛成だ。
 この施設はかつての巨大商業施設。
 多くの生活物資が残置されている可能性は極めて高い。
 これらを確認しておくことは、我々の今後の生活を考えても非常に価値が高いだろう。」
私の提案に対し、ジンは納得した。

「では、地下階から調査を開始する。
 イチガヤに帰るとき、またこの地下鉄を通るから、持って帰るものは最後に集めるように。
 では、各自探索を始めてくれ。
 くれぐれも単独行動は慎むように。」
「ジン、撤退時間は何時にする?」
サキが尋ねる。

「……そうだな。
 暗くなってからイヌッころに見つかると分が悪い。
 16時に調査を終了し、持ち帰り品を選定して帰還しよう。
 ノア、時間管理を任せていいか?」
「ああ、任せておけ。」
私は、短く答えた。

そうして、サンシャインシティの調査が始まった。


B2Fは駐車場になっており、車などの金属パーツがある程度で、大きな成果はなかった。
受電施設もやはりあったが、それらは稼働しておらず非常用発電機も燃料は空になっていた。
B1Fは商業エリアになっており、多くの衣類や調理器具、おもちゃなどを発見した。
地下階にあるだけに、劣化状況はひどくなく十分活用ができそうだ。

「わぁ、見て!子供用の服がたくさんある!
 カンナに持って帰ろう!」


サキが子供服を見てはしゃいでいる。
誰かのために贈り物をしたいと想う気持ちは美しい。
こんな世界になっても、まだ人は人のために行動できる。

「ノアは何か見つけたか?」
アキラが私に言った。

「過去のデータと照合すると、この先が倉庫になっている。
 そこには多くの物資があるはずだ。」
そういってアキラを連れて倉庫の扉まで歩く。
「STAFF ONLY」の文字に一瞬動きを止めたが、それはもう無効であることは明白だった。
サキはまだ子供服を見ているが、近くにジンがいるから大丈夫だろう。
アキラとともに倉庫に入る。

「うおおおおおおお!すげえ!
 こんなにナノマシンと保存食があるぜ!」
アキラが見つけたのはエグザスによって開発された生体ナノマシンと万能保存食だった。
生体ナノマシンは怪我や病を治療するのに役立つが、使い方によっては除菌やコーティングにも使えるため、商業施設でも広く活用されている。
万能保存食はレストラン街には不似合いだが、当時は万能保存食の有益性が広まり、飲食店でも万能保存食以外を食べない人がいたため、多く保管されているのだろう。
これらは耐用年数も長く、おおよそ15年は使用可能であり、我々も十分活用できるものだった。

「でも生鮮食品なんかは腐っていて臭いな。
 まあ、放射能兼では虫も湧かないから、衛生面にはいいんだけど、キツイな。」
「ああ、確かにキツイ。
 さっと倉庫の中を把握して早く出よう。」
そのほかにも調味料や香辛料など、多くの物資が見つかった。
併せて、紙やペンなどの日用品も多く確認できた。
これは、想定以上に大きな成果だ。

「ねえ、アキラ!こっちに来て!」
サキの声が聞こえ、私とアキラは倉庫を後にする。
サキがいたのは噴水のそばの一角だった。

「これ、なにかな?わかる?」
「いや、わからないが、何かを保存しているように見えるな。ノアは?」
「これはスリープカプセルだ。
 保存に適した容器で、用途によって効果を変えて作っている。
 見たところ、植物を保存しているタイプと一致している。」
これもエグザスの発明品のひとつ。
長期間の保存が可能とはいえ、コールドスリープタイプでなければおおむね4~6年の保存が限界だろう。
中にあるものが利用可能かどうか、外からでは確認できなかった。

「危険なものじゃないならあけちゃおー!」
そういってサキはカプセルを開いた。
そこにあったのは球根で、まだ発芽可能な個体である可能性が高い。

「球根だ。」
「サキは花に詳しかっただろ?この球根は何の花かわかるか?」
「花は好きだから詳しいつもりだけど、さすがに球根を見てもわからないかな。」
「サキ、おそらくその球根は発芽可能だ。
 持ち帰り植えてみるのはどうだ?」
私の提案にサキは喜ぶ。

「そうね、これは持って帰りましょう。
 カンナにトマトのお礼にあげるわ。
 カンナが育てたらきっと綺麗な花が咲くはず!」
この球根は持ち帰り品になった。
カプセルは他にもあり、花の種や昆虫の標本などがあった。

「種も持って帰るとして、昆虫はいらないわね。」
「じゃあ元に戻しておくか、そういえばサンシャインシティには水族館や植物園があったらしいぞ。
 この種もその一環で販売していたのかもしれないな。」
「へー、見てみたいかな。
 何階にあるんだろう。」
「んー、お?
 パンフレットもあるな。
 おぉ?ここにはプラネタリウムもあるらしいぞ??」

核の投下以後、世界は灰色になっていた。
日中であってもほとんど日が差すことはなく、常に曇っている。
その影響で星を見ることなど不可能だった。
まあ、もともとカントーの中心部では星は見られないものだったが。

「プラネタリウム、いいね。
 私は実家が田舎だったから、子供のころはよく星を見ていたんだ。
 カンナにも見せてあげたいな。」
「はは、確かに見せてあげたいな。」
サキとアキラはそんな話で笑いあっていた。

「このフロアの調査もそろそろ十分だな、それじゃあみんな、報告してくれ。」
少し離れたところで調査をしていたジンがやってきてそういった。
そうして各々報告を始めた。
やはり有用なものが多く見つかって、皆喜びの色に染まっている。

「じゃあ次はアキラ、何かいいものはあったか?」
「ああ、ノアが見つけたんだが、大量のナノマシンと保存食があったぜ!」
「おお!それはすごい、さすがノアだな!
 じゃあ、みんなでそれを確認しておこう。」
そういって、私を先頭に倉庫にへ向かった。

「STAFF ONLY」の文字に改めてわずかな停止をし、扉を開ける。

「おおお、結構な量があるな。」
「ああ、だがジン。
 これだけあっても節約しなければ数年で使い切るだろう。
 とはいえ、これだけ大量の物資を見つけた成果はとても大きい。」
「そうだな、でもこれほどの量を見るのはイチガヤで発見して以来だ。
 少し興奮している。」
ジンはそう言って、実際は感動しているようだった。

エグザスの統治した世界には有事が存在しない。
そのため、基本的には「備え」がない。
イチガヤはそれでも多くの「備え」を用意していたが、それは予測の範囲内だっただろう。
だからこそゴースト含め、この時代の生存者はイチガヤを拠点にしている。
サンシャインシティは大型商業施設ではあるが、「備え」をしている可能性は高くなかった。
しかし、サンシャインシティは宿泊施設と連接しており、有事の際に活用できると政府が見込んだ判断だろう。
だからこそ、シンジュクでの激戦で倒壊した建物と違い、サンシャインシティをあえて戦場にせず、「備え」を守ろうとしていた結果かもしれない。
食料の少ないこの世界で、これだけの量を発見できたのは人による奇跡とも呼べるだろう。

「これだけあれば調査の目的は達成できたな。
 少し早いが物資を多めに持って帰る方針にして、撤収するとするか。」
ジンの判断にアキラがうなずく。
多くの物資を発見したのだ、早くイチガヤに帰りたい気持ちはとても理解できる。

そんな中、サキが震えた声を出した。
「......ねぇ、使用形跡がある。しかもまだ新しい。」

先ほどは気が付かなかった、サキの言う使用形跡は確かなものだった。
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