きみがヒトと呼んだ、鉄屑に

lifinside

文字の大きさ
4 / 25
第一章 幸せ

第三話 偽りの楽園

しおりを挟む
調査を開始して、既に2時間13分42秒が経過していた。
本来、もう調査を終え帰路に付く選択をするはずだったが、人間がいるのであれば確認することが優先される。
それはその人間を保護する意味でも、危険源を排除する意味でも。

「なあジン、もし人がいたらどうする?」
「んー、隊長がいてくれればなぁ。」
ジンはやや弱気な声を出していた。

「とりあえずイチガヤに連れて帰るのが得策だろう。
 とはいえ、まずは会って話をしてみないとわからないな。
 ノア、警戒は怠らないようにお願いできるか?」
「ああ、次の階からは地上階だ。
 地下階より危険度は高くなる。
 警戒は万全に行うからできるだけ固まって行動しよう。」
「ああ、そうだな。
 もう物資の確認は必要ない。目的は残留者の確保に切り替える。」
ジンは弱気になっていても、適切な指示をしっかりと出した。

ゴーストの副隊長であるだけの素質が感じられる。
当然、サキやアキラも緊張が高まっているが、ジンのリーダーシップにより冷静さを保ち、警戒しながら調査を進めることができていた。

「地上階にあがるぞ、何かあったらすぐに報告するように。」
そういって1Fに躍り出る。
1Fは地下階に比べ、雨ざらしになっており環境は良くなかった。
衣類や食料品の残骸がみられるが、活用するのは難しいだろう。
施設の外は比較的きれいなまま残っていた。
雨ざらしの建物から見える路面や周囲の街並みは、人の気配こそ無いもののほとんど損傷している気配はない。
やはり、ここはエグザスとの戦闘区域にならなかったようだ。
エグザスは戦闘する際、小型拳銃を主に使用する。
それは人類の作った文明や自然を保護することが目的にあり、無益な破壊を行わなかったことが確認されている。

「アキラ、後方を確認していてくれ。
 サキは俺について周囲の確認を頼む。」
「ジン、警戒は常に行っている。
 もう少し気を緩めていいぞ。
 危険を発見する場合、最初に感知するのは私の役目だ。」
「ああ、ありがとう。
 そう言ってくれると少し楽になるよ。」
ジンは安堵したようだった。

ただ、そう言っても警戒を緩めることはなかった。
これは必ず生きて帰るという意思の表れと責任感だろう。
誰かひとりに責任を負わせることなく、各々がベストを尽くすことがチームワークでは重要だ。
ゴーストはこの世界を生き残る過程で、強固な信頼感によるチームワークを作り出している。
そんな中、サキがあるものを発見した。

「みんな見て、犬用のエサの袋がある。」
「なんでこんなところに犬のエサが?
 まさかイヌッころはドッグフードを食べるのか?」
「いや、犬型偵察ロボットはドッグフードを食べない。」
「ノア、それはさすがにわかってるって。」
私は冗談を言ったつもりはなかったのだが、皆の心を少しだけ落ち着かせることに成功した。
この場合、思ったことが口に出ただけで、ジンが本当にそう思っているわけではないと理解できる。
もしかすると、真面目に返答してしまった私も、緊張しているのかもしれない。
警戒レベルを上げることにする。

「1Fは見通しもいいな。
 このフロアには何もなさそうだ。上の階に行こう。」
ジンの指示に皆が頷き、上の階に向かうことにした。

「............ッッ!!」
「どうした、ノア!!」
「上方約20m先に、多数の生体反応がある!」
「なんだと!?」
起動していたセンサーがついに、生体反応を検知した。



「ノア、人間の集団がいるのか?」
「いや、これは小動物の信号と推察する。」
「ドッグフードの袋があるなら、犬がいてもおかしくないが。
 でも、上の階に犬がいるのか?」
「ああ、おそらく犬と猫だな。
 2Fではなく3Fにいるはずだ。」
「なら、2Fを飛ばして3Fに向おう。
 ノア、今の時間は?」
「15時41分19秒だ。」
「了解、あまり時間はないか。」
今の季節は夏だが、灰色の世界では暗くなるのは早かった。
すでにもう視界は沈み始めている。
地下鉄を通るから確実に安全だとは言えない。
もし、地下でエグザスと遭遇してしまった場合、地上からイチガヤに向かう必要があるからだ。
日没前にイチガヤ近辺まで移動することは、生存率を大きく上昇させる。

「もうすぐ3Fだ、いるのは動物らしいが、気を抜くなよ。」
ジンを先頭に3Fにあがった。
そこにあったのはゲージや机、イスなどで作られた檻だった。

「ほんとうに犬がいる!」
サキは少し喜んだようだ。
この世界では、人間の人口は戦争前の1%程度まで減少したとされている。
動物は世話する人間がいなくなり野生化しているのだが、そのほとんどは生きていないだろう。
そして、カントーでは放射能の影響もあり、野生動物を見かけることすら珍しい環境だ。
犬を見て興奮するのは理解できる。

私も犬を見るのは6年ほど前に愛犬のレオンが亡くなって以来だ。
少し懐かしい気持ちが芽生えた。
よく見るとそのうち1匹は茶色の毛並みでおでこに白斑があり、レオンにやや似ている。

「猫もいるな。
 でも、飼育環境は悪い。
 フンや尿も掃除されず、エサだけ与えられているような感じだな。」
アキラの推察は適切だった、飼育されていると推察されるが、それは動物を世話しているわけではない。
まるで、檻の中にエサだけを放り込んでいるだけのような。
逆説的に言えば、それは確実に人間が飼育している証拠でもあるが、動物を愛する人間である可能性はゼロだろう。
ジンとアキラも、その不気味さに気付いていた。

「子犬や子猫もいる。さわりたいかも。」
「サキ、落ち着け。
 まだこの子らを育てている人間を見つけていない。」
「いや、ジン、見つけたぞ。
 ひとつ上の階にいる。
 人数は一人だ。」
「見つけたか!各位、絶対に緊張を緩めるな。
 どんな相手であっても、俺が警戒を解いていいというまで。」
ついに飼育者とのご対面だ。
いや、これは管理者や支配者と呼ぶほうが適切か。
センサーで確認できたのは1人だが、さらに上の階に人がいる可能性もある。
私は警戒をする上でも、管理者と対面せずに離れて観察しているほうが良いだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...