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第一章 幸せ
第三話 偽りの楽園
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調査を開始して、既に2時間13分42秒が経過していた。
本来、もう調査を終え帰路に付く選択をするはずだったが、人間がいるのであれば確認することが優先される。
それはその人間を保護する意味でも、危険源を排除する意味でも。
「なあジン、もし人がいたらどうする?」
「んー、隊長がいてくれればなぁ。」
ジンはやや弱気な声を出していた。
「とりあえずイチガヤに連れて帰るのが得策だろう。
とはいえ、まずは会って話をしてみないとわからないな。
ノア、警戒は怠らないようにお願いできるか?」
「ああ、次の階からは地上階だ。
地下階より危険度は高くなる。
警戒は万全に行うからできるだけ固まって行動しよう。」
「ああ、そうだな。
もう物資の確認は必要ない。目的は残留者の確保に切り替える。」
ジンは弱気になっていても、適切な指示をしっかりと出した。
ゴーストの副隊長であるだけの素質が感じられる。
当然、サキやアキラも緊張が高まっているが、ジンのリーダーシップにより冷静さを保ち、警戒しながら調査を進めることができていた。
「地上階にあがるぞ、何かあったらすぐに報告するように。」
そういって1Fに躍り出る。
1Fは地下階に比べ、雨ざらしになっており環境は良くなかった。
衣類や食料品の残骸がみられるが、活用するのは難しいだろう。
施設の外は比較的きれいなまま残っていた。
雨ざらしの建物から見える路面や周囲の街並みは、人の気配こそ無いもののほとんど損傷している気配はない。
やはり、ここはエグザスとの戦闘区域にならなかったようだ。
エグザスは戦闘する際、小型拳銃を主に使用する。
それは人類の作った文明や自然を保護することが目的にあり、無益な破壊を行わなかったことが確認されている。
「アキラ、後方を確認していてくれ。
サキは俺について周囲の確認を頼む。」
「ジン、警戒は常に行っている。
もう少し気を緩めていいぞ。
危険を発見する場合、最初に感知するのは私の役目だ。」
「ああ、ありがとう。
そう言ってくれると少し楽になるよ。」
ジンは安堵したようだった。
ただ、そう言っても警戒を緩めることはなかった。
これは必ず生きて帰るという意思の表れと責任感だろう。
誰かひとりに責任を負わせることなく、各々がベストを尽くすことがチームワークでは重要だ。
ゴーストはこの世界を生き残る過程で、強固な信頼感によるチームワークを作り出している。
そんな中、サキがあるものを発見した。
「みんな見て、犬用のエサの袋がある。」
「なんでこんなところに犬のエサが?
まさかイヌッころはドッグフードを食べるのか?」
「いや、犬型偵察ロボットはドッグフードを食べない。」
「ノア、それはさすがにわかってるって。」
私は冗談を言ったつもりはなかったのだが、皆の心を少しだけ落ち着かせることに成功した。
この場合、思ったことが口に出ただけで、ジンが本当にそう思っているわけではないと理解できる。
もしかすると、真面目に返答してしまった私も、緊張しているのかもしれない。
警戒レベルを上げることにする。
「1Fは見通しもいいな。
このフロアには何もなさそうだ。上の階に行こう。」
ジンの指示に皆が頷き、上の階に向かうことにした。
「............ッッ!!」
「どうした、ノア!!」
「上方約20m先に、多数の生体反応がある!」
「なんだと!?」
起動していたセンサーがついに、生体反応を検知した。
「ノア、人間の集団がいるのか?」
「いや、これは小動物の信号と推察する。」
「ドッグフードの袋があるなら、犬がいてもおかしくないが。
でも、上の階に犬がいるのか?」
「ああ、おそらく犬と猫だな。
2Fではなく3Fにいるはずだ。」
「なら、2Fを飛ばして3Fに向おう。
ノア、今の時間は?」
「15時41分19秒だ。」
「了解、あまり時間はないか。」
今の季節は夏だが、灰色の世界では暗くなるのは早かった。
すでにもう視界は沈み始めている。
地下鉄を通るから確実に安全だとは言えない。
もし、地下でエグザスと遭遇してしまった場合、地上からイチガヤに向かう必要があるからだ。
日没前にイチガヤ近辺まで移動することは、生存率を大きく上昇させる。
「もうすぐ3Fだ、いるのは動物らしいが、気を抜くなよ。」
ジンを先頭に3Fにあがった。
そこにあったのはゲージや机、イスなどで作られた檻だった。
「ほんとうに犬がいる!」
サキは少し喜んだようだ。
この世界では、人間の人口は戦争前の1%程度まで減少したとされている。
動物は世話する人間がいなくなり野生化しているのだが、そのほとんどは生きていないだろう。
そして、カントーでは放射能の影響もあり、野生動物を見かけることすら珍しい環境だ。
犬を見て興奮するのは理解できる。
私も犬を見るのは6年ほど前に愛犬のレオンが亡くなって以来だ。
少し懐かしい気持ちが芽生えた。
よく見るとそのうち1匹は茶色の毛並みでおでこに白斑があり、レオンにやや似ている。
「猫もいるな。
でも、飼育環境は悪い。
フンや尿も掃除されず、エサだけ与えられているような感じだな。」
アキラの推察は適切だった、飼育されていると推察されるが、それは動物を世話しているわけではない。
まるで、檻の中にエサだけを放り込んでいるだけのような。
逆説的に言えば、それは確実に人間が飼育している証拠でもあるが、動物を愛する人間である可能性はゼロだろう。
ジンとアキラも、その不気味さに気付いていた。
「子犬や子猫もいる。さわりたいかも。」
「サキ、落ち着け。
まだこの子らを育てている人間を見つけていない。」
「いや、ジン、見つけたぞ。
ひとつ上の階にいる。
人数は一人だ。」
「見つけたか!各位、絶対に緊張を緩めるな。
どんな相手であっても、俺が警戒を解いていいというまで。」
ついに飼育者とのご対面だ。
いや、これは管理者や支配者と呼ぶほうが適切か。
センサーで確認できたのは1人だが、さらに上の階に人がいる可能性もある。
私は警戒をする上でも、管理者と対面せずに離れて観察しているほうが良いだろう。
本来、もう調査を終え帰路に付く選択をするはずだったが、人間がいるのであれば確認することが優先される。
それはその人間を保護する意味でも、危険源を排除する意味でも。
「なあジン、もし人がいたらどうする?」
「んー、隊長がいてくれればなぁ。」
ジンはやや弱気な声を出していた。
「とりあえずイチガヤに連れて帰るのが得策だろう。
とはいえ、まずは会って話をしてみないとわからないな。
ノア、警戒は怠らないようにお願いできるか?」
「ああ、次の階からは地上階だ。
地下階より危険度は高くなる。
警戒は万全に行うからできるだけ固まって行動しよう。」
「ああ、そうだな。
もう物資の確認は必要ない。目的は残留者の確保に切り替える。」
ジンは弱気になっていても、適切な指示をしっかりと出した。
ゴーストの副隊長であるだけの素質が感じられる。
当然、サキやアキラも緊張が高まっているが、ジンのリーダーシップにより冷静さを保ち、警戒しながら調査を進めることができていた。
「地上階にあがるぞ、何かあったらすぐに報告するように。」
そういって1Fに躍り出る。
1Fは地下階に比べ、雨ざらしになっており環境は良くなかった。
衣類や食料品の残骸がみられるが、活用するのは難しいだろう。
施設の外は比較的きれいなまま残っていた。
雨ざらしの建物から見える路面や周囲の街並みは、人の気配こそ無いもののほとんど損傷している気配はない。
やはり、ここはエグザスとの戦闘区域にならなかったようだ。
エグザスは戦闘する際、小型拳銃を主に使用する。
それは人類の作った文明や自然を保護することが目的にあり、無益な破壊を行わなかったことが確認されている。
「アキラ、後方を確認していてくれ。
サキは俺について周囲の確認を頼む。」
「ジン、警戒は常に行っている。
もう少し気を緩めていいぞ。
危険を発見する場合、最初に感知するのは私の役目だ。」
「ああ、ありがとう。
そう言ってくれると少し楽になるよ。」
ジンは安堵したようだった。
ただ、そう言っても警戒を緩めることはなかった。
これは必ず生きて帰るという意思の表れと責任感だろう。
誰かひとりに責任を負わせることなく、各々がベストを尽くすことがチームワークでは重要だ。
ゴーストはこの世界を生き残る過程で、強固な信頼感によるチームワークを作り出している。
そんな中、サキがあるものを発見した。
「みんな見て、犬用のエサの袋がある。」
「なんでこんなところに犬のエサが?
まさかイヌッころはドッグフードを食べるのか?」
「いや、犬型偵察ロボットはドッグフードを食べない。」
「ノア、それはさすがにわかってるって。」
私は冗談を言ったつもりはなかったのだが、皆の心を少しだけ落ち着かせることに成功した。
この場合、思ったことが口に出ただけで、ジンが本当にそう思っているわけではないと理解できる。
もしかすると、真面目に返答してしまった私も、緊張しているのかもしれない。
警戒レベルを上げることにする。
「1Fは見通しもいいな。
このフロアには何もなさそうだ。上の階に行こう。」
ジンの指示に皆が頷き、上の階に向かうことにした。
「............ッッ!!」
「どうした、ノア!!」
「上方約20m先に、多数の生体反応がある!」
「なんだと!?」
起動していたセンサーがついに、生体反応を検知した。
「ノア、人間の集団がいるのか?」
「いや、これは小動物の信号と推察する。」
「ドッグフードの袋があるなら、犬がいてもおかしくないが。
でも、上の階に犬がいるのか?」
「ああ、おそらく犬と猫だな。
2Fではなく3Fにいるはずだ。」
「なら、2Fを飛ばして3Fに向おう。
ノア、今の時間は?」
「15時41分19秒だ。」
「了解、あまり時間はないか。」
今の季節は夏だが、灰色の世界では暗くなるのは早かった。
すでにもう視界は沈み始めている。
地下鉄を通るから確実に安全だとは言えない。
もし、地下でエグザスと遭遇してしまった場合、地上からイチガヤに向かう必要があるからだ。
日没前にイチガヤ近辺まで移動することは、生存率を大きく上昇させる。
「もうすぐ3Fだ、いるのは動物らしいが、気を抜くなよ。」
ジンを先頭に3Fにあがった。
そこにあったのはゲージや机、イスなどで作られた檻だった。
「ほんとうに犬がいる!」
サキは少し喜んだようだ。
この世界では、人間の人口は戦争前の1%程度まで減少したとされている。
動物は世話する人間がいなくなり野生化しているのだが、そのほとんどは生きていないだろう。
そして、カントーでは放射能の影響もあり、野生動物を見かけることすら珍しい環境だ。
犬を見て興奮するのは理解できる。
私も犬を見るのは6年ほど前に愛犬のレオンが亡くなって以来だ。
少し懐かしい気持ちが芽生えた。
よく見るとそのうち1匹は茶色の毛並みでおでこに白斑があり、レオンにやや似ている。
「猫もいるな。
でも、飼育環境は悪い。
フンや尿も掃除されず、エサだけ与えられているような感じだな。」
アキラの推察は適切だった、飼育されていると推察されるが、それは動物を世話しているわけではない。
まるで、檻の中にエサだけを放り込んでいるだけのような。
逆説的に言えば、それは確実に人間が飼育している証拠でもあるが、動物を愛する人間である可能性はゼロだろう。
ジンとアキラも、その不気味さに気付いていた。
「子犬や子猫もいる。さわりたいかも。」
「サキ、落ち着け。
まだこの子らを育てている人間を見つけていない。」
「いや、ジン、見つけたぞ。
ひとつ上の階にいる。
人数は一人だ。」
「見つけたか!各位、絶対に緊張を緩めるな。
どんな相手であっても、俺が警戒を解いていいというまで。」
ついに飼育者とのご対面だ。
いや、これは管理者や支配者と呼ぶほうが適切か。
センサーで確認できたのは1人だが、さらに上の階に人がいる可能性もある。
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